発生動向総覧
〈第44週コメント〉 11月10日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 258例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢1例
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菌種:S. sonnei (D群)_感染地域:エジプト
* 第39週以降国内で感染したS. sonnei 症例の報告は、広域にわたる12都県から累計20例が報告されている(39週1例、40週1例、41週10例、42週6例、43週2例、44週なし)。感染源として海産物が推定される症例が多く、かつ菌株の解析により15例でMLVAパターンの一致がみられていることから、食品を介した広域感染の疑いが強まっている。11月10日付けで厚生労働省より各自治体に向けて「細菌性赤痢菌患者の広域散発発生について」の事務連絡が発出された(本号12ページ「速報」参照)。原因究明および今後の発生予防のためにも、引き続き国内でのS. sonnei 症例に対し、喫食歴および食材の遡り調査、菌の分子疫学的解析等、積極的な疫学調査が必要である。
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腸管出血性大腸菌感染症29例(有症者21例、うちHUS 2例) |
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感染地域:国内29例
国内の感染地域:北海道3例、滋賀県3例、大阪府3例、福岡県3例、宮城県2例、埼玉県2例、新潟県1例、福井県1例、兵庫県1例、岡山県1例、山口県1例、徳島県1例、佐賀県1例、長崎県1例、熊本県1例、宮崎県1例、鹿児島県1例、不明2例
年齢群:2歳(2例)、3歳(2例)、4歳(1例)、6歳(1例)、7歳(1例)、8歳(1例)、9歳(1例)、10代(5例)、20代(3例)、30代(3例)、50代(4例)、60代(1例)、70代(4例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(12例)、O157 VT2(7例)、O111 VT1・VT2(4例)、O103 VT1(3例)、O145 VT1(1例)、O157 VT1(1例)、O157 VT不明(1例)
累積報告数:3,856(有症者2,555例、うちHUS 87例.死亡5例)
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腸チフス1例(感染地域:バングラデシュ/セネガル)
パラチフス1例(感染地域:インド)
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4類感染症: |
A型肝炎3例(感染地域:大阪府1例、インド1例、エチオピア1例)
回帰熱1例(感染地域:ウズベキスタン)
つつが虫病3例(感染地域:福島県2例、静岡県1例)
デング熱2例(感染地域:タイ1例、インドネシア1例)
日本紅斑熱1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
マラリア2例(熱帯熱2例_感染地域:ケニア1例、ブルキナファソ1例)
レジオネラ症11例(肺炎型11例)
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感染地域:埼玉県1例(温泉)、千葉県1例、東京都1例、新潟県1例、三重県1例、兵庫県1例、広島県1例、徳島県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:40代(2例)、50代(2例)、60代(3例)、70代(3例)、90代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症10例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)
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感染地域:愛知県2例、宮城県1例、福島県1例、岐阜県1例、大阪府1例、兵庫県1例、山口県1例、国内(都道府県不明)1例、中国1例、米国1例
感染経路:性的接触6例(異性間4例、同性間2例)、経口感染1例、その他・不明4例
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ウイルス性肝炎1例 |
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B型_感染経路:ひげ剃りの共有
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急性脳炎1例(病原体不明_年齢群:1歳)
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:徳島県)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
後天性免疫不全症候群15例(AIDS 1例、無症候14例)
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感染地域:国内13例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触15例(異性間1例、同性間14例)
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梅毒6例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、無症候3例)
破傷風1例(年齢群:50代)
麻しん1例〔修飾麻しん(検査診断例)〕
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感染地域:国内
国内の感染地域:大阪府
年齢群:50代
累積報告数:412例〔麻しん(検査診断例143例、臨床診断例117例)、修飾麻しん(検査診断例152例)〕
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(補)他に2010年第43週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎1例〔感染地域(感染源):北海道(豚レバー)〕、日本紅斑熱3例(感染地域:広島県2例、和歌山県1例)、レプトスピラ症1例(感染地域:沖縄県_感染原因:川)、急性脳炎2例〔単純ヘルペスウイルス2例(0歳2例)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では北海道(1.50)、徳島県(0.87)、沖縄県(0.60)、茨城県(0.36)、群馬県(0.34)、高知県(0.31)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は1,436例と3週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約71%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では広島県(0.63)、石川県(0.59)、埼玉県(0.50)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では山口県(4.41)、北海道(2.31)、山形県(2.13)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では山形県(19.8)、大分県(19.1)、新潟県(11.5)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(2.86)、石川県(1.59)、長野県(1.56)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では宮崎県(1.11)、北海道(0.95)、岩手県(0.93)、富山県(0.93)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福岡県(1.10)、熊本県(0.90)、秋田県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(0.21)、長野県(0.18)、広島県(0.13)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では熊本県(0.33)、愛媛県(0.24)、青森県(0.19)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長野県(2.73)、宮崎県(2.47)、新潟県(2.38)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福島県(2.71)、佐賀県(2.67)、宮城県(2.25)が多い。
注目すべき感染症
◆ 感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は多種多様の原因によるものを包含する症候群名である。全国約3,000カ所の小児科定点からの患者発生報告数が増加するのは冬季であり、その大半はノロウイルスやロタウイルス等のウイルス感染を原因とするものであると推測されている(IASR, Vol 28. No 10.P277-278参照)。また、患者発生のピークは例年12月中となることが多く(図1)、同時期の感染性胃腸炎の、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものであると考えられてきた(感染症情報センターホームページhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/noro.html 参照)。
ノロウイルス感染症の潜伏期間は数時間〜数日(平均1〜2日)で、主な症状は嘔気・嘔吐及び下痢であり、嘔吐・下痢は1日数回から多いときには10回以上のこともある。しかし、症状持続期間は数時間〜数日(平均1〜2日)と比較的短く、以前から他の病気がある等の要因がない限りは、重症化して長期にわたり入院を要することは少ない。また、発熱の頻度は高くはない。治療では特効薬はなく、対症療法となるが、最も重要なことは水分補給によって脱水を防ぐことである。
ノロウイルスの感染経路としては、以前は食中毒としての経口感染がよく知られていたが、患者や無症状病原体保有者との直接もしくは間接的接触による接触感染や、患者の嘔吐物や下痢便を介した飛沫感染等のヒト−ヒト感染があり、その感染力は非常に強い。乳幼児の集団生活施設である保育所や幼稚園、小児の集団生活施設である小学校等においては、これら接触感染や飛沫感染等により、集団発生が繰り返されてきているものと推察される。また、2006年12月の東京都豊島区のホテルにおいて発生した集団感染事例のように、「吐物や下痢便の処理が適切に行われなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激によって舞い上がり、それを間近とは限らない場所で吸引し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路」である「塵埃感染」が発生する場合がある(感染症情報センターホームページ「ノロウイルスの感染経路」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.html 参照)。ノロウイルスの感染予防には、流水・石けんによる手洗いの励行と吐物や下痢便の適切な処理がきわめて重要である(感染症情報センターホームページ「家庭等一般の方々へ」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-a.html、「医療従事者・施設スタッフ用」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-b.html 参照)。
感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの感染性胃腸炎の2010年第44週の定点当たり報告数は5.31(報告数16,111)と、第42週以降3週連続して増加がみられている(図1)。都道府県別では、山形県(19.80)、大分県(19.14)、新潟県(11.52)、山口県(11.35)、長崎県(10.70)、福岡県(8.51)、佐賀県(8.39)、福井県(8.14)の順となっている。第44週は37都道府県で前週の報告数よりも増加がみられているが、特に大分県、長崎県、山口県、新潟県、福岡県の報告数の増加が目立っている(図2)。感染性胃腸炎は大半の学校や幼稚園等の小児の集団生活施設が夏季休暇中である第33週前後に年間の最少の報告数となることが多い。殆どの学校や幼稚園等の小児の集団生活施設の夏季休暇が終了した直後の第36週から第44週までの定点当たり累積報告数は32.1(累積報告数97,165)で、年齢群別では0〜1歳26.8%、2〜3歳21.3%、4〜5歳16.2%、6〜7歳9.9%の順であり(図3)、5歳以下で全報告数の60%前後を、7歳以下で70%以上を占めているのは例年と同様である。
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図1. 感染性胃腸炎の年別・週別発生状況(2000〜2010年第44週) |
図2. 感染性胃腸炎の都道府県別定点当たり報告数の推移(2010年第42〜44週) |
図3. 感染性胃腸炎の年齢群別割合(2010年第36〜44週) |
小児科の定点医療機関数が約3,000定点となった1999年以降でみても、これまで感染性胃腸炎の報告数は多くの年で11月に入ると急増し、12月中(第49〜52週)にピークを迎えるという流行を毎年繰り返してきた。2010年第44週の感染性胃腸炎の報告数は、国内の大半の地域で増加が認められ(図2)、今後更に急激な増加が多くの地域で見られると予想される。感染性胃腸炎の発生動向にはより注意深い観察が必要である。
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