発生動向総覧
〈第41週コメント〉 10月19日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 312例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢5例
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菌種:S. flexneri(B群)1例_感染地域:大阪府
S. sonnei(D群)4例_感染地域:国内(都道府県不明)1例、中国1例、カンボジア1例、インド1例
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腸管出血性大腸菌感染症53例(有症者31例、うちHUS 1例) |
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感染地域:国内51例、韓国1例、ペルー1例
国内の感染地域:石川県6例、福岡県5例、岐阜県4例、岡山県3例、熊本県3例、宮城県2例、東京都2例、愛知県2例、山口県2例、佐賀県2例、鹿児島県2例、青森県1例、秋田県1例、群馬県1例、千葉県1例、富山県1例、大阪府1例、兵庫県1例、奈良県1例、宮崎県1例、不明9例
年齢群:1歳(5例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(1例)、6歳(1例)、8歳(1例)、9歳(1例)、10代(6例)、20代(11例)、30代(5例)、40代(3例)、50代(2例)、60代(6例)、70代(2例)、80代(5例)、90代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(22例)、O157 VT2(9例)、O26 VT1(7例)、O157 VT不明(4例)、O111 VT1(3例)、O121 VT2(3例)、O103 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O115 VT1(1例)、O145 VT不明(1例)、O157 VT1(1例)
累積報告数:3,389例(有症者2,352例、うちHUS 90例.死亡14例)
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腸チフス1例(感染地域:広島県)
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4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:山口県) オウム病1例(感染地域:広島県_感染源:ハト) つつが虫病1例(感染地域:山梨県)
デング熱2例(デング熱1例、デング出血熱1例)
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感染地域:インド2例
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日本紅斑熱4例(感染地域:和歌山県2例、島根県1例、宮崎県1例) 日本脳炎1例(感染地域:福岡県_年齢群:80代)
マラリア8例
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熱帯熱4例_感染地域:パキスタン4例
三日熱4例_感染地域:スーダン2例、ブルキナファソ2例
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ライム病1例(感染地域:長野県)
レジオネラ症9例(肺炎型9例)
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感染地域:神奈川県2例、秋田県1例、福島県1例、東京都1例、富山県1例、愛知県1例、兵庫県1例、鹿児島県1例
年齢群:50代(1例)、60代(2例)、70代(2例)、80代(3例)、90代以上(1例)
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レプトスピラ症1例(感染地域:宮崎県_感染源:自宅倉庫)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢6例(腸管アメーバ症5例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:神奈川県1例、石川県1例、大阪府1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)2例
感染経路:性的接触3例(異性間1例、同性間1例、異性/同性間1例)、不明3例
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ウイルス性肝炎2例 |
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B型2例_感染経路:性的接触2例(異性間・同性間不明2例)
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急性脳炎2例〔病原体不明2例_年齢群:1歳(1例)、10代(1例)〕 クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:80代.死亡)
後天性免疫不全症候群12例(AIDS 1例、無症候10例、その他1例) |
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感染地域:国内11例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触11例(同性間11例)、不明1例
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梅毒9例(早期顕症II期4例、無症候5例)
破傷風3例〔年齢群:50代(2例)、60代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例 |
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遺伝子型:Van B 1例__菌検出検体:血液.死亡
遺伝子型:Van C 1例__菌検出検体:血液
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風しん1例(検査診断例) |
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感染地域:埼玉県
年齢群:40代
累積報告数:327例(検査診断例255例、臨床診断例72例)
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麻しん5例〔麻しん(臨床診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例4例)〕
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感染地域:東京都2例、兵庫県2例、埼玉県1例
年齢群:1歳(1例)、4歳(1例)、35〜39歳(2例)、40代(1例)
累積報告数:408例〔麻しん(検査診断例193例、臨床診断例116例)、修飾麻しん(検査診断例99例)〕
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(補)2011年第40週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢3例〔菌種:S. flexneri(B群)1例_感染地域:インドネシア.菌種:S. sonnei(D群)2例_感染地域:東京都1例、インドネシア1例〕、日本紅斑熱2例(感染地域:和歌山県1例、愛媛県1例)、急性脳炎2例〔インフルエンザウイルス(型不明)1例(9歳)、病原体不明1例(1歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例〔60代(1例)、80代(2例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(1.81)、愛知県(0.24)、佐賀県(0.23)、山口県(0.20)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は1,731例と減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約75%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第29週以降減少が続いている。都道府県別では徳島県(0.87)、奈良県(0.34)、愛媛県(0.32)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では北海道(1.48)、山口県(1.46)、大分県(1.44)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では山口県(6.1)、大分県(5.8)、福井県(4.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(1.36)、宮崎県(1.31)、高知県(1.17)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第36週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では宮城県(4.34)、鹿児島県(3.17)、鳥取県(3.11)、島根県(2.70)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では徳島県(0.78)、和歌山県(0.58)、福島県(0.56)が多い。百日咳の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では広島県(0.16)、沖縄県(0.15)、大分県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第36週以降減少が続いている。都道府県別では愛媛県(1.11)、山形県(1.07)、富山県(0.76)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では愛媛県(2.14)、新潟県(1.97)、鳥取県(1.89)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では青森県(5.67)、沖縄県(4.14)、埼玉県(3.78)、愛知県(3.15)が多い。
〈9月コメント〉
◆性感染症について 2011年10月14日集計分 性感染症定点数:959
(産婦人科・産科・婦人科:462、泌尿器科:399、皮膚科85、性病科13)
●月別推移
2011年9月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.46(男1.09、女1.37)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.75(男0.31、女0.44)、尖圭コンジローマが0.49(男0.27、女0.22)、淋菌感染症が1.03(男0.83、女0.20)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)。
前月に比べると、男性では、性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で微減、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で微増した。女性では、性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で減少、尖圭コンジローマで増加、淋菌感染症で減少した(28〜31ページ「グラフ総覧」参照)。過去5年間の同時期と比較すると、男性では性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマでやや少なかった(図2)。
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図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(9月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群別(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では、性器クラミジア感染症は25〜29歳の年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は30〜34歳の年齢群、尖圭コンジローマは20〜39歳の4つの年齢群、淋菌感染症は20〜29歳の2つの年齢群であった。女性では、性器クラミジア感染症は20〜24歳の年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は20〜24歳の年齢群、尖圭コンジローマは20〜29歳の2つの年齢群、淋菌感染症は20〜24歳の年齢群であった(図3:PDF参照)。男女ともに4疾患すべてで15〜19歳の年齢群の報告があり、男性では4疾患すべてで、女性ではクラミジア感染症、尖圭コンジローマで10〜14歳の年齢群の報告があった。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患の報告は、男性では60代以上は僅かであり、女性では50代以上は僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、年齢群分布においての明らかな変化は見られておらず、この基準の周知徹底とともに、遵守されているかの検討なども今後必要と考える。
年齢群毎にみた定点当たり報告数の男女の比較では、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜29歳、50〜59歳、65〜69歳、70歳以上の7つの年齢群、尖圭コンジローマでは15〜29歳の3つの年齢群という比較的低い年齢層を中心に女性が男性より多く、他の年齢群は同値あるいは男性が多かった。淋菌感染症ではすべての年齢群で男性が女性より多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較については各地域におけるそれらの比率等の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に(図4:PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症は男性では2003年以降減少傾向がみられた後、2009〜2010年はほぼ横ばいで推移したが、2011年は再び減少している。女性では2003年以降減少傾向がみられていたが、2011年は横ばいである。性器ヘルペスウイルス感染症は男性では2007年以降微減傾向がみられた後、2010年はほぼ横ばいであったが、2011年は再び減少している。女性では2006年以降微減傾向がみられたが、2010年にやや増加した後、再び減少している。尖圭コンジローマは男女共に2006年以降微減傾向がみられたが、男性では2011年は横ばいで、女性では2010年以降はほぼ横ばいで推移している。淋菌感染症は男性では2003年以降減少傾向がみられ、2010年に増加傾向がみられたが、2011年は再び減少している。女性では2004年以降微減傾向がみられた後2007年以降は横ばいで推移していたが、2011年は微増している。前月との比較では、男性では性器クラミジア感染症で減少、ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで同値、淋菌感染症で減少であった。女性では性器クラミジア感染症で増加、性器ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで増加、淋菌感染症で減少であった。
◆薬剤耐性菌について (10月14集計分)
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基幹定点数(9月):467.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.02(前月:4.60、前年同月:4.13)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。9月は前月より減少し、過去10年間の同月との比較では中位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.56(前月:0.67、前年同月:0.61)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。9月は前月より減少し、過去10年間の同月との比較では中位に属した。
薬剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症
0.12(前月:0.10、前年同月:0.12)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。9月は前月より増加し、過去10年間の同月との比較では中位に属した。
薬剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症
0.01(前月:0.01、前年同月:−)
報告数は5例であった。本年2月の報告開始から間もないため、傾向の分析や過去との比較はできない。
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●年齢階級別
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MRSA感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の63%を占めている(図1:PDF参照)
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の58%を占める一方、70歳以上が全体の21%を占めている(図2:PDF参照)。
MDRP感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の70%を占めている(図3:PDF参照)
MDRA感染症 1〜4歳で2例、5〜9歳で1例、70歳以上で2例報告されている(図4:PDF参照)
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.8:1
PRSP感染症…男:女=1.3:1
MDRP感染症…男:女=3.3:1
MDRA感染症…男:女=男性1例、女性4例が報告されている。
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は沖縄県(12.6)、滋賀県(9.0)、鳥取県(8.6)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は福井県(3.0)、東京都(1.7)、千葉県(1.6)が多い。
MDRP感染症
報告総数が56例にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
MDRA感染症
5例のみの報告であるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)を病原体とする呼吸器感染症である。感染経路としては、飛沫感染による経気道感染や、接触感染によって伝播すると言われている。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられるが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはない。潜伏期間は2〜3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長く、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。本症の特徴的な症状である咳は、初発症状発現後3〜5日より始まることが多く、乾性の咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3〜4週間)持続する。治療は抗菌薬投与による原因療法が基本であるが、Mycoplasma pneumoniae は細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質には感受性はない。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっており( IASR速報http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html、IASR特集:マイコプラズマ肺炎http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/324/tpc324-j.html)、近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もある。
診断には特異的IgM抗体迅速検出キットが開発され、臨床現場において活用されてきているが、幼児、学童の初回感染例では発病1週間以内では陰性を示すことが多く、また単一血清で高い抗体価であっても感染の既往を示している可能性を否定できない。最近は、PCR法やLAMP法による遺伝子検出が次第に多くの検査機関で実施されるようになってきている。
マイコプラズマ肺炎は、かつては、他の病原体によるものも含まれる「異型肺炎」として発生動向調査が実施されていたが、1999年4月の感染症法改正により、現在の病原体診断に基づく調査となった。現在、マイコプラズマ肺炎のサーベイランスは全国約500カ所の基幹定点医療機関(2次医療圏域毎に1ヵ所以上設定された、300人以上収容する施設を有する病院)からの報告に基づいている。
2011年のマイコプラズマ肺炎の基幹定点からの定点当たり報告数は、第25週以降は1999年の調査開始以降の同時期と比較して最も多い状態が継続している。特に第39週以降の増加傾向は顕著となっており、第41週の定点当たり報告数は1.23(報告数565)とこれまでの最高値を更新した。例年、学校等の夏季休暇期間中は減少傾向を示していたが、今年は夏季休暇期間中にも報告数の増加がみられ、夏季休暇終了後の小児の集団生活施設の再開と共に報告数の増加傾向が更に大きくなった(図1)。都道府県別では青森県(5.67)、沖縄県(4.14)、埼玉県(3.78)、愛知県(3.15)、大阪府(2.47)、東京都(2.29)、栃木県(2.14)の順となっており、25都府県で前週よりも報告数の増加が認められている(図2)
2011年第1〜41週の定点当たり累積報告数は22.68(累積報告数10,457)であり、年齢群別では0〜4歳37.0%、5〜9歳29.3%、10〜14歳15.0%、20〜39歳7.6%、60歳以上5.0%の順となっている。2007年以降は成人の報告割合がやや増加して全報告数の20%近くを占めるようになってきているが、一方で9歳以下が全報告数の60%以上を、14歳以下で80%前後を占めており、マイコプラズマ肺炎の報告の中心が小児であることには変わりはない(図3)。
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図1. マイコプラズマ肺炎の年別・週別発生状況(2001〜2011年第41週) |
図2. マイコプラズマ肺炎の都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第39〜41週) |
図3. マイコプラズマ肺炎の年別・年齢群別割合(2000〜2011年第41週) |
2011年のマイコプラズマ肺炎の報告数は、これまででは減少傾向となっていた時期においても増加し、1999年の発生動向調査開始以来の週当たりの最多報告数を現在も更新しつつある。今後ともマイコプラズマ肺炎の報告数の推移については慎重に経過観察していくべきであると同時に、これまで治療の第一選択薬とされていたマクロライド系抗菌薬に対する耐性株に関する情報にも注意していく必要があると思われる。
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