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発生動向総覧 〈第29週コメント〉 7月27日集計分 ◆全数報告の感染症 注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。 インフルエンザ: 定点当たり報告数は第17週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(1.40)、佐賀県(0.13)、鹿児島県(0.13)が多い。 注目すべき感染症 ◆ 風しん 2011年第1〜29週(2011年7月27日現在)
性別では男性199例(76.0%)、女性63例(24.0%)と、男性は女性の3倍を超える報告数であった(図4)。平均年齢(標準偏差)は男性32.0(±12.7)歳、女性24.4歳(±15.0歳)であり、有意に男性のほうが高かった(t検定、p<0.01)。年齢中央値も同様の値だった。年齢群別では、男性では30代60例(30.2%)、20代57例(28.6%)、40代39例(19.6%)の順に多く、これら20〜40代の報告数が全体の78.4%を占め、10歳未満は8例(4.0%)のみであった。女性では20代21例(33.3%)、10代および10歳未満各11例(17.5%)、30代10例(15.9%)の順であった(図4)。 男女別に、接種歴別・年齢別累積報告数をみると、男性では20歳以上が大半(86.4%)であり、またそのほとんどが、接種歴がないか不明の症例であった。男性全体での接種歴は1回接種あり12例(6.0%)、2回接種あり1例(0.5%)、接種歴なし46例(23.1%)、接種歴不明140例(70.4%)であり、女性全体では1回接種あり10例(15.9%)、2回接種あり3例(4.8%)、接種歴なし15例(23.8%)、接種歴不明35例(55.6%)であった(図5)。1回以上の接種歴のある割合は男性のほうが有意に低かった(χ2検定、p<0.01)。 累積報告数の病型別割合は、男女全体では検査診断例が75.2%(197例)であったが、男女別にみると、男性で検査診断例が79.4%(158例)であるのに対して、女性では61.9%(39例)で有意に低かった(χ2検定、p<0.01)(図6)。この差は、検査診断された男性との疫学的リンクが認められた女性患者が多かった可能性があるが、感染症発生動向調査上の報告内容からは把握できなかった。今後妊娠を希望する女性にとって、風しんの正確な罹患歴は非常に重要な情報である。検査診断された患者からの感染が明らかでない場合などには、特に妊娠出産年齢の女性においては正確に検査診断されることが望まれる。
先天性風しん症候群(congenital rubella syndrome:CRS)は、風しんウイルスが胎内感染することによって生ずる疾患である〔疾患についての詳細は感染症発生動向調査週報(IDWR)2002年第21週号「感染症の話:先天性風疹症候群http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_21/k02_21.html」などを参照していただきたい〕。先天性風しん症候群は1999年4月から5類の全数把握疾患であり、1999年0例、2000〜2003年各1例、2004年10例、2005年2例、2006〜2008年各0例、2009年2例、2010年0例であり、2011年はこれまでに1例報告されている。2009年の2症例のうち1例は海外感染例であったが、2011年の1例も海外の実家へ帰省していた妊婦が、その帰省中に感染した症例だった。2004年は複数の自治体で風しんの地域流行があり、全国の罹患数推計値は3.9万人(95%信頼区間2.7〜5.1万)に上り、その結果としてCRSも最も多く報告されたものと思われる。しかしこの時には、2003年、2004年に明らかな地域流行が認められなかった地域においてもCRSの報告があった。また、明らかな風しんの地域流行がなく、散発例が大半を占めた2009年(累積報告数147例)においても国内感染によるCRSの報告があったことも強調しておきたい。このように、国内外の地域流行の有無に関わらず、妊婦の風しん感染とそれによるCRS発生のリスクに注意が必要といえる。 2011年の風しんは、2008年以降で最も多いペースで報告されている。第29週までの感染症発生動向調査における特徴は、子を持つ機会の多い年代の成人を中心に発生していることである。特に男性では9割近くが20歳以上の症例である。これは、複数の自治体から報告されている職場や学校などでの成人男性を中心とした集団発生の反映と考えられる。また、職場などにとどまらず、地域での流行が懸念されるところもある。風しんは、一般的には数日で治癒する予後の良好な感染症だが、特に問題となるのは妊娠中の女性への感染である。実際に今年は、職場で感染したと思われる男性から、その妻や子へ感染したと思われる症例の報告があった。「年齢/年齢群別の風疹抗体保有状況〜2010年度感染症流行予測調査より〜 http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Rubella/Serum-R2010.html」の結果から、風しんHI抗体保有率が成人男性で低いことが示されており、風しんを発症した成人男性から妊婦への感染によるCRS発生が懸念される。 前述した、近年で最も大きな流行となった2004年には、同年4月9日に厚生労働省より「先天性風しん症候群の発生防止についてhttp://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/160409-1.pdf」(健康局結核感染症課長通知)が発出され、さらに同年9月9日には「風疹流行にともなう母児感染の予防対策構築に関する研究(班長:平原史樹・横浜市立大学大学院医学研究科教授)」による「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言http://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/rec200408rev3.pdf」がなされた。この提言をうけ、同日厚生労働省より「風しん対策の強化についてhttp://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/20040909.pdf」(健康局結核感染症課長通知)も発出された。このなかでは、?風しんの定期予防接種対象者への接種の強化とともに、妊婦への感染を抑制するため、妊婦の夫や同居家族、妊娠を希望・妊娠の可能性が高い女性などへの予防接種や、?風しん罹患(またはその疑いのある)妊娠女性に対する適切な対応、また、?地域での流行が発生した場合に、感染拡大を防ぐための疫学調査の実施が要請されている。現在風しんが多く発生している地域では、これらの提言や通知に記載された内容が、対策を考えるうえで一助となるだろう。 わが国では風しんワクチンは1977年から女子中学生を対象に定期接種に導入されたが、1995年から1〜7歳半の男女と中学生の男女が定期接種の対象となり(実施の経緯については病原微生物検出情報IASR Vol.24 p55-57「風疹ワクチン接種率の推移」http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/dj2771.html などを参照していただきたい)、2006年4月1日からは第1期として生後12〜24カ月未満の者に、第2期として5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者に麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種として実施されている。さらに2008年4月1日から5年間は、第3期(中学1年生相当)と第4期(高校3年生相当)の定期接種が始まり、MRワクチンの2回目の接種機会が確保された。風しんおよびCRSは予防接種により予防できる疾患である。これらの定期接種対象者はもちろん、将来妊娠を望む女性とその夫や同居家族などの成人も積極的にMRワクチンを接種していただきたい。 ◆ 腸管出血性大腸菌感染症 2011年第1〜29週(2011年7月27日現在) 2011年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、例年よりも早い第17週から増加し始めた。集団感染事例(食中毒*を含む)が複数発生したため報告数が急増し、第19週163例、第20週167例と一時的にピークを形成した後、一旦減少した。第22週を境に再び増加に転じたが、第23週以降100例前後の報告が続いており、第29週は116例であった(図)。本年第29週までの累積報告数1,518例は、2000年以降の同週までの各年別累積報告数と比較して2001、2010、2007年に次いで4番目に多い報告数である(2000年1,300例、2001年1,824例、2002年1,407例、2003年1,015例、2004年1,406例、2005年1,391例、2006年1,321例、2007年1,576例、2008年1,443例、2009年1,369例、2010年1,604例)。 第1〜29週の累積報告数1,518例についてみると、報告の多い都道府県は、食中毒による集団発生を反映して山形県(208例)、富山県(147例)が多く、次いで東京都(90例)、千葉県(77例)、島根県(70例)、福岡県(64例)となっている(速報データ−2011年第29週:http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/2011prompt/29wEHEC.pdf 4. 累積報告数地図参照)。性別では男性687例、女性831例、年齢群別では0〜9歳431例、10〜19歳243例、20〜29歳204例の順に多かった。 腸管出血性大腸菌感染症の重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症は、第29週までに累計57例(男性19例、女性38例:有症状者におけるHUS発症率5%)報告されており、年齢群別では0〜4歳8例、5〜9歳10例、10〜14歳6例、15〜64歳27例、65歳以上6例であった。このうちの30例は富山県を中心とした同系列の焼肉店で発生した食中毒(O111 VT2、O157 VT1・VT2など)の患者であり、うち14例は脳症も発症していた。また、4例は山形県のだんご店に関連した食中毒(O157 VT1・VT2)患者である。残りの23例のうち、推定または確定された感染源・感染経路として肉の喫食が記載されていた者が10例あり、そのうち生肉を喫食していた者は3例(10〜14歳2例、65歳以上1例)であった。死亡は7例(3歳1例、6歳1例、40代1例、70代1例、80代3例)報告されている。
本年第24週以降これまでに認められている主な集団感染事例は、第26週に宮崎県(保育園、O26 VT1)、第28週に長崎県(保育園、O26 VT1)などで発生し(第29週コメント参照)、7月に入り保育施設に関連した集団感染事例が増加している。 毎年本症が数多く発生する夏季に入り、その発生動向には引き続き注意が必要である。食肉の十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに、過去には動物とのふれあい体験での感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意が必要である。
*食中毒:食品衛生法に基づいて届出されたもの |
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