国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第40号ダイジェスト
(2008年9月29日〜10月5日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第40週コメント〉 10月8日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核336例
3類感染症: 細菌性赤痢6例(感染地域:中国2例、インド2例、マレーシア1例、ペルー1例)
腸管出血性大腸菌感染症74例(有症者57例、うちHUS 4例)

感染地域:国内73例、ベトナム1例
国内の多い感染地域:東京都6例、愛知県6例、大阪府6例、千葉県5例、福井県4例、秋田県3例、奈良県3例、福岡県3例
年齢群:0歳(1例)、1歳(6例)、2歳(5例)、3歳(2例)、4歳(9例)、5歳(3例)、6歳(2例)、8歳(3例)、9歳(1例)、10代(6例)、20代(8例)、30代(10例)、40代(5例)、50代(4例)、60代(4例)、70代(4例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 31例)、O157 VT2( 24例)、O26 VT1(3例)、O111 VT1(3例)、O157 VT1(3例)、O103 VT1(1例)、O165 VT2(1例)、その他・不明(8例)

累積報告数:3,589例(有症者2,373例、うちHUS 67例、死亡7例)

腸チフス4例(感染地域:インド1例、インド/ネパール3例)
パラチフス1例(感染地域:インドネシア)
4類感染症: E型肝炎1例〔感染地域:北海道(感染源:鶏肉)〕
A型肝炎4例(感染地域:広島県1例、鹿児島県1例、カンボジア1例、インド1例)
オウム病1例〔感染地域:宮崎県(感染源:不明).死亡〕
Q熱1例〔感染地域:愛知県(感染源:不明)〕
デング熱8例(デング熱6例、デング出血熱2例)

感染地域:インド6例、カンボジア1例、バングラデシュ1例

日本紅斑熱6例(感染地域:三重県2例、島根県2例、愛媛県2例)
マラリア2例

熱帯熱1例_感染地域:ニジェール
原虫種不明1例_感染地域:ナイジェリア

レジオネラ症15例(肺炎型15例)

感染地域:東京都2例、石川県2例、山形県1例、茨城県1例、埼玉県1例、愛知県1例(温泉)、京都府1例、山口県1例、佐賀県1例、宮崎県1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:40代(1例)、50代(4例)、60代(3例)、70代(4例)、80代(3例)

レプトスピラ症2例

感染地域:沖縄県1例_感染原因:川
感染地域:タイ1例_感染原因:川

5類感染症:
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症1例)

感染地域:東京都2例、宮城県1例、千葉県1例、静岡県1例、兵庫県1例、広島県1例、国内(都道府県不明)3例、タイ1例
感染経路:経口感染1例、性的接触4例(異性間1例、同性間3例)、不明6例

ウイルス性肝炎3例(B型肝炎3例_感染経路:不明3例)

急性脳炎4例

単純ヘルペスウイルス1例_年齢群:70代
マイコプラズマ1例_年齢群:30代
病原体不明2例_年齢群:0歳(1例)、3歳(1例)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:40代(2例)〕
後天性免疫不全症候群21例(AIDS 7例、無症候11例、その他3例)

感染地域:国内17例、タイ2例、インドネシア1例、米国1例
感染経路:性的接触19例(異性間9例、同性間9例、異性/同性間1例)、静注薬物使用1例、不明1例

ジアルジア症1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
梅毒11例(早期顕症I期3例、早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候5例)
破傷風1例(年齢群:70代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例

遺伝子型:不明2例_菌検出検体:腹水1例、便1例

風しん1例(検査診断例)

感染地域:東京都
年齢群:50代

麻しん16例〔麻しん(検査診断例2例、臨床診断例12例)、修飾麻しん(検査診断例2例)〕

感染地域:国内16例
国内の感染地域:神奈川県4例、東京都2例、福岡県2例、岩手県1例、茨城県1例、栃木県1例、千葉県1例、長野県1例、京都府1例、大阪府1例、都道府県不明1例
年齢群:0歳(4例)、1歳(5例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(2例)、20〜24歳(1例)、30〜34歳(1例)、35〜39歳(1例)

累積報告数:10,829例〔麻しん(検査診断例3,114例、臨床診断例6,729例)、修飾麻しん(検査診断例986例)〕

(補)他にバンコマイシン耐性腸球菌感染症1例の報告があったが削除予定。また、2008年第39週までに診断されたものの報告遅れとして、コレラ1例(感染地域:パキスタン)、パラチフス1例(感染地域:インド)、エキノコックス症2例(多包条虫2例_感染地域:北海道2例)、デング熱2例(感染地域:インド/ネパール1例、インド/タイ1例)、レプトスピラ症6例(感染地域:沖縄県6例.感染原因:川5例、水系1例)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔50代(1例)、70代(1例)〕、後天性免疫不全症候群1例〔病型:その他.感染地域:日本国内.感染経路:性的接触(同性間).死亡〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(0.28)、三重県(0.06)、徳島県(0.05)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は1,256例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約73%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第35週以降減少が続いている。都道府県別では佐賀県(0.52)、鹿児島県(0.51)、宮崎県(0.47)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では鳥取県(2.37)、大分県(2.31)、富山県(1.83)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では大分県(6.7)、福井県(5.6)、島根県(5.4)、が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(1.06)、徳島県(0.83)、沖縄県(0.79)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第37週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では熊本県(3.6)、新潟県(3.4)、愛媛県(2.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.20)、宮城県(0.15)、福島県(0.13)、千葉県(0.13)、佐賀県(0.13)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では新潟県(0.10)、千葉県(0.09)、福井県(0.09)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では佐賀県(1.87)、長野県(1.13)、福島県(1.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では佐賀県(1.96)、宮崎県(1.83)、高知県(1.57)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福島県(2.29)、富山県(1.80)、宮城県(1.67)が多い。




 注目すべき感染症

◆ A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

 A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)はその侵入部位や組織によって多彩な症状を引き起こす。また、時に稀ながら発症機序がまだ不明である劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因となることがあるが、本項では、通常主に小児の間で発生する疾患であり、感染症法によって5類感染症定点把握疾患と定められているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、本邦を含めた温帯地域を中心に広く世界的に分布している感染症である。潜伏期間は2〜5日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。通常発熱は3〜5日以内に下がり、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、菌が産生する毒素に免疫のない場合は猩紅熱に発展する場合がある。治療にはペニシリン系抗菌薬が第1選択薬とされているが、ペニシリンアレルギーがある場合はマクロライド系やセフェム系の抗菌薬が投与される。リウマチ熱や急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、たとえ症状が消失しても少なくとも10日間は確実に投与することが必要である。
 感染経路はヒトからヒトへの飛沫感染や接触感染が主であるが、食品を介する経口感染もあるといわれている。通常は患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに発生しやすく、家庭での兄弟間や、学校、幼稚園、保育園などの小児の集団生活施設内での感染も多い。感染性は急性期に最も強く、その後徐々に減弱する。無症候性病原体保有者も存在するが、症状のない保菌者からの感染は稀であると考えられている。
 予防としては、患者との濃厚接触を避けることが最も重要であり、うがい、手洗いなどの一般的な予防法も励行すべきである。マスクを用いた咳エチケット(咳やくしゃみを発する者が周囲への感染予防のためにマスクを着用すること)も効果が期待できる。
 感染症発生動向調査によると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の発生報告数は例年学校、幼稚園等の夏季休暇の時期に大きく減少し、その後秋季から冬季休暇開始の直前までほぼ継続的に増加している。2008年第40週の定点当たり報告数は2週連続で増加して1.11(報告数3,334)となり、過去10年間の同時期と比較しても高い値となっている(図1)。都道府県別では、鳥取県(2.37)、大分県(2.31)、富山県(1.83)、北海道(1.82)、秋田県(1.60)、長野県(1.56)、埼玉県(1.53)、大阪府(1.49)の順となっているが、全国平均を超えているのは中部から東日本にかけての地域に多い(図2)

 第40週までの定点当たり累積報告数は71.85(累積報告数216,694)であり、過去10年間では最も多い(図3)。都道府県別では、鳥取県(129.32)、山形県(118.31)、埼玉県(112.51)、富山県(110.21)、山口県(105.24)、新潟県(101.47)、千葉県(100.84)、茨城県(100.28)の順であり、やはり東日本に全国平均を上回っている地域が多い(図4)。累積報告数の年齢別割合をみると、4〜5歳30.6%、6〜7歳23.3%、2〜3歳15.7%、8〜9歳12.4%の順であり、例年と同様に2〜9歳が発生の中心であり、9歳以下で全報告数の85%以上を占めている(図5、図6)
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の患者発生数は、今後冬季のピークに向かってさらに増加がみられていくものと推測される。今後ともその発生動向には注意が必要である。

図1. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別・週別発生状況(1998〜2008年第40週) 図2. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別報告状況(2008年第4 図3. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の第1〜40週の定点当たり累積報告数年別推移(1998〜2008年)
図4. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別累積報告状況(2008年第1〜40週) 図5. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎累積報告数の年齢群別割合(2008年第1〜40週) 図6. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎年別・年齢群別割合(1999〜2008年第40週)







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