発生動向総覧
〈第26週コメント〉 7月6日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 379例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
|
|
菌種:S. sonnei (D群)3例_感染地域:長野県2例、東京都1例
|
腸管出血性大腸菌感染症63例(有症者44例、うちHUS 1例) |
|
感染地域:国内60例、韓国3例
国内の多い感染地域:富山県10例*、東京都7例、大阪府4例、福岡県4例、鹿児島県3例、長野県2例、滋賀県2例、山口県2例、香川県2例、宮崎県2例**
* 仕出し弁当に関連した食中毒患者を含む(O26 VT1)
** 保育園に関連した集団感染例を含む(O26 VT1)
年齢群:0歳(1例)、1歳(4例)、2歳(4例)、3歳(2例)、6歳(2例)、7歳(2例)、9歳(1例)、10代(10例)、20代(6例)、30代(4例)、40代(7例)、50代(8例)、60代(4例)、70代(5例)、80代(3例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(16例)、O26 VT1(15例)、O157 VT2(9例)、O103 VT1(5例)、O157 VT不明(4例)、O145 VT2(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O26 VT不明(1例)、O55 VT1(1例)、O91 VT1(1例)、O91 VT不明(1例)、O111 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O157 VT1(1例)、その他・不明(4例)
累積報告数:1,173例(有症者810例、うちHUS 50例.死亡5例)
|
腸チフス1例(感染地域:フィリピン)
|
4類感染症: |
E型肝炎1例
|
|
感染地域:国内(都道府県不明)_感染源:不明
|
A型肝炎1例(感染地域:三重県)
つつが虫病4例(感染地域:青森県4例)
日本紅斑熱8例(うち1例死亡)
|
|
感染地域:広島県3例、三重県2例、島根県1例、徳島県1例、高知県1例
|
レジオネラ症20例(肺炎型20例)
|
|
感染地域:神奈川県2例、富山県2例、茨城県1例、栃木県1例、埼玉県1例、東京都1例、新潟県1例、石川県1例、滋賀県1例、大阪府1例、兵庫県1例、奈良県1例、島根県1例、山口県1例、香川県1例、福岡県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:40代(2例)、50代(4例)、60代(8例)、70代(4例)、80代(2例)
|
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢8例(腸管アメーバ症8例) |
|
感染地域:岐阜県1例、三重県1例、福岡県1例、佐賀県1例、国内(都道府県不明)2例、中国/韓国1例、国内(都道府県不明)/国外(国不明)1例
感染経路:経口感染2例、性的接触1例(異性間)、不明5例
|
ウイルス性肝炎4例 |
|
B型3例_感染経路:性的接触(異性間)1例、不明2例
サイトメガロウイルス1例_感染経路:性的接触(異性間・同性間不明)
|
急性脳炎1例(病原体不明_年齢群:20代)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例 |
|
年齢群:60代(2例)、80代(2例.うち1例死亡)
|
後天性免疫不全症候群13例(AIDS 1例、無症候12例) |
|
感染地域:国内9例、韓国1例、国外(国不明)1例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触12例(異性間2例、同性間10例)、性的接触(同性間)/静注薬物使用1例
|
ジアルジア症1例(感染地域:インド) 髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:千葉県) 梅毒7例(早期顕症II期5例、無症候2例)
破傷風1例(年齢群:80代)
風しん6例(検査診断例3例、臨床診断例3例) |
|
感染地域:茨城県1例、東京都1例、静岡県1例、大阪府1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:10〜14歳(1例)、20〜24歳(2例)、30〜34歳(2例)、35〜39歳(1例)
累積報告数:231例(検査診断例173例、臨床診断例58例)
|
麻しん13例〔麻しん(検査診断例3例、臨床診断例6例)、修飾麻しん(検査診断例4例)〕
|
|
感染地域:国内12例、フィリピン1例
国内の感染地域:神奈川県4例、栃木県2例、埼玉県2例、千葉県1例、東京都1例、愛知県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:0歳(1例)、1歳(4例)、4歳(2例)、5〜9歳(1例)、15〜19歳(2例)、25〜29歳(2例)、40代(1例)
累積報告数:348例〔麻しん(検査診断例170例、臨床診断例107例)、修飾麻しん(検査診断例71例)〕
|
(補)他に梅毒2例(無症候2例)の報告があったが削除予定。また、2011年第25週までに診断されたものの報告遅れとして、日本紅斑熱1例(感染地域:長崎県)、レジオネラ症1例(感染地域:沖縄県.死亡)、急性脳炎1例〔ロタウイルス(0歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔70代(2例.うち1例死亡)〕などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第17週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(3.10)、鹿児島県(0.59)、福島県(0.31)、青森県(0.28)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は328例と2週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約71%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では滋賀県(2.38)、香川県(1.73)、宮崎県(1.67)、福島県(1.58)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では福井県(3.55)、高知県(3.37)、埼玉県(3.35)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第23週以降減少が続いている。都道府県別では大分県(7.4)、山形県(6.4)、宮崎県(6.3)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(3.47)、福井県(3.09)、熊本県(2.92)、大分県(2.92)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では佐賀県(38.4)、福岡県(31.6)、愛媛県(27.2)、熊本県(26.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(2.67)、群馬県(2.10)、長野県(2.09)、山形県(2.07)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では徳島県(0.30)、沖縄県(0.21)、宮崎県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では徳島県(8.8)、鹿児島県(8.8)、宮崎県(6.6)、香川県(5.9)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では鹿児島県(3.09)、鳥取県(3.00)、長野県(2.96)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(3.00)、青森県(1.83)、栃木県(1.43)、宮城県(1.42)が多い。
注目すべき感染症
◆ 手足口病
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行する疾患である。臨床的特徴としては、通常は感染から3〜5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2〜3mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが微熱であることが多く、高熱が続くことはあまりない。基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患であるとされている。しかし稀ではあるが、髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することが以前より知られている。
病原ウイルスは主にコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であり、その他CA6、CA9やCA10などのエンテロウイルスによっても発症する。手足口病の感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染であり、保育園や幼稚園などの乳幼児の集団生活施設においての感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。手足口病の病原ウイルスに感染しても全員が典型的な症状を呈するものではなく、不顕性感染例も存在することから、発症して診断された者を隔離しても効果的な対策とはならないと考えるべきである。また、主要症状が回復した後も比較的長期間にわたって児の便などからウイルスが排泄されることがあるが、基本的には軽症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。
手足口病は例年4月頃から患者数が増加し始め、流行のピークは7月の中旬か下旬となり、8月に入ると減少していく、という経過を辿る。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて手足口病をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。手足口病の報告数は2011年第19週以降増加が続いており、第26週の定点当たり報告数は7.2(報告数22,506)と前週(定点当たり報告数4.27)よりも大きく増加し、1982年に同調査が開始されて以来では、1995年の第28週(定点当たり報告数7.7)に次いで多い値となった(図1)。都道府県別では佐賀県(38.4)、福岡県(31.6)、愛媛県(27.2)、熊本県(26.4)、山口県(22.6)、徳島県(21.9)、長崎県(19.3)、島根県(17.1)、兵庫県(14.6)、香川県(13.2)の順となっており、岩手県を除く46都道府県で前週の報告数よりも増加がみられている。手足口病の流行は中国、四国、九州の地域で大きく、定点当たり報告数の全国平均値を上回っているのは福井県、滋賀県と、この2県よりも西側の府県のみである(図2)。2011年第1〜26週の定点当たり累積報告数は21.01(累積報告数65,843)であり、年齢群別では0〜1歳の報告割合が40.3%と例年と比べて高い割合となっている(図3)。
|
|
|
図1. 手足口病の年別・週別発生状況(2001〜2011年第26週) |
図2. 手足口病の都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第24〜26週) |
図3. 手足口病の年別・年齢群別割合(2000〜2011年第26週) |
手足口病の原因ウイルスは、CA16とEV71が代表的であるが、2011年は現時点(2011年7月6日現在)では総検出報告数は126件と少ないものの、CA6が患者から検出されたウイルスの半数以上を占めている(図4)。
|
|
|
図4. 手足口病由来ウイルス分離・検出報告割合(2007〜2011年第26週) |
|
|
これまでのところ、手足口病の流行は西日本を中心に急速に拡大してきている。臨床現場からは本年の手足口病は、従来の典型例と比べて発疹が大きく、四肢末端に限局せずに広範囲に認められる症例が目立つとの情報も寄せられている(本号14ページ「速報」、16ページ「読者のコーナー」参照)。2011年の手足口病の定点当たり報告数は、間もなく夏季の流行のピークを迎えるものと推察される。今後も流行の拡大には注意が必要である。
|