|
発生動向総覧
※2008年5月12日の法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。
〈第30週コメント〉 7月29日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 251例 |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症107例(有症者74例、HUS 1例)
|
|
感染地域:国内105例、中国1例、韓国1例
国内の多い感染地域:山形県13例、東京都11例、香川県9例、埼玉県7例、大阪府7例、北海道6例、愛知県6例、兵庫県6例、広島県5例、石川県4例、佐賀県4例、宮崎県4例
年齢群:0歳(1例)、1歳(10例)、2歳(10例)、3歳(6例)、4歳(2例)、5歳(6例)、6歳(3例)、7歳(1例)、8歳(2例)、9歳(3例)、10代(15例)、20代(16例)、30代(10例)、40代(2例)、50代(5例)、60代(8例)、70代(5例)、80代(1例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 52例)、O26 VT1( 16例)、O157 VT2(14例)、O26 VT不明(6例)、O157 VT不明(4例)、O91 VT1(2例)、O103 VT1(2例)、O157 VT1(1例)、O26 VT1・VT2(1例)、O18 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、その他・不明(7例)
累積報告数:1,414例(有症者928例、うちHUS 25例)
|
パラチフス1例(感染地域:インド)
|
4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:山形県) つつが虫病1例(感染地域:千葉県) 日本紅斑熱1例(感染地域:千葉県)
マラリア6例
|
|
熱帯熱3例_感染地域:ギニア2例、ガンビア/ギニア1例
三日熱2例_感染地域:韓国1例、パプアニューギニア1例
原虫種不明1例_感染地域:インドネシア
|
レジオネラ症11例(肺炎型11例)
|
|
感染地域:兵庫県3例、岩手県1例、茨城県1例、東京都1例、神奈川県1例、静岡県1例、京都府1例、香川県1例、鹿児島県1例(温泉)
年齢群:40代(1例)、50代(1例)、60代(2例)、70代(4例)、80代(3例)
|
レプトスピラ症1例(感染地域:鹿児島県_感染源:家屋内のネズミの糞尿)
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢5例(腸管アメーバ症5例) |
|
感染地域:宮城県2例、三重県1例、大阪府1例、福岡県1例
感染経路:経口感染1例、性的接触1例(同性間)、不明3例
|
ウイルス性肝炎2例
|
|
B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間2例)
|
急性脳炎6例
|
|
インフルエンザウイルスAH1pdm 3例_年齢群:7歳(2例)、11歳(1例)
病原体不明3例_年齢群:2歳(1例)、30代(1例)、70代(1例)
|
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
後天性免疫不全症候群12例(AIDS 3例、無症候8例、その他1例) |
|
感染地域:国内9例、米国1例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触12例(異性間4例、同性間8例)
|
ジアルジア症2例〔感染地域:国内(都道府県不明)1例、タイ1例〕
梅毒6例(早期顕症I期3例、早期顕症II期2例、無症候1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例 |
|
遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:血液1例、胆汁1例
|
風しん2例(臨床診断例2例) |
|
感染地域:神奈川県1例、兵庫県1例
年齢群:3歳(1例)、30〜34歳(1例)
|
麻しん10例〔麻しん(検査診断例3例、臨床診断例3例)、修飾麻しん(検査診断例)4例〕
|
|
感染地域:国内10例
国内の感染地域:埼玉県2例、神奈川県2例、愛知県2例、群馬県1例、東京都1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:0歳(1例)、1歳(2例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(4例)、30〜34歳(1例)、50代(1例)
累積報告数:513例〔麻しん(検査診断例158例、臨床診断例226例)、修飾麻しん(検査診断例129例)〕
|
(補)他に2009年第29週までに診断されたものの報告遅れとして、コレラ1例(感染地域:インド)、細菌性赤痢1例(感染地域:インド)、オウム病2例(感染地域:北海道2例_感染源:セキセイインコ2例)、デング熱1例(感染地域:タイ)、日本紅斑熱1例(感染地域:島根県)、マラリア2例(熱帯熱1例_感染地域:ナイジェリア.原虫種不明1例_感染地域:パキスタン)、急性脳炎3例〔水痘・帯状疱疹ウイルス1例(0歳)、病原体不明2例(4歳1例、20代1例)〕、クリプトスポリジウム症1例(感染地域:北海道)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例〔30代(1例)、60代(1例.死亡)、70代(1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:血液)などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(6.00)、大阪府(0.74)、滋賀県(0.58)、東京都(0.29)、石川県(0.29)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は177例と2週連続で増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約76%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では北海道(0.97)、愛媛県(0.65)、石川県(0.62)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第24週以降減少が続いている。都道府県別では北海道(1.80)、宮崎県(1.64)、山形県(1.60)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いている。都道府県別では福井県(6.2)、宮崎県(5.6)、大分県(5.5)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(1.97)、鹿児島県(1.24)、福井県(1.23)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では福岡県(8.6)、愛媛県(5.7)、大分県(4.9)、佐賀県(4.9)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では神奈川県(0.74)、福島県(0.23)、三重県(0.22)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(1.03)、山口県(0.16)、栃木県(0.15)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では大分県(7.0)、大阪府(5.7)、愛知県(5.6)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(4.0)、長崎県(2.6)、福岡県(2.0)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は第26週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(3.00)、埼玉県(1.78)、青森県(1.33)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。典型例では、1〜4日間の潜伏期間を経て、発熱(38℃以上の高熱)、咳、咽頭痛、鼻汁・鼻閉等の急性呼吸器症状、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現するといわれている。これらはA/H1N1亜型(Aソ連型)、A/H3N2亜型(A香港型)、B型の3種類よりなる従来の季節性インフルエンザの特徴的な症状であるとされてきたが、2009年4月にメキシコ、米国、カナダを中心に発生した事例報告や、その後の日本国内での発生事例の報告等をみても、新型インフルエンザA/H1N1の臨床像は、季節性インフルエンザとほぼ同様であると考えられる。感染症発生動向調査では、全国約4,800カ所のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析しているが、臨床現場では従来の季節性インフルエンザと新型インフルエンザを迅速に判別する方法はない。また、特に新型インフルエンザが全数報告の対象ではなくなった7月24日以降は、定点医療機関からのインフルエンザの報告には、新型インフルエンザも少なからず含まれているものと考えられる。以上のことを踏まえて、以下にインフルエンザの発生動向について記述する。
感染症発生動向調査によると、2009年第30週のインフルエンザの定点当たり報告数は0.28(報告数1,312)であり、3週連続で増加がみられた(図1)。都道府県別では、沖縄県(6.00)、大阪府(0.74)、滋賀県(0.58)、東京都(0.29)、石川県(0.29)、茨城県(0.28)、千葉県(0.28)、愛知県(0.28)、兵庫県(0.28)、広島県(0.28)の順であり、東京都及びその周辺地域、愛知県、大阪府及びその周辺地域、福岡県等の大都市圏を含めた28都府県で報告数が増加している(図2)。また、9府県(千葉県、福井県、長野県、滋賀県、京都府、大阪府、広島県、福岡県、沖縄県)の21保健所地域で定点当たり報告数が1.00を超えており、例年収束しているこの時期においても、低いレベルではあるが、新型インフルエンザの影響によると思われる地域的な流行が続いている。
日本国内で新型インフルエンザの患者が発生したと推定されている5月5日を含む第19週(2009年5月4日〜5月10日)以降、第30週までの定点当たり累積報告数は6.89(累積報告数32,236)であった。年齢群別では5〜9歳9,944例(30.8%)、10〜14歳8,360例(25.9%)、0〜4歳5,004例(15.5%)、15〜19歳3,118例(9.7%)、20〜29歳2,142例(6.6%)、30〜39歳1,582例(4.9%)の順となっている(図3)。従来、インフルエンザの年齢群別報告数は、5〜9歳、0〜4歳、10〜14歳、30〜39歳、20〜29歳の年齢群の順で多かったので、10代を中心に発症者がみられている新型インフルエンザが影響している可能性が高いと思われる。
第19〜30週にインフルエンザウイルスの検出は、AH1亜型(Aソ連型)39件、AH3亜型(A香港型)711件、B型90件の報告があり、またAH1pdm(新型インフルエンザウイルス)は、2,178件の分離・検出が報告されているため、AH1pdmはこの期間中の分離・検出全体の72.2%を占めている。但し、AH1pdmの大半は、これまでは新型インフルエンザの全数報告の一環として、診断のために地方衛生研究所でRT-PCR検査が実施されてきた結果が反映されたものであり(図4)、従来の季節性インフルエンザと新型インフルエンザの実際の患者発生の割合を示しているものではない。
これまで、国内外を問わず、新型インフルエンザの地域での流行の多くは、学校における集団発生を契機として始まっている。従来の季節性インフルエンザと異なり、新型インフルエンザでは、小学校、幼稚園、保育園のみならず、高校、中学校において集団発生が多発していることから、より早く感染拡大し、その規模も大きくなりやすいものと予想される。大半の学校が夏季休暇中である現在、国内において本格的な流行が到来する時期は予測できない。しかし、通常の季節性インフルエンザの流行時期より早く、秋季に大規模な流行が発生する可能性がある。今後とも新型インフルエンザを含めたインフルエンザの発生動向には十分な注意が必要である。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1999〜2009年第30週) |
図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2009年第30週) |
図3. インフルエンザ累積報告数の年齢群別割合(2009年第19〜30週) |
|
|
|
図4. インフルエンザウイルス分離・検出報告数の週別推移(2008年第36週〜2009年第30週) |
|
|
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
2009年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は第20週から増加が認められ、第27週101例、第28週143例、第29週164例で、第30週は107例であった(図)。本年第30週までの累積報告数1,414例は、2000年以降の各年同期間の累積報告数と比較して、2003年に次いで少ない報告数であった(2000年1,436例、2001年2,030例、2002年1,555例、2003年1,126例、2004年1,525例、2005年1,570例2006年1,560例、2007年1,802例、2008年1,581例)。
第1〜30週(2008年12月29日〜2009年7月26日診断のもの)の累積報告1,414例は、患者が928例(66%)、無症状病原体保有者が486例(34%)であった。すべての都道府県から報告があり、報告の多い都道府県は、福岡県(104例)、東京都(100例)、神奈川県、愛知県、兵庫県(各73例)、千葉県(69例)であった。感染地域は国内が1,391例、国外が20例、国内か国外か不明が3例であり、国内の都道府県別では、福岡県(93例)、東京都、兵庫県(各71例)、愛知県(67例)、大阪府(61例)の順で多かった。性別では男性628例、女性786例であり、年齢群別では0〜9歳486例(うち有症者379例:78%)、20〜29歳210例(同148例:70%)、10〜19歳206例(同157例:76%)の順に多かった。
本疾患の重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)は第30週までに25例報告があった。都道府県別では、19都道府県(福岡県3例、北海道、香川県、熊本県、鹿児島県各2例、青森県、岩手県、山形県、栃木県、千葉県、東京都、富山県、石川県、長野県、岐阜県、京都府、広島県、山口県、大分県各1例)から報告があった。25例は男性5例、女性20例で、年齢は0〜4歳が11例、5〜9歳が7例、10〜14歳が2例、15歳以上が5例であった(表)。25例中7例に肉の喫食歴があり、うち3例(2歳、12歳、13歳)は生肉あるいは生レバーを喫食していた。2009年第30週までに死亡例の報告はない(HUSなどの合併症や死亡については届出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、届出後に発生が確認された場合の追加・修正報告を自治体に依頼している)。
例年、腸管出血性大腸菌感染症報告数は年間ほぼ3,000〜4,000例で推移していたが、2007、2008年は2年続けて4,000例を超えた。また、HUSは2007年129例、2008年94例が、死亡はそれぞれ4例、8例報告された。幸い本年は、これまでのところ過去に比べ少ない報告数にとどまっているが、本症が数多く発生する夏季を迎え、その発生動向にはさらに注意が必要である。
本疾患の発生・拡大を防ぐためには、食肉の十分な加熱調理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。
(補)腸管出血性大腸菌感染症の発生状況については、http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/index.htmlもご参照ください。
また、菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html もご参照ください。
|
|
|
図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(2000年〜2009年第30週) |
表. 腸管出血性大腸菌感染症の溶血性尿毒症症候群(HUS)の年齢群別報告数(2009年第1〜30週) |
|
|