発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第22週コメント〉 6月3日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 311例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢4例
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感染地域:インド3例、インドネシア1例
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腸管出血性大腸菌感染症47例(有症者34例、HUS 1例) |
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感染地域:国内46例、韓国1例
国内の感染地域:福岡県9例、兵庫県6例、東京都5例、愛知県4例、京都府3例、千葉県3例、石川県2例、愛媛県1例、岩手県1例、宮城県1例、群馬県1例、香川県1例、山形県1例、神奈川県1例、大阪府1例、大分県1例、不明5例
年齢群:1歳(1例)、2歳(1例)、3歳(3例)、4歳(3例)、5歳(1例)、7歳(3例)、8歳(1例)、9歳(1例)、10代(7例)、20代(5例)、30代(4例)、40代(7例)、50代(3例)、60代(4例)、70代(2例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(21例)、O157 VT不明(6例)、O157 VT1(5例)、O157 VT2(4例)、O26 VT1( 2例)、O103 VT1( 2例)、O121 VT2( 2例)、O128 VT不明(1例)、その他・不明(4例)
累積報告数:504例(有症者338例、うちHUS 12例)
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パラチフス1例〔感染地域:国外(国不明)〕
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4類感染症: |
E型肝炎2例〔感染地域:東京都1例、国内(都道府県不明)1例_感染源:シカ肉/イノシシ肉1例、生肉類1例〕
A型肝炎6例〔感染地域:宮城県2例、埼玉県1例、国内(都道府県不明)1例、韓国1例、インド1例〕
つつが虫病12例(感染地域:青森県3例、岩手県3例、秋田県3例、山形県2例、山梨県1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:愛媛県)
レジオネラ症6例(肺炎型6例)
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感染地域:宮城県1例、福島県1例、茨城県1例、東京都1例、富山県1例、和歌山県1例
年齢群:50代(2例)、60代(2例)、70代(1例)、80代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢6例(腸管アメーバ症5例、腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:東京都1例、千葉県1例、滋賀県1例、奈良県1例、国内(都道府県不明)2例
感染経路:性的接触4例(異性間4例)、不明2例
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ウイルス性肝炎5例
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B型3例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明1例
C型2例_感染経路:性的接触2例(同性間2例)
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クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例
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年齢群:60代(1例)、70代(1例.死亡)
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後天性免疫不全症候群15例(AIDS 2例、無症候13例) |
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感染地域:国内13例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触13例(異性間5例、同性間8例)、不明2例
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ジアルジア症1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
髄膜炎菌性髄膜炎1例
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年齢群:70代
感染地域:東京都
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梅毒12例(早期顕症I期2例、早期顕症II期4例、無症候6例)
破傷風2例〔年齢群:20代(1例)、80代(1例)〕
風しん3例(検査診断例1例、臨床診断例2例) |
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感染地域:東京都1例、大阪府1例、福岡県1例
年齢群:1歳(2例)、20〜24歳(1例)
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麻しん12例〔麻しん(検査診断例5例、臨床診断例4例)、修飾麻しん(検査診断例)3例〕
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感染地域:国内12例
国内の感染地域:青森県1例、宮城県1例、東京都1例、神奈川県1例、新潟県1例、富山県1例、石川県1例、静岡県1例、大阪府1例、広島県1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:0歳(3例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(2例)、20〜24歳(2例)、30〜34歳(3例)、35〜39歳(1例)
累積報告数:378例〔麻しん(検査診断例120例、臨床診断例175例)、修飾麻しん(検査診断例83例)〕
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(補)他に2009年第21週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎1例(感染地域:熊本県_感染源:シカ肉/イノシシ肉)、デング熱2例(感染地域:マレーシア1例、バングラデシュ1例)、日本紅斑熱2例(感染地域:静岡県1例、宮崎県1例)、急性脳炎3例〔A型インフルエンザウイルス1例(0歳)、病原体不明2例(8歳1例、40代1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔40代(1例)、70代(1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanB 1例_菌検出検体:血液、遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液)、風しん2例〔臨床診断例2例.感染地域:千葉県1例、国内(都道府県不明)1例.年齢群:10〜14歳(1例)、15〜19歳(1例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(9.8)、北海道(2.4)、秋田県(1.9)、鹿児島県(1.7)、山口県(1.4)、青森県(1.2)、熊本県(1.1)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は219例と減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約84%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週続けて増加した。都道府県別では大分県(0.69)、北海道(0.65)、新潟県(0.64)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(4.4)、福井県(3.8)、富山県(3.8)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週続けて減少した。都道府県別では大分県(12.4)、山形県(12.3)、福井県(11.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では佐賀県(3.5)、宮崎県(3.3)、山形県(3.2)が多い。手足口病の定点当たり報告数は3週続けて増加した。都道府県別では青森県(1.02)、福岡県(0.87)、佐賀県(0.65)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では神奈川県(0.78)、福島県(0.35)、東京都(0.33)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週続けて減少した。都道府県別では宮崎県(0.46)、栃木県(0.23)、千葉県(0.17)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は3週続けて増加した。都道府県別では宮崎県(1.00)、岡山県(0.48)、熊本県(0.48)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(4.6)、長崎県(2.8)、佐賀県(2.5)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(2.9)、福島県(2.6)、青森県(2.5)が多い。
注目すべき感染症
◆ 新型インフルエンザ(2009年6月10日現在)
*本週報では、通常当該週(第22週)までの情報や報告数について掲載していますが、新型インフルエンザに関する迅速な情報提供の必要性を考慮し、本稿については6月10日までに得られた情報や知見、報告に基づいて掲載しています。
新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスによる疾患の流行は引き続き世界各地で見られている。新型インフルエンザA(H1N1)は、急な発熱や咳、鼻汁などを主な臨床症状とする急性呼吸器疾患であり、季節性インフルエンザと同様の臨床像を示す。アメリカやメキシコの報告では、下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状が特徴とされるが、日本の患者においてはあまり特徴的ではない。本疾患に特異的な臨床現場で利用可能な検査方法は未だなく、地方衛生研究所などにおけるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による遺伝子検査によってのみ病原体に関する確定診断が得られる。
WHOによると、2009年6月10日現在、確定症例は世界74カ国から27,000例余りが報告されており、うち死亡例は141例となっている。流行の中心はメキシコ、アメリカ合衆国、カナダであるが、それ以外に100例を超えている国は、日本、英国、スペイン、中国、パナマ、アルゼンチン、オーストラリア、チリの8カ国である。とりわけ、これから冬季を迎える南半球のアルゼンチン、オーストラリア、チリでの急速な患者数の増加が目立つ。これらの国々における新型インフルエンザA(H1N1)の流行の推移を監視することは、約半年後の北半球の流行を予測する上で非常に重要である。
日本国内では、6月10日11時の時点で、483例(検疫対象者を含む)の確定例が報告されている。現在の発生状況としては、渡航歴のある患者の散発的発生に加えて、福岡県や千葉県においてこれまでみられなかった中学生や小学生における集団発生がみられていること、およびこれらの初発例も含めて感染源がはっきりしない症例がみられている。季節性インフルエンザウイルスがそうであるように、本ウイルスもヒトの間で循環していることをうかがわせる。
今後、本疾患が1957年のアジアインフルエンザのごとく夏季にも流行を続けるのか、あるいは一旦終息し秋から冬に再流行するのか、今後の流行の推移は予測困難である。引き続き、流行の推移を注意深く監視する必要がある。
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日本国内の報告数
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新型インフルエンザの最新情報はhttp://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html をご参照ください
◆ 腸管出血性大腸菌感染症(2009年6月3日現在)
腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、患者(有症状者)だけでなく、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出られた患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、2006年4月からは、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届出の対象とされた。
腸管出血性大腸菌感染症報告数は例年第19〜21週頃から増加が始まっており、2009年においても、第19週までは20〜30例前後の報告が続いていたが、第20週から増加し始めた。第20週51例、第21週60例と50例を超え、第22週は47例であった(図)。本年第22週までの累積報告数504例は、2000年以降の各年の累積報告数と比較して、ほぼ中間の報告数である(2000年499例、2001年884例、2002年599例、2003年365例、2004年507例、2005年481例、2006年502例、2007年571例、2008年583例)。
第22週に報告のあった47例は、有症状者が34例(72%)、無症状病原体保有者が13例(28%)であった。都道府県別にみると、福岡県(10例)、東京都(8例)、兵庫県(6例)からの報告が多かった。性別では男性23例、女性24例であり、年齢群別では0〜9歳14例、10〜19歳と40〜49歳が各7例の順に多い。
第1〜22週の累積報告数504例についてみると、報告の多い都道府県は、福岡県(54例)、大分県(43例)、東京都(32例)、新潟県(26例)、兵庫県(26例)であった。性別では男性221例、女性283例であり、年齢群別では0〜9歳156例、20〜29歳93例、10〜19歳60例の順に多い。推定感染源として肉の喫食が記載されていたものは80例あり、そのうち42例が生レバーやユッケなどの生肉の喫食歴があった。
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図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年4月〜2009年第22週) |
溶血性尿毒症症候群(HUS)は第22週までに12例の報告があった。年齢は0〜4歳が3例、5〜9歳が4例、10〜14歳が2例、15歳以上が3例となっており、全例が女性であった。12例中5例に肉の喫食歴があり、うち2例は生肉を喫食していた。2009年第22週までに死亡例の報告はない。(HUSなどの合併症や死亡については届出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、届出後に発生が確認された場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。)
集団発生として本年はこれまでに、保育施設におけるものとしては、第5〜7週に大分県で感染者(患者および無症状病原体保有者)が31例報告され、このうち1例がHUSを発症している。また、食中毒事例としては、第14〜15週に新潟県の宿泊施設において19例の感染者が、第21〜22週に福岡県で複数の飲食店で提供された同一汚染源を由来とする4例の感染者の発生などが報告されている。
近年、生肉・生レバーが感染源と見られる届出が多く認められており、特に小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し、生食は控える必要がある。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生は例年散見されており、腸管出血性大腸菌に限らない注意として、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前・排便後などの手洗い指導を徹底し、これからの季節は簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。また動物との接触による感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後には充分な手洗いに注意する必要がある。そのほか、最近では自治体をまたいだ広域発生事例も散見されており、事例調査における自治体間の連携がますます重要となってきている。
今後、毎年本症が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、その発生動向には注意が必要である。
(補)腸管出血性大腸菌感染症の発生状況については、http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/index.htmlもご参照ください。また、菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。
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