発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第24週コメント〉 6月17日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 331例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢2例
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感染地域:ベトナム1例、インドネシア/シンガポール1例
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腸管出血性大腸菌感染症59例(有症者39例、HUS なし)
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感染地域:国内59例
国内の多い感染地域:千葉県10例、愛知県7例、東京都5例、兵庫県5例、群馬県3例、山口県3例、岩手県2例、神奈川県2例、大阪府2例、愛媛県2例、福岡県2例、大分県2例、鹿児島県2例
年齢群:0歳(1例)、1歳(1例)、2歳(5例)、3歳(2例)、4歳(2例)、5歳(1例)、6歳(2例)、8歳(2例)、9歳(1例)、10代(13例)、20代(6例)、30代(8例)、40代(2例)、50代(3例)、60代(9例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 29例)、O157 VT2( 12例)、O26 VT1( 6例)、O157 VT不明( 2例)、O157 VT1(1例)、O1 VT1(1例)、O25 VT1(1例)、O91 VT1・VT2(1例)、O103 VT1(1例)、O121 VT2( 1例)、O128 VT不明( 1例)、O145 VT2(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:684例(有症者442例、うちHUS 14例)
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腸チフス1例(感染地域:インド)
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4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:ネパール_感染源:不明)
A型肝炎5例
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感染地域:兵庫県2例、東京都1例、韓国1例、オランダ/スペイン/フランス1例
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オウム病2例
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感染地域:大阪府1例(感染源:不明)、奈良県1例〔感染源:鳥(種類不明)
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Q熱1例(感染地域:沖縄県_感染源:不明) つつが虫病4例(感染地域:新潟県2例、青森県1例、福島県1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)
レジオネラ症13例(肺炎型13例)
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感染地域:埼玉県2例、宮城県1例、茨城県1例、群馬県1例、東京都1例、富山県1例、石川県1例、長野県1例、京都府1例、兵庫県1例(温泉)、国内(都道府県不明)2例
年齢群:30代(1例)、50代(5例)、60代(2例)、70代(3例)、80代(2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢5例(腸管アメーバ症4例、腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:福島県1例、大阪府1例、兵庫県1例、国内(都道府県不明)1例、米国1例
感染経路:経口感染1例、性的接触1例(異性間・同性間不明)、不明3例
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クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例
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年齢群:60代(1例)、70代(2例.うち1例死亡)
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後天性免疫不全症候群13例(無症候13例) |
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感染地域:国内9例、フィリピン1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触10例(異性間5例、同性間5例)、静注薬物使用1例、不明2例
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ジアルジア症1例(感染地域:神奈川県)
髄膜炎菌性髄膜炎1例 |
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年齢群:60代
感染地域:フランス
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梅毒14例(早期顕症I期4例、早期顕症II期7例、無症候3例)
破傷風1例(年齢群:60代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:胆汁)
風しん2例(臨床診断例2例) |
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感染地域:北海道1例、東京都1例
年齢群:30〜34歳(1例)、35〜39歳(1例)
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麻しん9例〔麻しん(検査診断例2例、臨床診断例3例)、修飾麻しん(検査診断例)4例〕
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感染地域:国内8例、ロシア1例
国内の感染地域:大阪府2例、茨城県1例、埼玉県1例、千葉県1例、東京都1例、和歌山県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(4例)、10〜14歳(2例)、20〜24歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:405例〔麻しん(検査診断例130例、臨床診断例184例)、修飾麻しん(検査診断例91例)〕
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(補)他に、2009年第23週までに診断されたものの報告遅れとして、コレラ1例(感染地域:インド)、E型肝炎1例(感染地域:千葉県.感染源:シカ肉)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、日本紅斑熱1例(感染地域:宮崎県)、マラリア1例(卵型_感染地域:ガーナ)、急性脳炎1例〔病原体不明(1歳)〕、破傷風1例(年齢群:80代.死亡)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:血液)、風しん1例(検査診断例.感染地域:京都府.年齢群:40代)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(8.52)、鹿児島県(0.92)、山口県(0.75)、北海道(0.49)、秋田県(0.47)、長崎県(0.47)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は204例と増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約75%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では佐賀県(0.91)、新潟県(0.80)、三重県(0.78)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鳥取県(4.5)、山形県(3.8)、鹿児島県(3.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いている。都道府県別では福井県(11.8)、大分県(11.8)、愛媛県(10.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(3.78)、福岡県(2.90)、長野県(2.89)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では佐賀県(1.96)、福岡県(1.74)、大分県(1.28)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では神奈川県(1.18)、宮崎県(0.47)、山梨県(0.30)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(0.58)、栃木県(0.15)、熊本県(0.13)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(1.69)、三重県(1.22)、大分県(1.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(4.4)、佐賀県(2.9)、長崎県(2.8)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では宮城県(2.58)、青森県(2.17)、福島県(1.86)、沖縄県(1.86)が多い。
〈5月コメント〉
◆性感染症について 2009年6月8日集計分 性感染症定点数:943
(産婦人科・産科・婦人科:449、泌尿器科:391、皮膚科89、性病科14)
●月別推移
2009年5月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.26(男1.06、女1.21)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.67(男0.27、女0.40)、尖圭コンジローマが0.46(男0.27、女0.19)、淋菌感染症が0.82(男0.64、女0.18)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)
前月に比べると、男性では、性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマは横ばい、淋菌感染症で増加した。女性では、性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマで減少し、淋菌感染症で増加した(32〜35ページ「グラフ総覧」参照)。
過去5年間の同時期と比較すると、男性では性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症でやや少なく、性器ヘルペスウイルス感染症でかなり少なかった。女性では性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症でやや少なく、尖圭コンジローマでかなり少なかった(図2)。
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図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(5月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群別(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では、4疾患すべて25〜29歳の年齢群であった。女性では、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は20〜24歳、性器ヘルペスウイルス感染症は25〜34歳の2つの年齢群であった(図3:PDF参照)。15〜19歳の年齢群の報告が、男性では性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患、女性では4疾患すべてであった。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患は、男性では60代以上は僅かであり、女性では50代以上の報告はないか、あっても僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、報告数や年齢群別分布において明らかな変化は見られておらず、この基準変更の周知徹底が必要と考える。
年齢群毎にみた定点当たり報告数の男女の比較では、淋菌感染症では、すべての年齢群で男性が女性よりも多かった。一方、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では、15〜34歳、50〜69歳、70歳以上の9つの年齢群、尖圭コンジローマでは15〜24歳の2つの年齢群の、比較的低い年齢層を中心に女性が男性よりも多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較についてはそれらの比率の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に(図4:PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症と淋菌感染症は男女ともに2003年以降減少傾向がみられる。一方、性器ヘルペスウイルス感染症と尖圭コンジローマは、男性ではこの期間全体としてはほぼ横ばいの状況であるが、女性において2005年半ば頃からやや減少傾向がみられる。
前月との比較では、男性では性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで増加、淋菌感染症で増加した。女性では性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで同値、淋菌感染症で増加した。
◆薬剤耐性菌について (6月8日集計分)
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基幹定点数(5月):455.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.76(前月:4.21、前年同月:4.10)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。5月は2カ月続けて減少し、過去10年間の同月との比較では上位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.16(前月:0.79、前年同月:1.07)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。5月は3カ月続けて増加し、過去10年間の同月との比較では中位だった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.05(前月:0.08、前年同月:0.07)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。5月は前月より減少し、過去10年間の同月との比較では最少だった。
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●年齢階級別
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MRSA感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の68%を占めている(図1:PDF参照)
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の68%を占める一方、70歳以上が全体の16%を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の64%を占めている(図3:PDF参照)
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.7:1
PRSP感染症…男:女=1.5:1
薬剤耐性緑膿菌感染症…男:女=0.7:1
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は新潟県(10.3)、沖縄県(9.3)、滋賀県(8.1)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は新潟県(4.0)、千葉県(3.2)、鳥取県(3.2)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
報告総数が22件にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ 新型インフルエンザ(2009年6月24日現在)
*本週報では、通常当該週(第24週)までの情報や報告数について掲載していますが、新型インフルエンザに関する迅速な情報提供の必要性を考慮し、本稿については6月24日までに得られた情報や知見、報告に基づいて掲載しています。
新型インフルエンザA(H1N1)は、急な発熱や咳、咽頭痛などを主な臨床症状とする急性呼吸器疾患であり、季節性インフルエンザとほぼ同様の臨床像を示す。アメリカやメキシコの報告では、下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状が特徴とされるが、日本の患者においてはあまり特徴的ではない。感染経路に関する知見や情報はまだ多くはないが、暫定的ではあるものの、季節性インフルエンザと同様に飛沫感染が主な感染経路であると考えられている。現時点では、地方衛生研究所などにおけるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による遺伝子検査によってのみ病原体に関する確定診断が得られる。新型インフルエンザ発病者に臨床現場で汎用されている迅速抗原検査を実施した場合、多くはA型陽性となるが、陰性であるからといって新型インフルエンザを否定することはできない。
WHOによると、2009年6月24日現在、確定症例は世界108カ国から55,867例の報告例と238例の死亡例が確認されている。この2週間で約2倍の報告数となった。流行状況に関しては、6月12日にWHOが大流行警戒フェーズを6にあげ、世界的大流行に入ったことを公式に認めた。流行の中心であったアメリカ合衆国、メキシコ、カナダのみならず、中国や英国、さらには南半球のオーストラリア、チリ、アルゼンチンでの急速な患者数の増加が目立っている。冬季に入った南半球の国々における新型インフルエンザA(H1N1)の流行の推移を監視することは、約半年後の北半球の流行を予測する上で非常に重要である。一方、夏季に入りインフルエンザの季節的流行が通常終息していくはずの北半球の国々でも報告症例数の増加がみられ、引き続き注意深く監視する必要がある。それと同時に、大多数が軽症であると報告される中、季節性インフルエンザと比べて若年齢者の割合が比較的高いことや、死亡例に関する詳細な検討も必要である。
日本国内では、6月24日午前11時の時点で、944例(検疫対象者を含む)の確定例が報告されており、日別報告数では6月上旬から再び増加が見られている。5月中の発病例と比べると、海外渡航歴のある患者や疫学的リンクの不明(発病者との接触歴が明らかでない等)な散発例の報告の割合が高くなってきている。季節性インフルエンザウイルスとの相違については未だ不明な点が多いが、公衆衛生対応や医療体制などを含めた本疾患への対応を、基本的には季節性インフルエンザに準じたものへと変更していく時期にさしかかっていると考えられる。
新型インフルエンザの最新情報はhttp://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html をご参照ください
◆ 麻しん 2009年 第1〜24週(2009年6月17日現在)
わが国における麻しんの流行状況の把握は、1981(昭和56年)年7月に厚生省実施の事業により定点把握調査として開始された。1999年4月からは感染症法制定に伴い、法のもとで定点把握調査が続けられていた。定期予防接種によって麻しんの患者数は着実に減少し、2006年には過去最低の定点当たり累積報告数となっていたが、2007年に10代、20代を中心とする流行が起こり、多数の学校が休校措置を行うなどの社会的問題が生じた。世界保健機関では、日本を含む西太平洋地域において2012年までに麻しんを排除するという目標を掲げており、わが国においてもこの目標に向け、予防接種については、追加接種の実施による2回接種の徹底が図られるとともに、発生状況の把握については、より正確な把握のため、2008年1月1日から全数把握調査に変更された。
2008年第1〜52週(2008年1月1日〜12月28日診断のもの、2009年1月21日現在)の累積報告数は11,007例であった(2008年の発生状況については、http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2009/idwr2009-04.pdf 参照)。
2009年第1〜24週(2008年12月29日〜2009年6月14日診断のもの、2009年6月17日現在)に報告された麻しん累積報告数は405例であった〔2008年の同期間(第1〜24週)は9,485例〕。週別では、報告がなかった週はないものの、最多報告数は第18週(4月27日〜5月3日)の26例にとどまっている(2008年のピークは第7週の567例)(図1)。
都道府県別では42都道府県から報告されており、東京都58例、千葉県55例、神奈川県52例、大阪府38例、埼玉県26例、福岡県16例、愛知県15例の順となっている。患者発生がない県は、秋田県、島根県、高知県、熊本県、宮崎県の5県である(図2)。
病型別累積報告数では、臨床診断例184例(45.4%)、検査診断例130例(32.1%)、修飾麻しん(検査診断例)91例(22.5%)と検査診断例が過半数を占めている(図3)。臨床診断例が61.8%と過半数を占めていた2008年と比較して、検査診断例の割合は増加した。特に修飾麻しん(検査診断例)の割合が2008年(9.3%)と比較して増加した。
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図1. 麻しん報告数の週別推移(2009年第1〜24週) |
図2. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2009年第1〜24週) |
図3. 麻しん累積報告数の病型別割合(2009年第1〜24週) |
年齢群別累積報告数では、1歳69例(17.0%)、2〜4歳43例(10.6%)、10〜14歳39例(9.6%)、0歳および15〜19歳37例(9.1%)、35〜39歳35例(8.6%)、20〜24歳34例(8.4%)の順に多かった(図4)。年齢別では、1歳69例、0歳37例、2歳19例、4歳15例、14歳13例、12歳11例、16歳、20歳、35歳各10例の順であった。0歳児と1歳児で全体の1/4以上を占め、また15歳未満で1/2以上、30歳未満で約3/4を占めている。2008年の累積報告数では、10代と20代で報告数全体のおよそ2/3を占め、年齢群では15〜19歳、10〜14歳、20〜24歳の順に、また年齢別では15歳、16歳、1歳、0歳、17歳の順に多かったのと比較して、患者の年齢分布には大きな変化がみられている。
麻しん含有ワクチンの接種歴別報告数では、接種歴なし87例(21.5%)、1回接種195例(48.1%)、2回接種17例(4.2%)、接種歴不明106例(26.2%)であった。1回接種者が最も多く、ついで接種歴不明者、未接種者の順であった(図5)。2008年においては接種なし(未接種者)が約半数を占めていた。この変化については、予防接種率が上昇したことによって未接種者の割合が減少し、結果的に1回接種者が増加し、患者数においても多数を占めるようになったことが理由の一つと推察される。この点については、まもなく実施される2008年度(2008年4月〜2009年3月)における定期予防接種率調査の結果も踏まえて評価し、さらに今後の対策について検討しなければならない。
麻しんの重篤な合併症である脳炎の報告はなかった。肺炎の合併例は13例(0歳1例、1歳4例、2歳1例、3歳1例、4歳1例、9歳2例、10代2例、40代1例)が報告され、10歳未満の小児が約77%を占めていた。また、発生届に記載されている症状・合併症の中で、腸炎が15例(10歳未満3例、10代3例、20歳以上9例)、クループが5例(0歳1例、1歳2例、2歳1例、3歳1例)報告された。死亡の報告はなかった。(※届出後の合併症の発症や死亡は十分報告されていない可能性があるので、確認された場合には追加報告を自治体に依頼しています。)
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図4. 麻しん累積報告数の年齢群別割合(2009年第1〜24週) |
図5. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別割合(2009年第1〜24週) |
麻しんは年齢に関係なく命に関わる重篤な疾患である。2009年第1〜24週の麻しんの累積報告数は405例であり、昨年同期間の20分の1以下となっているが、麻しん排除に向け、さらに麻しん患者発生を抑制しなければならない。
そのためには、まず麻しん予防接種率の向上が必要である。すなわち、定期予防接種第1期の高い接種率の維持であり、2回目接種の徹底である。自分自身の予防のため、また、周囲の人々、特に、重症化しやすいにもかかわらず定期予防接種の対象前の0歳児や基礎疾患などのため予防接種を受けらない人を感染・発病から守るためにも、麻しんにかかったことのない方や不明な方で、麻しん予防接種が未接種あるいは1回のみの接種の方、予防接種歴が不明の方は、積極的に麻しん予防接種を受けていただきたい。
また、患者数の減少した状況下では、臨床診断のみでは診断が困難な例の増加が懸念される。適切な拡大防止対策に繋げるため、確実に検査診断することが今後ますます重要である。
※麻しんに関する国立感染症研究所感染症情報センターのホームページはhttp://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html です。それぞれの立場において、麻しん対策に活用していただければ幸いです。
◆ 腸管出血性大腸菌(2009年6月17日現在)
2009年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は第20週から増加が認められて50例を超え、第20週52例、第21週65例、第22週55例で、第23週には107例と急増し、第24週は59例であった(図)。第23週の増加には愛媛県の保育施設で起こった集団発生が影響しており、これまでに46例(うち第23週に44例)が報告されている。本年第24週までの累積報告数684例は、2000年以降の各年の累積報告数と比較して、ほぼ中間の報告数であった(2000年643例、2001年1,136例、2002年702例、2003年527例、2004年696例、2005年686例、2006年682例、2007年847例、2008年758例)。
本疾患の重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)は第24週までに14例報告があった(表)。14例は男性2例、女性12例で、年齢は0〜4歳が4例、5〜9歳が4例、10〜14歳が2例、15歳以上が4例であった。14例中6例に肉の喫食歴があり、うち2例は生肉を喫食していた。2009年第24週までに死亡例の報告はない。(HUSなどの合併症や死亡については届出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、届出後に発生が確認された場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。)
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図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年4月〜2009年第24週) |
表. 溶血性尿毒症症候群(HUS)届出症例(n=14)(2009年第1〜24週) |
例年、腸管出血性大腸菌感染症報告数は年間ほぼ3,000〜4,000例で推移していたが、2007、2008年は2年続けて4,000例を超えた。また、HUSは2007年129例、2008年94例が、死亡はそれぞれ4例、8例が報告された。今後、毎年本疾患が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、その発生動向には注意が必要である。
本疾患の発生・拡大を防ぐためには、食肉の十分な加熱調理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。
※腸管出血性大腸菌感染症の発生状況については、http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/index.html もご参照ください。
また、菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。
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