国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第49号ダイジェスト
(2008年12月1日〜12月7日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第49週コメント〉 12月10日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核316例
3類感染症:
細菌性赤痢12例

感染地域:福岡県5例1)、国内(都道府県不明)1例、インドネシア2例、カンボジア1例、インド1例、トルコ1例、タイ/ネパール1例
集団発生:1)全例が第48週の3例とともに、保育園での集団発生に関連

腸管出血性大腸菌感染症34例(有症者24例、うちHUS 2例)

感染地域:国内34例
国内の多い感染地域:東京都5例1)、佐賀県4例、福島県3例、大阪府3例、兵庫県3例、福井県2例、愛知県2例、福岡県2例
集団発生:1)うち1例が第41〜43週の33例、第46〜48週の3例とともに、保育園での集団発生に関連
年齢群:1歳(1例)、2歳(4例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(1例)、6歳(1例)、7歳(2例)、9歳(1例)、10代(5例)、20代(5例)、30代(8例)、40代(2例)、60代(1例)、70代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT2(12例)、O157 VT1・VT2(10例)、O26 VT1(5例)、O145 VT2(2例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O157 VT1(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:4,231例(有症者2,767例、うちHUS 89例、死亡8例)

腸チフス3例〔感染地域:国内(都道府県不明)1例、インド1例、ネパール1例〕
パラチフス1例(感染地域:インド)
4類感染症: A型肝炎1例(感染地域:長野県)
つつが虫病33例

感染地域:福島県9例、鹿児島県7例、千葉県4例、宮崎県3例、群馬県2例、岐阜県2例、長崎県2例、東京都1例、神奈川県1例、静岡県1例、大分県1例

デング熱1例(感染地域:マレーシア)
日本紅斑熱2例(感染地域:和歌山県1例、熊本県1例)
レジオネラ症6例(肺炎型6例)

感染地域:神奈川県2例、北海道1例、埼玉県1例、奈良県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:50代(1例)、60代(2例)、70代(1例)、80代(2例)

レプトスピラ1例(感染地域:沖縄県_感染原因:河川)
5類感染症:
アメーバ赤痢8例(腸管アメーバ症7例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:埼玉県1例、神奈川県1例、兵庫県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)4例
感染経路:経口感染1例、性的接触4例(異性間1例、同性間2例、異性間・同性間不明1例)、下水処理1例、不明2例

ウイルス性肝炎2例

B型肝炎2例_感染経路:性的接触1例(同性間)、不明1例

急性脳炎1例(B型インフルエンザウイルス_年齢群:50代)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:80代)
後天性免疫不全症候群12例(AIDS 2例、無症候10例)

感染地域:国内11例、中国1例
感染経路:性的接触11例(同性間11例)、不明1例

ジアルジア症1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
梅毒12例(早期顕症I期2例、早期顕症II期2例、先天梅毒2例、無症候6例)
破傷風2例〔年齢群:60代(2例)〕
風しん3例(検査診断例2例、臨床診断例1例)

感染地域:茨城県1例、神奈川県1例、大阪府1例
年齢群:30〜34歳(1例)、50代(2例)

麻しん8例〔麻しん(検査診断例4例、臨床診断例3例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕

感染地域:国内8例
国内の感染地域:東京都3例、千葉県2例、宮城県1例、神奈川県1例、岐阜県1例
年齢群:1歳(1例)、6歳(1例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(1例)、20歳〜24歳(1例)、30〜34歳(2例)、60代(1例)
累積報告数:10,952例〔麻しん(検査診断例3,154例、臨床診断例6,783例)、修飾麻しん(検査診断例1,015例)〕

(補)他に2008年第48週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:静岡県)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、オウム病1例(感染地域:北海道.感染源:不明)、デング熱1例(感染地域:フィリピン)、日本紅斑熱4例(感染地域:三重県1例、鳥取県1例、島根県1例、熊本県1例)、マラリア1例(三日熱_感染地域:ルワンダ)、レプトスピラ症3例(感染地域:沖縄県3例_感染原因:河川3例)、急性脳炎5例〔A型インフルエンザウイルス1例_3歳、病原体不明4例_0歳(1例)、1歳(2例)、10代(1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔60代(1例)、80代(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第41週以降増加が続いている。都道府県別では山梨県(4.2)、山口県(4.1)、福井県(3.9)、兵庫県(3.8)、北海道(3.2)、大阪府(3.0)、島根県(3.0)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は3,150例と報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第45週以降増加が続いている。都道府県別では新潟県(2.05)、北海道(1.57)、福井県(0.86)、愛媛県(0.70)、石川県(0.62)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では山形県(4.9)、大分県(4.3)、新潟県(3.7)、鳥取県(3.7)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第43週以降増加が続いている。都道府県別では大分県(24.1)、山口県(21.8)、福岡県(19.8)、埼玉県(18.9)、三重県(18.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は第46週以降増加が続いている。都道府県別では山形県(4.5)、宮崎県(2.9)、新潟県(2.9)、岩手県(2.8)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では高知県(1.10)、秋田県(1.03)、栃木県(0.92)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山梨県(0.26)、千葉県(0.20)、青森県(0.19)、東京都(0.19)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(0.21)、沖縄県(0.18)、千葉県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では熊本県(0.52)、佐賀県(0.17)、岩手県(0.15)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(2.55)、高知県(2.17)、福岡県(1.68)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福島県(4.1)、沖縄県(2.0)、青森県(1.5)が多い。




 注目すべき感染症

◆ インフルエンザ

 インフルエンザの予防の基本は、流行前にワクチン接種を受けることである。欧米では一般的な方法であり、わが国でも近年はワクチン接種率の上昇が見られてきている。国内で製造、使用されているインフルエンザワクチンは、有精卵を使用して培養したインフルエンザウイルスをホルマリンを用いて不活化し、更に成分を抽出したスプリット型ワクチンと呼ばれているもので、接種後の副反応の出現の可能性を減じるために、これまで様々な改良がおこなわれてきている。また、このワクチンには、通常の季節性インフルエンザとして現在ヒトの間で流行している3種類のインフルエンザウイルス株〔A/H1N1亜型(Aソ連型)、A/H3N2亜型(A香港型)、B型〕が全て含まれている。インフルエンザワクチンは、接種によってある程度の発病阻止効果があり、さらに罹患した場合の重症化防止に有効であると報告されている。また、ワクチンを接種してからその効果が現れるまでには通常2週間程度かかるといわれている。例年、インフルエンザの流行は12月下旬以降に始まることが多いが、今シーズンのインフルエンザの流行は例年よりもその立ち上がりが早いため、流行に備え早急にワクチンの接種を実施しておくべきである。
 インフルエンザに罹患している人の咳、くしゃみ、つばなどの飛沫には大量のインフルエザウイルスが含まれている。その飛沫を鼻腔や気管など気道に吸入することによる飛沫感染がインフルエンザの主な感染経路であり、飛沫等を介する間接的接触による接触感染もあると考えられている。従ってインフルエンザの流行時には、外出時のマスクの利用や帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せて奨められる。また、咳エチケットとして周囲への感染拡大を防止する意味から、インフルエンザに罹患している人、特に咳嗽などの症状のある人には、マスクの着用が推奨される。
 感染症発生動向調査によると、インフルエンザの定点当たり報告数は2008年第41週以降増加が続いており、第49週は1.62(報告数7,707)となり、今シーズン(2008/09シーズン)初めて全国的な流行開始の指標である定点当たり報告数1.0を上回った(図1)。都道府県別では山梨県(4.2)、山口県(4.1)、福井県(3.9)、兵庫県(3.8)、北海道(3.2)、大阪府(3.0)、島根県(3.0)、宮城県(2.6)、栃木県(2.5)、和歌山県(2.5)の順であり、流行地域は拡大してきている(図2、図3)。2008年第36〜49週までの定点当たり累積報告数は3.85(累積報告数18,004)であり、年齢別では5〜9歳6,036例(33.5%)、0〜4歳4,423例(24.6%)、10〜14歳2,829例(15.7%)、30〜39歳1,479例(8.2%)の順となっている(図4)
 第36週以降のインフルエンザウイルスの分離報告数は24都道府県から175件あり、その内訳はAH1亜型37件(21.1%)、AH3亜型91件(52.0%)、B型47件(26.9%)となっている(図5)。AH3亜型の報告割合がやや増加傾向を示しているが、他の亜型のウイルスも継続的に分離されており、今後どの亜型が流行の主流となっていくかは現時点では不明である(図6)

図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1998〜2008年第49週) 図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2008年第49週) 図3. 主要都道府県におけるインフルエンザの週別推移(2008年第25〜49週)
図4. 2008/09シーズンのインフルエンザ累積報告数の年齢群別割合(2008年第36〜49週) 図5. インフルエンザウイルス型別分離・検出割合報告(2008年第36〜49週) 図6. インフルエンザウイルス分離・検出報告数の週別推移(2008年第20〜49週)

 前述したように、今シーズン(2008/09シーズン)は第49週のインフルエンザ定点当たり報告数が1.62となり、全国的な流行開始の指標(定点当たり報告数1.0)を上回った。1987年のインフルエンザ発生動向調査開始以降、第49週以前にインフルエンザの流行が開始したのは1988/89シーズン(第49週)、1995/96シーズン(第48週)、1996/97シーズン(第49週)、2007/08シーズン(第47週)の4シーズンであったが、今シーズンは前シーズンに引き続いて比較的早期の流行開始となった。インフルエンザの流行地域は本州地域や北海道を中心に更に拡大しつつある。年末・年始には様々な行事への参加や交通機関を利用した長距離の移動等の機会が増加することが予想され、インフルエンザウイルスの感染予防のための注意が必要である。今後ともインフルエンザの発生動向にはより注意深い観察が必要である。



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