発生動向総覧
〈第21週コメント〉 6月2日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 335例 |
3類感染症: |
コレラ1例(感染地域:インド)
細菌性赤痢4例(感染地域:三重県1例、インドネシア1例、フィリピン1例、タイ/ネパール1例)
腸管出血性大腸菌感染症44例(有症者27例、うちHUS 1例) |
|
感染地域:国内43例、トルコ1例
国内の感染地域:広島県6例、群馬県5例、兵庫県5例、岩手県3例、千葉県2例、熊本県2例、秋田県1例、栃木県1例、埼玉県1例、東京都1例、富山県1例、長野県1例、愛知県1例、三重県1例、京都府1例、岡山県1例、山口県1例、徳島県1例、福岡県1例、不明7例
年齢群:0歳(1例)、1歳(2例)、2歳(1例)、3歳(2例)、4歳(1例)、5歳(1例)、6歳(1例)、9歳(1例)、10代(4例)、20代(10例)、30代(5例)、40代(5例)、50代(3例)、60代(2例)、70代(4例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT2(17例)、O26 VT1(10例)、O157 VT1・VT2(10例)、O157 VT不明(2例)、O26 VT不明(1例)、O91 VT1(1例)、O103 VT不明(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:486例(有症者296例、うちHUS 14例.死亡なし)
|
|
4類感染症: |
E型肝炎2例
|
|
感染地域:広島県1例_感染源:不明
感染地域:国内(都道府県不明)1例_感染源:不明
|
A型肝炎10例
|
|
感染地域:東京都1例、静岡県1例、愛知県1例、三重県1例、兵庫県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)2例、フィリピン1例、インド/タイ/ネパール1例
累積報告数:221例〔劇症肝炎6例_年齢群:40代(1例)、50代(3例)、60代(2例.うち死亡1例)〕
*第10〜21週の累積報告数は190例(劇症肝炎5例、うち死亡1例)となり、都道府県別では、福岡県26例、東京都25例、広島県22例、兵庫県14例の順に多い。広域アウトブレイクの可能性もあり、引き続き注意を要する。
|
つつが虫病6例(感染地域:福島県3例、新潟県2例、東京都1例)
デング熱1例(感染地域:ベトナム)
マラリア1例(原虫種不明_感染地域:アンゴラ/タイ/カタール)
レジオネラ症4例(肺炎型4例.うち死亡1例)
|
|
感染地域:長野県1例(温泉)、大阪府1例、愛媛県1例(温泉)、鹿児島県1例(温泉)
年齢群:50代(2例)、70代(1例)、80代(1例)
|
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症11例) |
|
感染地域:千葉県1例、東京都1例、神奈川県1例、愛知県1例、大阪府1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)3例、韓国1例、国外(国不明)1例
感染経路:経口感染4例、性的接触2例(同性間2例)、その他5例
|
ウイルス性肝炎2例
|
|
B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間2例)
|
急性脳炎5例
|
|
病原体不明5例_年齢群:0歳(2例)、1歳(1例)、3歳(1例)、10歳(1例)
|
後天性免疫不全症候群15例(AIDS 3例、無症候12例)
|
|
感染地域:国内13例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触13例(異性間1例、同性間12例)、不明2例
|
ジアルジア症2例(感染地域:愛知県1例、インドネシア1例)
梅毒5例(早期顕症I期2例、無症候3例)
破傷風3例〔年齢群:50代(2例)、70代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:不明2例_菌検出検体:血液1例、腹水1例)
風しん1例(検査診断例)
|
|
感染地域:東京都
年齢群:20〜24歳
|
麻しん8例〔麻しん(検査診断例3例、臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例4例)〕〕
|
|
感染地域:国内8例
国内の感染地域:東京都2例、山形県1例、山梨県1例、静岡県1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:0歳(2例)、1歳(1例)、5〜9歳(1例)、20〜24歳(1例)、30〜34歳(1例)、40代(1例)、70代(1例)
累積報告数:217例〔麻しん(検査診断例86例、臨床診断例67例)、修飾麻しん(検査診断例64例)〕
|
(補)他に2010年第20週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:中国)、腸チフス1例(感染地域:インド)、パラチフス1例(感染地域:インド)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、デング熱2例(感染地域:インドネシア1例、韓国/マレーシア1例)、ウイルス性肝炎1例(B型肝炎.感染経路:不明.死亡)、急性脳炎4例〔アデノウイルス1例(8歳.死亡)、病原体不明3例(1歳、4歳、50代)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)、風しん2例〔検査診断例1例、臨床診断例1例.感染地域:愛知県1例、国内(都道府県不明)1例.年齢群:25〜29歳(1例)、40代(1例)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は減少した。都道府県別では山口県(1.14)、三重県(0.28)、岐阜県(0.25)、長野県(0.24)、岡山県(0.23)、岩手県(0.22)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は230例と2週連続で減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では滋賀県(0.81)、石川県(0.69)、広島県(0.68)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鳥取県(4.4)、山形県(4.1)、石川県(3.9)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福井県(15.3)、富山県(12.8)、大分県(12.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(5.3)、長野県(4.5)、新潟県(4.3)、福井県(4.2)が多い。手足口病の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では愛媛県(9.7)、山口県(7.6)、宮崎県(5.9)、高知県(5.1)、大分県(4.5)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では三重県(1.02)、長崎県(0.93)、青森県(0.88)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では栃木県(0.45)、沖縄県(0.21)、東京都(0.13)、神奈川県(0.11)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では宮崎県(4.1)、高知県(2.8)、福岡県(2.3)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では和歌山県(3.48)、石川県(3.10)、宮崎県(2.89)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では埼玉県(2.67)、沖縄県(2.57)、青森県(2.50)が多い。
注目すべき感染症
◆ 水痘
水痘は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染によって発生する急性の伝染性疾患である。VZVの感染力は極めて強く、飛沫感染、空気(飛沫核)感染、接触感染によってウイルスは上気道から侵入する。ウイルス血症を経て、通常は2週間前後(10〜21日)の潜伏期間を経て発症し、発疹、倦怠感、発熱を主症状とする。発疹は全身性で掻痒を伴い、紅斑、丘疹を経て短時間で水疱となり、痂皮化する。最初に頭皮、次いで体幹、四肢に出現するが、体幹にもっとも多くなる。数日にわたり新しい発疹が次々と出現するので、急性期には紅斑、丘疹、水疱、痂皮のそれぞれの段階の発疹が混在することが特徴である。通常は小児期に好発する予後良好な疾患であるが、細菌の二次感染(敗血症を含む)、髄膜脳炎、小脳失調、肺炎、肝炎などの合併症がある。成人あるいは妊婦が発症すると重症となる場合が多い。有効な抗ウイルス薬が開発され予後は改善したものの、現在においても免疫抑制状態下に発症すると時に致死的である。水痘に罹患し治癒した後でも、ウイルスは終生その宿主の知覚神経節に潜伏感染し、免疫抑制状態あるいは高齢化に伴って再活性化し帯状疱疹を発症する場合がある。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて水痘をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。2010年第21週の水痘の定点当たり報告数は2.99(報告数9,065)と大きく増加した。2000年以降の同時期の報告数としては最も高い値となっている(図1)。都道府県別では宮崎県(5.3)、長野県(4.5)、新潟県(4.3)、福井県(4.2)、福岡県(3.9)、三重県(3.8)、鹿児島県(3.8)、沖縄県(3.8)の順となっており、香川県を除く46都道府県で前週と比較して増加がみられた(図2)。2010年第1〜21週の定点当たり累積報告数は36.4(累積報告数110,403)であり、男女別では男性51.9%(57,265)、女性48.1%(53,138)と男性がやや多く、年齢群別では2〜3歳36.4%(40,148)、0〜1歳25.4%(28,016)、4〜5歳24.8%(27,421)の順であり(図3)、5歳以下で全体の9割近くを占めているのは例年と同様である(図4)。
|
|
|
図1. 水痘の年別・週別発生状況(2000〜2010年第21週) |
図2. 水痘の都道府県別定点当たり報告数の推移(2010年第19〜21週) |
図3. 水痘の累積報告数の年齢群別割合(2010年第1〜21週) |
|
|
|
図4. 水痘の年別・年齢別割合(1999〜2010年第21週) |
|
|
水痘には世界に先駆けて日本国内で開発されたワクチンがあるが、予防接種法の定期接種ではなく、任意接種としての接種率は低く、国内における蔓延状況をコントロールするには程遠いと言わざるを得ない。特に保育施設等の乳幼児の集団生活施設では、毎年のように集団発生が繰り返されている。基本的には予後良好の疾患と言われているが、免疫抑制状態にある者への感染伝播や、治癒後の将来的な帯状疱疹の発生等を考慮するならば、現状の患者発生数を抑制する必要がある。そのためにはワクチン接種率の向上が求められる。今後とも水痘の発生動向には注意が必要である。
|