発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第11週コメント〉 3月18日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 345例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢7例
|
|
感染地域:三重県1例、インド2例、タイ1例、カンボジア1例、インドネシア1例、ネパール1例
|
腸管出血性大腸菌感染症7例(有症者4例)
|
|
感染地域:国内7例
国内の感染地域:埼玉県1例、東京都1例、愛知県1例、兵庫県1例、広島県1例、福岡県1例、大分県1例
年齢群:7歳(2例)、10代(2例)、20代(1例)、50代(1例)、70代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT2(3例)、O157 VT1・VT2(3例)、O91 VT1(1例)
累積報告数:159例(有症者107例、うちHUS 6例)
|
腸チフス1例(感染地域:インド)
パラチフス1例(感染地域:カンボジア)
|
4類感染症: |
デング熱1例(感染地域:インドネシア) マラリア1例(三日熱_感染地域:インド)
レジオネラ症9例(肺炎型9例)
|
|
感染地域:埼玉県1例、千葉県1例、神奈川県1例(温泉)、静岡県1例(温泉)、愛知県1例、滋賀県1例、奈良県1例、和歌山県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
年齢群:30代(1例)、60代(4例)、70代(2例)、80代(2例)
|
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢13例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症2例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
|
感染地域:千葉県2例、岩手県1例、大阪府1例、兵庫県1例、広島県1例、香川県1例、国内(都道府県不明)6例
感染経路:性的接触5例(異性間3例、同性間2例)、不明8例
|
ウイルス性肝炎2例
|
|
B型1例_感染経路:不明
C型1例_感染経路:不明
|
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例
|
|
年齢群:30代(1例)、50代(1例)、60代(1例)、90代(1例.死亡)
|
後天性免疫不全症候群14例(AIDS 7例、無症候7例) |
|
感染地域:国内10例、タイ1例、ベトナム1例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触12例(異性間8例、同性間3例、異性/同性間1例)、不明2例
|
梅毒8例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候4例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)
風しん6例(検査診断例4例、臨床診断例2例) |
|
感染地域:福岡県2例、秋田県1例、東京都1例、大阪府1例、中国1例
年齢群:1歳(1例)、10〜14歳(3例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(1例)
|
麻しん13例〔麻しん(検査診断例5例、臨床診断例7例)、修飾麻しん(検査診断例)1例〕
|
|
感染地域:国内12例、タイ1例
国内の感染地域:福岡県4例、静岡県2例、埼玉県1例、千葉県1例、東京都1例、石川県1例、大阪府1例、鹿児島県1例
年齢群:1歳(3例)、2歳(1例)、3歳(1例)、10〜14歳(2例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(3例)、40代(2例)
累積報告数:167例〔麻しん(検査診断例49例、臨床診断例88例)、修飾麻しん(検査診断例30例)〕
|
(補)他に2009年第10週までに診断されたものの報告遅れとして、エキノコックス症3例(多包条虫3例_感染地域:北海道3例)、日本紅斑熱4例(感染地域:三重県4例)、アメーバ赤痢1例〔腸管アメーバ症.感染地域:国内(都道府県不明).感染経路:不明.死亡〕、クリプトスポリジウム症1例(感染地域:北海道)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔60代(1例)、80代(1例.死亡)〕、後天性免疫不全症候群1例(病型:その他.感染地域:国内.感染経路:不明.死亡)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:関節液)、風しん3例〔検査診断例2例、臨床診断例1例.感染地域:新潟県1例、東京都1例、兵庫県1例.年齢群:0歳(1例)、30〜34歳(1例)、35〜39歳(1例)〕などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では山形県(46.3)、宮城県(37.5)、新潟県(28.9)、千葉県(28.9)、静岡県(26.3)、石川県(25.4)、岩手県(24.5)、富山県(24.2)、埼玉県(23.5)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は477例と増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では北海道(1.01)、宮崎県(0.63)、鹿児島県(0.62)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では新潟県(6.4)、大分県(5.8)、福井県(5.7)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第8週以降増加が続いている。都道府県別では福井県(15.8)、宮崎県(15.5)、三重県(14.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では宮崎県(4.5)、熊本県(2.9)、佐賀県(2.9)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では秋田県(0.26)、岩手県(0.23)、青森県(0.21)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では山口県(0.32)、宮崎県(0.29)、青森県(0.24)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では栃木県(0.15)、徳島県(0.13)、北海道(0.11)、千葉県(0.11)、宮崎県(0.11)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では熊本県(0.23)、島根県(0.22)、山口県(0.20)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(3.68)、長崎県(1.98)、佐賀県(1.96)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では福島県(2.71)、埼玉県(2.44)、沖縄県(1.57)が多い。
〈2月コメント〉
◆性感染症について 2009年3月10日集計分 性感染症定点数:955
(産婦人科・産科・婦人科:462、泌尿器科:392、皮膚科87、性病科14)
●月別推移
2009年2月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.16(男0.98、女1.18)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.64(男0.26、女0.38)、尖圭コンジローマが0.41(男0.23、女0.18)、淋菌感染症が0.74(男0.58、女0.16)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)
前月に比べると、男性では、性器ヘルペスウイルス感染症は横ばいで、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症で減少した。女性では、尖圭コンジローマで増加し、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、淋菌感染症で減少した(31〜34ページ「グラフ総覧」参照)。
過去5年間の同時期と比較すると、男性では性器クラミジア感染症と淋菌感染症でやや少なく、性器ヘルペスウイルス感染症と尖圭コンジローマでかなり少なかった。女性では性器クラミジア感染症でやや少なく、性器ヘルペスウイルス感染症と尖圭コンジローマでかなり少なかった(図2)。
|
|
図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(2月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマは25〜29歳の年齢群、淋菌感染症は20〜29歳の2つの年齢群であった。一方、女性では、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は20〜24歳、性器ヘルペスウイルス感染症は20〜34歳の3つの年齢群であり、全体的にみて女性の罹患年齢が男性に比べてやや若い傾向が認められた(図3:PDF参照)。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患は、男性では60代以降は僅かであり、女性では50代以降の報告はないか、あっても僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、報告数や年齢群分布において明らかな変化は見られておらず、この基準変更の周知徹底が必要と考える。
年齢群毎にみた定点当たり報告数の男女の比較では、淋菌感染症では、すべての年齢群で男性が女性よりも多かった。一方、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜39歳、45〜49歳、70歳以上の7つの年齢群、尖圭コンジローマでは15〜24歳の2つの年齢群の、比較的低い年齢層を中心に女性が男性よりも多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較についてはそれらの比率の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に図4(PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症と淋菌感染症は男女ともに2003年以降減少傾向がみられる。一方、性器ヘルペスウイルス感染症と尖圭コンジローマは、男女ともにこの間全体としてはほぼ横ばいの状況であるが、女性において2005年半ば頃からやや減少傾向がみられる。
前月との比較では、男性では4疾患すべてで減少した。女性では性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で減少、尖圭コンジローマでは同値で、淋菌感染症で減少した。
◆薬剤耐性菌について (3月10日集計分)
|
基幹定点数(2月):468.
|
●月別
|
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.24(前月:4.24、前年同月:4.39)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。2月は前月と同数であったが、過去9年間の同月との比較では上位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.67(前月:0.83、前年同月:0.82)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。2月は前月より減少し、過去9年間の同月との比較では最下位だった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.06(前月:0.08、前年同月:0.06)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。2月は前月より減少し、過去9年間の同月との比較では最下位だった。
|
●年齢階級別
|
MRSA感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の69%を占めている(図1:PDF参照)
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の53%を占める一方、70歳以上が全体の21%を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の69%を占めている(図3:PDF参照)
|
●性別:女性を1 として算出した男/女比
|
MRSA感染症…男:女=1.8:1
PRSP感染症…男:女=1.3:1
薬剤耐性緑膿菌感染症…男:女=1.9:1
|
●都道府県別
|
MRSA感染症
定点当たり報告数は沖縄県(10.1)、栃木県(9.9)、新潟県(8.6)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(2.9)、福井県(2.2)、埼玉県(2.0)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
報告総数が26件にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
|
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。1〜3日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。わが国のインフルエンザの発生は、11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1〜3月頃に患者数が増加し、その後減少していくパターンを示すが、流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。今シーズン(2008/09シーズン)は、2008年第49週からインフルエンザの流行が開始している。
感染症発生動向調査によると、2009年第11週のインフルエンザの定点当たり報告数は16.50(報告数78,897)となり、3週連続で増加がみられた(図1)。都道府県別では山形県(46.3)、宮城県(37.5)、新潟県(28.9)、千葉県(28.9)、静岡県(26.3)、石川県(25.4)、岩手県(24.5)、富山県(24.2)、埼玉県(23.5)、福島県(23.2)の順であり、28都道県で前週よりも増加していた(図2、図3)。2008年第36週〜2009年第11週までの定点当たり累積報告数は228.49(累積報告数1,088,700)であり、年齢群別では5〜9歳384,558例(35.3%)、0〜4歳235,085例(21.6%)、10〜14歳193,982例(17.8%)、30〜39歳81,288例(7.5%)の順となっているが、5〜9歳の年齢群が最多を占め、14歳以下の報告割合が全体の75%近くを占めている(図4)。第36週以降のインフルエンザウイルスの分離報告数は47都道府県から4,336件あり、その内訳はAH1亜型2,505件(57.8%)、AH3亜型1,195件(27.6%)、B型636件(14.7%)となっており、B型の分離割合の増加傾向が続いている(図5、図6)。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1999〜2009年第11週) |
図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2009年第11週) |
図3. 主要都道府県におけるインフルエンザの週別推移(2008年第36週〜2009年第11週) |
|
|
|
図4. 2008/09シーズンのインフルエンザ累積報告数の年齢群別割合(2008年第36週〜2009年第11週) |
図5. インフルエンザウイルス型別分離・検出割合報告(2008年第36週〜2009年第11週) |
図6. インフルエンザウイルス分離・検出報告数の週別推移(2008年第20週〜2009年第11週) |
今シーズンのインフルエンザの流行は2009年第4週(定点当たり報告数37.45、報告数178,991)をピークとして、その後減少が続いたが、第9週に再び増加に転じ、第11週まで3週連続で増加がみられている。最近のウイルス分離に関する情報等から、現在の国内の流行の中心はB型であると推察される。多くの学校、幼稚園等が春期休暇の直前までは患者報告数の増加が続く可能性が高いと予想されるため、今しばらくはインフルエンザの発生動向およびウイルスの分離状況には注意が必要である。
|