発生動向総覧
※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第48週コメント〉 12月3日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核231例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢4例〔感染地域:福岡県1例、国内(都道府県不明)2例、インド1例〕
腸管出血性大腸菌感染症52例(有症者27例)
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感染地域:国内52例
国内の多い感染地域:佐賀県18例1)、宮城県7例、東京都7例2)、岐阜県4例、愛知県3例、兵庫県2例、福岡県2例
集団発生:1)うち16例が第47週の2例とともに、
2)うち1例が第42〜47週の44例とともに、保育園での集団発生に関連
年齢群:1歳(1例)、2歳(5例)、3歳(7例)、4歳(6例)、5歳(1例)、6歳(2例)、10代(3例)、20代(7例)、30代(8例)、40代(5例)、50代(3例)、60代(2例)、70代(1例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT2(22例)、O157 VT1・VT2(12例)、O145 VT2(5例)、O26 VT1(3例)、O91 VT1(3例)、O26 VT1・VT2(2例)、O111 VT1・VT2(2例)、O111 VT1(1例)、O128 VT1(1例)、O146 VT2(1例)
累積報告数:4,185例(有症者2,735例、うちHUS 87例、死亡8例)
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腸チフス1〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
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4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:東京都)
つつが虫病36例 |
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感染地域:鹿児島県11例、福島県4例、千葉県3例、岐阜県3例、宮崎県3例、山形県2例、群馬県2例、神奈川県2例、高知県2例、宮城県1例、茨城県1例、和歌山県1例、大分県1例
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日本紅斑熱2例(感染地域:熊本県2例) マラリア1例(三日熱_感染地域:パプアニューギニア)
レジオネラ症5例(肺炎型5例) |
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感染地域:富山県1例、愛知県1例、京都府1例、和歌山県1例、福岡県1例
年齢群:30代(1例)、40代(1例)、60代(2例)、80代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢7例(腸管アメーバ症4例、腸管外アメーバ症3例) |
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感染地域:千葉県2例、群馬県1例、京都府1例、国内(都道府県不明)1例、タイ1例、インドネシア1例
感染経路:経口感染2例、性的接触1例(異性間)、不明4例
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ウイルス性肝炎2例 |
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B型1例_感染経路:性的接触(異性間)
EBウイルス1例_感染経路:不明
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後天性免疫不全症候群10例(AIDS 4例、無症候6例) |
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感染地域:国内8例、タイ1例、インドネシア1例
感染経路:性的接触9例(異性間4例、同性間5例)、不明1例
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ジアルジア症1例(感染地域:福島県)
梅毒5例(早期顕症I期2例、早期顕症II期1例、無症候2例)
麻しん10例〔麻しん(検査診断例4例、臨床診断例5例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕 |
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感染地域:国内10例
国内の感染地域:千葉県2例、神奈川県2例、大阪府2例、秋田県1例、岐阜県1例、熊本県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:0歳(1例)、3歳(1例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(1例)、25〜29歳(2例)、30〜34歳(1例)、40代(1例)、50代(1例)、70代(1例)
累積報告数:10,944例〔麻しん(検査診断例3,150例、臨床診断例6,781例)、修飾麻しん(検査診断例1,013例)〕
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(補)他に2008年第47週までに診断されたものの報告遅れとして、デング熱1例(感染地域:タイ)、日本紅斑熱5例(感染地域:熊本県4例、鳥取県1例)、野兎病1例(感染地域:和歌山県.感染経路:不明)、レジオネラ症1例(感染地域:神奈川県.死亡)、レプトスピラ症1例(感染地域:沖縄県_感染原因:トレッキング)、アメーバ赤痢1例〔腸管アメーバ症.感染地域:国内(都道府県不明).感染経路:不明.死亡〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(80代)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:血液1例、胆汁1例、遺伝子型:不明1例_菌検出検体:尿)、風しん1例〔臨床診断例.感染地域:国内(都道府県不明).年齢群:40代〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ
り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基
幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は第41週以降増加が続いている。都道府県別では山梨県(3.6)、島根県(3.4)、兵庫県(2.3)、大阪府(2.1)、福井県(2.1)が多い。 小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は2,781例と報告数は減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第45週以降増加が続いている。都道府県別では北海道(1.25)、新潟県(1.15)、秋田県(0.82)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鳥取県(3.7)、山形県(3.3)、富山県(3.3)、大分県(3.0)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第43週以降増加が続いている。都道府県別では大分県(16.5)、福岡県(16.3)、山口県(15.3)、熊本県(14.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では山形県(4.9)、新潟県(3.3)、宮城県(2.9)、岩手県(2.9)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では栃木県(1.17)、高知県(1.07)、宮城県(0.82)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では宮城県(0.40)、新潟県(0.23)、福島県(0.17)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では福岡県(0.16)、広島県(0.14)、千葉県(0.08)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では佐賀県(0.52)、山形県(0.23)、岩手県(0.18)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(1.86)、佐賀県(1.83)、高知県(1.77)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福島県(3.0)、群馬県(1.4)、滋賀県(1.3)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症である。日本においては、他の北半球の温帯地域の国々と同様に例年冬季を中心に全国的な流行が発生し、多くのシーズンにおいて年間1,000万人以上の発病者がみられている。インフルエンザは、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強く、また重症化することがあり、加えて様々な合併症を招く可能性がある。
インフルエンザの予防の基本は、流行前にワクチン接種を受けることである。欧米では一般的な方法であり、わが国でも近年はワクチン接種率の上昇が見られてきている。インフルエンザワクチンは、接種によってある程度の発病阻止効果があり、さらに罹患した場合の重症化防止に有効であると報告されている。また、ワクチンを接種してからその効果が現れるまでには通常2週間程度かかるといわれている。例年、インフルエンザの流行は12月下旬以降に始まることが多いが、今シーズンのインフルエンザの流行は例年よりもその立ち上がりが早いこともあり、流行に備えるためには今すぐにでもワクチンの接種を実施しておくべきである。
インフルエンザに罹患している人の咳、くしゃみ、つばなどの飛沫には大量のインフルエンザウイルスが含まれている。その飛沫を鼻腔や気管など気道に吸入することによる飛沫感染がインフルエンザの主な感染経路であり、飛沫等を介する間接的接触による接触感染もあると考えられている。従ってインフルエンザの流行時には、外出時のマスクの利用や帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せて奨められる。また、インフルエンザの主な感染経路が飛沫感染であることより、咳エチケットとして周囲への感染拡大を防止する意味から、インフルエンザに罹患している人、特に咳嗽などの症状のある人には、マスクの着用が推奨される。
感染症発生動向調査によると、インフルエンザ定点当たり報告数は2008年第41週以降増加が続いており、第48週は0.83(報告数3,911)となり、前週の報告数(定点当たり報告数0.56、報告数2,632)を大きく上回った(図1)。都道府県別では山梨県(3.6)、島根県(3.4)、兵庫県(2.3)、大阪府(2.1)、福井県(2.1)、栃木県(1.7)、和歌山県(1.7)、沖縄県(1.6)の順であり、関東、中部、近畿、中国の各地域において全国平均を上回っている府県が増加してきている(図2、図3)。2008年第36週から第48週までの定点当たり累積報告数は2.19(累積報告数10,277)であり、年齢別では5〜9歳3,273例(31.8%)、0〜4歳2,628例(25.6%)、10〜14歳1,473例(14.3%)、30〜39歳888例(8.6%)、20〜29歳648例(6.3%)の順となっている(図4)。第36週以降のインフルエンザウイルスの分離報告数は21都道府県から125件あり、その内訳はAH1亜型27件(21.6%)、AH3亜型60件(48.0%)、B型38件(30.4%)となっているが(図5)、今後どの亜型が流行の主流となっていくかは現時点では不明である。
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図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1998〜2008年第48週) |
図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2008年第48週) |
図3. 主要都道府県におけるインフルエンザの週別推移(2008年第25〜48週) |
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図4. 2008/09シーズンのインフルエンザ累積報告数の年齢群別割合(2008年第36〜48週) |
図5. インフルエンザウイルス型別分離・検出割合報告(2008年第36〜48週) |
第48週のインフルエンザの定点当たり報告数は0.83であり、1998/99シーズン以降の過去10シーズンと比較しても1987年のインフルエンザの発生動向調査開始以来最も流行の開始が早かった昨シーズン(2007/08シーズン、第48週定点当たり報告数2.29)に次いで多い。インフルエンザの流行地域も関東以西の本州地域を中心に拡大してきており、次週(第49週)にはインフルエンザ定点当たり報告数の全国平均値が、全国的な流行の開始の指標である1.0を超える可能性が高い。インフルエンザの発生動向にはより注意深い観察が必要である。
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