発生動向総覧
〈第22週コメント〉 6月8日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 379例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢2例
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菌種:S. flexneri (B群)1例_感染地域:インドネシア
不明1例_感染地域:東京都/ペルー
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腸管出血性大腸菌感染症38例(有症者27例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内37例、韓国1例
国内の感染地域:岩手県3例、神奈川県3例、新潟県3例、富山県3例、福島県2例、岐阜県2例、滋賀県2例、京都府2例、広島県2例、鹿児島県2例、宮城県1例、栃木県1例、埼玉県1例、大阪府1例、兵庫県1例、山口県1例、福岡県1例、宮崎県1例、不明5例
年齢群:1歳(4例)、2歳(1例)、3歳(2例)、4歳(2例)、5歳(2例)、7歳(2例)、9歳(1例)、10代(3例)、20代(5例)、30代(3例)、40代(3例)、50代(3例)、60代(5例)、80代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(17例)、O26 VT1(9例)、O157 VT2(5例)、O18 VT不明(1例)、O26 VT不明(1例)、O103 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、O146 VT2(1例)、O157 VT1(1例)
累積報告数:572例(有症者391例、うちHUS 41例.死亡1例)
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腸チフス2例(感染地域:バングラデシュ1例、ネパール1例)
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4類感染症: |
E型肝炎2例
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感染地域:三重県1例_感染源:不明
感染地域:岡山県1例_感染源:不明
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A型肝炎1例(感染地域:福岡県)
チクングニア熱1例(感染地域:インドネシア)
つつが虫病12例
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感染地域:秋田県5例、山形県3例、青森県1例、福島県1例、新潟県1例、広島県1例
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デング熱1例(感染地域:インド)
日本紅斑熱3例〔感染地域:広島県1例、香川県1例、国内(都道府県不明)1例〕
レジオネラ症14例(肺炎型14例)
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感染地域:埼玉県3例(うち1例温泉)、静岡県2例、滋賀県2例、兵庫県1例、岡山県1例、熊本県1例(温泉)、国内(都道府県不明)4例(うち1例温泉)
年齢群:50代(3例)、60代(6例)、70代(3例)、80代(2例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢9例(腸管アメーバ症7例、腸管外アメーバ症1例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:京都府2例、北海道1例、茨城県1例、神奈川県1例、兵庫県1例、国内(都道府県不明)1例、韓国1例、中国1例
感染経路:性的接触4例(異性間2例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、経口感染3例、その他・不明2例
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ウイルス性肝炎2例 |
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B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、同性間1例)
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急性脳炎2例 |
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単純ヘルペスウイルス1例_年齢群:50代
病原体不明1例_年齢群:40代
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クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例 |
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年齢群:30代(1例.死亡)、50代(1例.死亡)、60代(1例)、80代(1例.死亡)
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後天性免疫不全症候群19例〔AIDS 6例、無症候12例、その他1例〕 |
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感染地域:国内15例、オーストラリア1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触17例(異性間7例、同性間9例、異性/同性間1例)、不明2例
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ジアルジア症1例(感染地域:茨城県)
先天性風しん症候群1例(感染地域:ベトナム)
梅毒12例(早期顕症I期2例、早期顕症II期5例、晩期顕症2例、無症候3例)
風しん10例(検査診断例5例、臨床診断例5例) |
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感染地域:大阪府2例、福岡県2例、北海道1例、秋田県1例、茨城県1例、神奈川県1例、静岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(3例)、5〜9歳(2例)、20〜24歳(3例)、30〜34歳(1例)、40代(1例)
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麻しん13例〔麻しん(検査診断例1例、臨床診断例11例、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
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感染地域:国内13例
国内の感染地域:神奈川県3例、福岡県3例、兵庫県2例、北海道1例、埼玉県1例、千葉県1例、東京都1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:0歳(1歳)、1歳(1例)、5〜9歳(1例)、15〜19歳(3例)、20〜24歳(2例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(2例)
累積報告数:297例〔麻しん(検査診断例153例、臨床診断例91例)、修飾麻しん(検査診断例53例)〕
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(補)他に2011年第21週までに診断されたものの報告遅れとして、オウム病1例(感染地域:大阪府_感染源:動物)、デング熱1例(感染地域:シンガポール/マレーシア/タイ)、日本紅斑熱2例(感染地域:和歌山県1例、鹿児島県1例)、急性脳炎4例〔単純ヘルペスウイルス2例(0歳、60代)、ロタウイルス1例(0歳)、インフルエンザウイルスB型1例(9歳)〕、クリプトスポリジウム症1例(感染地域:三重県)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(70代、死亡)、風しん6例〔検査診断例3例、臨床診断例3例_感染地域:北海道3例、愛知県1例、大阪府1例、中国1例_年齢群:20〜24歳(1例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(2例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第17週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(13.05)、佐賀県(3.54)、鹿児島県(3.03)、長崎県(2.60)、新潟県(2.40)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は299例と減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約70%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では滋賀県(1.88)、富山県(1.48)、鹿児島県(1.24)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では福井県(5.1)、埼玉県(3.9)、宮崎県(3.8)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では大分県(13.1)、福井県(12.7)、富山県(10.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(3.31)、佐賀県(3.17)、山形県(2.79)、沖縄県(2.79)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では福岡県(5.1)、香川県(5.0)、岡山県(4.8)、佐賀県(4.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(2.61)、山形県(2.10)、栃木県(2.06)が多い。百日咳の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では沖縄県(0.18)、鳥取県(0.11)、岐阜県(0.09)、奈良県(0.09)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では鹿児島県(2.87)、香川県(2.20)、鳥取県(1.58)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では長野県(4.35)、鳥取県(3.79)、鹿児島県(3.15)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では沖縄県(1.86)、青森県(1.67)、福島県(1.57)が多い。
注目すべき感染症
◆ 伝染性紅斑
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は4〜5歳の幼児を中心に幼児、学童に好発する感染症であり、単鎖DNAウイルスであるヒトパルボウイルスB19(Human parvovirus B19)が本症の病原体である。典型例では両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれることもあるが、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、また多彩な臨床像があることなども明らかになってきている。
感染後約1週間で軽い感冒様症状を示す例がみられることがあるが、この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量は最も多くなる。本疾患の特徴的な症状は感染後10〜20日で出現する両頬の境界鮮明な紅斑であり、続いて腕、脚部にも両側性にレース様の紅斑がみられる。体幹部(胸腹背部)にまでこの発疹が出現する例もある(感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_23/k04_23.html 写真1、写真2参照)。発熱はあっても軽度である。本疾患の大きな特徴として、発疹出現時期を迎えて伝染性紅斑と臨床的に診断された時点は抗体産生後であり、ウイルス血症はほぼ終息し、既に周囲への感染性は殆どないといわれている。
成人では両頬の蝶形紅斑は少ない。一方、合併症である関節痛・関節炎の頻度は小児では約10%以下といわれているが、成人男性では約30%、成人女性では約60%と高率である。また、妊婦が感染すると、胎児水腫や流産の可能性がある。妊娠前半期の方がより危険性が高いが、後半期にも胎児感染は生じるとの報告もある。なお、先天性風しん症候群のように、妊婦が伝染性紅斑の原因ウイルスであるヒトパルボウイルスB19に感染したことにより、先天奇形をもった児が出産されたとの報告はこれまでにない。その他、溶血性貧血患者が感染した場合の貧血発作(aplastic crisis)を引き起こすことがあり、他にも血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群等の稀ではあるが重篤な合併症が知られている。
感染経路は通常は飛沫感染もしくは接触感染であるが、まれにウイルス血症の時期に採取された血液製剤からの感染の報告がある。本症は紅斑出現の時期には殆ど感染力がないが、反対にウイルス排泄時期には特徴的な症状を呈さないために診断に至らず、実際的な二次感染予防策は存在しない。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて伝染性紅斑をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。伝染性紅斑は例年夏季に報告数が増加し、第26週または第27週前後がそのピークとなることが多い。1987年、1992年、1997年、そして2000年以降では2001年、2007年とほぼ4〜6年ごとの周期で患者発生数の増加がみられている。2008〜2009年の報告数は減少し、夏季の流行のピークも定かではない状態が続いていたが、その後2010年の報告数は前年よりも増加し、特に秋季以降は例年よりも高い水準となり、2011年に入って現在まで継続している。2011年第22週の伝染性紅斑の定点当たり報告数は0.90(報告数2,818)となり、前週の報告数(定点当たり報告数0.71)よりも増加した(図1)。都道府県別では宮崎県(2.61)、山形県(2.10)、栃木県(2.06)、群馬県(1.88)、静岡県(1.86)、佐賀県(1.65)、埼玉県(1.60)の順であり、36都府県で前週の報告数よりも増加がみられており、特に宮崎県、静岡県、群馬県、和歌山県の増加が目立っている(図2)。2011年第1〜22週までの定点当たり累積報告数は14.35(累積報告数44,972)であり、2000年以降では2007年(定点当たり累積報告数14.71)に次いで多い報告数となっている。年齢群別割合をみると、4〜5歳が31.8%と最多であり、次いで6〜7歳(25.2%)、2〜3歳(16.9%)、8〜9歳(13.1%)の順となっており、7歳までで全報告数の75%以上を、9歳以下で90%以上を占めているのは例年と同様である(図3)。
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図1. 伝染性紅斑の年別・週別発生状況(2001〜2011年第22週) |
図2. 伝染性紅斑の都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第20〜22週) |
図3. 伝染性紅斑の年別・年齢群別割合(2000〜2011年第22週) |
伝染性紅斑の報告数は、例年よりも高い水準を保ったまま、間もなく夏季の流行のピークを迎えることとなると推測される。伝染性紅斑は、多彩な臨床像を呈することからも、実際に診断されているのは感染者の中の一部である可能性があり、加えて紅斑や発疹が出現して臨床的に診断が容易になる前に周囲への感染性があることより、その感染対策は極めて困難であると言わざるを得ない。保育園、幼稚園、小学校等の小児の集団生活施設で流行が発生している際には、その流行が収束するまでの間、妊婦等が施設内に立ち入ることを制限することを考慮すべきである。今後とも伝染性紅斑の発生動向には注意が必要である。
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