|
発生動向総覧
〈第49週コメント〉 12月9日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 331例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢5例(感染地域:埼玉県1例、ベトナム2例、カンボジア1例、インド1例)
腸管出血性大腸菌感染症36例(有症者26例、うちHUS 1例) |
|
感染地域:国内36例
国内の感染地域:京都府6例、大阪府5例、福岡県4例、東京都3例、埼玉県2例、愛知県2例、福島県1例、栃木県1例、千葉県1例、石川県1例、福井県1例、静岡県1例、山口県1例、徳島県1例、大分県1例、不明5例
年齢群:1歳(2例)、2歳(2例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(1例)、7歳(2例)、10代(7例)、20代(5例)、30代(6例)、40代(4例)、60代(1例)、70代(3例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(17例)、O157 VT2(10例)、O26 VT1(3例)、O111 VT1・VT2(3例)、O157 VT不明(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:3,720例(有症者2,493例、うちHUS 77例.死亡3例)
|
|
4類感染症: |
つつが虫病43例
|
|
感染地域:福島県13例、鹿児島県13例、青森県2例、群馬県2例、千葉県2例、神奈川県2例、静岡県2例、広島県2例、埼玉県1例、東京都1例、愛知県1例、福岡県1例、佐賀県1例
|
日本紅斑熱1例(感染地域:愛媛県)
レジオネラ症11例(肺炎型11例)
|
|
感染地域:東京都2例、長野県2例、栃木県1例(温泉)、埼玉県1例、富山県1例、石川県1例、大阪府1例、大分県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
年齢群:30代(1例)、40代(1例)、60代(2例)、70代(4例)、80代(3例)
|
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢17例(腸管アメーバ症14例、腸管外アメーバ症3例) |
|
感染地域:東京都2例、神奈川県2例、岩手県1例、茨城県1例、広島県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)5例、韓国1例、インドネシア1例、米国1例、イタリア1例
感染経路:性的接触4例(異性間2例、異性・同性間不明2例)、経口感染7例、不明6例
|
ウイルス性肝炎1例(B型_感染経路:不明)
急性脳炎10例
|
|
インフルエンザウイルスAH1pdm 10例_年齢群:1歳(2例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(2例)、10代(3例)、20代(1例)
|
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:60代)
後天性免疫不全症候群11例(無症候10例、その他1例)
|
|
感染地域:国内11例
感染経路:性的接触11例(異性間2例、同性間9例)
|
ジアルジア症2例(感染地域:インド2例)
梅毒9例(早期顕症II期6例、無症候3例)
麻しん3例〔麻しん(検査診断例1例、臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
|
|
感染地域:国内3例
国内の感染地域:茨城県1例、神奈川県1例、大阪府1例
年齢群:2歳(2例)、35〜39歳(1例)
累積報告数:718例〔麻しん(検査診断例237例、臨床診断例296例)、修飾麻しん(検査診断例185例)〕
|
(補)他に2009年第48週までに診断されたものの報告遅れとして、パラチフス1例(感染地域:インド)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、日本紅斑熱3例(感染地域:三重県1例、徳島県1例、愛媛県1例)、マラリア2例(熱帯熱1例_感染地域:ウガンダ、三日熱1例_感染地域:カンボジア)、レジオネラ症1例〔感染地域:岐阜県(温泉)〕、急性脳炎14例〔インフルエンザウイルスAH1pdm 5例(0歳1例、5歳1例、7歳3例)、インフルエンザウイルスA型7例(4歳2例、7歳1例、10代3例、70代1例)、インフルエンザウイルス(型不明)2例(8歳1例、10代1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:VanA 1例_菌検出検体:便、遺伝子型:不明2例_菌検出検体:皮膚組織1例、カテーテル1例)、風しん1例(検査診断例.感染地域:国内(都道府県不明).年齢群:35〜39歳)などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(60.66)、大分県(54.69)、山口県(54.46)、宮崎県(52.83)、徳島県(51.03)、佐賀県(50.85)、長崎県(48.24)、青森県(46.63)、愛媛県(45.07)、石川県(44.60)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は1,832例と第40週以降増加が続いている。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約65%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では佐賀県(0.39)、石川県(0.38)、富山県(0.28)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山口県(2.80)、秋田県(2.66)、山形県(2.13)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第46週以降増加が続いている。都道府県別では大分県(10.7)、福井県(10.0)、熊本県(9.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(3.53)、大分県(2.58)、岩手県(2.50)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では山形県(1.67)、福井県(0.82)、島根県(0.65)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では青森県(0.43)、神奈川県(0.17)、熊本県(0.17)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では栃木県(0.15)、宮崎県(0.11)、滋賀県(0.06)、沖縄県(0.06)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では熊本県(0.38)、香川県(0.32)、高知県(0.23)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(2.50)、沖縄県(2.12)、大分県(2.06)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(1.43)、宮城県(1.33)、青森県(1.17)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。2009年4月にその存在が明らかとなった新型インフルエンザA/H1N1の臨床像は、従来の季節性インフルエンザとほぼ同様であり、罹患者の大半は合併症なく治癒するといわれているが、肺炎やインフルエンザ脳症を併発して重症化する場合がある。特に肺炎は、急速に進行する重症のウイルス性肺炎を起こす場合が多く、喘息や慢性閉塞性肺疾患等の呼吸器疾患の存在が急激な悪化と関連しているといわれている〔Clinical features of severe cases of pandemic influenza: Pandemic(H1N1)2009 briefing note 13, Global Alert and Response, WHO, Oct. 16, 2009;http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/h1n1_clinical_features_20091016/en/index.html〕。現在新型インフルエンザは、世界的には、北米での流行は続いているものの減少がみられている。ヨーロッパでは、西部、北部、東部では流行のピークを迎えているかあるいはピークが過ぎつつあるところが大半であるが、中央および南東部では流行の増大が続いており、アジアや熱帯地域では様々な程度の流行を見せている〔Pandemic(H1N1)2009-update78:http://www.who.int/csr/don/2009_12_11a/en/index.html〕。
感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のイン
フルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。本サーベイ
ランスは原則的に臨床診断によるものであり、最近の国内のインフルエンザウイルス検出状況を
考慮すれば、現在報告されているインフルエンザ患者発生の殆どは新型インフルエンザによるも
のであると推定される。
2009年第49週のインフルエンザの定点当たり報告数は31.82(報告数153,131)と減少した(図1)。都道府県別では福井県(60.66)、大分県(54.69)、山口県(54.46)、宮崎県(52.83)、徳島県(51.03)、佐賀県(50.85)、長崎県(48.24)、青森県(46.63)、愛媛県(45.07)、石川県(44.60)の順となっている。定点当たり報告数は、北海道と東京都を除く45府県で20.00を上回り、32県で30.00を上回っているが、青森県と徳島県を除く45都道府県では前週よりも減少がみられた(図2)。
定点医療機関からの報告数をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を1週間に受診した患者数を推計すると約150万人と前週よりも減少し、第28週以降第49週までの累積の推計患者数(暫定値)は約1,414万人(95%信頼区間:1,396万人〜1,432万人)となった(図3)。性別では男性約740万人(52.2%)、女性約677万人(47.8%)であり、年齢群別では5〜9歳約380万人(27.0%)、10〜14歳約380万人(27.0%)、15〜19歳約210万人(14.9%)、0〜4歳約141万人(10.0%)、20〜29歳約117万人(8.3%)、30〜39歳約86万人(6.1%)の順となっている(図4)。第49週は大半の年齢群において、推計受診者数(暫定値)の減少がみられている(図5)
日本で新型インフルエンザウイルスAH1pdmが検出された2009年第19週以降第49週までに19,569件のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、そのうちAH1pdmは18,521件(94.6%)を占めている。また、特に患者報告数が増加し始めた第28週以降では、第49週までに17,329件のインフルエンザウイルスの検出が報告され、AH1亜型(Aソ連型)18件(0.10%)、AH3亜型(A香港型)131件(0.76%)、B型5件(0.03%)、AH1pdm(新型インフルエンザウイルス)17,175件(99.11%)とインフルエンザウイルスの検出報告数の大半をAH1pdmが占めており、現在国内で発生しているインフルエンザの殆どは新型インフルエンザによるものであると推定される(図6および感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph/sinin1.gif 参照)。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1999〜2009年第49週) |
図2. インフルエンザの都道府県別定点当たり報告数の推移(2009年第46〜49週) |
図3. インフルエンザ推計受診患者数(暫定値)週別推移(2009年第28〜49週) |
|
|
|
図4. インフルエンザ推計受診患者数(暫定値)の年齢群別割合(2009年第28〜49週) |
図5. インフルエンザ推計受診患者数(暫定値)の年齢群別推移(2009年第36〜49週) |
図6. インフルエンザウイルス検出報告割合(2009年第28〜49週) |
インフルエンザ定点当たり週別報告数は、3週連続で増加していたが、第49週は大きく減少した。国内のほとんどの都道府県で患者報告数は減少を示しており、推計受診患者数(暫定値)では、殆どの年齢群で前週よりも減少がみられている。特に、5〜19歳の、これまで流行の中心であった年齢層での減少が目立つ。
これまでのパンデミックの例をみても、新型インフルエンザの流行は、国民の多くが感染し免疫を保有するに至るまでは繰り返されるものと考えられる。既に推計の医療機関受診患者数(暫定値)は1,400万人を上回っており、人口の10%以上が罹患し、年齢群別では相当の割合で患者が発生しているところも出て来ている。特に5〜9歳、10〜14歳の年齢群は、不顕性感染者の存在も考慮すると、既に相当数が新型インフルエンザに対する免疫を保有している可能性があるものと考えられる。従って、今後新型インフルエンザの流行は収束傾向に向かうと予想することもできるが、これまでは従来のインフルエンザの流行シーズンとは異なった季節における流行であり、今後インフルエンザの流行に最も適した厳冬期を迎えることを考えると、冬季休暇後には、季節性インフルエンザの流行も交えた本格的な流行が再び到来することも考慮しておく必要があるものと思われる。なお、現時点では4歳以下の小児の受診者数と入院患者数の増加については、引き続き注意していくべきであり、新型インフルエンザを含めたインフルエンザの発生動向には今後とも警戒が必要である。
|