発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第13週コメント〉 4月1日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 285例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢2例(感染地域:インドネシア1例、チリ1例)
腸管出血性大腸菌感染症16例(有症者10例)
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感染地域:国内16例
国内の感染地域:北海道2例、岩手県2例、静岡県2例、広島県2例、山口県2例、埼玉県1例、神奈川県1例、石川県1例、福井県1例、愛知県1例、宮崎県1例
年齢群:1歳(1例)、5歳(2例)、8歳(1例)、9歳(1例)、10代(5例)、20代(1例)、30代(1例)、40代(1例)、60代(2例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O26 VT1(5例)、O157 VT1・VT2(4例)、O55 VT1(2例)、O111 VT2(2例)、O157 VT2(2例)、その他・不明(1例)
累積報告数:193例(有症者127例、うちHUS 7例)
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4類感染症: |
E型肝炎1例
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感染地域:秋田県
感染源:馬肉・牛レバー
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A型肝炎1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:タイ)
レジオネラ症10例(肺炎型10例)
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感染地域:広島県2例、宮城県1例、神奈川県1例(温泉)、富山県1例、三重県1例、京都府1例、兵庫県1例、和歌山県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
年齢群:40代(1例)、50代(1例)、60代(5例)、70代(1例)、90代(2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢10例(腸管アメーバ症7例、腸管外アメーバ症2例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:兵庫県2例、愛知県1例、徳島県1例、国内(都道府県不明)5例、国内・国外不明1例
感染経路:経口感染3例、性的接触3例(異性間2例、同性間1例)、不明4例
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ウイルス性肝炎1例〔B型_感染経路:性的接触(異性間)〕
急性脳炎1例(B型インフルエンザウイルス_年齢群:7歳)
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:インド)
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例
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年齢群:40代(1例)、60代(1例.死亡)、70代(1例)
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後天性免疫不全症候群9例(AIDS 1例、無症候6例、その他2例)
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感染地域:国内9例
感染経路:性的接触8例(異性間2例、同性間5例、異性/同性間1例)、不明1例
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梅毒9例(早期顕症II期2例、無症候7例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例
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遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液
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風しん1例(検査診断例) |
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感染地域:国内(都道府県不明)
年齢群:30〜34歳
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麻しん7例〔麻しん(検査診断例5例、臨床診断例2例)〕
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感染地域:国内7例
国内の感染地域:東京都2例、千葉県1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:1歳(1例)、10〜14歳(1例)、20〜24歳(3例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:189例〔麻しん(検査診断例61例、臨床診断例94例)、修飾麻しん(検査診断例34例)〕
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(補)他に2009年第12週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎1例(感染地域:北海道.感染源:不明)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、急性脳炎1例〔A型インフルエンザウイルス(3歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(60代)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症(遺伝子型:不明_菌検出検体:血液)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では山形県(24.6)、新潟県(22.3)、石川県(20.3)、福井県(18.5)、宮城県(18.4)、富山県(16.4)、鹿児島県(16.4)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は398例と2週連続で減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では北海道(0.82)、新潟県(0.61)、鹿児島県(0.58)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では山口県(5.0)、富山県(4.1)、鳥取県(4.1)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では福井県(15.1)、島根県(12.8)、石川県(11.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(4.5)、佐賀県(3.4)、沖縄県(3.3)、福井県(3.3)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では青森県(0.57)、福岡県(0.20)、滋賀県(0.18)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では神奈川県(0.29)、青森県(0.26)、東京都(0.23)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(0.31)、沖縄県(0.21)、鹿児島県(0.16)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では熊本県(0.31)、山口県(0.18)、岩手県(0.13)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(4.0)、福岡県(2.3)、長崎県(2.2)、佐賀県(2.2)、山形県(2.2)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は第9週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(3.00)、福島県(2.71)、青森県(1.83)が多い。
注目すべき感染症
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに百日咳(P)ワクチンを含んだDPT三種混合ワクチンを接種していない生後6カ月以下の乳児が罹患した場合は、未だに死に至る危険性がある疾患である。百日咳はこれまで乳幼児を中心とした小児で流行する疾患とされてきたが、ワクチンの開発・普及と乳児期の接種率の上昇によって、発生報告数は大きく減少した。だが最近では小児科定点報告疾患であるにもかかわらず20歳以上の成人例の報告数が年々増加してくると共に、発生報告数そのものも増加に転じている。百日咳は、通常は感染後7〜10日間の潜伏期間を経て発症するが、臨床経過は(1)カタル期、(2)痙咳期、(3)回復期の3つに分けられている。成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすく、感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。治療薬としてはマクロライド系抗菌薬が第一選択であるが、セフェム系が処方されることもある。早期に抗菌薬を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて百日咳の患者発生状況の分析を行っている。2009年第13週の週別の報告数は130例(定点当たり報告数0.04)であり、前週(第12週)の報告数(87例、定点当たり報告数0.03)を大きく上回った(図1)。都道府県別では千葉県19例、福岡県17例、宮崎県11例、大阪府10例、広島県9例、鹿児島県9例の順となっている(図2)。第1〜13週までの累積報告数は1,086例であり、2000年以降の同時期までの累積報告数と比較しても、これまで最も多かった2008年の累積報告数(841例)を上回っている(図3)。都道府県別にみると、千葉県133例、福岡県131例、北海道83例、大阪府57例、栃木県50例、東京都50例、広島県49例の順となっている(図4)。2000〜2008年までの年間の累積報告数の年齢群別割合をみると、0歳児、1歳児を中心とした乳幼児からの報告割合は年々低下がみられている一方で、小児科定点からの報告ではあるものの、20歳以上の報告割合は年々増加しており、2009年は第13週までの報告ではあるが、20歳以上の割合は38.2%となっている。一方、これまで減少が続いていた0歳児の報告割合も、13.6%と2008年よりも増加がみられている(図5、図6)。
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図1. 百日咳の年別・週別発生状況(1999〜2009年第13週) |
図2. 百日咳の都道府県別報告状況(2009年第13週) |
図3. 百日咳の第1〜13週の累積報告数年別推移(2000年〜2009年) |
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図4. 百日咳の都道府県別累積報告状況(2009年第1〜13週) |
図5. 百日咳の年別・年齢群別割合(2000年〜2009年第13週) |
図6. 百日咳累積報告数の年齢群別割合(2009年第1〜13週) |
百日咳の小児科定点からの患者発生報告数は、2007年以降増加に転じ、2008年は2000年以降では最多の報告数となった。また、近年は患者報告数の減少と共に、その季節性の増加も明らかではなかったが、2008年は第13週以降に報告数が大きく増加し、過去の流行時期と同様に第22週をピークとした明瞭な季節性の増加も認められた。2009年の患者報告数は、これまで2008年を上回る水準で推移しており、また昨年と同様に第13週の患者報告数は大きな増加がみられている。感染症情報センターでは、成人層を中心とした患者発生状況に実態をより明らかにすることを目的として、2008年5月から「百日咳DB:全国の百日咳発生状況」(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/pertu-db.html)を立ち上げ、感染症発生動向調査とは別に解析を行っている。2008年5月8日から、同年11月9日までに同DBに報告された報告症例数498例(後に百日咳を否定された3例を除く)のうち、16歳以上は332例(66.7%)であった(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/DB/s-081109.pdf)。これらの結果からは、小児科定点からの報告よりも、実際には10代もしくは20代以上においてはさらに発病者の大幅な増加がみられている可能性がある。今後百日咳の患者発生数の増加に伴って感染機会の増加が懸念される。百日咳の今後の発生動向にはさらなる注意が必要である。
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