国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
IDWR 感染症発生動向調査週報

第36号ダイジェスト
(2008年9月1日〜9月7日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第36週コメント〉 9月10日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核324例
3類感染症: コレラ1例(感染地域:パキスタン)
細菌性赤痢5例

感染地域:国内(都道府県不明)1例、インド2例、タイ1例、インドネシア1例

腸管出血性大腸菌感染症207例(有症者133例、うちHUS 3例)

感染地域:国内207例
国内の多い感染地域:長崎県19例1)、東京都17例、大阪府15例、岩手県14例、千葉県14例、福井県12例、福岡県12例2)、埼玉県9例、静岡県9例、石川県8例3)
集団発生:保育園に関連 1)全例(第35週の3例とともに)、2)うち4例
     飲食店(焼き肉店)関連 3)うち4例
年齢群:0歳(3例)、1歳(21例)、2歳(15例)、3歳(9例)、4歳(14例)、5歳(9例)、6歳(13例)、7歳(7例)、8歳(2例)、9歳(6例)、10代(27例)、20代(26例)、30代(15例)、40代(13例)、50代(14例)、60代(7例)、70代(3例)、80代(2例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT2( 64例)、O157 VT1・VT2( 63例)、O26 VT1(51例)、O145 VT1(4例)、O26 VT1・VT2(2例)、O103 VT1(2例)、O111 VT1・VT2(2例)、O121 VT2(2例)、O157 VT1(2例)、O91 VT1・VT2(1例)、O128 VT1・VT2(1例)、O145 VT2(1例)、その他・不明(12例)

累積報告数:3,059例(有症者2,070例、うちHUS 53例、死亡4例)

腸チフス2例(感染地域:沖縄県1例、インドネシア1例)
4類感染症: A型肝炎2例〔感染地域:東京都1例、韓国1例〕
デング熱4例〔感染地域:インド2例(うち1例は腸チフスと重複感染)、タイ1例、フィリピン1例〕
マラリア2例

三日熱1例_感染地域:インドネシア
熱帯熱1例_感染地域:ウガンダ

レジオネラ症20例(肺炎型18例、ポンティアック型1例、無症状病原体保有者1例)

感染地域:宮城県2例、神奈川県2例、愛知県2例、広島県2例、秋田県1例(温泉)、埼玉県1例、山梨県1例、静岡県1例、滋賀県1例、兵庫県1例、岡山県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)4例
年齢群:40代(4例)、50代(4例)、60代(6例)、70代(3例)、80代(2例)、90代(1例)

レプトスピラ症1例(感染地域:東京都_感染原因:市場での作業)
5類感染症:
アメーバ赤痢8例(腸管アメーバ症6例、腸管及び腸管外アメーバ症2例)

感染地域:福島県1例、千葉県1例、大阪府1例、島根県1例、国内(都道府県不明)3例、インドネシア1例
感染経路:経口感染1例、性的接触1例(異性間)、不明6例

ウイルス性肝炎2例〔B型肝炎2例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、同性間1例)〕
急性脳炎1例〔病原体不明_年齢群:40代〕
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(遺伝性プリオン病家族性致死性不眠症)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:40代(1例.死亡)、60代(1例)〕
後天性免疫不全症候群19例(AIDS 4例、無症候14例、その他1例)

感染地域:国内19例
感染経路:性的接触18例(異性間4例、同性間13例、異性/同性間1例)、不明1例

ジアルジア症4例(感染地域:神奈川県1例、大阪府1例、インド1例、タイ/インド/ネパール1例)
梅毒15例(早期顕症I期3例、早期顕症II期6例、晩期顕症1例、無症候5例)
破傷風3例〔年齢群:60代(1例)、80代(2例)〕
風しん1例(臨床診断例)

感染地域:北海道_年齢群:5歳

麻しん20例〔麻しん(検査診断例5例、臨床診断例10例)、修飾麻しん(検査診断例5例)〕

感染地域:国内19例、タイ1例
国内の多い感染地域:愛媛県4例、栃木県2例、東京都2例、神奈川県2例、山梨県2例、福岡県2例
年齢群:0歳(3例)、1歳(4例)、3歳(1例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(2例)、15〜19歳(5例)、20〜24歳(1例)、25〜29歳(3例)

累積報告数:10,735例〔麻しん(検査診断例3,088例、臨床診断例6,687例)、修飾麻しん(検査診断例960例)〕

(補)他に、ジアルジア症1例、梅毒2例の報告があったが削除予定。また、2008年第35週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:インドネシア/シンガポール)、E型肝炎1例〔感染地域(感染源):中国(ヤギ肉)〕、デング熱5例(感染地域:インド3例、タイ1例、ラオス/スリランカ/モルディブ1例)、日本紅斑熱2例(感染地域:三重県2例)、レジオネラ症2例〔感染地域:静岡県1例(温泉)、長野県1例(温泉)〕、アメーバ赤痢1例〔腸管及び腸管外アメーバ症(死亡)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔40代(1例.死亡)、80代(1例.死亡)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液、遺伝子型:不明1例_菌検出検体:血液)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は微減した。都道府県別では沖縄県(0.31)、栃木県(0.05)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は836例の報告があり、報告数は3週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では鹿児島県(2.11)、宮崎県(1.72)、愛媛県(1.35)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では大分県(2.28)、鳥取県(1.63)、山形県(1.47)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(7.7)、宮崎県(6.3)、福井県(5.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では徳島県(1.83)、宮崎県(1.33)、新潟県(1.16)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(12.4)、熊本県(4.9)、石川県(3.2)、長野県(3.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福島県(0.40)、新潟県(0.25)、埼玉県(0.20)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では福島県(0.13)、千葉県(0.09)、長野県(0.09)、沖縄県(0.09)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(5.0)、新潟県(4.7)、長野県(3.0)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では佐賀県(1.87)、宮崎県(1.75)、高知県(1.30)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(2.57)、福島県(1.57)、大阪府(1.36)が多い。




 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第11(〜13)週に、オーストラリアへ修学旅行に行った高校生(76例)の集団発生があり一時的に増加した。その後、第18週から徐々に増加し始め、第24週に100例を超えた。第24〜30週はほぼ100〜150例で推移していたが、第31週に大きく増加し250例を超えた。第32週270例、第33週255例、第34週209例、第35週282例であり、第36週は207例であった。第36週までの累積報告数3,059例は、2000年以降では2番目に多い(2000年2,460例、2001年3,677例、2002年2,541例、2003年1,852例、2004年2,804例、2005年2,610例、2006年2,798例、2007年3,056例)(図1)
 第36週(9月1〜7日診断のもの)の報告207例は、患者(有症状者)が133例(64%)で、無症状病原体保有者74例(36%)であった。35都道府県から報告があり、都道府県別では、長崎県(20例)、東京都(18例)、千葉県(16例)、岩手県(15例)、大阪府(15例)、福岡県(13例)、福井県(12例)、宮城県(9例)、埼玉県(9例)、静岡県(9例)が多かった。感染地域はすべて国内例であった。国内の感染地域としての都道府県別では、長崎県(19例)、東京都(17例)、大阪府(15例)、岩手県(14例)、千葉県(14例)、福井県(12例)、福岡県(12例)、埼玉県(9例)、静岡県(9例)が多かった。長崎県(第35週からの発生)、福岡県(第36週の発生)ではいずれも保育園に関連した集団発生があった。また、石川県(第35週からの発生)では飲食店(焼肉)での食中毒による集団発生があった。性別では男性95例、女性112例で、年齢群別では0〜9歳99例、10〜19歳27例、20〜29歳26例の順に多かった。

 第1〜36週(2007年12月31日〜2008年9月7日診断のもの)の累積報告3,059例は、患者が2,070例(68%)、無症状病原体保有者が989例(32%)であった。報告はすべての都道府県からあり、報告の多い都道府県は、東京都(265例)、大阪府(197例)、福岡県(139例)、神奈川県(130例)、長崎県(122例)、千葉県(119例)、愛知県(119例)、兵庫県(108例)、京都府(106例)であった(図2)。感染地域は国内が2,960例、国外が94例、国内か国外か不明が5例であり、国内の感染地域としての都道府県別では、東京都(212例)、大阪府(192例)、福岡県(123例)、長崎県(120例)、京都府(110例)、愛知県(102例)の順で多かった。性別では男性1,413例、女性1,646例であり、年齢群別では0〜9歳1,097例(うち患者75%)、10〜19歳496例(同79%)、20〜29歳476例(同75%)、30〜39歳313例(同44%)、40〜49歳170例(同44%)、50〜59歳220例(同48%)、60〜69歳137例(同55%)、70〜79歳83例(同72%)、80〜89歳59例(同76%)、90〜99歳8例(同75%)であった。

 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、前週の集計(9月3日)以降に新たに6例が報告され、第36週までに53例報告となった。53例のうち17例は、菌は分離されなかったが、血清抗体の検出によって届け出られたものである。都道府県別では、28都道府県(東京都7例、大阪府7例、群馬県3例、埼玉県3例、岡山県3例、北海道2例、秋田県2例、山形県2例、茨城県2例、栃木県2例、新潟県2例、愛媛県2例、千葉県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、和歌山県、兵庫県、徳島県、香川県、高知県、福岡県、長崎県、鹿児島県、沖縄県各1例)から報告があった。年齢は0〜4歳が29例、5〜9歳が12例、10代が9例、20代が1例、50代が1例、80代が1例となっており、53例中47例が15歳未満の小児であった(表)。原因菌が分離された36例でみたO血清群・ベロ毒素抗体(VT型別)では、O157 VT1・VT2 18例、O157 VT2 15例、O111 VT1・VT2 1例、O121 VT2 1例、O157 VT2及びO26 VT1 1例であり、血清抗体(O抗原凝集抗体)により診断されたもののO血清群は不明の3例を除いてすべてO157であった。感染源としては、53例中生肉・生レバー8例、生せんまい(牛の胃)2例、焼肉4例、バーベキュー4例、ステーキ1例などが挙げられていた。
 死亡例は第36週までに4例が報告された。2歳男性(O157 VT2.HUS発症)、60代女性(O157 VT2)、80代男性(O157 VT2)、80代女性(O157 VT2.HUS発症)である。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年14週〜2008年第36週) 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2008年第1〜36週) 表. 腸管出血性大腸菌感染症の溶血性尿毒症症候群(HUS)の年齢群別報告数(2008年第1〜36週)

 腸管出血性大腸菌感染症は、わが国において、毎年約3,000〜4,500例の報告が続いている疾患である。本年は、2000年以降の過去8年間の同時期までの発生数との比較では、2007年を追い越し、2001年に次いで2番目に多い報告数となっている。保育園に関連した集団発生は後を絶たず、今週も新たな発生があった。重症の合併症であるHUSは53例の報告となり、患者の2%以上、5歳未満に限れば5%以上に合併している。また、HUS発症例2例を含み、死亡例は4例報告されている。
 第36週も200例以上の報告があり、未だ発生の多い状況が続いており、引き続き予防対策の徹底が求められる。HUS53例の感染源として、肉類に関連するものは18例、うち生食が10例あり、品の取り扱い等の一般的な食中毒対策に加え、特に、小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し生食は控えること、生肉などに使用した箸などにも注意することが肝要である。また、患者・無症状病原体保有者から周囲の人々への感染が起こりやすい疾患なので、手洗いの励行等の二次感染予防対策の一層の徹底が重要である。


(補)腸管出血性大腸菌感染症については、
   □週報IDWR
    ・感染症の話:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html
    ・注目すべき感染症
     第25号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-25.pdf
     第27号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-27.pdf
     第29号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-29.pdf
     第30号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-30.pdf
     第31号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-31.pdf
     第32号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-32.pdf
     第33号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-33.pdf
     第34号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-34.pdf
     第35号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-35.pdf
    ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事例−
     佐賀県」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-20.pdf
    ・速報「焼肉店が原因施設とされた腸管出血性大腸菌O157:H7食中毒事例−福井県:
      http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-21.pdf
    ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌O26に感染したと思われる事例−藤沢市」:
     http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-34.pdf
   □月報IASR
    ・<特集>「腸管出血性大腸菌感染症 2008年4月現在」:
     http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/339/tpc339-j.html
   □菌の検出状況:http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html

   などもご参照ください。








↑ トップへ戻る

Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.