発生動向総覧
〈第25週コメント〉 6月29日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 345例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢5例
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菌種:S. flexneri(B群)3例_感染地域:ミャンマー2例、ケニア/タンザニア/アラブ首長国連邦1例
S. boydii (C群)1例_感染地域:インド
S. sonnei(D群)1例_感染地域:国内(都道府県不明)
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腸管出血性大腸菌感染症83例(有症者54例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内82例、韓国1例
国内の多い感染地域:富山県14例*、大阪府11例、鹿児島県5例、兵庫県4例、岡山県4例、埼玉県3例、千葉県3例、愛知県3例、島根県3例**、大分県3例、宮城県2例、神奈川県2例、福井県2例、静岡県2例、福岡県2例、長崎県2例
* 仕出し弁当に関連した食中毒患者を含む(O26 VT1)
** 社会福祉施設に関連した集団感染例を含む(O26 VT1・VT2)
年齢群:1歳(1例)、2歳(3例)、3歳(2例)、4歳(3例)、5歳(3例)、6歳(1例)、7歳(1例)、8歳(3例)、9歳(1例)、10代(7例)、20代(14例)、30代(11例)、40代(7例)、50代(5例)、60代(7例)、70代(7例)、80代(6例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(30例)、O26 VT1(22例)、O103 VT1(6例)、O157 VT2(6例)、O26 VT1・VT2(4例)、O157 VT1(2例)、O157 VT不明(2例)、O18 VT1(1例)、O26 VT不明(1例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O145 VT2(1例)、その他・不明(5例)
累積報告数:1,087例(有症者748例、うちHUS 48例.死亡2例)
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4類感染症: |
E型肝炎2例
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感染地域:福岡県1例_感染源:不明
感染地域:国内(都道府県不明)1例_感染源:馬刺し、レバ刺し
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A型肝炎1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)
つつが虫病8例
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感染地域:青森県2例、秋田県2例、岩手県1例、福島県1例、新潟県1例、青森県/秋田県1例
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デング熱1例(感染地域:フィリピン)
レジオネラ症12例(肺炎型11例、ポンティアック型1例)
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感染地域:広島県2例、香川県2例、北海道1例、埼玉県1例(温泉)、富山県1例、長野県1例、京都府1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:30代(1例)、40代(1例)、50代(1例)、60代(5例)、70代(1例)、80代(2例)、90代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢6例(腸管アメーバ症5例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:東京都2例、兵庫県2例、国内(都道府県不明)1例、インドネシア1例
感染経路:性的接触2例(同性間2例)、経口感染1例、不明3例
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ウイルス性肝炎2例 |
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B型1例_感染経路:性的接触(異性間)
C型1例_感染経路:針等の鋭利なものの刺入/静注薬物常用
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急性脳炎4例 |
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ムンプスウイルス1例_年齢群:5歳
病原体不明3例_年齢群:2歳(1例)、3歳(1例)、50代(1例)
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クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例 |
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年齢群:30代(1例)、80代(1例.死亡)、90代(1例.死亡)
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後天性免疫不全症候群20例(AIDS 6例、無症候13例、その他1例) |
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感染地域:国内16例、国内・国外不明4例
感染経路:性的接触16例(異性間3例、同性間11例、異性/同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明4例
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ジアルジア症1例(感染地域:京都府)
梅毒10例(早期顕症I期1例、早期顕症II期1例、晩期顕症1例、無症候7例)
破傷風1例(年齢群:70代)
風しん11例(検査診断例10例、臨床診断例1例) |
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感染地域:神奈川県3例、福岡県3例、新潟県2例、東京都1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:15〜19歳(1例)、20〜24歳(3例)、40代(3例)、50代(1例)、60代(2例)、70代(1例)
累積報告数:218例(検査診断例167例、臨床診断例51例)
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麻しん12例〔麻しん(検査診断例1例、臨床診断例5例)、修飾麻しん(検査診断例6例)〕
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感染地域:国内12例
国内の感染地域:神奈川県3例、福岡県2例、栃木県1例、埼玉県1例、石川県1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:0歳(1例)、3歳(2例)、5〜9歳(1例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(2例)、40代(3例)、50代(1例)、70代(1例)
累積報告数:331例〔麻しん(検査診断例162例、臨床診断例104例)、修飾麻しん(検査診断例65例)〕
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(補)他に2011年第24週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎2例〔感染地域_感染源:北海道1例_不明、国内(都道府県不明)1例_不明〕、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:シエラレオネ)、レジオネラ症2例〔感染地域:大阪府1例(温泉)、兵庫県1例(温泉)〕、急性脳炎4例〔病原体不明4例_1歳(2例)、2歳(1例)、20代(1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例〔50代1例(死亡)、70代1例(死亡)、80代2例(うち1例死亡)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:Van C_菌検出検体:腹水)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第17週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(4.55)、鹿児島県(1.34)、佐賀県(0.79)、青森県(0.59)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は289例と増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約78%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では滋賀県(2.97)、宮崎県(2.00)、福井県(1.73)、三重県(1.53)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では福井県(4.00)、山形県(3.53)、埼玉県(3.36)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では大分県(9.3)、山形県(7.4)、熊本県(6.3)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では宮崎県(2.81)、山形県(2.47)、福岡県(2.33)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では佐賀県(21.5)、福岡県(21.1)、徳島県(15.9)、愛媛県(15.1)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(3.92)、群馬県(3.16)、栃木県(3.13)、埼玉県(3.03)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では栃木県(0.15)、広島県(0.15)、徳島県(0.13)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では鹿児島県(7.4)、徳島県(7.2)、香川県(6.1)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では長野県(4.64)、鳥取県(3.00)、愛媛県(2.73)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(3.86)、青森県(3.17)、宮城県(2.25)、愛知県(2.07)が多い。
注目すべき感染症
◆ 伝染性紅斑
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は、ヒトパルボウイルスB19(Human parvovirus B19)を病原体とし、4〜5歳の幼児を中心に幼児、学童に好発する流行性の発疹性疾患である。典型例では両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれることもあるが、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、また多彩な臨床像があることなども明らかになってきている。
感染後約1週間で軽い感冒様症状を示す例がみられることがあるが、この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量は最も多くなる。本疾患の特徴的な症状は感染後10〜20日で出現する両頬の境界鮮明な紅斑であり、続いて腕、脚部にも両側性にレース様の紅斑がみられる。体幹部(胸腹背部)にまでこの発疹が出現する例もある(感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_23/k04_23.html 写真1、写真2参照)。発熱はあっても軽度である。本疾患の大きな特徴として、発疹出現時期を迎えて伝染性紅斑と臨床的に診断された時点は抗体産生後であり、ウイルス血症はほぼ終息し、既に周囲への感染性は殆どないといわれている。
成人では両頬の蝶形紅斑は少ない。一方、合併症である関節痛・関節炎の頻度は小児では約10%以下といわれているが、成人男性では約30%、成人女性では約60%と高率である。また、妊婦が感染すると、胎児水腫や流産の可能性がある。妊娠前半期の方がより危険性が高いが、後半期にも胎児感染は生じるとの報告もある。なお、先天性風しん症候群のように、妊婦が伝染性紅斑の原因ウイルスであるヒトパルボウイルスB19に感染したことにより、先天奇形をもった児が出産されたとの報告はこれまでにない。その他、溶血性貧血患者が感染した場合の貧血発作(aplastic crisis)を引き起こすことがあり、他にも血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群等の稀ではあるが重篤な合併症が知られている。
感染経路は通常は飛沫感染もしくは接触感染であるが、まれにウイルス血症の時期に採取された血液製剤からの感染の報告がある。本症は紅斑出現の時期には殆ど感染力がないが、反対にウイルス排泄時期には特徴的な症状を呈さないために診断に至らず、実際的な二次感染予防策は存在しない。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて伝染性紅斑をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。伝染性紅斑の報告数は例年夏季に増加し、第26週または第27週前後がピークとなることが多い。伝染性紅斑は1982年よりその発生動向の調査が開始されているが、これまで流行のピークが高く、比較的大きな流行となったのは、1987年、1992年、1997年(感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/iasr/19/217/graph/f2171j.gif 参照)、そして2000年以降では2001年、2007年であり、ほぼ4〜6年ごとの周期で大きな流行時期を迎えている。2008〜2009年の報告数は減少し、夏季の流行のピークも定かではない状態が続いていたが、その後2010年の報告数は前年よりも増加し、特に秋季以降は例年よりも高い水準となり、2011年に入ってその高い水準を保ったまま現在まで継続している。2011年第25週の伝染性紅斑の定点当たり報告数は1.47(報告数4,618)となり、前週の報告数(定点当たり報告数0.96)よりも大きく増加した(図1)。伝染性紅斑の定点当たり報告数が1.4を上回ったのは1992年以来である。
都道府県別では宮崎県(3.92)、群馬県(3.16)、栃木県(3.13)、埼玉県(3.03)、福島県(2.71)、静岡県(2.63)、愛知県(2.40)の順となっている。43都道府県で前週よりも増加がみられており、特に宮崎県、埼玉県、群馬県の増加が目立っている(図2)。
2011年第1〜25週までの定点当たり累積報告数は17.84(累積報告数55,901)であり、2000年以降の同期間では最も多い報告数となっている。年齢群別割合をみると、4〜5歳が31.6%と最多であり、次いで6〜7歳(25.0%)、2〜3歳(17.1%)、8〜9歳(13.3%)の順となっており、7歳までで全報告数の75%以上を、9歳以下で90%以上を占めているのは例年と同様である(図3)。
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図1. 伝染性紅斑の年別・週別発生状況(2001〜2011年第25週) |
図2. 伝染性紅斑の都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第23〜25週) |
図3. 伝染性紅斑の年別・年齢群別割合(2000〜2011年第25週) |
2011年の伝染性紅斑の流行は、例年よりも大きな流行となり、現在そのピークを迎えつつあるものと推測される。しかし、伝染性紅斑は多彩な臨床像を呈する疾患であり、診断されているのは感染者の中の一部に過ぎず、実際にはより多くの者が本疾患の病原体であるヒトパルボウイルスB19に感染している可能性がある。また、伝染性紅斑は紅斑や発疹が出現して臨床的に診断が容易になる前に周囲への感染性があることより、その感染対策は困難であると言わざるを得ない。現在、国内の保育園、幼稚園、小学校等の小児の集団生活施設では、本疾患が流行しているところも少なくないと思われるが、その場合流行が収束するまでの間、妊婦等が施設内に立ち入ることを制限することを考慮すべきである。今しばらくは伝染性紅斑の発生動向には注意が必要である。
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