発生動向総覧
〈第43週コメント〉 11月4日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 326例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢8例
|
|
菌種:S. sonnei (D群)8例_感染地域:宮城県1例、神奈川県1例、中国2例、インド1例、モロッコ1例、エジプト1例、中国/韓国1例
* 国内で感染したS. sonnei 症例の報告が増加しており、第39週以降累積で20例が報告されている(39週1例、40週1例、41週10例、42週6例、43週2例)。広域にわたって12都県から報告されており、感染源として寿司や刺身などの海産物が推定されている症例が複数みられる。現在行われている菌株の分子疫学解析(MLVA法)では、20例中13例にMLVAパターンの一致がみられている。食品を介した広域感染事例の可能性が高く、感染源特定のため、引き続き国内でのS. sonnei 症例に対し、積極的な疫学調査が必要と思われる。
|
腸管出血性大腸菌感染症38例(有症者29例、うちHUS 4例) |
|
感染地域:国内38例
国内の感染地域:千葉県4例、石川県4例、福岡県4例、埼玉県2例、東京都2例、愛知県2例、大阪府2例、兵庫県2例、北海道1例、宮城県1例、福島県1例、茨城県1例、神奈川県1例、長野県1例、静岡県1例、三重県1例、奈良県1例、島根県1例、徳島県1例、宮崎県1例、不明4例
年齢群:1歳(2例)、2歳(1例)、4歳(2例)、5歳(1例)、6歳(3例)、7歳(1例)、8歳(1例)、9歳(1例)、10代(5例)、20代(5例)、30代(5例)、40代(3例)、50代(2例)、60代(3例)、70代(1例)、80代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(17例)、O157 VT2(9例)、O157 VT不明(2例)、O26 VT1(1例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O111 VT1(1例)、O115 VT1(1例)、O145 VT不明(1例)、O157 VT1(1例)、その他・不明(3例)
累積報告数:3,811例(有症者2,521例、うちHUS 84例.死亡5例)
|
腸チフス1例(感染地域:バングラデシュ)
|
4類感染症: |
A型肝炎3例
|
|
感染地域:国内(都道府県不明)1例、インド1例、バングラデシュ1例
|
つつが虫病7例
|
|
感染地域:福島県3例、岩手県1例、宮城県1例、神奈川県1例、静岡県1例
|
デング熱5例
|
|
感染地域:インドネシア1例、カンボジア1例、フィリピン1例、ラオス1例、タイ/ラオス1例
|
日本紅斑熱1例(感染地域:熊本県)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ブルキナファソ)
レジオネラ症8例(肺炎型8例)
|
|
感染地域:静岡県3例(うち1例温泉)、東京都2例、山形県1例、千葉県1例、インドネシア1例
年齢群:40代(2例)、50代(1例)、60代(2例)、70代(1例)、80代(2例)
|
レプトスピラ症1例(感染地域:宮崎県_感染源:河川)
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症1例)
|
|
感染地域:東京都2例、岩手県1例、国内(都道府県不明)4例、中国1例、フィリピン1例、米国1例、トルコ1例
感染経路:経口感染4例、性的接触4例(異性間3例、異性・同性間不明1例)、その他・不明3例
|
ウイルス性肝炎2例 |
|
B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、異性・同性間不明1例)
|
急性脳炎1例(ヒトヘルペスウイルス6型_年齢群:0歳)
後天性免疫不全症候群15例(AIDS 5例、無症候10例)
|
|
感染地域:国内13例、タイ1例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触14例(異性間3例、同性間8例、異性間/同性間3例)、不明1例
|
ジアルジア症2例(感染地域:三重県1例、トルコ1例)
梅毒9例(早期顕症I期3例、早期顕症II期5例、無症候1例)
破傷風1例(年齢群:40代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例
|
|
遺伝子型:VanB 1例_検出検体:胆汁
遺伝子型:不明2例_検出検体:血液1例、胆汁1例
|
風しん1例(検査診断例)
|
|
感染地域:静岡県
年齢群:50代
|
麻しん3例〔麻しん(検査診断例1例、臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
|
|
感染地域:国内3例
国内の感染地域:埼玉県1例、和歌山県1例、福岡県1例
年齢群:15〜19歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:410例〔麻しん(検査診断例143例、臨床診断例117例)、修飾麻しん(検査診断例150例)〕
|
(補)他に2010年第42週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢2例(感染地域:モロッコ1例、タイ/カンボジア1例)、E型肝炎2例〔感染地域(感染源):北海道1例(羊肉/豚ホルモン/豚レバー)、東京都1例(不明)〕、デング熱1例(感染地域:インドネシア)、日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)、レジオネラ症3例〔感染地域:北海道1例(温泉)、栃木県1例(温泉)、広島県1例(温泉)〕、急性脳炎2例〔病原体不明2例(70代1例、80代1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔20代(1例)、30代(1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:血液2例)、風しん1例(検査診断例.感染地域:千葉県.年齢群:25〜29歳)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では北海道(1.06)、沖縄県(1.02)、岐阜県(0.49)、青森県(0.42)、宮崎県(0.36)、宮城県(0.20)、千葉県(0.17)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症のは1,275例と2週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約73%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では広島県(0.67)、大分県(0.58)、沖縄県(0.56)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別で山口県(2.49)、北海道(2.02)、福井県(2.00)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では山形県(18.3)、大分県(13.1)、新潟県(8.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では大分県(1.50)、北海道(1.38)、徳島県(1.33)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では北海道(1.17)、山形県(1.07)、富山県(1.03)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福岡県(0.91)、福井県(0.68)、鹿児島県(0.67)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では沖縄県(0.24)、広島県(0.13)、栃木県(0.10)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では滋賀県(0.34)、沖縄県(0.32)、島根県(0.22)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鹿児島県(2.11)、和歌山県(2.10)、島根県(2.09)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮城県(2.25)、埼玉県(2.00)、青森県(1.83)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。インフルエンザは、1〜4日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。
主な感染経路はくしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染であり、他に接触感染もあるといわれている(CDCホームページ:http://www.cdc.gov/flu/about/disease/spread.htm)。インフルエンザの感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられるが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在する。従って、特にヒト−ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設においてインフルエンザの集団発生をコントロールすることは困難であると思われる。2009年4月に新型インフルエンザ〔パンデミック(H1N1)2009〕の発生が明らかとなり、世界各国で大きな流行をもたらしたことは記憶に新しい。日本でも2009年の5月に最初の国内患者発生報告があり、同年第48週をピークとした大きな流行に発展したが、その後新型インフルエンザの流行は鎮静化し、最近ではAH1pdmの他にAH3亜型やB型インフルエンザウイルスも国内のインフルエンザ発生例から継続的に検出されている。
感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。2010年第43週のインフルエンザの定点当たり報告数は0.15(報告数728)となり、2週連続で増加がみられた(図1)。都道府県別では北海道(1.06)、沖縄県(1.02)、岐阜県(0.49)、青森県(0.42)、宮崎県(0.36)、宮城県(0.20)、千葉県(0.17)、茨城県(0.16)、群馬県(0.16)、長崎県(0.16)の順となっている。特に北海道、青森県、岐阜県、宮崎県、沖縄県の増加が目立つ(図2)。
2010年第36〜43週までの8週間で国内では218検体のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1pdm 65件(29.8%)、AH3亜型(A香港型)144件(66.1%)、B型9件(4.1%)とAH3亜型が最多を占めている(図3)。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(2000〜2010年第43週) |
図2. インフルエンザの都道府県別定点当たり報告数の推移(2010年第41〜43週) |
図3. インフルエンザウイルス検出報告割合(2010年第36〜43週) |
インフルエンザの発生動向調査が現在と同じ5,000カ所のインフルエンザ定点によるサーベイランス体制となった1999年以降でみると、2010年第36〜43週の定点当たり報告数の推移は、新型インフルエンザが流行した昨年を除けば、例年と比較して流行の開始が早かった2007年に次ぐ高い水準である(図1)。AH3亜型ウイルスがインフルエンザ流行の主流となったのは2006/07シーズンが最近であり、過去3シーズンはAH1亜型(Aソ連型)か又はAH1pdmが流行の主流であったことから、AH3亜型ウイルスに対して罹患経験がないかまたは感染機会の減少によって免疫が維持されず、感染した場合にインフルエンザを発症する者の割合は国内において少なくはないと思われる。今シーズンのインフルエンザの定点当たり報告数は、11月中にも全国的な流行開始の指標である1.0を上回る可能性があり、比較的早期にインフルエンザの流行が開始する事が予想される。従って、インフルエンザワクチンの接種を必要とし、まだ実施していない場合は早期に接種することが望まれる。インフルエンザの発生動向には、今後更に注意深い観察が必要である。
|