発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第17週コメント〉 4月30日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 344例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例(感染地域:三重県1例、インド1例、ネパール1例)
腸管出血性大腸菌感染症14例(有症者9例、HUS 1例)
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感染地域:国内14例
国内の感染地域:東京都2例、神奈川県2例、石川県1例、静岡県1例、京都府1例、和歌山県1例、広島県1例、山口県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:4歳(2例)、5歳(1例)、8歳(1例)、10代(3例)、20代(3例)、30代(1例)、40代(2例)、50代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(6例)、O157 VT2(2例)、O26 VT1(1例)、O91 VT1・VT2(1例)、O146 VT1・VT2(1例)、O157 VT1(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:295例(有症者193例、うちHUS 9例)
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腸チフス2例(感染地域:インド2例)
パラチフス1例(感染地域:インドネシア)
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4類感染症: |
つつが虫病4例(うち1例死亡)
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感染地域:福島県3例、宮城県1例
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レジオネラ症9例(肺炎型9例)
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感染地域:神奈川県2例、長野県1例、滋賀県1例(温泉)、大阪府1例、兵庫県1例、山口県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:40代(1例)、50代(1例)、60代(1例)、70代(3例)、80代(2例)、90代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢8例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症2例) |
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感染地域:神奈川県2例、宮城県1例、国内(都道府県不明)5例
感染経路:経口感染1例、性的接触2例(同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明5例
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ウイルス性肝炎6例
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B型4例_感染経路:性的接触1例(異性間)、不明3例
C型2例_感染経路:不明2例
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急性脳炎2例
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ロタウイルス1例_年齢群:3歳
病原体不明1例_年齢群:10代
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クロイツフェルト・ヤコブ病3例(孤発性プリオン病古典型3例) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:60代)
後天性免疫不全症候群10例(AIDS 3例、無症候5例、その他2例)
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感染地域:国内7例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触7例(異性間1例、同性間6例)、不明3例
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梅毒5例(早期顕症II期1例、無症候4例)
破傷風1例(年齢群:50代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(死亡)
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遺伝子型:不明_菌検出検体:膿(腸腰筋膿瘍、肺のう胞)
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風しん3例(臨床診断例3例) |
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感染地域:栃木県1例、東京都1例、和歌山県1例
年齢群:10〜14歳(1例)、30〜34歳(2例)
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麻しん17例〔麻しん(検査診断例4例、臨床診断例10例)、修飾麻しん(検査診断例)3例〕
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感染地域:国内16例、マレーシア1例
国内の感染地域:静岡県2例、和歌山県2例、山形県1例、群馬県1例、東京都1例、神奈川県1例、広島県1例、愛媛県1例、宮崎県1例、国内(都道府県不明)5例
年齢群:0歳(1例)、1歳(4例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(2例)、15〜19歳(2例)、20〜24歳(1例)、25〜29歳(3例)、30〜34歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:274例〔麻しん(検査診断例84例、臨床診断例133例)、修飾麻しん(検査診断例57例)〕
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(補)他に2009年第16週までに診断されたものの報告遅れとして、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:不明)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔60代(1例)、70代(1例.死亡)〕、風しん1例(検査診断例.感染地域:大阪府.年齢群:20〜24歳〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は減少した。都道府県別では秋田県(16.6)、北海道(11.0)、岩手県(10.4)、長野県(9.2)、福井県(8.5)、福島県(7.8)、鹿児島県(7.6)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は293例と減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約80%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では福井県(0.95)、島根県(0.74)、北海道(0.67)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では鳥取県(5.3)、福井県(4.8)、富山県(4.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第14週以降増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福井県(17.7)、宮崎県(13.9)、島根県(13.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(4.1)、福井県(3.8)、佐賀県(3.5)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福岡県(0.51)、秋田県(0.49)、宮崎県(0.49)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では神奈川県(0.67)、青森県(0.40)、宮崎県(0.20)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(0.23)、高知県(0.20)、千葉県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では宮崎県(0.43)、山口県(0.24)、鳥取県(0.21)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(3.36)、長崎県(2.25)、佐賀県(1.87)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(4.1)、青森県(2.2)、宮城県(1.5)が多い。
注目すべき感染症
◆ 新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)
*本週報では、通常当該週(第17週)までの情報や報告数について掲載していますが、新型インフルエンザに関する迅速な情報提供の必要性を考慮し、本稿については5月12日までに得られた情報や知見、報告に基づいて掲載しています。
2009年4月24日、米国とメキシコは各国内におけるブタインフルエンザ(A/H1N1)ウイルスのヒト感染例の発生(米国は7人の確定例と9人の疑似症症例、メキシコは3つの独立したアウトブレイク事例)を報告した。その後同ウイルスによる感染発病例はメキシコ、米国、カナダの北米を中心に世界各国に拡がり、WHOは4月27日にインフルエンザパンデミックの警戒水準をフェーズ4に、続いて4月29日にはフェーズ5に引き上げた。これによりブタインフルエンザA/H1N1はヒトのインフルエンザとして正式に「新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)」(以降、新型インフルエンザ)となった。WHOの報告によると、2009年5月12日現在(日本時間)、日本を含む世界の30カ国から感染確定例が報告されている。
今回の新型インフルエンザの原因ウイルスは、1930年代以降に発見された米国由来のブタインフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)、鳥インフルエンザウイルスの3つのウイルスの遺伝子がブタインフルエンザとして再集合してできたウイルスに、さらにユーラシア大陸由来のブタインフルエンザウイルスの遺伝子の一部の分節が再集合して加わったものであると推察されている。このインフルエンザウイルスの8つのRNA遺伝子分節は全てブタ型であり、ヒト型への適応はほとんどみられていないとされている。また、3月以降に世界各国で分離された30株ほどのウイルスの遺伝子配列を調べた結果、99%以上の配列が同一であることから、インフルエンザウイルスの変異の速度から考えても数カ月以内に新しく発生したものであろうと推定されている。
新型インフルエンザは、これまでのところ限られた知見しか得られていないが、そのヒトからヒトへの感染伝播経路は従来の季節性インフルエンザに準ずると考えられている。すなわち、感染・発病者の咳やくしゃみとともに口から発せられる飛沫による飛沫感染が主な感染経路であり、患者との直接、間接の接触による接触感染も感染経路としての可能性がある。臨床症状であるが、これまでのところ、この新型インフルエンザのヒトへの病原性は、高病原性鳥インフルエンザウイルスA/H5N1のヒト感染例とは異なって、ヒトに対する病原性はそれほど高くはないと考えられている。これまで得られた知見では、多くの発病者が季節性インフルエンザに類似の症状(発熱、全身倦怠感、悪寒、頭痛、上気道炎症状、筋肉痛、関節痛など)を呈しており、米国からは20〜25%で下痢や嘔吐などの消化器症状がみられていると報告されている。これまでのところ、発病者の多くが軽症であるといわれているが、メキシコ、米国、カナダでは重症例や死亡例も報告されており、特にハイリスク者(乳幼児、高齢者、慢性疾患患者、妊婦、低免疫状態にある者、長期滞在施設や養護施設の入所者等)においては注意が必要である。
新型インフルエンザの世界の発生状況であるが、WHOの報告によると、2009年5月12日午後3時現在(日本時間)、30カ国から5,251例(うち死亡61例)の確定症例の報告がなされている。内訳は、北米・中南米地域10カ国から5,030例(米国2,600例、メキシコ2,059例、カナダ330例、パナマ16例、コスタリカ8例、ブラジル8例等)、アジア・太平洋地域5カ国から17例〔ニュージーランド7例、日本4例、韓国3例、中国(本土)、中国(香港)、オーストラリア各1例〕、ヨーロッパ地域14カ国から197例(スペイン95例、英国55例、フランス13例、イタリア9例、オランダ3例等)、中東地域からイスラエル7例となっている。死亡61例は全て北米・中南米からであり、メキシコ56例、米国3例、カナダ1例、コスタリカ1例である。
メキシコ政府からの直近の報告では(http://portal.salud.gob.mx/descargas/pdf/influenza/
situacion_actual_epidemia_120509.pdf)、直近の2日間の報告数は0であり、患者発生数は減少しつつあるとの見方もあるが、軽症例については元々把握できていない可能性があり、数理モデルによると4月後半までに既に2万例を超える感染・発病例があったとの指摘もあることから、同国の現在の状況を評価することは難しい。また、米国では他のA型、B型の季節性インフルエンザウイルスと共に、既に新型インフルエンザウイルスが地域内を循環している可能性が米国CDCによって示唆されており(http://www.cdc.gov/h1n1flu/update.htm#statetable)、米国においても確定症例数よりも多くの感染発病例が潜在していることが考えられる。
日本では、成田空港で検疫対象者(カナダのオンタリオ州から5月8日に帰国)から4名(入国前3名、停留中1名)の確定例が確認されている(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/case-j-2009/090513case.html)。10代3名、40代1名で同一のツアーの同行者であるが、いずれも軽症であると報告されている。また、これまでに12都道府県より16例の疑似症患者の報告があるが、全て検査によって否定されている。
WHOの報告によれば(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009who/090511assess_severity.html)、今回の新型インフルエンザの感染性を表す重要な指標である基本的再生産数R0(1人の感染者からその感染性を有する期間全体で感染させる平均的な人数)は、通常の季節性インフルエンザよりも確実に高く、過去に発生したパンデミックに匹敵するものであることが示されている。新型インフルエンザのヒトへの病原性を示すための重要な指標である致死率(Case FatalityRate:CFR)は、メキシコ(2.7%)、米国(0.1%)、カナダ(0.3%)と大きく異なっており、流行国において軽症例をも含めた全ての発病例を把握できていない現状では、推定は困難であるが、現時点では、臨床的な重篤さは1918年のスペイン風邪よりも軽く、1957年のアジア風邪と同程度と考えられると推論されている。
今後、日本国内においても、今回の新型インフルエンザが発生し、流行する可能性は十分にあり、その流行対策を含めた国内の準備を急ぐ必要があるが、ウイルスの感染性や病原性に関する正確な情報をもとに、適切な対応を迅速に行っていくことが重要であると思われる。
感染症情報センター(IDSC)では、個人でできる対策や、医療従事者から患者への説明文などの文書を、他の有用と思われる情報とともにホームページ上に掲載している(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html)。これらを参照し、役立てていただければ幸いである。
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