発生動向総覧
〈第46週コメント〉 11月24日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 360例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
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菌種:S. sonnei(D群)3例_感染地域:インドネシア2例、ミャンマー1例
* 今週は、国内感染例と推定される症例の報告はなかったが、第39週以降国内で感染したS. sonnei 症例は、東北から九州地方にわたる12都県から累計22例が報告されている。感染源として海産物が推定される症例が多く、かつ菌株の分子疫学的解析が行われた20例中16例でMLVAパターンの一致がみられていることから、食品を介した広域感染の疑いが強まっている。今後の発生予防のため、国内でのS. sonnei 症例に対する、喫食歴および食材の遡り調査、菌の分子疫学的解析等、積極的な疫学調査の継続による原因究明が必要である。
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腸管出血性大腸菌感染症36例(有症者21例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内36例
国内の感染地域:宮城県3例、東京都3例、福岡県3例、静岡県2例、大阪府2例、鹿児島県2例、北海道1例、青森県1例、秋田県1例、福島県1例、群馬県1例、千葉県1例、新潟県1例、岐阜県1例、愛知県1例、兵庫県1例、広島県1例、徳島県1例、香川県1例、愛媛県1例、高知県1例、佐賀県1例、熊本県1例、不明4例
年齢群:0歳(2例)、1歳(4例)、2歳(1例)、3歳(1例)、4歳(1例)、7歳(1例)、9歳(1例)、10代(3例)、20代(8例)、30代(7例)、40代(1例)、50代(3例)、70代(3例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(11例)、O157 VT2(5例)、O26 VT1(4例)、O111 VT1・VT2(2例)、O111 VT1(2例)、O157 VT1(2例)、O55 VT1(1例)、O91 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、O128 VT1・VT2(1例)、O146 VT2(1例)、O157 VT不明(1例)、その他・不明(4例)
累積報告数:3,953例(有症者2,609例、うちHUS 87例.死亡5例)
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腸チフス1例(感染地域:ミャンマー)
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4類感染症: |
A型肝炎2例(感染地域:青森県1例、新潟県1例)
つつが虫病19例
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感染地域:群馬県4例、福島県3例、岐阜県3例、静岡県2例、山形県1例、神奈川県1例、山梨県1例、山口県1例、大分県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)1例
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デング熱3例(感染地域:バングラデシュ1例、タンザニア1例、タイ/ベトナム1例) 日本紅斑熱1例(感染地域:宮崎県)
マラリア2例
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熱帯熱1例_感染地域:インドネシア
四日熱1例_感染地域:パプアニューギニア
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レジオネラ症10例(肺炎型10例)
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感染地域:東京都3例、山形県1例、福島県1例、群馬県1例、埼玉県1例、石川県1例、兵庫県1例、フィリピン1例
年齢群:50代(2例)、60代(4例)、70代(2例)、90代(2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢9例(腸管アメーバ症5例、腸管外アメーバ症3例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)
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感染地域:大阪府2例、国内(都道府県不明)4例、中国1例、カンボジア/ベトナム1例、国外(国不明)1例
感染経路:経口感染3例、性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、その他・不明4例
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ウイルス性肝炎2例 |
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B型1例_感染経路:性的接触(異性間)
C型1例_感染経路:針等の鋭利なものの刺入
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急性脳炎2例〔病原体不明2例_年齢群:3歳(1例)、60代(1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:50代(1例.死亡)、70代(1例)〕
後天性免疫不全症候群11例(AIDS 3例、無症候7例、その他1例)
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感染地域:国内10例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触10例(同性間10例)、不明1例
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ジアルジア症3例
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感染地域:千葉県3例*
*同一事業所内の集団発生
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梅毒4例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、無症候1例)
破傷風2例〔年齢群:20代(1例)、70代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例
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遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液
遺伝子型:不明2例_菌検出検体:血液1例、便1例
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風しん1例(検査診断例)
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感染地域:静岡県
年齢群:40代
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麻しん2例〔麻しん(臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
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感染地域:国内1例、フィリピン1例
国内の感染地域:東京都
年齢群:1歳(1例)、20〜24歳(1例)
累積報告数:417例〔麻しん(検査診断例144例、臨床診断例118例)、修飾麻しん(検査診断例155例)〕
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(補)他にマラリア1例の報告があったが削除予定。また2010年第45週までに診断されたものの報告遅れとして、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、コクシジオイデス症1例〔感染地域:米国(カリフォルニア州)〕、日本紅斑熱4例(感染地域:愛媛県2例、徳島県1例、高知県1例)、レジオネラ症1例〔感染地域:岐阜県(温泉)〕、急性脳炎4例〔マイコプラズマ1例(10代)、単純ヘルペスウイルス1例(50代)、病原体不明2例(0歳、70代)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では北海道(2.08)、宮崎県(1.02)、山梨県(0.98)、沖縄県(0.95)、福島県(0.70)、群馬県(0.66)、岐阜県(0.60)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は1,720例と第42週以降増加が続いている。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約71%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では富山県(1.03)、山形県(1.00)、宮崎県(0.92)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では山口県(3.69)、福井県(3.59)、北海道(3.24)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では大分県(27.9)、山形県(27.7)、新潟県(21.5)、山口県(21.1)、福井県(19.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は第43週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(2.39)、新潟県(2.36)、宮崎県(2.28)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では千葉県(0.80)、山形県(0.77)、北海道(0.75)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第43週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では福岡県(1.43)、長崎県(0.93)、鹿児島県(0.82)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では栃木県(0.13)、高知県(0.13)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では福井県(0.27)、福島県(0.21)、富山県(0.21)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長野県(3.27)、新潟県(2.87)、島根県(2.83)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では青森県(2.50)、宮城県(2.42)、群馬県(2.25)が多い。
注目すべき感染症
◆ 感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は多種多様の原因によるものを包含する症候群名である。全国約3,000カ所の小児科定点からの患者発生報告数が増加するのは冬季であり、その大半はノロウイルスやロタウイルス等のウイルス感染を原因とするものであると推測されている(IASR, Vol 31. No11.p 312-314, 2010 参照)。また、患者発生のピークは例年12月中となることが多く(図1)、同時期の感染性胃腸炎の、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものであると考えられてきた(感染症情報センターホームページhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/noro.html 参照)。
ノロウイルスの感染経路としては、以前は食中毒としての経口感染がよく知られていたが、患者や無症状病原体保有者との直接もしくは間接的接触による接触感染や、患者の嘔吐物や下痢便を介した飛沫感染等のヒト−ヒト感染があり、その感染力は非常に強い。乳幼児の集団生活施設である保育所や幼稚園、小児の集団生活施設である小学校等においては、これら接触感染や飛沫感染等により、集団発生が繰り返されてきているものと推察される。また、2006年12月の東京都豊島区のホテルにおいて発生した集団感染事例のように、「吐物や下痢便の処理が適切に行われなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激によって舞い上がり、それを間近とは限らない場所で吸引し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路」である「塵埃感染」が発生する場合がある(感染症情報センターホームページ「ノロウイルスの感染経路」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.html 参照)。ノロウイルスの感染予防には、流水・石けんによる手洗いの励行と吐物や下痢便の適切な処理がきわめて重要である(感染症情報センターホームページ「家庭等一般の方々へ」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-a.html、「医療従事者・施設スタッフ用」:http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-b.html参照)。
感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの感染性胃腸炎の2010年第46週の定点当たり報告数は10.64(報告数32,084)と、前週の報告数(定点当たり報告数7.70)よりも大きく増加し、第42週以降増加が続いている(図1)。都道府県別では、大分県(27.86)、山形県(27.67)、新潟県(21.54)、山口県(21.14)、福井県(19.55)、山梨県(18.63)、福岡県(18.40)の順となっている。第46週は北海道、青森県、長崎県、大分県、沖縄県を除く42都府県で前週の報告数よりも増加がみられており、特に福井県、群馬県、山梨県、埼玉県、香川県、神奈川県、山形県等で大きな増加がみられた(図2)。
殆どの学校や幼稚園の夏季休暇が終了した直後の第36週から第46週までの定点当たり累積報告数は50.31(累積報告数152,281)であり、年齢群別では0〜1歳25.4%、2〜3歳22.0%、4〜5歳17.6%、6〜7歳10.4%の順であり(図3)、5歳以下で全報告数の60%前後を、7歳以下で70%以上を占めているのは例年と同様である。
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図1. 感染性胃腸炎の年別・週別発生状況(2000〜2010年第46週) |
図2. 感染性胃腸炎の都道府県別定点当たり報告数の推移(2010年第44〜46週) |
図3. 感染性胃腸炎の年齢群別割合(2010年第36〜46週) |
感染性胃腸炎は、その報告数が11月に入ると急増し、12月中(第49〜52週)にピークを迎えるという流行をほぼ殆どの年で繰り返してきた。2010年は第39週以降、過去10年間の同時期の報告数としては2006年に次ぐ高い値で推移しており、その高い水準を維持したまま第45週、第46週と大きな増加がみられている(図1)。この傾向は今しばらく継続し、流行は更に拡大していく可能性が高いものと予想される。第36週以降に全国の地研から報告されているノロウイルスは、過去2年間と同様に、ほとんどが遺伝子群(Genogroup)IIである〔http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/Pdf/Gast00-09s.pdf(シーズン別)、https://nesid3g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data63j.pdf(月別)参照〕。感染性胃腸炎の発生動向とノロウイルスの検出状況には今後とも注意深い観察が必要である。
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