国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第35号ダイジェスト
(2008年8月25日〜8月31日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第35週コメント〉 9月3日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核334例
3類感染症: コレラ3例(感染地域:東京都1例、インド1例、中国/パキスタン1例)
細菌性赤痢14例

感染地域:福岡県10例*、佐賀県2例、福井県1例、フィリピン1例
*すべて、第30〜34週の23例とともに同一飲食店関連の集団発生

腸管出血性大腸菌感染症251例(有症者174例、うちHUS 6例)

感染地域:国内251例
国内の多い感染地域:大阪府19例、岩手県16例、埼玉県13例1)、東京都13例、広島県11例、千葉県10例、京都府9例、福岡県9例、石川県8例2)、岡山県7例、北海道6例、福島県6例、富山県6例、福井県6例、滋賀県6例、秋田県5例、群馬県5例、香川県5例、佐賀県5例3)、長崎県5例4)
集団発生:保育園に関連 1)うち3例(第33〜34週の12例とともに)、
            3)4)全例
     飲食店に関連 2)うち3例
年齢群:0歳(2例)、1歳(11例)、2歳(8例)、3歳(14例)、4歳(9例)、5歳(9例)、6歳(5例)、7歳(9例)、8歳(12例)、9歳(13例)、10代(42例)、20代(45例)、30代(28例)、40代(13例)、50代(16例)、60代(6例)、70代(7例)、80代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 105例)、O157 VT2( 77例)、O26 VT1(31例)、O103 VT1・VT2(4例)、O145 VT1(4例)、O157 VT1(4例)、O111 VT1・VT2(2例)、O121 VT2( 2例)、O6 VT2( 1例)、O91 VT1・VT2(1例)、O103 VT1(1例)、O115 VT1(1例)、O128 VT1・VT2(1例)、その他・不明(17例)

累積報告数:2,809例(有症者1,910例、うちHUS 47例、死亡4例)

4類感染症: A型肝炎1例〔感染地域:兵庫県〕
日本紅斑熱4例(感染地域:宮崎県2例、三重県1例、愛媛県1例)
日本脳炎1例(感染地域:茨城県)
ブルセラ症1例(感染地域:愛知県)
ボツリヌス症1例(病型不明)

感染地域:栃木県

マラリア3例

熱帯熱2例_感染地域:タイ1例、インドネシア1例
原虫種不明1例_感染地域:インド

レジオネラ症13例(肺炎型13例)

感染地域:埼玉県2例、東京都2例、北海道1例、茨城県1例、富山県1例、愛知県1例、大阪府1例、兵庫県1例、長崎県1例(温泉)、富山県(温泉)/岐阜県(温泉)1例、ツバル1例
年齢群:50代(1例)、60代(2例)、70代(6例)、80代(4例)

5類感染症:
アメーバ赤痢14例(腸管アメーバ症8例、腸管外アメーバ症5例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:東京都2例、北海道1例、宮城県1例、茨城県1例、埼玉県1例、神奈川県1例、大阪府1例、愛媛県1例、国内(都道府県不明)1例、中国1例、韓国1例、インドネシア1例、アルゼンチン1例
感染経路:経口感染5例、性的接触2例(異性間・同性間不明2例)、不明7例

ウイルス性肝炎1例〔B型肝炎_感染経路:性的接触(異性間)〕
急性脳炎3例〔病原体不明3例_年齢群:0歳(1例)、1歳(1例)、50代(1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例〔年齢群:70代〕
後天性免疫不全症候群12例〔AIDS 3例(うち死亡1例)、無症候8例、その他1例〕

感染地域:国内12例
感染経路:性的接触10例(異性/同性間10例)、不明2例

梅毒7例(早期顕症I期2例、早期顕症II期4例、晩期顕症1例)
破傷風2例〔年齢群:60代(1例)、70代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例〔遺伝子型:VanC _菌検出検体:胆汁〕
風しん3例(検査診断例2例、臨床診断例1例)

感染地域:埼玉県1例、神奈川県1例、広島県1例
年齢群:5歳(1例)、10〜14歳(1例)、30〜34歳(1例)

麻しん21例〔麻しん(検査診断例7例、臨床診断例10例)、修飾麻しん(検査診断例4例)〕

感染地域:国内20例、タイ1例
国内の多い感染地域:愛媛県3例、千葉県2例、東京都2例、神奈川県2例、大阪府2例
年齢群:0歳(2例)、1歳(3例)、3歳(2例)、4歳(1例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(4例)、15〜19歳(2例)、20〜24歳(2例)、25〜29歳(1例)、35〜39歳(2例)、70代(1例)

累積報告数:10,711例〔麻しん(検査診断例3,075例、臨床診断例6,682例)、修飾麻しん(検査診断例954例)〕

(補)他にマラリア1例の報告があったが削除予定。また、2008年第34週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢3例(感染地域:福岡県2例、カンボジア1例)、デング熱3例(感染地域:タイ2例、サモア1例)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ナイジェリア)、レジオネラ症1例〔感染地域:富山県(温泉)〕、ウイルス性肝炎1例(B型肝炎.感染経路:不明.死亡)、急性脳炎5例〔エンテロウイルス71型1例(2歳)、病原体不明4例(8歳1例、10代1例、50代2例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(80代)、風しん2例〔(検査診断例1例、臨床診断例1例.感染地域:東京都2例.年齢群:1歳(1例)、3歳(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は微増した。都道府県別では沖縄県(0.28)、和歌山県(0.04)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は553例の報告があり、報告数は2週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約71%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(2.11)、鹿児島県(2.07)、大分県(1.81)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では大分県(1.83)、鳥取県(1.68)、新潟県(1.38)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では大分県(7.4)、福井県(6.2)、宮崎県(6.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いている。都道府県別では宮崎県(1.14)、徳島県(1.09)、三重県(0.96)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(10.3)、熊本県(4.9)、石川県(3.9)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(0.68)、福島県(0.42)、新潟県(0.27)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(0.17)、滋賀県(0.15)、福井県(0.14)、愛媛県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第30週以降減少が続いている。都道府県別では山形県(4.8)、新潟県(3.7)、長野県(3.2)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(2.64)、佐賀県(1.74)、滋賀県(1.24)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較するとやや多い。都道府県別では福島県(1.86)、栃木県(1.71)、沖縄県(1.71)が多い。




 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第11(〜13)週に、オーストラリアへ修学旅行に行った高校生(76例)の集団発生があり一時的に増加した。その後、第18週から徐々に増加し始め、第24週に100例を超えた。第24〜30週はほぼ100〜150例で推移していたが、第31週に大きく増加し250例を超えた。第31週261例、第32週267例、第33週253例で、第34週は205例と減少したが、第35週は251例と再び増加した。第35週までの累積報告数2,809例は、2000年以降では3番目に多い(2000年2,270例、2001年3,534例、2002年2,452例、2003年1,717例、2004年2,648例、2005年2,417例、2006年2,618例、2007年2,890例)(図1)
 第35週(8月25日〜8月31日診断のもの)の報告251例は、患者(有症状者)が174例(69%)で、無症状病原体保有者77例(31%)であった。42都道府県から報告があり、都道府県別では、大阪府(19例)、千葉県(17例)、東京都(17例)、岩手県(14例)、埼玉県(14例)、広島県(13例)、福岡県(13例)が多かった。感染地域はすべて国内例であった。国内の感染地域としての都道府県別では、大阪府(19例)、岩手県(16例)、埼玉県(13例)、東京都(13例)、広島県(11例)、千葉県(10例)、京都府(9例)、福岡県(9例)、石川県(8例)が多かった。埼玉県(第33週からの発生)、佐賀県(第35週の発生)、長崎県(第35週の発生)ではいずれも保育園に関連した集団発生があった。また、石川県(第35週の発生)では飲食店(焼肉)での食中毒による集団発生があった。性別では男性121例、女性130例で、年齢群別では0〜9歳92例、20〜29歳45例、10〜19歳42例の順に多かった。

 第1〜35週(2007年12月31日〜2008年8月31日診断のもの)の累積報告2,809例は、患者が1,910例(68%)、無症状病原体保有者が899例(32%)であった。報告はすべての都道府県からあり、報告の多い都道府県は、東京都(242例)、大阪府(173例)、福岡県(125例)、神奈川県(119例)、愛知県(116例)、兵庫県(104例)、長崎県(102例)、京都府(101例)、千葉県(100例)であった(図2)。感染地域は国内が2,711例、国外が93例、国内か国外か不明が5例であり、国内の感染地域としての都道府県別では、東京都(191例)、大阪府(173例)、福岡県(110例)、京都府(105例)、長崎県(101例)、愛知県(100例)の順で多かった。性別では男性1,301例、女性1,508例であり、年齢群別では0〜9歳985例(うち患者76%)、10〜19歳464例(同79%)、20〜29歳442例(同75%)、30〜39歳293例(同43%)、40〜49歳154例(同42%)、50〜59歳201例(同49%)、60〜69歳126例(同53%)、70〜79歳80例(同73%)、80〜89歳57例(同77%)、90〜99歳7例(同71%)であった。

 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、前週の集計(8月27日)以降に新たに6例が報告され、第35週までに47例の報告となった。47例のうち14例は、菌は分離されなかったが、血清抗体の検出によって届け出られた。都道府県別では、27都道府県(東京都6例、大阪府6例、群馬県3例、北海道2例、秋田県2例、山形県2例、栃木県2例、埼玉県2例、新潟県2例、岡山県2例、愛媛県2例、茨城県、千葉県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、和歌山県、徳島県、香川県、高知県、福岡県、長崎県、鹿児島県、沖縄県各1例)から報告があった。年齢は0〜4歳が26例、5〜9歳が10例、10代が9例、50代が1例、80代が1例となっており、47例中42例が15歳未満の小児であった(表)。原因菌が分離された33例でみたO血清群・ベロ毒素(VT)型別では、O157 VT1・VT2 19例、O157 VT2 12例、O111 VT1・VT2 1例、O121 VT2 1例であり、血清抗体(O抗原凝集抗体)により診断された14例のO血清群は不明の1例を除いてすべてO157であった。感染源としては、47例中生肉・生レバー8例、生せんまい(牛の胃)2例、焼肉3例、バーベキュー3例、ステーキ1例などが挙げられていた。
 死亡例は第35週までに4例が報告された。2歳男性(O157 VT2.HUS発症)、60代女性(O157VT2)、80代男性(O157 VT2)、80代女性(O157 VT2.HUS発症)である。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年14週〜2008年第35週) 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2008年第1〜35週) 表. 腸管出血性大腸菌感染症の溶血性尿毒症症候群(HUS)の年齢群別報告数(2008年第1〜35週)

 腸管出血性大腸菌感染症は、わが国において、毎年約3,000〜4,500例の報告が続いている。本年は、2000年以降の過去8年間の同時期までの発生数との比較では、3番目に多い報告数となっている。保育園に関連した集団発生は後を絶たず今週も新たな発生があり、今週は飲食店(焼肉)での食中毒事例の発生もあった。重症の合併症であるHUSは47例の報告となり、患者の2%以上、5歳未満に限れば5%以上に合併している。また、HUS発症例2例を含み、死亡例は4例報告されている。
 例年の状況から、発生のピーク時期にあると考えられ、引き続き予防対策の徹底が求められる。HUS47例の感染源として、肉類に関連するものは17例、うち生食が10例あり、食品の取り扱い等の一般的な食中毒対策に加え、特に、小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し生食は控えること、生肉などに使用した箸などにも注意することが肝要である。また、患者・無症状病原体保有者から周囲の人々への感染が起こりやすい疾患なので、手洗いの励行等の二次感染予防対策の一層の徹底が重要である。


(補)腸管出血性大腸菌感染症については、
   □週報IDWR
    ・感染症の話:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html
    ・注目すべき感染症
     第25号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-25.pdf
     第27号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-27.pdf
     第29号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-29.pdf
     第30号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-30.pdf
     第31号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-31.pdf
     第32号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-32.pdf
     第33号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-33.pdf
     第34号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-34.pdf
    ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事例−
     佐賀県」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-20.pdf
    ・速報「焼肉店が原因施設とされた腸管出血性大腸菌O157:H7食中毒事例−福井県:
      http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-21.pdf
    ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌O26に感染したと思われる事例−藤沢市」:
     http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-34.pdf
   □月報IASR
    ・<特集>「腸管出血性大腸菌感染症 2008年4月現在」:
     http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/339/tpc339-j.html
   □菌の検出状況:http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html

   などもご参照ください。








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