発生動向総覧
〈第24週コメント〉 6月23日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 328例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
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菌種:S. flexneri(B群)1例_感染地域:福島県
菌種:S. sonnei(D群)2例_感染地域:インドネシア1例、ベトナム1例
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腸管出血性大腸菌感染症128例(有症者69例、うちHUS 1例) |
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感染地域:国内127例、香港1例
国内の多い感染地域:三重県43例*、福岡県12例**、大阪府7例、兵庫県7例、東京都6例、埼玉県5例、岩手県4例、奈良県4例、千葉県3例、静岡県3例、島根県3例、宮崎県3例、福井県2例、岡山県2例 *うち42例が第22週から続く三重県の複数の学校(中学・高校)におけるO157 VT2の集団感染
**うち7例が第23週から続く福岡県の保育園におけるO157 VT2の集団感染
年齢群:0歳(2例)、1歳(2例)、2歳(6例)、3歳(2例)、4歳(3例)、5歳(3例)、6歳(4例)、7歳(1例)、8歳(2例)、9歳(2例)、10代(53例)、20代(17例)、30代(11例)、40代(5例)、50代(10例)、60代(1例)、70代(2例)、80代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT2( 71例)、O157 VT1・VT2(27例)、O26 VT1(17例)、O103 VT1(2例)、O145 VT2(2例)、O157 VT1(2例)、O157 VT不明(2例)、O74 VT2(1例)、O91 VT1(1例)、O91 VT不明(1例)、その他・不明(2例)
累積報告数:920例(有症者547例、うちHUS 19例.死亡1例)
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腸チフス1例(感染地域:インドネシア)
パラチフス例(感染地域:インド)
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4類感染症: |
E型肝炎2例
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感染地域:新潟県1例_感染源:不明
感染地域:中国1例_感染源:ロバの肉
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A型肝炎6例
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感染地域:神奈川県1例、愛知県1例、兵庫県1例、国内(都道府県不明)2例、インド1例
累積報告数:242例〔劇症肝炎7例_年齢群:40代(1例)、50代(3例)、60代(3例.うち死亡1例)〕
*第22〜24週の当該週の報告数は、それぞれ5例、5例、6例であった。第10〜24週の累積報告数は210例(劇症肝炎6例、うち死亡1例)となり、都道府県別では、福岡県26例、東京都25例、広島県24例、兵庫県16例、埼玉県13例、神奈川県12例の順に多い。
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つつが虫病3例
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感染地域:新潟県1例、長野県1例、沖縄県1例
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デング熱4例(デング熱3例、デング出血熱1例)
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感染地域:インドネシア3例、フィリピン1例
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日本紅斑熱4例(感染地域:和歌山県1例、島根県1例、広島県1例、徳島県1例)
ブルセラ症1例(菌種:B. canis_感染地域:栃木県)
ライム病1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
レジオネラ症7例(肺炎型7例)
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感染地域:宮城県1例、栃木県1例、石川県1例(温泉)、静岡県1例(温泉)、愛知県1例、兵庫県1例、大分県1例
年齢群:50代(1例)、60代(3例)、70代(3例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢7例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:三重県1例、兵庫県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)4例
感染経路:経口感染1例、性的接触1例(異性・同性間不明)、その他5例
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ウイルス性肝炎3例
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B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、同性間1例)
C型1例_感染経路:不明
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急性脳炎3例〔病原体不明3例_年齢群:0歳(1例)、9歳(1例)、30代(1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病3例例(孤発性プリオン病古典型3例) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例〔年齢群:80代(死亡)〕
後天性免疫不全症候群16例(AIDS 7例、無症候9例)
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感染地域:国内12例、米国1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触12例(異性間3例、同性間9例)、不明4例
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ジアルジア症3例(感染地域:千葉県1例、岡山県1例、シンガポール1例)
梅毒10例(早期顕症I期2例、早期顕症II期4例、無症候4例)
破傷風3例〔年齢群:50代(1例)、60代(1例)、70代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanB_菌検出検体:血液/胆汁/便)
風しん2例(検査診断例1例、臨床診断例1例)
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感染地域:新潟県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:10〜14歳(1例)、20〜24歳(1例)
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麻しん3例〔麻しん(検査診断例1例、臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
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感染地域:国内3例
国内の感染地域:東京都1例、静岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(1例)、10〜14歳(1例)、25〜29歳(1例)
累積報告数:249例〔麻しん(検査診断例95例、臨床診断例80例)、修飾麻しん(検査診断例74例)〕
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(補)他に2010年第23週までに診断されたものの報告遅れとして、パラチフス1例(感染地域:フィリピン)、つつが虫病1例(感染地域:岩手県.死亡)、レジオネラ症2例〔感染地域:北海道1例(温泉)、鳥取県1例(温泉)〕、急性脳炎5例〔ヘルペスウイルス1例(30代)、病原体不明4例(3歳、6歳、7歳、10代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔20代(1例)、50代(1例.死亡)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(0.34)、山口県(0.30)、福島県(0.23)、岐阜県(0.22)、北海道(0.18)、島根県(0.18)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は169例と2週連続で減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約78%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では広島県(0.99)、宮城県(0.84)、大分県(0.72)、滋賀県(0.63)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(4.1)、山形県(4.1)、石川県(3.9)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いている。都道府県別では大分県(10.0)、島根県(8.9)、宮崎県(8.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(3.64)、新潟県(3.61)、福井県(3.32)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では山口県(8.6)、大分県(6.4)、高知県(6.1)、宮崎県(5.6)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(2.41)、千葉県(1.78)、秋田県(1.66)が多い。百日咳の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では栃木県(0.43)、茨城県(0.39)、千葉県(0.27)、岩手県(0.25)、東京都(0.23)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では徳島県(4.5)、秋田県(4.3)、宮崎県(4.3)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では和歌山県(3.68)、石川県(3.41)、宮崎県(3.25)、福島県(3.17)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では福島県(3.57)、埼玉県(3.44)、青森県(3.00)が多い。
注目すべき感染症
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに百日咳(P)ワクチンを含んだDPT三種混合ワクチンを接種していない生後6カ月以下の乳児が罹患した場合は、未だに死に至る危険性がある疾患である。百日咳はこれまで乳幼児を中心とした小児で流行する疾患とされてきたが、最近では小児科定点報告疾患であるにもかかわらず20歳以上の成人例の報告数が年々増加してきており、かつての乳幼児を中心に流行する疾患と呼ぶには相応しくない状況となりつつある。成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすく、感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。治療薬としてはマクロライド系抗菌薬が第一選択である。早期に抗菌薬を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて百日咳の患者発生状況の分析を行っている。2010年第24週の週別の患者報告数は288例(定点当たり報告数0.09)と前週の報告数(220例)を大きく上回った(図1)。都道府県別では、千葉県34例、東京都34例、神奈川県32例、茨城県29例、栃木県20例、大阪府16例、埼玉県11例、新潟県11例、福岡県11例の順となっており、関東地域に報告数の多い都県が集中しているが、大阪府、新潟県、岩手県等他の府県においても報告数の増加がみられている(図2)。
2010年第1〜24週までの累積報告数は2,421例であり、男女別では男性41.3%(1,001例)、女性58.7%(1,420例)と女性の報告割合が高く、0歳児では男性の報告割合が高いものの、20歳以上では女性の報告割合が60%以上を占めている。年齢群別では、20歳以上51.3%(1,241例)、0歳9.3%(226例)、1歳4.6%(111例)、2〜3歳8.2%(198例)、4〜5歳7.6%(185例)となっている。小児科定点からの報告であるにもかかわらず、20歳以上の報告割合が年々増加し、2010年では半数以上となっているが、19歳以下で最も多数を占めているのは0歳児である(図3、図4)。
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図1. 百日咳の年別・週別発生状況(2000〜2010年第24週) |
図2. 百日咳の都道府県別報告数の推移(2010年第20〜24週) |
図3. 百日咳累積報告数の年齢群別割合(2010年第1〜24週) |
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図4. 百日咳の年別・年齢群別割合(2000〜2010年第24週) |
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感染症情報センターでは、成人層を中心とした患者発生状況の実態をより明らかにすることを目的として、2008年5月から「百日咳DB:全国の百日咳発生状況」(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/pertu-db.html)を立ち上げ、感染症発生動向調査とは別に解析を行っている。2008年5月8日から2010年3月12日までに同DBに報告された779例(後に百日咳を否定された2例を除く)においても同様に、20歳以上の報告数が多くを占めている(http://idsc.nih.go.jp/disease/pertussis/DB/s-100331.pdf)。
2008年は第22週、2009年は第20週がピークとなり、以降は減少傾向となったが、2010年は第24週まで増加傾向が続いている。百日咳はワクチン未接種の乳幼児が罹患した場合には重症化しやすく、ことに新生児乳児では生命に危険が及ぶことも稀ではない。本症はかつては乳幼児を中心に夏季に流行する疾患であったが、最近では成人層の患者発生の割合が年々高くなってきており、2010年には半数以上を占めるに至っており、小児への感染源としても危惧される。今後とも百日咳の発生動向には注意が必要である。
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