|
発生動向総覧
〈第36週コメント〉 9月9日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 262例 |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症170例(有症者120例、うちHUS 6例、死亡1例)
|
|
感染地域:国内169例、韓国1例
国内の多い感染地域:福岡県14例、兵庫県10例、東京都9例、大阪府9例、群馬県8例、埼玉県8例、千葉県8例、愛知県6例、奈良県6例、山形県5例、石川県5例、広島県5例
年齢群:0歳(2例)、1歳(9例)、2歳(17例)、3歳(7例)、4歳(5例)、5歳(11例)、6歳(6例)、7歳(9例)、8歳(3例)、9歳(5例)、10代(28例)、20代(23例)、30代(12例)、40代(9例)、50代(4例)、60代(10例)、70代(5例)、80代(4例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(72例)、O157 VT2(38例)、O26 VT1(28例)、O157 VT不明(7例)、O157 VT1(5例)、O111 VT1(4例)、O103 VT1(2例)、O111 VT2(1例)、O1 VT1(1例)、O1 VT2(1例)、O91 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、O165 VT1・VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他・不明(6例)
累積報告数:2,499例(有症者1,698例、うちHUS 45例.死亡2例)
|
|
4類感染症: |
A型肝炎3例(感染地域:パキスタン1例、ウズベキスタン1例、エジプト1例)
デング熱1例(感染地域:マリ) 日本紅斑熱4例(感染地域:三重県1例、和歌山県1例、広島県1例、高知県1例)
レジオネラ症10例(肺炎型10例)
|
|
感染地域:宮城県1例、秋田県1例、埼玉県1例、東京都1例(温泉)、神奈川県1例、岐阜県1例(温泉)、兵庫県1例、熊本県1例、国内(都道府県不明)2例(うち1例が温泉)
年齢群:50代(3例)、60代(3例)、70代(3例)、80代(1例)
|
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢7例(腸管アメーバ症7例) |
|
感染地域:神奈川県1例、大阪府1例、兵庫県1例、大分県1例、国内(都道府県不明)1例、メキシコ1例、国外(国不明)1例
感染経路:経口感染2例、性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、不明3例
|
ウイルス性肝炎2例
|
|
B型1例_感染経路:性的接触(異性間)
C型1例_感染経路:不明
|
急性脳炎4例
|
|
インフルエンザウイルスAH1pdm 3例_年齢群:7歳(2例)、9歳(1例)
病原体不明1例_年齢群:3歳
|
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例
|
|
年齢群:30代(1例.死亡)、70代(1例.死亡)
|
後天性免疫不全症候群7例(AIDS 2例、無症候4例、その他1例) |
|
感染地域:国内7例
感染経路:性的接触7例(異性間2例、同性間5例)
|
先天性風しん症候群1例(その他) |
|
感染地域:フィリピン
|
梅毒7例(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例、無症候2例)
破傷風3例〔年齢群:50代(1例)、70代(1例)、90代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明1例_菌検出検体:尿)
風しん1例(検査診断例) |
|
感染地域:福岡県
年齢群:40代
|
麻しん6例〔麻しん(検査診断例4例、臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例)1例〕
|
|
感染地域:国内6例
国内の感染地域:茨城県1例、栃木県1例、長野県1例、愛媛県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(1例)、2歳(2例)、3歳(1例)、5〜9歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:604例〔麻しん(検査診断例189例、臨床診断例254例)、修飾麻しん(検査診断例161例)
|
(補)他にA型肝炎1例の報告があったが削除予定。また、2009年第35週までに診断されたものの報告遅れとして、腸チフス1例(感染地域:インドネシア)、E型肝炎1例〔感染地域(感染源):北海道(不明)〕、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、デング熱2例(感染地域:インド1例、フィリピン1例)、日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)、レジオネラ症2例〔感染地域:愛媛県2例(ともに温泉)〕、急性脳炎3例〔ヒトヘルペスウイルス6型1例(1歳)、インフルエンザウイルスAH1pdm 1例(8歳)、病原体不明1例(0歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(60代)などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第28週以降増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(22.66)、大阪府(4.26)、宮城県(3.85)、東京都(3.66)、福岡県(3.58)、北海道(3.53)、京都府(3.19)、千葉県(3.00)、高知県(2.81)、長崎県(2.73)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は452例と第29週以降増加が続いている。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約77%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では福岡県(0.51)、滋賀県(0.35)、高知県(0.33)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では北海道(1.35)、山形県(1.10)、山口県(1.10)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では大分県(6.1)、宮崎県(5.7)、鳥取県(5.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では宮崎県(1.19)、和歌山県(0.87)、福岡県(0.75)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では佐賀県(4.2)、青森県(3.1)、宮崎県(2.6)、長崎県(2.6)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では佐賀県(0.30)、神奈川県(0.27)、東京都(0.19)、宮崎県(0.19)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(0.17)、広島県(0.14)、宮崎県(0.11)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第32週以降減少が続いている。都道府県別では福井県(4.2)、長野県(3.4)、石川県(3.2)、香川県(3.2)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では福井県(2.36)、沖縄県(1.65)、山形県(1.63)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(2.00)、富山県(1.80)、福島県(1.29)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。従来、ヒトからヒトに感染して臨床的に問題となっていた季節性インフルエンザの原因ウイルスとしてはAソ連型(A/H1N1亜型)、A香港型(A/H3N2亜型)、B型の3種類があった。2009年4月にその存在が明らかとなった新型インフルエンザA/H1N1の臨床像は、従来の季節性インフルエンザとほぼ同様であり、その感染経路も季節性インフルエンザと同様に飛沫感染が主体であり、一部には接触感染があると考えられている(感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/infection_control_0901.html参照)。
感染症発生動向調査では、全国約4,800カ所のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。本サーベイランスは原則的に臨床診断によるものであり、最近の国内のインフルエンザウイルス検出状況を考慮すれば、現在報告されているインフルエンザ患者発生の殆どは新型インフルエンザによるものであると推定される。
感染症発生動向調査によると、インフルエンザの定点当たり報告数は、2009年第28週以降増加が続いており、第36週は2.62(報告数12,515)となり、2週連続して小さな増加にとどまった(図1)。定点医療機関からの報告数をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を1週間に受診した患者数を推計すると、約15万人となった。都道府県別では沖縄県(22.66)、大阪府(4.26)、宮城県(3.85)、東京都(3.66)、福岡県(3.58)、北海道(3.53)、京都府(3.19)、千葉県(3.00)、高知県(2.81)、長崎県(2.73)の順となっており、青森県、岡山県、山口県、愛媛県を除く43都道府県で定点当たり報告数が1.00を超えている(図2)。また、47都道府県の399保健所地域で定点当たり報告数が1.00を超えている。
患者報告数が継続的に増加し始めた第28週以降第36週までの定点当たり累積報告数は11.87(累積報告数54,820)であり、年齢群別では5〜9歳12,457例(22.7%)、10〜14歳11,575例(21.1%)、15〜19歳8,620例(15.7%)、20〜29歳7,269例(13.3%)、0〜4歳6,973例(12.7%)の順となっている。5〜14歳の年齢群の報告数の割合が増加してきており、20歳以上の年齢群の割合が減少してきている(図3)。
日本で新型インフルエンザウイルスAH1pdmが検出された2009年第19週以降36週までに7,267件のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、そのうちAH1pdmは6,288件(86.5%)を占めている。また、特に患者報告数が増加し始めた第28週以降では、第36週までに5,125件のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1亜型(Aソ連型)15件(0.3%)、AH3亜型(A香港型)86件(1.7%)、B型4件(0.1%)、AH1pdm(新型インフルエンザウイルス)5,020件(98.0%)とインフルエンザウイルスの検出報告数の大半をAH1pdmが占めており、現在国内で発生しているインフルエンザの殆どは新型インフルエンザによるものであると推定される(図4および感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph/sinin1.gif 参照)。
沖縄県の報告数は減少が続いているが、北海道、宮城県、首都圏、京阪神、福岡県等、人口の密集している地域においては報告数の増加が目立ってきている(図5)。国内の大半の学校等において夏季休暇が終了したことから、今後国内の多くの地域で新型インフルエンザの流行が増大する可能性がある。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1999〜2009年第36週) |
図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2009年第36週) |
図3. インフルエンザ累積報告数の年齢群別割合(2009年第28〜36週) |
|
|
|
図4. インフルエンザウイルス検出割合報告(2009年第28〜36週) |
図5 インフルエンザの都道府県別報告数の推移(2009年第34〜36週) |
|
これまでのインフルエンザ・パンデミックの例をみても、新型インフルエンザの流行は、国民の多くが感染し免疫を保有するに至るまでは繰り返されるものと考えられる。また、現時点においては、いまだ殆どの国民が感受性者であることから、たとえ秋季の流行であっても、その規模は従来の冬季における季節性インフルエンザの流行よりも大きくなる可能性があることを考慮しておくべきである。従って、本格的な流行となった場合に、現在の医療体制を維持し、国民に対して医療サービスを提供し続けることが大きな課題であり、また、流行規模の増大に伴って、心疾患、呼吸器疾患、腎疾患、糖尿病等の慢性疾患患者、妊婦、乳幼児、高齢者等のいわゆるインフルエンザの罹患による重症化が予想される者に対する注意と対策に関する準備も急務であると思われる。新型インフルエンザを含めたインフルエンザの発生動向には今後とも警戒が必要である。
|