発生動向総覧
〈第1週コメント〉 1月26日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 315例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢1例
|
|
菌種:S. sonnei (D群)_感染地域:インド
|
腸管出血性大腸菌感染症12例(有症者6例、うちHUS なし) |
|
感染地域:国内12例
国内の感染地域:千葉県4例、山梨県2例、愛知県2例、東京都1例、兵庫県1例、熊本県1例、不明1例
年齢群:1歳(1例)、4歳(1例)、7歳(1例)、10代(2例)、30代(4例)、50代(1例)、70代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT2(6例)、O157 VT1・VT2(5例)、O91 VT1(1例)
累積報告数:46例(有症者34例、うちHUS 2例.死亡なし)
|
|
4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:静岡県_感染源:シカ肉生食)
A型肝炎6例〔感染地域:国内(都道府県不明)5例、フィリピン1例〕
つつが虫病2例(感染地域:東京都1例、和歌山県1例)
デング熱2例(感染地域:タイ1例、インドネシア1例)
レジオネラ症9例(肺炎型8例、無症状病原体保有者1例)
|
|
感染地域:滋賀県2例、福岡県2例、岐阜県1例、京都府1例、大阪府1例、兵庫県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
年齢群:50代(1例)、60代(3例)、70代(1例)、80代(3例)、90代(1例)
|
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢13例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症1例、腸管及び腸管外アメーバ症2例)
|
|
感染地域:東京都3例、埼玉県1例、神奈川県1例、新潟県1例、岐阜県1例、愛知県1例、大阪府1例、タイ1例、トルコ/ エジプト1例、国内・国外不明2例
感染経路:経口感染3例、性的接触3例(異性間2例、同性間1例)、その他・不明7例
|
ウイルス性肝炎5例
|
|
B型3例_感染経路:不明3例
C型1例_感染経路:性的接触(異性間)
サイトメガロウイルス1例_感染経路:不明
|
急性脳炎6例
|
|
インフルエンザウイルスA型3例_年齢群:1歳(2例)、7歳(1例)
インフルエンザウイルスAH1pdm 1例_年齢群:10代
ロタウイルス1例_年齢群:2歳
病原体不明1例_年齢群:10代
|
劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例
|
|
年齢群:60代(1例)、80代(1例)、90代(1例.死亡)
|
後天性免疫不全症候群17例(AIDS 4例、無症候10例、その他3例)
|
|
感染地域:国内17例
感染経路:性的接触16例(異性間2例、同性間14例)、不明1例
|
梅毒9例(早期顕症I期1例、早期顕症II期4例、無症候3例、晩期顕症1例)
風しん3例(検査診断例3例)
|
|
感染地域:千葉県2例、静岡県1例
年齢群:25〜29歳(2例)、30〜34歳(1例)
|
麻しん8例〔麻しん(検査診断例5例、臨床診断例2例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
|
|
感染地域:国内4例、フィリピン2例、英国1例、スペイン1例
国内の感染地域:千葉県1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:0歳(1例)、2歳(2例)、15〜19歳(1例)、20〜24歳(2例)、30〜34歳(2例)
累積報告数:18例〔麻しん(検査診断例11例、臨床診断例6例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
|
(補)他に2011年第2週までに診断されたものの報告遅れとして、エキノコックス症6例(多包条虫5例_感染地域:北海道5例、単包条虫1例_感染地域:アフガニスタン/パキスタン)、急性脳炎5例〔インフルエンザウイルスA型1例(4歳)、病原体不明4例(10代2例、40代1例、70代1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例〔30代(1例)、60代(1例.死亡)、70代(1例.死亡)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanB 2例_菌検出検体:血液1例、尿1例)、風しん2例〔検査診断例1例、臨床診断例1例.感染地域:山形県1例、福岡県1例.年齢群:20〜24歳(1例)、40代(1例)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第42週以降増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(64.49)、沖縄県(63.17)、福岡県(48.97)、佐賀県(48.44)、長崎県(47.29)、大分県(45.00)、鹿児島県(39.48)、熊本県(37.31)、群馬県(36.41)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は2,414例と増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約71%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では富山県(2.24)、広島県(1.18)、石川県(0.93)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では石川県(6.5)、山形県(4.8)、新潟県(4.6)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では宮崎県(15.2)、宮城県(14.2)、福井県(13.5)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では大分県(5.2)、福井県(4.4)、宮崎県(3.8)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(1.18)、佐賀県(0.74)、宮崎県(0.39)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福岡県(2.82)、山梨県(1.42)、佐賀県(1.30)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(0.26)、広島県(0.11)、千葉県(0.07)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では岩手県(0.08)、熊本県(0.08)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では長野県(3.98)、香川県(2.37)、新潟県(2.08)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では沖縄県(2.00)、青森県(1.67)、宮城県(1.33)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。インフルエンザは、1〜4日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。
主な感染経路はくしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染であり、他に接触感染もあるといわれている(CDCホームページ:http://www.cdc.gov/flu/about/disease/spread.htm)。インフルエンザの感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられるが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在する。従って、特にヒト−ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設においてインフルエンザの集団発生をコントロールすることは困難であると思われる。2009年4月に新型インフルエンザ〔インフルエンザA(H1N1)2009〕の発生が明らかとなり、世界各国で大きな流行をもたらしたことは記憶に新しい。日本でも2009年の5月に最初の国内患者発生報告があり、同年第48週をピークとした大きな流行に発展し、2010年の春には新型インフルエンザの流行は鎮静化した。その後2010年の11月、12月と再びインフルエンザの患者発生数は増加し、2011年の1月に入ってからは急増してきている。
感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。2011年第3週のインフルエンザの定点当たり報告数は26.41(報告数130,515)となり、第42週以降14週連続で増加が続いている(図1)。都道府県別では宮崎県(64.49)、沖縄県(63.17)、福岡県(48.97)佐賀県(48.44)、長崎県(47.29)、大分県(45.00)、鹿児島県(39.48)、熊本県(37.31)、群馬県(36.41)、千葉県(36.38)、埼玉県(34.29)の順となっている。前週に引き続き全ての都道府県で定点当たり報告数の増加がみられ、28都県で20.00を、13県では30.00を上回った。特に九州地方、関東地方に流行が本格化している地域が多い(図2)。
定点医療機関からの報告数をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を1週間に受診したインフルエンザ患者数を推計すると、2011年第3週は149万人(95%信頼区間:138万人〜159万人)(暫定値)となり、第2週の78万人の2倍近い増加となった。149万人の内訳は男性約78万人(52.3%)、女性約71万人(47.7%)である。年齢群別では5〜9歳約27万人(18.2%)、20代約23万人(15.5%)、10〜14歳約20万人(13.5%)、30代約20万人(13.5%)、0〜4歳約17万人(11.5%)の順となっており(図3)、第3週は特に14歳以下の年齢層の増加が大きかった(図4)。また、2010年第36週以降これまでの累積の推計受診患者数は314万人(95%信頼区間:302万人〜326万人)(暫定値)であった。
2010年第36週〜2011年第3週までの期間中に国内では2,848検体のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1pdm 1,717件、AH3亜型(A香港型)1,033件、B型98件とAH1pdmが最多を占めている。一方、2010年第51週〜2011年第3週までの直近の5週間では、総検出報告数1,550検体中AH1pdm 1,240件(80.0%)、AH3亜型279件(18.0%)、B型31件(2.0%)であり、AH1pdmが8割を占めている(図5)。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(2001〜2011年第3週) |
図2. インフルエンザの都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第1〜3週) |
図3. インフルエンザ推計受診患者数(暫定値)の年齢群別割合(2011年第3週) |
|
|
|
図4. インフルエンザ推計受診患者数(暫定値)の年齢群別・週別推移(2010年第46週〜2011年第3週) |
図5. インフルエンザウイルス検出報告割合(2010年第51週〜2011年第3週) |
|
2011年第3週のインフルエンザの患者報告数は大きく増加し、特に九州全域で本格的な流行がみられており、関東をはじめとするその他の地域でも流行の拡大が認められている。14歳以下の年齢層での増加が大きかったことは、学校等の小児の集団生活施設での感染の拡大が示唆される。今しばらくは、インフルエンザの患者発生数は増加が続く可能性が高く、その発生動向には注意深く観察していく必要がある。
|