発生動向総覧
〈第19週コメント〉 5月19日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 312例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢5例
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感染地域:ベトナム2例、インド2例、インドネシア1例
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腸管出血性大腸菌感染症16例(有症者14例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内16例
国内の感染地域:兵庫県3例、広島県2例、岩手県1例、山形県1例、茨城県1例、栃木県1例、福井県1例、大阪府1例、長崎県1例、不明4例
年齢群:0歳(1例)、1歳(1例)、3歳(1例)、6歳(1例)、10代(2例)、20代(2例)、40代(2例)、50代(2例)、60代(3例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(5例)、O157 VT不明(3例)、O26 VT1(2例)、O157 VT2(2例)、O8 VT2(1例)、O121 VT2(1例)、O145 VT2(1例)、その他・不明(1例)
累積報告数:396例(有症者237例、うちHUS 11例.死亡なし)
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腸チフス1例(感染地域:インド)
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4類感染症: |
A型肝炎17例
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感染地域:東京都1例、神奈川県1例、長野県1例、愛知県1例、三重県1例、京都府1例、大阪府1例、兵庫県1例、岡山県1例、広島県1例、熊本県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)3例、愛知県/韓国1例、韓国1例
累積報告数:190例〔劇症肝炎6例_年齢群:40代(1例)、50代(3例)、60代(2例.うち死亡1例)〕
*第10〜19週の累積報告数は159例(劇症肝炎5例、うち死亡1例)となり、都道府県別では、福岡県24例、東京都21例、広島県20例、兵庫県11例の順に多い。広域アウトブレイクの可能性もあり、引き続き注意を要する。
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つつが虫病6例
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感染地域:新潟県2例、青森県1例、秋田県1例、福島県1例、広島県1例
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日本紅斑熱1例(感染地域:徳島県) マラリア1例(四日熱_感染地域:ウガンダ)
レジオネラ症4例(肺炎型4例)
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感染地域:東京都1例、富山県1例、静岡県1例、山口県1例
年齢群:60代(1例)、70代(1例)、80代(2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢3例(腸管アメーバ症2例、腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:宮城県1例、和歌山県1例、福岡県1例
感染経路:性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、その他1例
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ウイルス性肝炎3例
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B型3例_感染経路:性的接触2例(異性間2例)、歯ブラシの共用1例
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急性脳炎3例〔病原体不明3例_年齢群:0歳(1例)、2歳(2例)〕
後天性免疫不全症候群19例(AIDS 5例、無症候13例、その他1例) |
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感染地域:国内18例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触19例(異性間7例、同性間10例、異性/同性間2例)
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ジアルジア症1例(感染地域:タイ)
梅毒4例(早期顕症II期2例、無症候2例)
破傷風2例〔年齢群:70代(1例)、80代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例
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遺伝子型:VanB 1例_菌検出検体:尿
遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液
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風しん1例(検査診断例)
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感染地域:埼玉県
年齢群:0歳
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麻しん14例〔麻しん(検査診断例7例、臨床診断例3例)、修飾麻しん(検査診断例4例)〕
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感染地域:国内12例、中国1例、国外(国不明)1例
国内の感染地域:東京都2例、神奈川県2例、大阪府2例、埼玉県1例、千葉県1例、兵庫県1例、佐賀県1例、熊本県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(4例)、2歳(1例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(2例)、15〜19歳(1例)、25〜29歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:192例〔麻しん(検査診断例77例、臨床診断例60例)、修飾麻しん(検査診断例55例)〕
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(補)他に2010年第18週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:ベトナム)、E型肝炎1例(感染地域:東京都_感染源:不明)、日本紅斑熱1例(感染地域:徳島県)、レジオネラ症1例(感染地域:高知県、90代.死亡)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔50代(1例)、70代(1例.死亡)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では佐賀県(0.56)、山口県(0.44)、広島県(0.29)、沖縄県(0.29)、山梨県(0.23)、岡山県(0.21)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は290例と増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約67%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鹿児島県(0.84)、大分県(0.72)、佐賀県(0.65)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(4.5)、山形県(3.6)、石川県(3.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(20.0)、宮崎県(14.8)、大分県(14.1)、富山県(13.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(4.7)、鹿児島県(4.1)、新潟県(3.8)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では愛媛県(4.9)、大分県(2.6)、山口県(2.4)、宮崎県(2.1)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では長崎県(0.66)、神奈川県(0.57)、三重県(0.53)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では栃木県(0.21)、沖縄県(0.18)、千葉県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(1.90)、福岡県(1.31)、宮崎県(1.31)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では石川県(3.59)、和歌山県(2.90)、宮崎県(2.86)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では宮城県(1.83)、青森県(1.50)、群馬県(1.50)が多い。
〈4月コメント〉
◆性感染症について 2010年5月14日集計分 性感染症定点数:959
(産婦人科・産科・婦人科:463、泌尿器科:395、皮膚科88、性病科13)
●月別推移
2010年4月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.24(男1.04、女1.20)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.76(男0.31、女0.45)、尖圭コンジローマが0.44(男0.25、女0.19)、淋菌感染症が0.82(男0.68、女0.15)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)。
前月に比べると、男性では、性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマで微増、淋菌感染症で減少した。女性では、性器クラミジア感染症で微減、性器ヘルペスウイルス感染症で微増、尖圭コンジローマで微減、淋菌感染症で減少した(28〜31ページ「グラフ総覧」参照)。過去5年間の同時期と比較すると、男性では尖圭コンジローマでやや少なかった。女性では性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症でやや少なかった(図2)。
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図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(4月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群別(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では、性器クラミジア感染症は25〜29歳の年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は30〜39歳の2つの年齢群、尖圭コンジローマは20〜39歳の4つの年齢群、淋菌感染症は25〜29歳の年齢群であった。女性では、4疾患すべて20〜24歳の年齢群であった(図3:PDF参照)。男女ともに4疾患すべてで15〜19歳の年齢群の報告があり、女性は性器クラミジア感染症、淋菌感染症で10〜14歳の年齢群の報告があった。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患は、男性では60代以上は僅かであり、女性では50代以上の報告はないか、あっても僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、報告数や年齢群分布において明らかな変化は見られておらず、この基準変更の周知徹底が必要と考える。
年齢群毎にみた定点当たり報告数の男女の比較では、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜34歳、55〜69歳、70歳以上の8つの年齢群、尖圭コンジローマでは15〜24歳の2つの年齢群、淋菌感染症では15〜19歳の年齢群という比較的低い年齢層を中心に女性が男性よりも多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較についてはそれらの比率の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に図4(PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症は男女ともに2003年以降減少傾向がみられる。性器ヘルペスウイルス感染症は、男性では2007年以降、女性では2006年以降微減傾向がみられたが、2009年以降は男女ともにほぼ横ばいとなっている。尖圭コンジローマは男女共に2006年以降微減傾向がみられる。淋菌感染症は、男性では2003年以降減少傾向、女性では2004年以降微減傾向がみられたが2007年以降は横ばいで推移している。前月との比較では、男性では性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマで同値、淋菌感染症で減少であった。女性では性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで同値、淋菌感染症で減少であった。
◆薬剤耐性菌について (5月14集計分)
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基幹定点数(4月):465.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.24(前月:3.98、前年同月:4.21)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。4月は前月より増加し、過去10年間の同月との比較では上位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.03(前月:0.95、前年同月:0.79)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。4月は前月よりやや増加し、過去10年間の同月との比較では中位に属した。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.06(前月:0.06、前年同月:0.08)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。4月は前月よりやや減少し、過去10年間の同月との比較では最下位に属した。
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●年齢階級別
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MRSA感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の67%を占めている(図1:PDF参照)
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の59%を占める一方、70歳以上が全体の21%を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の63%を占めている(図3:PDF参照)
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.6:1
PRSP感染症…男:女=1.3:1
薬剤耐性緑膿菌感染症…男:女=8:1
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は福島県(12.0)、沖縄県(8.7)、滋賀県(7.9)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は福井県(2.8)、新潟県(2.7)、大阪府(2.6)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
報告総数が27件にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに百日咳(P)ワクチンを含んだDPT三種混合ワクチンを接種していない生後6カ月以下の乳児が罹患した場合は、未だに死に至る危険性がある疾患である。百日咳はこれまで乳幼児を中心とした小児で流行する疾患とされてきたが、最近では小児科定点報告疾患であるにもかかわらず20歳以上の成人例の報告数が年々増加してきており、かつての乳幼児を中心に流行する疾患と呼ぶには相応しくない状況となりつつある。成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすく、感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。治療薬としてはマクロライド系抗菌薬が第一選択であるが、セフェム系が処方されることもある。早期に抗菌薬を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて百日咳の患者発生状況の分析を行っている。2010年第19週の週別の患者報告数は134例(定点当たり報告数0.04)となり、前週(第18週)の報告数(70例)を大きく上回った(図1)。都道府県別では、神奈川県20例、千葉県18例、栃木県10例、福岡県10例、兵庫県9例、広島県9例、新潟県8例、東京都7例の順となっており、関東地方からの報告数の増加が目立っている(図2)。2010年第1〜19週までの累積報告数は1,395例であり、年齢群別では、20歳以上56.0%(781例)、0歳10.5%(147例)、1歳4.7%(66例)、2〜3歳6.7%(93例)、4〜5歳6.3%(88例)となっている。20歳以上の報告割合は年々高くなってきており、2010年では50%を上回った状態となっている(図3)。累積報告数を男女別でみると、男性40.7%(568例)、女性59.3%(827例)と女性の報告割合が高く、0歳児では男性の報告割合が高いものの、20歳以上では女性の報告割合が60%以上を占めている。
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図1. 百日咳の年別・週別発生状況(2000〜2010年第19週) |
図2. 百日咳の都道府県別報告状況(2010年第19週) |
図3. 百日咳の年別・年齢群別割合(2000〜2010年第19週) |
感染症情報センターでは、成人層を中心とした患者発生状況の実態をより明らかにすることを目的として、2008年5月から「百日咳DB:全国の百日咳発生状況」(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/pertu-db.html)を立ち上げ、感染症発生動向調査とは別に解析を行っている。2008年5月8日から2009年12月28日までに同DBに報告された756例(後に百日咳を否定された2例を除く)においても同様に、20歳以上の報告数が多くを占めている(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/DB/s-091228.pdf)。
百日咳は、現在でもワクチン未接種の乳児が罹患した場合には重症化が危惧され、かつては乳幼児を中心に夏季に流行する疾患であった。しかし最近では、成人層の患者発生の割合が年々高くなってきており、その詳細を明らかにするためには、現在の小児科定点による発生動向調査では不十分であると言わざるを得ない。また、既に米国等では思春期から成人層への百日咳対策としてワクチンの追加接種が実施されており、我が国においても早急に検討が必要と思われる。現状のままで何等有効な対策が講じられなければ、今後は成人層を中心とした百日咳の流行が毎年継続的に発生し、それによってワクチン未接種の乳児への感染機会も増加することが懸念される。百日咳の今後の発生動向には注意が必要である。
注目すべき感染症
◆ 流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎(mumps:ムンプス)は、ムンプスウイルスの感染を原因として発症する感染症である。2〜3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て発症し、片側あるいは両側性の唾液腺(耳下腺が最も多い)のびまん性腫脹、疼痛、発熱を主症状とし、2〜7歳の小児に好発する。不顕性感染が3分の1程度認められ、発症しても、通常は1〜2週間で軽快する予後良好の疾患であるが、無菌性髄膜炎をはじめ、髄膜脳炎、難聴、睾丸炎、卵巣炎、膵炎等の種々の合併症を起こす場合がある。感染経路はヒト−ヒト間の飛沫感染、接触感染であり、特に保育施設等、ムンプスウイルスに免疫を持たない乳幼児の集団生活施設では、しばしば集団発生が認められている。また成人の発症例では、髄膜炎、精巣炎、難聴、膵炎などの合併症によって入院を要する例が比較的多い。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて流行性耳下腺炎の患者発生状況の分析を行っている。2010年第19週の定点当たり報告数は1.36(報告数4,105)であり、前週(第18週)の1.01を大きく上回り、2007年以降では最も高い値となった(図1)。都道府県別では石川県(3.59)、和歌山県(2.90)、宮崎県(2.86)、富山県(2.79)、福島県(2.42)、大分県(2.31)、埼玉県(2.18)の順であり、広範な地域で報告数の増加がみられている(図2)。2010年第1〜19週の定点当たり累積報告数は19.00(累積報告数57,565)であり、性別では男性53.1%(報告数30,577)、女性46.9%(報告数26,988)、年齢群別では4〜5歳32.8%、6〜7歳22.4%、2〜3歳21.3%、8〜9歳10.2%の順となっている。7歳以下で全報告数の80%以上を占めているのは例年と同様である(図3)。
1982年以降の流行性耳下腺炎の年別・週別の報告数の推移をみると、1980年代は3〜4年周期で大きな流行を繰り返していたが、1990年代になると流行のピークは低く、周期が長くなる傾向となり、2000年代に入ると再び流行のピークがやや高くなり、周期は短くなってきている(図4)。これは、MMRワクチンを含めたムンプス関連ワクチンの接種率に関係しているものと思われる。このままの状況が続けば、2010年は2007年〜2009年の過去3年間と比較して患者数が増加するものと予想される。流行性耳下腺炎の報告数は夏季休暇の開始前後にピークとなる場合が多く、更に増加してくるものと思われる。今後とも、本疾患の流行状況、発生動向には注意が必要である。
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図1. 流行性耳下腺炎の年別・週別発生状況ー1(2000〜2010年第19週) |
図2. 流行性耳下腺炎の都道府県別報告状況(2010年第19週) |
図3. 流行性耳下腺炎の年別・年齢群別割合(2000〜2010年第19週) |
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図4. 流行性耳下腺炎の年別・週別発生状況ー2(1982〜2010年第19週) |
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