発生動向総覧
〈第32週コメント〉 8月17日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 346例 |
3類感染症: |
コレラ1例(感染地域:フィリピン)
細菌性赤痢4例
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菌種:S. flexneri(B群)1例_感染地域:インドネシア
S. sonnei(D群)3例_感染地域:兵庫県1例、中国1例、インド1例
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腸管出血性大腸菌感染症200例(有症者131例、うちHUS 4例、うち死亡1例) |
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感染地域:国内200例
国内の多い感染地域:栃木県24例*、岩手県15例**、千葉県14例***、山形県12例、石川県11例****、東京都9例、静岡県8例、大阪府8例、福岡県8例、愛知県7例、京都府7例、鹿児島県6例、埼玉県5例、三重県5例
* 医療機関と福祉施設で発生した食中毒患者を含む(O157 VT1・VT2、O145 VT2)
** 保育所に関連した集団感染例を含む(O26 VT1)
*** 福祉施設で発生した食中毒患者を含む(O157 VT1・VT2)
**** 保育所に関連した集団感染例を含む(O111 VT1)
年齢群:0歳(4例)、1歳(7例)、2歳(3例)、3歳(6例)、4歳(7例)、5歳(6例)、6歳(1例)、7歳(6例)、8歳(4例)、9歳(2例)、10代(28例)、20代(28例)、30代(16例)、40代(20例)、50代(17例)、60代(16例)、70代(11例)、80代(17例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(84例)、O157 VT2(23例)、O145 VT2(21例)、O26 VT1(18例)、O157 VT不明(14例)、O26 VT1・VT2(9例)、O111 VT1(4例)、O145 VT1(4例)、O157 VT1(4例)、O103 VT1(3例)、O111 VT1・VT2(2例)、O128 VT1(1例)、O145 VT不明(1例)、その他・不明(12例)
累積報告数:2,342例(有症者1,625例、うちHUS 73例.死亡9例)
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腸チフス1例(感染地域:パキスタン)
パラチフス1例(感染地域:インド)
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4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:フィリピン)
つつが虫病2例(感染地域:山形県1例、沖縄県1例)
デング熱1例(感染地域:インドネシア)
マラリア3例
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三日熱1例_感染地域:インド
熱帯熱1例_感染地域:ナイジェリア
原虫種不明1例_感染地域:国外(国不明)
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類鼻疽1例(感染地域:ベトナム/カンボジア)
レジオネラ症5例(肺炎型5例)
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感染地域:埼玉県1例、神奈川県1例、福岡県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:40代(1例)、50代(2例)、60代(2例)
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レプトスピラ症1例(感染地域:タイ_感染源:川、滝)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢13例(腸管アメーバ症11例、腸管外アメーバ症1例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:東京都4例、千葉県2例、宮城県1例、国内(都道府県不明)4例、韓国1例、インドネシア1例
感染経路:性的接触5例(異性間3例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、経口感染2例、その他1例、不明5例
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ウイルス性肝炎1例〔B型_感染経路:性的接触(異性間・同性間不明)〕
急性脳炎2例 |
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ヘルペスウイルス1例_年齢群:60代
病原体不明1例_年齢群:4歳
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クロイツフェルト・ヤコブ病2例 |
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孤発性プリオン病古典型1例
遺伝性プリオン病家族性1例
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劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:70代.死亡)
後天性免疫不全症候群8例(AIDS 3例、無症候5例) |
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感染地域:国内7例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触7例(異性間2例、同性間5例)、不明1例
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梅毒7例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、無症候4例)
風しん4例(検査診断例2例、臨床診断例2例) |
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感染地域:岐阜県1例、大阪府1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:20〜24歳(1例)、30〜34歳(2例)、40代(1例)
累積報告数:285例(検査診断例217例、臨床診断例68例)
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麻しん7例〔麻しん(検査診断例4例、臨床診断例2例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
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感染地域:国内7例
国内の感染地域:埼玉県2例、神奈川県2例、東京都1例、静岡県1例、愛知県1例
年齢群:1歳(2例)、25〜29歳(2例)、30〜34歳(2例)、40代(1例)
累積報告数:391例〔麻しん(検査診断例182例、臨床診断例120例)、修飾麻しん(検査診断例89例)〕
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(補)2011年第31週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎2例(感染地域:北海道1例、東京都1例_感染源:不明2例)、日本紅斑熱3例(感染地域:三重県2例、愛知県1例)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ガーナ)、急性脳炎1例〔病原体不明(0歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔30代(1例)、60代(1例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第17週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(0.69)、鹿児島県(0.08)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は838例と3週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約78%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では秋田県(1.32)、新潟県(1.23)、宮崎県(0.94)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第24週以降減少が続いている。都道府県別では大分県(1.19)、佐賀県(1.09)、山口県(1.05)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では福井県(5.1)、大分県(5.0)、宮崎県(4.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では宮崎県(1.61)、福井県(1.32)、山口県(1.18)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では岩手県(13.2)、青森県(12.3)、大分県(10.0)、山形県(9.8)、高知県(9.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(1.67)、愛媛県(1.05)、福島県(0.94)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では千葉県(0.15)、兵庫県(0.13)、沖縄県(0.09)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(12.6)、長野県(8.6)、群馬県(6.9)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では愛媛県(3.08)、鳥取県(2.63)、鹿児島県(2.55)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(3.14)、大阪府(2.60)、佐賀県(2.00)が多い。
〈7月コメント〉
◆性感染症について 2011年8月12日集計分 性感染症定点数:967
(産婦人科・産科・婦人科:468、泌尿器科:400、皮膚科86、性病科13)
●月別推移
2011年7月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.28(男1.04、女1.24)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.75(男0.32、女0.43)、尖圭コンジローマが0.44(男0.26、女0.18)、淋菌感染症が0.97(男0.76、女0.21)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)。
前月に比べると、男性では、性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で増加した。女性では、性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で減少、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で増加した(30〜33ページ「グラフ総覧」参照)。過去5年間の同時期と比較すると、男性では性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマでやや少なく、女性では淋菌感染症でやや多く、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマでやや少なかった(図2)。
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図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(7月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群別(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では、性器クラミジア感染症は25〜29歳の年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は30〜39歳の2つの年齢群、尖圭コンジローマは25〜29歳の年齢群、淋菌感染症は20〜34歳の3つの年齢群であった。女性では、性器クラミジア感染症は20〜24歳の年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は25〜29歳の年齢群、尖圭コンジローマは20〜24歳の年齢群、淋菌感染症は20〜24歳の年齢群であった(図3:PDF参照)。男女ともに4疾患すべてで15〜19歳の年齢群の報告があり、男性では淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症で10〜14歳の年齢群の報告があった。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患の報告は、男性では60代以上は僅かであり、女性では50代以上は僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、年齢群分布においての明らかな変化は見られておらず、この基準の周知徹底とともに、遵守されているかの検討なども今後必要と考える。
年齢群毎にみた定点当たり報告数の男女の比較では、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜34歳、65〜69歳、70歳以上の6つの年齢群、尖圭コンジローマでは20〜24歳の年齢群、淋菌感染症では15〜19歳の年齢群という比較的低い年齢層を中心に女性が男性より多く、他の年齢群は同値あるいは男性が多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較については各地域におけるそれらの比率等の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に(図4:PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症は男性では2003年以降減少傾向がみられた後、2009年以降はほぼ横ばいで推移している。女性では2003年以降減少傾向がみられている。性器ヘルペスウイルス感染症は男性では2007年以降微減傾向がみられたが、2009年以降ほぼ横ばいである。女性では2006年以降微減傾向がみられたが、2009年に増加した後横ばいで推移し、2010年12月に減少してその後ほぼ横ばいである。尖圭コンジローマは男女共に2006年以降微減傾向がみられ、女性では2009年以降はほぼ横ばいで推移している。淋菌感染症は男性では2003年以降減少傾向がみられ、2010年に入り増加傾向がみられたが11月に減少してその後ほぼ横ばいである。女性では2004年以降微減傾向がみられた後2007年以降は横ばいで推移していたが、2011年は微増している。前月との比較では、男性では性器クラミジア感染症で減少、ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマで同値、淋菌感染症で増加であった。女性では性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で増加であった。
◆薬剤耐性菌について (8月12集計分)
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基幹定点数(7月):468.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.04(前月:4.28、前年同月:4.47)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。7月は前月より減少し、過去10年間の同月との比較では中位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.68(前月:0.97、前年同月:0.99)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。7月は前月より減少し、過去10年間の同月との比較では最も少なかった。
薬剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症
0.11(前月:0.07、前年同月:0.09)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。7月は前月より増加し、過去10年間の同月との比較では中位に属した。
薬剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症
0.01(前月:0.00、前年同月:−)
報告数は3例であった。本年2月の報告開始から間もないため、傾向の分析や過去との比較は出来ない。
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●年齢階級別
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MRSA感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の61%を占めている(図1:PDF参照)
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の53%を占める一方、70歳以上が全体の26%を占めている(図2:PDF参照)。
MDRP感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の73%を占めている(図3:PDF参照)
MDRA感染症
0歳、30代、70歳以上でそれぞれ1例ずつ報告されてい(図4:PDF参照)
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.6:1
PRSP感染症…男:女=1.5:1
MDRP感染症…男:女=2.7:1
MDRA感染症…男:女=男性で1例、女性で2例だけ報告されている。
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は沖縄県(10.3)、新潟県(7.9)、鳥取県(7.6)、滋賀県(7.6)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は新潟県(2.9)、千葉県(2.3)、東京都(2.0)、福井県(2.0)が多い。
MDRP感染症
報告総数が52例にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難
である。
MDRA感染症
3例のみの報告であるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症 (2011年8月17日現在)
2011年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、例年よりも早い第17週から増加し始めた。集団感染事例(食中毒*を含む)が複数発生したため報告数が急増し、第19週163例、第20週167例と一時的にピークを形成した後、一旦減少した。第23〜27週まで100例前後の報告が続き、第28週から再び増加して第30週240例、第31週306例と300例を超え、第32週は200例であった(図)。本年第32週までの累積報告数2,342例は、2000年以降の各年同週までの累積報告数と比較して2001年に次いで2番目に多い報告数である(2000年1,740例、2001年2,779例、2002年1,924例、2003年1,300例、2004年1,976例、2005年1,872例、2006年1,894例、2007年2,169例、2008年2,116例、2009年1,857例、2010年2,173例)。
第1〜32週の累積報告数2,342例についてみると、報告の多い都道府県は、食中毒による集団発生を反映して山形県(287例)、富山県(162例)が多く、次いで東京都(149例)、大阪府(117例)、千葉県(110例)、福岡県(84例)となっている(速報データ−2011年第32週:http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/2011prompt/32wEHEC.pdf 4. 累積報告数地図参照)。
性別では男性1,078例、女性1,264例、年齢群別では0〜9歳688例、10〜19歳380例、20〜29歳313例の順に多かった。
腸管出血性大腸菌感染症の重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症は、第32週までに累計73例(男性24例、女性49例;有症状者におけるHUS発症率4.5%)報告されており、年齢群別では0〜4歳13例(HUS発症率4.2%)、5〜9歳12例(同5.5%)、10〜14歳6例(同3.6%)、15〜64歳33例(同4.5%)、65歳以上9例(同4.5%)であった。このうちの30例は富山県を中心とした同系列の焼肉店で発生した食中毒(O111 VT2、O157 VT1・VT2など)の患者であり、うち14例は脳症も発症していた。また、4例は山形県のだんご店に関連した食中毒(O157 VT1・VT2)患者である。残りの39例のうち、推定または確定された感染源・感染経路として肉の喫食が記載されていた者が13例あり、そのうち生肉を喫食していた者は4例(10〜14歳2例、15〜64歳1例、65歳以上1例)であった。死亡は9例(3歳1例、6歳1例、40代1例、60代1例、70代1例、80代4例)報告されている。
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図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(2000〜2011年第32週) |
表.週別・都道府県別腸管出血性大腸菌O145 VT2感染者の報告数(2011年第27〜32週) |
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本年第30週以降これまでに認められている主な集団感染事例(食中毒を含む)は、第30週に岐阜県(保育所、O26 VT1)、第30〜32週に山形県(社会教育施設、OUT VT1)、第31〜32週に岩手県(保育所、O26 VT1・VT2)、第31〜32週に栃木県(医療機関・福祉施設、O157 VT1・VT2とO145 VT2)、第31〜32週に石川県(保育所、O111 VT1)、第32週に千葉県(福祉施設、O157 VT1・VT2)などで発生し(本号2ページ参照)、そのうち山形県、栃木県、千葉県は食中毒であった。
腸管出血性大腸菌O145による感染者の年間報告数は、昨年(2010年)が66例とそれまでで最多であったが、本年は第32週までで114例と既に上回っており、O157、O26に次いで3番目に多いO血清群となっている。なお、この他にO145と他のO血清群の複数菌種に感染した症例が7例報告されている。第32週には死亡が1例(VT2)報告された。集団発生は、第32週までで4件〔(1)第22週〜千葉県(VT1、保育所)、(2)第27週〜静岡県(VT1、保育所)、(3)第29週〜長野県(VT1、ホテル)、(4)第31週〜栃木県(VT2、医療機関と福祉施設)〕確認されており、そのうち長野県(O145 VT1, O103 VT1, O121 VT2)と栃木県(O145 VT2, O157 VT1・VT2)の2件は食中毒で、いずれも複数菌種による感染が報告されている。
O145 VT2感染者の累積報告数は57例で、特に直近4週間では第29週2例、第30週8例、第31週14例、第32週21例と増加が目立っており、報告都道府県数も増加している(表)。栃木県では食中毒事例として報告されており、他の都道府県からも感染源・感染経路不明の散発例報告が増えていることから、O145 VT2に汚染された水や食品を介した広域感染の可能性も考えられる。そのため、O145 VT2感染例に対する、喫食歴および食材の遡り調査、ならびに菌の分子疫学的解析等の積極的な疫学調査が必要と思われる。また、保健所への届出時点でO血清群やVT型が不明の腸管出血性大腸菌感染症例の中にO145 VT2感染例が含まれている可能性もあるため、感染者からの分離菌におけるO血清群とVT型別検査は重要である。
本年は2001年以来10年ぶりに一週間の報告数が300例を超え(第31週306例)、第32週までの累積報告数も2001年に次いで2番目に多い。例年の状況から、発生のピーク時期を迎えていると考えられ、予防対策の徹底が必要である。食肉の十分な加熱処理などにより、食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに、過去には動物とのふれあい体験での感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意が必要である。
(補)2011年の最新の発生状況については、http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/index.html をご参照ください。
菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。
*食中毒:食品衛生法に基づいて届出されたもの
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