発生動向総覧
〈第42週コメント〉 10月27日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 325例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢12例
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菌種:S. flexneri (B群)3例_感染地域:宮城県1例、東京都1例、愛知県1例
菌種:S. sonnei (D群)9例_感染地域:愛知県2例*、埼玉県1例、石川県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例、中国1例、インドネシア1例、マダガスカル1例
* S. sonnei による食中毒が発生し、愛知県から2例報告されている。通常国内で感染したS. sonnei 症例は0〜2例/週の報告であるが、第41週以降増加している(第41週10例、第42週6例)。広域にわたって複数自治体から報告されており、感染源として寿司や刺身などの海産物が推定されている症例もみられる。食品を介した広域感染事例の可能性を考慮し、国内でのS. sonnei 症例に対して、菌株の分子疫学解析を含む積極的な疫学調査が必要と思われる。
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腸管出血性大腸菌感染症62例(有症者36例、うちHUS 1例) |
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感染地域:国内62例
国内の感染地域:福岡県7例、岩手県6例、愛知県5例、千葉県4例、宮城県3例、岐阜県3例、大阪府3例、熊本県3例、福島県2例、東京都2例、兵庫県2例、岡山県2例、広島県2例、佐賀県2例、北海道1例、秋田県1例、山形県1例、埼玉県1例、神奈川県1例、富山県1例、三重県1例、奈良県1例、不明8例
年齢群:0歳(1例)、2歳(2例)、3歳(3例)、5歳(3例)、6歳(2例)、7歳(2例)、8歳(1例)、9歳(2例)、10代(7例)、20代(8例)、30代(11例)、40代(7例)、50代(5例)、60代(4例)、70代(2例)、80代(1例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(19例)、O157 VT2(19例)、O26 VT1(6例)、O111 VT1・VT2(4例)、O111 VT1(3例)、O91 VT1(2例)、O157 VT不明(2例)、O115 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O146 VT1・VT2(1例)、その他・不明(4例)
累積報告数:3,758例(有症者2,479例、うちHUS 80例.死亡5例)
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4類感染症: |
つつが虫病3例(感染地域:秋田県1例、福島県1例、奈良県1例)
デング熱3例(感染地域:フィリピン1例、ベトナム1例、インド1例)
日本紅斑熱2例(感染地域:広島県1例、宮崎県1例)
日本脳炎1例(年齢:60代_感染地域:三重県)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ガーナ)
レジオネラ症12例(肺炎型12例)
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感染地域:大阪府2例、福島県1例、千葉県1例、東京都1例、長野県1例、京都府1例、兵庫県1例、山口県1例、徳島県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例、国内・国外不明1例
年齢群:40代(1例)、50代(2例)、60代(2例)、70代(2例)、80代(5例)
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レプトスピラ症2例(感染地域:沖縄県2例_感染源:不明2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢13例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症3例)
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感染地域:福島県1例、神奈川県1例、長野県1例、京都府1例、国内(都道府県不明)4例、韓国1例、フィリピン1例、米国1例、東南アジア(国不明)1例、国内・国外不明1例
感染経路:経口感染5例、性的接触1例(異性間)、その他・不明7例
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ウイルス性肝炎3例 |
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B型2例_感染経路:性的接触1例(異性間)、不明1例
C型1例_感染経路:不明
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急性脳炎1例(病原体不明_年齢群:70代)
クロイツフェルト・ヤコブ病5例
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孤発性プリオン病古典型3例
遺伝性プリオン病家族性1例
感染性プリオン病医原性1例
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後天性免疫不全症候群19例(AIDS 4例、無症候13例、その他2例)
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感染地域:国内16例、ブラジル1例、ナイジェリア1例、ブルキナファソ1例
感染経路:性的接触18例(異性間7例、同性間11例)、性的接触(異性間)/静注薬物使用1例
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ジアルジア症2例〔感染地域:長崎県1例、国内(都道府県不明)1例〕
梅毒6例(早期顕症I期2例、早期顕症II期1例、晩期顕症1例、無症候2例)
破傷風1例(年齢群:50代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例
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遺伝子型:VanA_検出検体:皮膚、術創、皮下および腹腔内ドレーン
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風しん1例(検査診断例)
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感染地域:国内・国外不明
年齢群:35〜39歳
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麻しん5例〔麻しん(検査診断例1例、臨床診断例2例)、修飾麻しん(検査診断例2例)〕
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感染地域:国内5例
国内の感染地域:埼玉県1例、東京都1例、京都府1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:0歳(1例)、1歳(1例)、2歳(1例)、3歳(1例)、15〜19歳(1例)
累積報告数:408例〔麻しん(検査診断例143例、臨床診断例117例)、修飾麻しん(検査診断例148例)〕
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(補)他に2010年第41週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢4例〔感染地域:福岡県3例、国内(都道府県不明)1例〕、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:カナダ)、デング熱2例(感染地域:バングラデシュ1例、インド1例)、レジオネラ症3例〔感染地域:埼玉県1例(温泉)、山口県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例(温泉.死亡)〕、急性脳炎3例〔マイコプラズマ2例(ともに9歳)、病原体不明1例(70代)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:血液1例、胆汁1例.遺伝子型:不明1例_菌検出検体:便)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(0.76)、北海道(0.49)、福井県(0.28)、宮城県(0.27)、三重県(0.26)、岐阜県(0.24)、東京都(0.19)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は1,033例と微増した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約73%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(0.63)、石川県(0.62)、沖縄県(0.56)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(2.32)、山口県(2.22)、石川県(1.90)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では大分県(10.31)、山形県(9.47)、佐賀県(6.96)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(1.82)、島根県(1.61)、大分県(1.53)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では岩手県(1.25)、北海道(1.24)、福井県(1.05)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福岡県(1.10)、熊本県(0.94)、佐賀県(0.70)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(0.15)、広島県(0.13)、栃木県(0.10)、千葉県(0.10)、福岡県(0.10)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では北海道(0.39)、福島県(0.27)、香川県(0.25)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(2.92)、長野県(2.80)、兵庫県(2.22)、宮崎県(2.22)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮城県(2.50)、埼玉県(2.44)、福島県(2.29)が多い
注目すべき感染症
◆ 感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は多種多様の原因によるものを包含する症候群名である。全国約3,000カ所の小児科定点からの患者発生報告数が増加するのは冬季であり、その大半はノロウイルスやロタウイルス等のウイルス感染を原因とするものであると推測されている(IASR, Vol 28. No 10.P277-278参照)。また、患者発生のピークは例年12月中となることが多く(図1)、同時期の感染性胃腸炎の、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものであると考えられてきた(感染症情報センターホームページhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/noro.html 参照)。
ノロウイルス感染症の潜伏期間は数時間〜数日(平均1〜2日)で、主な症状は嘔気・嘔吐及び下痢であり、嘔吐・下痢は1日数回から多いときには10回以上のこともある。しかし、症状持続期間は数時間〜数日(平均1〜2日)と比較的短く、以前から他の病気がある等の要因がない限りは、重症化して長期にわたり入院を要することは少ない。また、発熱の頻度は高くはない。治療では特効薬はなく、対症療法となるが、最も重要なことは水分補給によって脱水を防ぐことである。
ノロウイルスの感染経路としては、以前は食中毒としての経口感染がよく知られていたが、患者や無症状病原体保有者との直接もしくは間接的接触による接触感染や、患者の嘔吐物や下痢便を介した飛沫感染等のヒト−ヒト感染があり、その感染力は非常に強い。乳幼児の集団生活施設である保育所や幼稚園、小児の集団生活施設である小学校等においては、これら接触感染や飛沫感染等により、集団発生が繰り返されてきているものと推察される。また、2006年12月の東京都豊島区のホテルにおいて発生した集団感染事例のように、「吐物や下痢便の処理が適切に行われなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激によって舞い上がり、それを間近とは限らない場所で吸引し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路」である「塵埃感染」が発生する場合がある(感染症情報センターホームページ「ノロウイルスの感染経路」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.html 参照)。ノロウイルスの感染予防には、流水・石けんによる手洗いの励行と吐物や下痢便の適切な処理がきわめて重要である(感染症情報センターホームページ「家庭等一般の方々へ」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-a.html、「医療従事者・施設スタッフ用」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-b.html 参照)。
感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの感染性胃腸炎の2010年第42週の定点当たり報告数は3.70(報告数11,202)と、前週(定点当たり報告数3.05)よりも増加した(図1)。都道府県別では、大分県(10.31)、山形県(9.47)、佐賀県(6.96)、福井県(6.82)、長崎県(5.91)、宮崎県(5.75)、三重県(5.38)の順となっている。第42週は、41都道府県で前週の報告数よりも増加がみられているが、特に山形県、大分県、佐賀県、新潟県、福井県での報告数の増加が目立っている(図2)。2010年第1週から第42週までの定点当たり累積報告数は291.47(累積報告数882,268)であり、年齢群別では0〜1歳22.7%、2〜3歳21.1%、4〜5歳17.5%、6〜7歳11.4%の順であり、5歳以下で全報告数の60%前後を、7歳以下で70%以上を占めている(図3)のは例年と同様である。
新型インフルエンザの流行がピークを迎えつつあった2009年の秋季から冬季にかけて、感染性胃腸炎の流行は例年と比べて小さなものとなったが、過去10年間の第36週以降の報告数を比べてみると、2010年は2006年に次ぐ高い水準を概ね推移している(図1)。これまで感染性胃腸炎の報告数は11月に入ると急増し、12月の中旬以降(第50〜52週)にピークを迎えるという流行を毎年繰り返してきている。感染性胃腸炎の今後の発生動向には注意が必要である。
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図1. 感染性胃腸炎の年別・週別発生状況(2000〜2010年第42週) |
図2. 感染性胃腸炎の都道府県別定点当たり報告数の推移(2010年第40〜42週) |
図3. 感染性胃腸炎の年別・年齢群別割合(2000〜2010年第42週) |
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