発生動向総覧
〈第20週コメント〉 5月25日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 306例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
|
|
菌種:S. flexneri (B群)1例_感染地域:インド
S. sonnei (D群)2例_感染地域:インドネシア1例、インド1例
|
腸管出血性大腸菌感染症64例(有症者47例、うちHUS 2例) |
|
感染地域:国内64例
国内の感染地域:富山県23例*、山形県7例**、滋賀県4例、神奈川県3例、兵庫県3例、島根県3例***、宮城県2例、東京都2例、京都府2例、福岡県2例、埼玉県1例、千葉県1例、新潟県1例、石川県1例、岐阜県1例、静岡県1例、岡山県1例、徳島県1例、大分県1例、鹿児島県1例、不明3例
* 焼肉店で発生した食中毒(O157 VT1・VT2)
** だんご店に関連した食中毒(O157 VT1・VT2)
*** 社会福祉施設で発生した集団感染(O26 VT1・VT2)
年齢群:2歳(3例)、4歳(1例)、5歳(2例)、6歳(4例)、9歳(1例)、10代(29例)、20代(7例)、30代(7例)、40代(6例)、50代(2例)、60代(1例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(42例)、O26 VT1(5例)、O157 VT2( 4例)、O26 VT1・VT2( 3例)、O157 VT不明( 2例)、O165 VT1・VT2( 2例)、O111 VT1・VT2(1例)、O121 VT2(1例)、O145 VT2(1例)、その他・不明(3例)
累積報告数:462例(有症者308例、うちHUS 37例.死亡1例)
|
腸チフス2例(感染地域:国内(都道府県不明)1例、インド1例)
パラチフス1例(感染地域:バングラデシュ)
|
4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:静岡県_感染源:鹿肉の生食)
A型肝炎2例(感染地域:愛知県1例、広島県1例)
つつが虫病8例
|
|
感染地域:山形県3例、秋田県2例、青森県1例、茨城県1例、岡山県1例
|
デング熱1例(感染地域:タイ/バングラデシュ)
日本紅斑熱1例(感染地域:広島県)
マラリア1例(三日熱_感染地域:インド/タイ)
レジオネラ症12例(肺炎型12例)
|
|
感染地域:愛媛県2例、北海道1例(温泉)、岩手県1例、茨城県1例、新潟県1例、富山県1例(温泉)、愛知県1例、兵庫県1例、高知県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:60代(5例)、70代(4例)、80代(3例)
|
レプトスピラ症1例(感染地域:大阪府_感染源:職場の水)
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢10例(腸管アメーバ症9例、腸管外アメーバ症1例) |
|
感染地域:東京都1例、長野県1例、愛知県1例、兵庫県1例、愛媛県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)3例、タイ1例
感染経路:性的接触3例(異性間3例)、経口感染2例、その他・不明5例
|
ウイルス性肝炎5例 |
|
B型5例_感染経路:性的接触3例(異性間3例)、刺青/性的接触(異性間)1例、不明1例
|
急性脳炎2例〔病原体不明2例_年齢群:1歳(1例)、3歳(1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(感染性プリオン病医原性)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例 |
|
年齢群:10代(1例.死亡)、50代(1例)、60代(2例)
|
後天性免疫不全症候群9例(AIDS 2例、無症候7例) |
|
感染地域:国内8例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触8例(異性間3例、同性間5例)、不明1例
|
ジアルジア症1例(感染地域:和歌山県)
髄膜炎菌性髄膜炎1例(死亡) |
|
感染地域:宮崎県
年齢群:10代
|
梅毒4例(早期顕症I期1例、早期顕症II期1例、無症候2例)
破傷風2例 |
|
感染地域:福島県1例、宮崎県1例
年齢群:70代(1例)、80代(1例)
|
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:尿)
風しん13例(検査診断例8例、臨床診断例5例) |
|
感染地域:大阪府4例、神奈川県2例、広島県2例、福岡県2例、新潟県1例、静岡県1例、京都府1例
年齢群:1歳(1例)、15〜19歳(2例)、20〜24歳(1例)、25〜29歳(2例)、30〜34歳(1例)、35〜39歳(3例)、40代(3例)
|
麻しん37例〔麻しん(検査診断例16例、臨床診断例15例、修飾麻しん(検査診断例6例)〕
|
|
感染地域:国内35例、インドネシア1例、フィリピン1例
国内の感染地域:東京都15例、千葉県5例、埼玉県3例、神奈川県2例、長野県2例、新潟県1例、静岡県1例、国内(都道府県不明)6例
年齢群:0歳(3例)、1歳(2例)、2歳(2例)、3歳(1例)、5〜9歳(8例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(4例)、20〜24歳(3例)、25〜29歳(3例)、30〜34歳(3例)、35〜39歳(1例)、40代(4例)、60代(2例)
累積報告数:264例〔麻しん(検査診断例138例、臨床診断例78例)、修飾麻しん(検査診断例48例)〕
|
(補)他に2011年第19週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢2例〔菌種:S. boydii(C群)1例_感染地域:東京都、菌種:S. sonnei(D群)1例_感染地域:インド〕、パラチフス1例(感染地域:インド)、E型肝炎1例(感染地域:インド_感染源:不明)、デング熱1例(感染地域:フィリピン)、日本紅斑熱1例(感染地域:愛媛県)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ケニア)、レジオネラ症1例〔感染地域:高知県(温泉)〕、急性脳炎2例〔病原体不明2例(2歳、10代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例(60代3例)、髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:宮崎県_年齢群:60代)、風しん8例〔検査診断例7例、臨床診断例1例_感染地域:大阪府4例、東京都2例、富山県1例、タイ1例_年齢群:1歳(1例)、25〜29歳(2例)、30〜34歳(2例)、35〜39歳(1例)、40代(2例)〕などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第17週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(16.19)、佐賀県(6.92)、長崎県(5.37)、宮崎県(4.95)、福井県(4.59)、鹿児島県(4.07)、青森県(3.81)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症のの報告数は335例と微減した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約64%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では滋賀県(1.66)、島根県(1.26)、富山県(1.14)、宮崎県(1.14)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(4.64)、新潟県(4.05)、山形県(3.93)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では富山県(12.9)、新潟県(11.9)、山形県(11.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鹿児島県(3.11)、宮崎県(2.81)、佐賀県(2.78)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では宮崎県(3.53)、岡山県(3.19)、福岡県(2.89)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(2.22)、山形県(2.03)、栃木県(1.88)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では沖縄県(0.15)、広島県(0.10)、福岡県(0.10)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では鹿児島県(1.13)、宮崎県(1.06)、岡山県(0.70)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では長野県(4.44)、鳥取県(3.68)、鹿児島県(2.31)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では大阪府(1.73)、沖縄県(1.71)、宮城県(1.33)が多い。
注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症 (2011年5月25日現在)
2011年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第16週までは30例以下の報告が続いていたが、例年よりも早い第17週から増加し始めた。第18週70例、第19週65例と50例を超え、第20週は64例であった(図)。本年第20週までの累積報告数462例は、2000年以降の各年の累積数と比較して2001、2010年に次ぐ3番目に多い報告数である(2000年375例、2001年709例、2002年415例、2003年232例、2004年345例、2005年349例、2006年329例、2007年384例、2008年439例、2009年408例、2010年466例)。
|
|
|
図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(2000〜2011年第20週) |
|
|
第1〜20週の累積報告数462例についてみると、報告の多い都道府県は、食中毒による集団発生を反映して富山県(105例)、島根県(41例)が多く、次いで東京都(31例)、福岡県(26例)、神奈川県(22例)となっている(速報データ−2011年第20週:http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/2011prompt/20wEHEC.pdf 4. 累積報告数地図参照)。
性別では男性202例、女性260例、年齢群別では0〜9歳102例、10〜19歳98例、20〜29歳83例の順に多かった。
第16週以降に島根県の社会福祉施設で発生したO26 VT1・VT2による集団感染では、家族内感染を含めこれまでに計34例の感染者が報告されている。
また、第17週以降に富山県を中心(福井県、神奈川県、宮城県、大阪府からも報告)として同系列の焼肉店で発生した食中毒(O111 VT2、O157 VT1・VT2など)で、これまでに80例以上の感染者が報告されている。そのうち腸管出血性大腸菌感染症の重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症が28例報告されている。
第19週以降に発生した山形県のだんご店に関連した食中毒(O157 VT1・VT2)については、山形県からの報告は遅れており未報告であるが、山形県以外の宮城県、福島県、埼玉県、東京都からこれまでに計10例が報告されている。
さらに、第20週に富山県の焼肉店でO157 VT1・VT2による食中毒が発生した。
HUSは第20週までに累計37例(男性13例、女性24例)報告されており、年齢群別では0〜4歳4例、5〜9歳7例、10〜14歳4例、15〜64歳20例、65歳以上2例であった。死亡例は1例(80代男性、O157 VT1・VT2、HUS発症)報告されている。
今後、毎年本症が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、その発生動向には注意が必要である。食肉の十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。
(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。
◆ 手足口病
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行する疾患である。病原ウイルスは主にコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であり、その他コクサッキーA6、A9やA10などのエンテロウウイルスによっても発症する。例年4月頃から患者数が増加し始め、流行のピークは7月の中旬か下旬となり、8月に入ると減少していく、という経過を辿る。
臨床的特徴であるが、感染から3〜5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2〜3mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが軽度であり、高熱が続くことは通常はない。本症は基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患である。しかしながら、まれではあるが髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することがある。特にEV71に感染した場合は、中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが明らかとなってきているため、同ウイルスが流行している期間中は、手足口病発症児の経過を注意深く観察し、合併症に対する警戒を行う必要がある。なお、急性脳炎を合併した場合には、5類感染症全数届出疾患として報告が必要である。
感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染であり、保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。本疾患は主要症状が回復した後も比較的長期間にわたって児の便などからウイルスが排泄されることがあるが、基本的には軽症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて手足口病をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。2011年第20週の手足口病の定点当たり報告数は0.65(報告数2,033)と2週連続して増加した(図1)。都道府県別では宮崎県(3.53)岡山県(3.19)、福岡県(2.89)、香川県(2.87)、佐賀県(2.30)、大分県(1.94)、広島県(1.86)の順となっている。第20週は42都道府県で前週の報告数よりも増加がみられている一方、全国平均の定点当たり報告数を上回っているのは殆どが西日本の府県である(図2)。
累積報告数の年齢別割合をみると、発生報告の中心が5歳以下の乳幼児であることは例年と
同様であり、2011年は3歳以下で全体の80%以上を、また5歳までで全報告数の90%以上を占め
ている(図3)。
|
|
|
図1. 手足口病の年別・週別発生状況(2001〜2011年第20週) |
図2. 手足口病の都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第18〜20週) |
図3. 手足口病の年別・年齢別割合(2000〜2011年第20週) |
手足口病の報告数は、第20週に入って前週の2倍以上の増加が見られた。現在は主に西日本で患者の発生が認められているが、今後は夏季の流行のピークに向かって患者発生数は継続的に増加し、全国の保育園、幼稚園等の乳幼児の集団生活施設を中心に流行が広がっていくものと推察される。手足口病の発生動向には今後とも注意深い観察が必要である。
|