発生動向総覧
〈第39週コメント〉 10月6日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 314例 |
3類感染症: |
コレラ1例(感染地域:インドネシア)
細菌性赤痢11例
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菌種:S. flexneri (B群)3例_感染地域:宮崎県1例、中国1例、ブラジル1例
菌種:S. sonnei (D群)8例_感染地域:茨城県1例、中国2例、インド2例、インドネシア1例、タイ/カンボジア1例、エジプト/ヨルダン1例
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腸管出血性大腸菌感染症95例(有症者65例、うちHUS 1例) |
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感染地域:国内93例、国内/国外1例、中国1例
国内の多い感染地域:宮城県8例、岩手県7例、香川県7例、福島県6例、千葉県6例、愛知県6例、埼玉県5例、秋田県4例、神奈川県4例、滋賀県4例、京都府4例、東京都3例、福岡県3例、山形県2例、石川県2例、広島県2例、熊本県2例
年齢群:0歳(1例)、1歳(3例)、2歳(9例)、3歳(5例)、4歳(2例)、5歳(6例)、6歳(3例)、7歳(1例)、8歳(2例)、10代(11例)、20代(12例)、30代(18例)、40代(8例)、50代(7例)、60代(3例)、70代(1例)、80代(3例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(42例)、O157 VT2(17例)、O26 VT1(12例)、O111 VT1(6例)、O157 VT1(4例)、O103 VT1(3例)、O157 VT不明(3例)、O26 VT不明(1例)、O124 VT1(1例)、その他・不明(6例)
累積報告数:3,475(有症者2,313例、うちHUS 72例.死亡4例)
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4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:東京都)
デング熱9例
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感染地域:インド5例、インドネシア1例、フィリピン1例、ラオス1例、ブラジル1例
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レジオネラ症10例(肺炎型10例)
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感染地域:長野県2例、青森県1例、栃木県1例、東京都1例、新潟県1例、山梨県1例、兵庫県1例、熊本県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:50代(2例)、60代(4例)、70代(2例)、80代(1例)、90代(1例)
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レプトスピラ症1例(感染地域:沖縄県_感染源:川)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢10例(腸管アメーバ症8例、腸管外アメーバ症2例)
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感染地域:東京都3例、千葉県1例、岐阜県1例、京都府1例、国内(都道府県不明)1例、韓国1例、福岡県/中国1例、国内・国外不明1例
感染経路:経口感染2例、性的接触2例(異性間1例、異性・同性間不明1例)、その他・不明6例
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ウイルス性肝炎2例 |
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B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、異性・同性間不明1例)
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急性脳炎5例
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インフルエンザウイルスAH3亜型1例_50代
病原体不明4例_1歳(1例)、4歳(1例)、20代(1例)、30代(1例)
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後天性免疫不全症候群15例(AIDS 2例、無症候11例、その他2例)
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感染地域:国内13例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触11例(異性間4例、同性間5例、異性/同性間2例)、不明4例
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梅毒9例(早期顕症I期2例、早期顕症II期4例、晩期顕症1例、無症候2例)
風しん1例(臨床診断例)
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感染地域:広島県
年齢群:20〜24歳
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麻しん9例〔麻しん(検査診断例3例、臨床診断例4例)、修飾麻しん(検査診断例2例)〕
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感染地域:国内9例
国内の感染地域:埼玉県2例、東京都2例、千葉県1例、兵庫県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:1歳(1例)、2歳(1例)、15〜19歳(4例)、25〜29歳(1例)、40代(1例)、70代(1例)
累積報告数:395例〔麻しん(検査診断例140例、臨床診断例112例)、修飾麻しん(検査診断例143例)〕
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(補)他に2010年第38週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:中国)、デング熱1例(感染地域:ベトナム/ラオス)、日本紅斑熱3例(感染地域:和歌山県1例、広島県1例、徳島県1例)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ガーナ)、レプトスピラ症3例〔感染地域(感染原因):千葉県1例(下水道)、鳥取県1例(湧水/飼育犬・野生シカとの接触)、宮崎県1例(河川作業)〕、急性脳炎2例〔RSウイルス1例(10代)、病原体不明1例(6歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(3歳)、後天性免疫不全症候群2例〔AIDS 1例(死亡)_感染地域:日本国内_感染経路:不明、その他1例(死亡)_感染地域:日本国内_感染経路:不明〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は微増した。都道府県別では沖縄県(0.57)、長崎県(0.14)、熊本県(0.14)、福井県(0.13)、福岡県(0.13)、北海道(0.11)、青森県(0.11)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は911例と増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では高知県(0.70)広島県(0.51)、石川県(0.48)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では北海道(1.51)、山口県(1.47)、石川県(1.34)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(6.2)、大分県(5.4)、鹿児島県(4.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福井県(1.91)、大分県(1.31)、石川県(1.24)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では富山県(1.72)、石川県(1.69)、北海道(1.49)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第36週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福井県(0.82)、福岡県(0.62)、長崎県(0.55)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(0.35)、栃木県(0.13)、千葉県(0.12)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では岩手県(0.65)、島根県(0.65)、滋賀県(0.63)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では島根県(3.43)、宮崎県(3.11)、和歌山県(2.65)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮城県(1.67)、埼玉県(1.44)、福島県(1.29)が多い。
注目すべき感染症
◆ 流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎(mumps:ムンプス)は、ムンプスウイルスの感染を原因として発症する感染症である。2〜3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て発症し、片側あるいは両側性の唾液腺(耳下腺が最も多い)のびまん性腫脹、疼痛、発熱を主症状とし、2〜7歳の小児に好発する。不顕性感染が3分の1程度認められ、発症しても、通常は1〜2週間で軽快する予後良好の疾患であるが、症状の明らかな例の10%に出現すると推定されている無菌性髄膜炎をはじめ、髄膜脳炎、難聴、睾丸炎、卵巣炎、膵炎等の種々の合併症を起こす場合がある。感染経路はヒト−ヒト間の飛沫感染、接触感染であり、特に保育施設等、ムンプスウイルスに免疫を持たない乳幼児の集団生活施設では、しばしば集団発生が認められている。また成人での発症例では、髄膜炎、精巣炎、熱性痙攣、難聴、膵炎などの合併症によって入院を要する例が比較的多い。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて流行性耳下腺炎をはじめとする各種小児科疾患の発生動向の分析を行っている。2010年第39週の定点当たり報告数は1.13(報告数3,418)と前週(第38週)の定点当たり報告数(0.97)よりも増加した。過去3年間の同時期の定点当たり報告数(2007年は0.27、2008年は0.41、2009年は0.54)を大きく上回っている状態が続いている(図1)。都道府県別では島根県(3.43)、宮崎県(3.11)、和歌山県(2.65)、新潟県(2.31)、富山県(2.31)、香川県(2.21)、山口県(2.18)、熊本県(2.08)の順となっている(図2)
2010年第1〜39週の定点当たり累積報告数は44.29(累積報告数134,061)であり、既に2007年、2008年、2009年の過去3年間の年間の定点当たり累積報告数を大きく上回っている(図3)。年齢群別では4〜5歳33.5%、2〜3歳21.8%、6〜7歳21.7%、8〜9歳9.9%の順となっている。7歳以下で全報告数の80%以上を占めているのは例年と同様である(図4)。
1982年以降の流行性耳下腺炎の週別定点当たり報告数の推移をみると、流行性耳下腺炎は3〜4年周期で大きな流行が訪れていたが、1989年のMMRワクチンの導入により周期が4〜5年に延長し、その流行規模も縮小傾向を示していた。しかし、その後のMMRワクチンの中止とムンプス関連ワクチンの接種率の低下により、流行性耳下腺炎の流行は再び増大傾向となり、最近では流行の周期は4年となってきている(図5)。2010年は過去3年間よりも患者発生数が大きく増加した状態が続いており、この傾向は2011年の春季頃までは継続することが予想される。また、夏季休暇の影響によって一旦は報告数の減少がみられたが、今後秋季から冬季にかけて再び増加してくるものと思われる(図1)。今後とも本疾患の流行状況、発生動向には注意が必要である。
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図1. 流行性耳下腺炎の年別・週別発生状況(2000〜2010年第39週) |
図2. 流行性耳下腺炎の都道府県別報告状況(2010年第39週) |
図3. 流行性耳下腺炎の定点当たり累積報告数の年別推移(2000〜2010年第39週) |
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図4. 流行性耳下腺炎の年別・年齢群別割合(2000〜2010年第39週) |
図5. 流行性耳下腺炎の定点当たり報告数の推移(1982〜2010年第39週) |
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