発生動向総覧
〈第22週コメント〉 6月9日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 345例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢4例(感染地域:三重県2例、滋賀県1例、インドネシア1例)
腸管出血性大腸菌感染症92例(有症者52例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内92例
国内の感染地域:三重県56例*、埼玉県7例、広島県6例、福岡県3例、兵庫県2例、山口県2例、熊本県2例、福島県1例、茨城県1例、群馬県1例、千葉県1例、東京都1例、大阪府1例、和歌山県1例、徳島県1例、大分県1例、宮崎県1例、鹿児島県1例、不明3例
*うち55例は三重県の複数の学校(中学・高校)における集団感染
年齢群:1歳(6例)、2歳(2例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(1例)、8歳(3例)、9歳(1例)、10代(48例)、20代(7例)、30代(9例)、40代(1例)、60代(8例)、70代(4例)
血清型・毒素型:O157 VT2(65例)、O157 VT1・VT2(8例)、O121 VT2(5例)、O26 VT1(4例)、O111 VT1・VT2(2例)、O157 VT不明(2例)、O26 VT不明(1例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1(1例)、O157 VT1(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:594例(有症者360例、うちHUS 15例.死亡1例)
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4類感染症: |
A型肝炎4例
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感染地域:埼玉県1例、広島県1例、鹿児島県1例、中国/タイ/ベトナム/カンボジア/ラオス1例
累積報告数:227例〔劇症肝炎6例_年齢群:40代(1例)、50代(3例)、60代(2例.うち死亡1例)〕
*第10〜22週の累積報告数は196例(劇症肝炎5例、うち死亡1例)となり、都道府県別では、福岡県26例、東京都25例、広島県23例、兵庫県14例、埼玉県11例の順に多い。
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つつが虫病9例
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感染地域:福島県4例、新潟県2例、青森県1例、秋田県1例、山形県1例
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デング熱1例(感染地域:フィリピン) 日本紅斑熱1例(感染地域:熊本県)
レジオネラ症11例(肺炎型11例)
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感染地域:愛知県2例、北海道1例、茨城県1例、栃木県1例、長野県1例、岐阜県1例、静岡県1例、兵庫県1例、徳島県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
年齢群:50代(1例)、60代(7例)、70代(3例)
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レプトスピラ症1例(感染地域:パラオ_感染源:河川)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢12例(腸管アメーバ症12例) |
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感染地域:東京都3例、大阪府1例、兵庫県1例、香川県1例、国内(都道府県不明)2例、シンガポール1例、インド1例、国外(国不明)1例、国内・国外不明1例
感染経路:経口感染3例、性的接触5例(異性間2例、同性間2例、
異性・同性間不明1例)、経口感染/性的接触(異性・同性間不明)1例、その他3例
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急性脳炎1例(病原体不明_年齢群:10代)
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:80代(2例)〕
後天性免疫不全症候群14例(AIDS 5例、無症候9例)
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感染地域:国内10例、ナイジェリア1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触13例(異性間3例、同性間10例)、不明1例
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ジアルジア症2例(感染地域:インド1例、国内(都道府県不明)1例)
梅毒6例(早期顕症I期1例、早期顕症II期3例、晩期顕症1例、無症候1例)
破傷風3例〔年齢群:60代(1例)、70代(2例)〕 バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:胆汁)
風しん3例(検査診断例2例、臨床診断例1例)
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感染地域:滋賀県1例、徳島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:15〜19歳(1例)、20〜24歳(1例)、40代(1例)
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麻しん8例〔麻しん(臨床診断例4例)、修飾麻しん(検査診断例4例)〕
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感染地域:国内8例
国内の感染地域:千葉県2例、神奈川県2例、東京都1例、京都府1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:0歳(2例)、1歳(2例)、20〜24歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)、60代(1例)
累積報告数:227例〔麻しん(検査診断例86例、臨床診断例73例)、修飾麻しん(検査診断例68例)〕
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(補)他に2010年第21週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎1例(感染地域:北海道_感染源:不明)、つつが虫病1例(感染地域:新潟県.死亡)、髄膜炎菌性髄膜炎1例(70代、感染地域:愛知県)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例〔遺伝子型(菌検出検体):VanB 1例(尿)、VanC 1例(胆汁)、遺伝子型不明1例(尿)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は微増した。都道府県別では山口県(1.17)、山形県(0.54)、岩手県(0.44)、長崎県(0.36)、沖縄県(0.31)、岐阜県(0.25)、三重県(0.25)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は241例と増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約69%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では広島県(0.93)、石川県(0.79)、滋賀県(0.75)、大分県(0.72)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(5.1)、石川県(3.8)、埼玉県(3.6)、新潟県(3.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福井県(13.8)、大分県(13.6)、長野県(11.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(3.44)、佐賀県(3.13)、新潟県(2.90)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では山口県(9.2)、愛媛県(8.3)、大分県(4.8)、福井県(4.7)、宮崎県(4.6)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(1.77)、神奈川県(1.51)、千葉県(1.45)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では栃木県(0.36)、沖縄県(0.32)、千葉県(0.21)、広島県(0.21)、東京都(0.20)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(3.92)、福岡県(2.42)、徳島県(2.17)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では石川県(3.93)、福島県(3.38)、山口県(2.96)、富山県(2.62)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では埼玉県(3.89)、青森県(3.00)、宮城県(1.75)が多い。
注目すべき感染症
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに百日咳(P)ワクチンを含んだDPT三種混合ワクチンを接種していない生後6カ月以下の乳児が罹患した場合は、未だに死に至る危険性がある疾患である。百日咳はこれまで乳幼児を中心とした小児で流行する疾患とされてきたが、最近では小児科定点報告疾患であるにもかかわらず20歳以上の成人例の報告数が年々増加してきており、かつての乳幼児を中心に流行する疾患と呼ぶには相応しくない状況となりつつある。成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすく、感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。治療薬としてはマクロライド系抗菌薬が第一選択であるが、セフェム系が処方されることもある。早期に抗菌薬を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて百日咳の患者発生状況の分析を行っている。2010年第22週の週別の患者報告数は214例(定点当たり報告数0.07)となり、前週(第21週)の報告数(145例)を大きく上回った(図1)。都道府県別は、東京都30例、千葉県27例、神奈川県24例、栃木県17例、広島県15例、福岡県11例、沖縄県11例、埼玉県10例、兵庫県8例の順となっており、関東地域を中心に報告数の増加がみられているが、広島県、福岡県、沖縄県からの報告数も大きく増加している(図2)。2010年第1〜22週までの累積報告数は1,913例であり、男女別では男性40.7%(778例)、女性59.3%(1,135例)と女性の報告割合が高く、0歳児では男性の報告割合が高いものの、20歳以上では女性の報告割合が60%以上を占めている。年齢群別では、20歳以上53.1%(1,015例)、0歳9.7%(186例)、1歳5.0%(95例)、2〜3歳8.1%(155例)、4〜5歳7.1%(135例)となっている。小児科定点からの報告であるにもかかわらず、20歳以上の報告割合が年々増加し、2010年では半数以上となっているが、19歳以下で最も多数を占めているのは0歳児である(図3、図4)。
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図1. 百日咳の年別・週別発生状況(2000〜2010年第22週) |
図2. 百日咳の都道府県別報告数の推移(2010年第20〜22週) |
図3. 百日咳累積報告数の年齢群別割合(2010年第1〜22週) |
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図4. 百日咳の年別・年齢群別割合(2000〜2010年第22週) |
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感染症情報センターでは、成人層を中心とした患者発生状況の実態をより明らかにすることを目的として、2008年5月から「百日咳DB:全国の百日咳発生状況」(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/pertu-db.html)を立ち上げ、感染症発生動向調査とは別に解析を行っている。2008年5月8日から2010年3月12日までに同DBに報告された779例(後に百日咳を否定された2例を除く)においても同様に、20歳以上の報告数が多くを占めている(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/DB/s-100331.pdf)。
百日咳は、現在でもワクチン未接種の乳児が罹患した場合には重症化が危惧され、かつては乳幼児を中心に夏季に流行する疾患であった。しかし最近では、成人層の患者発生の割合が年々高くなってきており、2010年には半数以上を占めるに至っている。その現状を明らかにするためには、現在の小児科定点による発生動向調査では不十分であると言わざるを得ない。また、既に米国等では思春期から成人層への百日咳対策としてワクチンの追加接種が実施されており、我が国においても早急に検討が必要と思われる。現状のままで何等有効な対策が講じられなければ、今後は成人層を中心とした百日咳の流行が毎年継続的に発生し、それによってワクチン未接種の乳児への感染機会も増加することが懸念される。百日咳の今後の発生動向には注意が必要である。
注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌 (2010年6月9日現在)
2010年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第19週までは10〜30例前後の報告が続いていたが、例年同様に第20週から増加し始めた。第20週51例、第21週52例と50例を超え、第22週は92例であった(図)。本年第22週までの累積報告数594例は、2000年以降の各年同期間の累積報告数と比較して2001、2002年に次ぐ3番目に多い報告数である(2000年499例、2001年884例、2002年599例、2003年365例、2004年507例、2005年481例、2006年502例、2007年571例、2008年582例、2009年536例)。
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図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(2000〜2010年第22週) |
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第22週に報告のあった92例は、有症状者が52例(57%)、無症状病原体保有者が40例(43%)であった。都道府県別にみると、三重県(54例)、埼玉県(7例)、広島県(6例)からの報告が多かった。第22週から三重県内の高校・中学校において、O157 VT2の集団感染が発生しており、これまでに生徒、教師、給食調理員から計55例の感染が報告されている。翌第23週にも感染者はさらに増加する見込みである。また、埼玉県では同一保育園の園児からO121 VT2の感染が4例報告されている。性別では男性60例、女性32例であり、年齢群別では10〜19歳48例、0〜9歳15例、30〜39歳9例の順に多かった。
第1〜22週の累積報告数594例についてみると、報告の多い都道府県は、三重県(56例)、東京都(52例)、兵庫県(43例)、福岡県(40例)、北海道(37例)であり、性別では男性291例、女性303例、年齢群別では0〜9歳137例、10〜19歳と20〜29歳が各114例の順に多い。第12〜14週に北海道の施設内でO157 VT1・VT2による集団発生も報告されており、感染者は28例で、そのうちの1例が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症している。また、第20〜21週に兵庫県の飲食店においてO157 VT2による食中毒が発生し、12例の感染者が報告されている。HUSは計15例報告があった。男性8例、女性7例で、年齢群別では0〜4歳が9例、10〜14歳が2例、15歳以上が4例であった。死亡例は1例(90代男性、O157 VT1・VT2、HUS発症なし)報告されている。
今後、毎年本症が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、その発生動向には注意が必要である。食肉の十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。
(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。
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