発生動向総覧
〈第25週コメント〉 6月30日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 336例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
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菌種:S. flexneri(B群)1例_感染地域:インド
菌種:S. sonnei(D群)2例_感染地域:インド2例
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腸管出血性大腸菌感染症77例(有症者53例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内77例
国内の多い感染地域:兵庫県6例、埼玉県5例、東京都5例、大阪府5例、宮城県4例、静岡県4例、愛知県4例、三重県4例、石川県3例、鹿児島県3例、岩手県2例、岐阜県2例、徳島県2例、熊本県2例、大分県2例
年齢群:0歳(1例)、1歳(7例)、2歳(1例)、3歳(3例)、4歳(4例)、5歳(3例)、6歳(3例)、7歳(2例)、8歳(3例)、9歳(1例)、10代(9例)、20代(10例)、30代(6例)、40代(6例)、50代(5例)、60代(5例)、70代(6例)、80代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(25例)、O26 VT1(16例)、O157 VT2(13例)、O157 VT1(3例)、O157 VT不明(3例)、O103 VT1(2例)、O103 VT不明(1例)、O111 VT1(1例)、O115 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O124 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、O165 VT1・VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他・不明(7例)
累積報告数:1,026例(有症者616例、うちHUS 19例.死亡1例)
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4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:北海道_感染源:不明)
A型肝炎7例
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感染地域:福岡県2例、富山県1例、大阪府1例、兵庫県1例、広島県1例、愛媛県1例
累積報告数:254例〔劇症肝炎7例_年齢群:40代(1例)、50代(3例)、60代(3例.うち死亡1例)〕
*第22〜25週の当該週の報告数は、6〜7例で推移している。第10〜25週の累積報告数は222例(劇症肝炎6例、うち死亡1例)となり、都道府県別では、福岡県28例、東京都25例、広島県25例、兵庫県17例、埼玉県13例、神奈川県13例、大阪府10例の順に多い。
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つつが虫病4例(感染地域:青森県2例、秋田県1例、福島県1例)
デング熱4例(感染地域:インドネシア3例、タイ/インド/スリランカ1例)
日本紅斑熱4例(感染地域:鹿児島県2例、山口県1例、熊本県1例)
マラリア4例
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三日熱2例_感染地域:インド1例、ウガンダ1例
熱帯熱2例_感染地域:ウガンダ1例、ベナン1例
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レジオネラ症10例(肺炎型10例)
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感染地域:群馬県2例、岐阜県2例、神奈川県1例、静岡県1例(温泉)、大阪府1例、兵庫県1例、鹿児島県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
年齢群:30代(1例)、40代(2例)、50代(2例)、60代(3例)、80代(2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢8例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症2例) |
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感染地域:東京都2例、千葉県1例、神奈川県1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)3例
感染経路:性的接触3例(異性間2例、同性間1例)、その他5例
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ウイルス性肝炎3例〔B型3例_感染経路:性的接触3例(異性間3例)〕
急性脳炎4例
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アデノウイルス1例_年齢群:2歳
病原体不明3例_年齢群:1歳(1例)、9歳(1例)、70代(1例)
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クロイツフェルト・ヤコブ病2例
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孤発性プリオン病古典型1例
遺伝性プリオン病ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病1例
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劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例
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年齢群:60代(1例)、70代(1例.死亡)
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後天性免疫不全症候群11例(AIDS 1例、無症候9例、その他1例)
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感染地域:国内10例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触9例(異性間4例、同性間5例)、不明2例
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ジアルジア症1例(感染地域:カンボジア)
梅毒7例(早期顕症II期3例、無症候4例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:尿)
風しん1例(検査診断例)
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感染地域:愛知県
年齢群:20〜24歳
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麻しん10例〔麻しん(検査診断例4例、臨床診断例3例)、修飾麻しん(検査診断例3例)〕
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感染地域:国内10例
国内の感染地域:神奈川県4例、埼玉県1例、千葉県1例、山梨県1例、長崎県1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:0歳(2例)、1歳(1例)、5〜9歳(1例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(3例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:263例〔麻しん(検査診断例99例、臨床診断例85例)、修飾麻しん(検査診断例79例)〕
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(補)他に2010年第24週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:インド)、E型肝炎2例〔感染地域(感染源):北海道2例(生レバー1例、豚ホルモン/羊肉1例)〕、オウム病1例〔感染地域:国内(都道府県不明)_感染源:不明〕、急性脳炎1例〔病原体不明(20代)〕、クリプトスポリジウム症1例(感染地域:長崎県)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:血液1例、胆汁1例)、風しん2例〔検査診断例2例.感染地域:長崎県2例.年齢群:10〜14歳(1例)、25〜29歳(1例)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では山口県(0.40)、沖縄県(0.29)、岐阜県(0.28)、島根県(0.16)、三重県(0.13)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は173例と増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約75%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では広島県(1.21)、佐賀県(0.78)、宮城県(0.68)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では石川県(3.93)、山形県(3.43)、長野県(3.15)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いている。都道府県別では宮崎県(8.3)、福井県(8.1)、大分県(7.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では山形県(4.27)、宮崎県(3.94)、滋賀県(3.25)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(9.7)、山口県(9.1)、高知県(8.8)、福井県(8.0)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では秋田県(1.86)、千葉県(1.64)、長崎県(1.64)、三重県(1.60)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では東京都(0.26)、栃木県(0.17)、山梨県(0.17)、千葉県(0.16)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では徳島県(7.9)、三重県(5.6)、宮崎県(5.5)、大分県(5.3)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福島県(3.50)、和歌山県(3.13)、石川県(2.79)、宮崎県(2.69)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎のの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では青森県(2.33)、埼玉県(2.33)、沖縄県(1.86)が多い。
注目すべき感染症
◆ 手足口病
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行する疾患である。病原ウイルスは主にコクサッキーウイルスA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であり、その他コクサッキーウイルスA6、A9、A10などのエンテロウイルスによって発症する。臨床的特徴であるが、感染から3〜5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2〜3mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが軽度であり、高熱が続くことは通常はない。本症は基本的には数日間のうちに治癒する予後良好の疾患である。しかしながら、まれではあるが髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、神経原生肺水腫、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することがある。特にEV71に感染した場合は、中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが明らかとなってきているため、同ウイルスが流行している期間中は、手足口病発症児の経過を注意深く観察し、合併症に対する警戒を行う必要がある。なお、急性脳炎を合併した場合には、診断した医師は5類感染症全数届出疾患として報告が必要である。
感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染である。乳幼児の集団生活施設である保育施設や幼稚園などでは、日常的に園児同士の濃厚な接触が生じやすく、また大半は衛生観念が未発達な年齢層の者が生活している。従って施設内で手足口病の患者が発生した場合は集団感染が生じやすく、その上病原ウイルスに対する感染が未経験である者の割合が高いことから、感染者の多くが発病し、本疾患の集団発生が多くの施設で観察されているものと推察される。
手足口病の感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。本疾患は主要症状が回復した後も比較的長期間にわたって児の便などからウイルスが排泄されることがあるが、罹患者の大半は軽症例であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて手足口病をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。2010年第25週の手足口病の定点当たり報告数は2.56(報告数7,743)と2週連続で増加し、過去10年間の同時期と比較すると2000年に次いで多い数となっている(図1)。都道府県別では大分県(9.67)、山口県(9.12)、高知県(8.77)、福井県(8.00)、宮崎県(5.39)、愛媛県(5.24)、滋賀県(4.97)の順となっている。秋田県、茨城県、鳥取県、宮崎県、沖縄県を除く42都道府県で前週よりも増加がみられており、特に福井県、大分県、高知県、滋賀県で増加が目立っている(図2)。
2010年第1〜25週までの定点当たり累積報告数は17.70(累積報告数53,588)であり、年齢群別では2〜3歳39.0%(20,873)、0〜1歳28.4%(15,220)、4〜5歳21.5%(11,505)の順となっており、発生報告の中心が5歳以下の乳幼児であることは例年と同様である(図3)。
第1〜25週までの25週間の手足口病由来ウイルス分離・検出報告数は182件であり、EV71が72.5%(132件)と最多を占め、2004年以降では最も高い割合となっている(図4)。
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図1. 手足口病の年別・週別発生状況(2000〜2010年第25週)) |
図2. 手足口病の都道府県別定点当たり報告数の推移(2010年第23〜25週) |
図3. 手足口病の年別・年齢別割合(2000〜2010年第25週) |
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図4. 手足口病由来ウイルス分離・検出報告割合推移(2004〜2010年第25週) |
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2000年から2009年までの過去10年間において、手足口病の報告数は第28週または第29週に最多となることが多く(第28週が最多の年は5回、第29週3回、第31週1回、第32週1回)、2010年の報告数も、今後夏季の流行のピークに向かって更に増加してくるものと予想される。患者由来検体から検出されるウイルスではEV71が多数を占める状態が続いており、患者発生数の増大と共に、中枢神経系の合併症発生例の増加が懸念される。今後とも手足口病の患者発生動向の推移と、発病者由来検体からのウイルスの検出状況には注意が必要である。
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