発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第25週コメント〉 6月24日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 315例 |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症57例(有症者44例、HUS 1例) |
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感染地域:国内56例、ウズベキスタン1例
国内の多い感染地域:千葉県9例、兵庫県7例、愛知県5例、神奈川県4例、東京都3例、福井県3例、岩手県2例、宮城県2例、群馬県2例、埼玉県2例、広島県2例、鹿児島県2例
年齢群:1歳(6例)、2歳(1例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(1例)、6歳(1例)、8歳(2例)、9歳(2例)、10代(13例)、20代(8例)、30代(8例)、40代(2例)、50代(5例)、60代(4例)、70代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(24例)、O26 VT1(6例)、O157 VT2(5例)、O111 VT1(3例)、O157 VT1(2例)、O74 VT(22例)、O103 VT(12例)、O145 VT(22例)、O157 VT不明(1例)、O26 VT1・VT2(1例)、O26 VT不明(1例)、O111 VT1・VT2( 1例)、O91 VT1( 1例)、O91 VT2( 1例)、O121 VT2(1例)、O121 VT不明(1例)、O128 VT1・VT2(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:762例(有症者494例、うちHUS 15例)
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腸チフス1例(感染地域:インド)
パラチフス1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
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4類感染症: |
A型肝炎2例(感染地域:群馬県1例、インドネシア/韓国1例)
つつが虫病2例(感染地域:山形県2例)
日本紅斑熱2例(感染地域:三重県1例、広島県1例)
レジオネラ症15例(肺炎型15例)
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感染地域:埼玉県3例、岐阜県2例、宮城県1例、栃木県1例、石川県1例、山梨県1例(温泉)、長野県1例、京都府1例、和歌山県1例、茨城県/中国1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:30代(1例)、40代(3例)、50代(3例)、60代(5例)、70代(1例)、80代(1例)、90代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢9例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症3例) |
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感染地域:福島県1例、兵庫県1例、長崎県1例、国内(都道府県不明)6例
感染経路:性的接触6例(異性間3例、同性間1例、異性間・同性間不明2例)、不明3例
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ウイルス性肝炎2例
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B型2例_感染経路:性的接触1例(異性間)、不明1例
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クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例
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年齢群:50代(1例)、70代(1例.死亡)、80代(1例.死亡)
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後天性免疫不全症候群14例(AIDS 4例、無症候10例) |
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感染地域:国内12例、韓国1例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触14例(異性間6例、同性間8例)
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梅毒5例(早期顕症II期3例、無症候2例)
破傷風3例〔年齢群:70代(2例)、80代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanA_菌検出検体:尿)
風しん3例(検査診断例1例、臨床診断例2例) |
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感染地域:福岡県3例
年齢群:2歳(2例)、50代(1例)
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麻しん11例〔麻しん(検査診断例3例、臨床診断例5例)、修飾麻しん(検査診断例)3例〕
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感染地域:国内11例
国内の感染地域:東京都2例、青森県1例、神奈川県1例、長野県1例、愛知県1例、大阪府1例、鳥取県1例、岡山県1例、広島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:0歳(1例)、1歳(1例)、2歳(2例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(2例)、20〜24歳(1例)、30〜34歳(1例)、35〜39歳(1例)
累積報告数:419例〔麻しん(検査診断例134例、臨床診断例191例)、修飾麻しん(検査診断例94例)〕
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(補)他に、2009年第24週までに診断されたものの報告遅れとして、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、コクシジオイデス症1例(感染地域:米国)、デング熱1例(無症状病原体保有者_感染地域:タイ)、レジオネラ症1例〔感染地域:北海道(温泉)〕、急性脳炎2例〔ロタウイルス1例(8歳)、病原体不明1例(1歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症6例〔4歳(1例.死亡)、20代(1例.死亡)、30代(1例)、50代(1例)、60代(1例.死亡)、70代(1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)、風しん3例〔検査診断例1例、臨床診断例2例.感染地域:和歌山県1例、国内(都道府県不明)2例.年齢群:15〜19歳(1例)、30〜34歳(1例)、40代(1例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第22週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(8.88)、山口県(0.72)、鹿児島県(0.43)、長崎県(0.36)、北海道(0.34)、福岡県(0.25)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は168例と減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約78%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では富山県(1.00)、鹿児島県(0.93)、福井県(0.86)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では鳥取県(4.2)、宮崎県(3.5)、秋田県(3.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いている。都道府県別では福井県(9.5)、大分県(8.8)、愛媛県(8.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(3.17)、福井県(3.00)、長野県(2.44)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では福岡県(2.31)、大分県(2.00)、佐賀県(1.78)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では神奈川県(1.14)、山梨県(0.63)、福島県(0.50)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(0.47)、栃木県(0.21)、福島県(0.17)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(2.06)、三重県(1.27)、大分県(1.08)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(4.7)、長崎県(3.3)、佐賀県(3.1)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(2.29)、愛媛県(2.17)、宮城県(2.00)が多い。
注目すべき感染症
◆ 新型インフルエンザ(2009年7月1日現在)
*本週報では、通常当該週(第25週)までの情報や報告数について掲載していますが、新型インフルエンザに関する迅速な情報提供の必要性を考慮し、本稿については7月1日までに得られた情報や知見、報告に基づいて掲載しています。
新型インフルエンザA(H1N1)は、急な発熱や咳、咽頭痛などを主な臨床症状とする急性呼吸器疾患であり、季節性インフルエンザとほぼ同様の臨床像を示す。アメリカやメキシコの報告では、下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状が特徴とされるが、日本の患者においてはあまり特徴的ではない。感染経路に関する知見や情報はまだ多くはなく、暫定的ではあるものの、季節性インフルエンザと同様に飛沫感染が主な感染経路であると考えられている。2009年6月11日に、WHOはパンデミックフェーズを6に引き上げたが、これはWHOに報告される症例数などが実際の世界の状況を部分的に示すものに過ぎないと考えられること、複数の国々においては、もはやヒト−ヒト感染のリンクを追うことが出来なくなっていること、さらなる感染伝播が不可避であること、などの理由による。これまでのところ、大多数の患者は軽症であり、治療を行わなくとも迅速かつ完全に回復しているものの、世界的には、今回のパンデミックは、先進工業国においては「中等度の重症度(=moderate severity)」であるとされている。しかしながら、25歳以下の若者に患者が集中していることや、幾つかの国々においては、30〜50歳代を中心とした約2%の症例が急速進行する肺炎を合併している状況が観察されており、これらの点は季節性インフルエンザと大きく異なる特徴である。
WHOによると、2009年7月1日現在、確定症例は世界120カ国から77,201例の報告数であり、また332例の死亡例も確認されている。この1週間では2万人以上の報告数の増加がみられた。アメリカ合衆国、メキシコ、カナダのみならず、フィリピン、中国、シンガポール等のアジアの国々、南半球のオーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチン、ブラジル、ペルーさらには英国、スペイン等での患者数の増加が目立っている。冬季に入った南半球の国々における新型インフルエンザA(H1N1)の流行の推移を監視することは、約半年後の北半球の流行を予測する上で非常に重要である。一方、夏季に入り、インフルエンザの季節的流行が通常終息していくはずの北半球の国々でも報告症例数の増加が続いており、今後とも注意深く監視していく必要がある。それと同時に、大多数が軽症であると報告される中、季節性インフルエンザと比べて若年齢者の割合が比較的高い、死亡例に関する詳細な検討も必要である。
日本国内では、7月1日午前11時の時点で、1,351例(検疫対象者15例を含む)の確定例が報告されており、日別報告数では6月上旬から再び増加が見られている。5月中の発病例と比べると、海外渡航歴のある患者や疫学的リンクの不明な散発例の報告の割合が高くなってきている。特に最近のわが国における発生状況をみると、持続的に輸入例があり、そこからの二次感染例、あるいはそれらに起因した集団発生が起こると共に、限定的な地域内感染伝播の結果として、地域内でどこから感染したかわからない症例が散在している。パンデミックインフルエンザの季節による流行状況を規定することは困難であるが、今後通常の季節性インフルエンザが流行しやすい時期が近づくにつれて、学校等の同年齢層の集団生活施設を中心とした集団発生が多発し、その勢いを増していくことが予想される。これが本格的な流行となれば、感染拡大を抑制するために、罹患した人のうち軽症者は基本的に自宅で療養し、重症者は適切に治療して、被害者を可能な限り少なくするように医療体制を整えることが最も重要である。また、これらは基本的に季節性インフルエンザ対応の延長線上にある。患者発生やウイルスの動向を注意深く監視し、大きな状況の変化を早期に探知して戦略転換を柔軟に行うこと、それを可能ならしめる体制の構築が必要であり、現在がその準備に当たるときであると思われる。
新型インフルエンザの最新情報はhttp://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html をご参照ください
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