発生動向総覧
〈第44週コメント〉 11月9日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 350例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
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菌種:S. sonnei (D群)3例_感染地域:愛知県1例、中国1例、インド1例
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腸管出血性大腸菌感染症49例(有症者22例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内48例、ドイツ1例
国内の感染地域:千葉県21例*、鹿児島県6例**、熊本県3例、北海道2例、神奈川県2例、大阪府2例、宮崎県2例、宮城県1例、長野県1例、愛知県1例、三重県1例、愛媛県1例、大分県1例、不明4例
* 保育園に関連した集団感染例を含む(O145 VT1)
** 保育園に関連した集団感染例を含む(O26 VT1)
年齢群:1歳(1例)、2歳(6例)、4歳(5例)、5歳(6例)、6歳(8例)、7歳(1例)、9歳(1例)、10代(3例)、20代(2例)、30代(5例)、40代(1例)、50代(6例)、60代(2例)、70代(1例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O145 VT1(20例)、O157 VT1・VT2(9例)、O26 VT1( 8例)、O157 VT1(2例)、O157 VT2(2例)、O157 VT不明(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O103 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O145 VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他・不明(1例)
累積報告数:3,555例(有症者2,437例、うちHUS 91例.死亡14例)
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腸チフス1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
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4類感染症: |
A型肝炎2例(感染地域:福岡県)
チクングニア熱1例(感染地域:インド)
つつが虫病13例
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感染地域:神奈川県6例、広島県2例、福島県1例、岐阜県1例、静岡県1例、佐賀県1例、長崎県1例
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日本紅斑熱12例(感染地域:高知県8例、広島県2例、和歌山県1例、島根県1例)
レジオネラ症13例(肺炎型12例、ポンティアック型1例、うち死亡1例)
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感染地域:香川県2例、栃木県1例、埼玉県1例、福井県1例、静岡県1例、広島県1例、長崎県1例、国内(都道府県不明)4例、トルコ1例
年齢群:50代(6例)、60代(2例)、70代(2例)、80代(2例)、90代以上(1例)
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レプトスピラ症1例(感染地域:宮崎県_感染源:不明)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症9例、腸管外アメーバ症1例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:栃木県2例、神奈川県2例、北海道1例、愛知県1例、兵庫県1例、香川県1例、国内(都道府県不明)3例
感染経路:性的接触7例(異性間3例、同性間2例、異性間・同性間不明2例)、経口感染1例、不明3例
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ウイルス性肝炎3例 |
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B型3例_感染経路:性的接触2例(異性間2例)、不明1例
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急性脳炎2例〔病原体不明2例_年齢群:3歳(1例)、30代(1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:5歳)
後天性免疫不全症候群9例(AIDS 2例、無症候7例) |
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感染地域:国内9例
感染経路:性的接触6例(同性間5例、異性/同性間1例)、性的接触(同性間)/静注薬物使用1例、その他・不明2例
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ジアルジア症1例(感染地域:ブルキナファソ)
梅毒10例(早期顕症I期1例、早期顕症II期7例、無症候2例)
風しん4例(検査診断例3例、臨床診断例1例)
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感染地域:茨城県1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)1例、タイ1例
年齢群:10〜14歳(1例)、15〜19歳(1例)、30〜34歳(1例)、40代(1例)
累積報告数:337例(検査診断例262例、臨床診断例75例)
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(補)2011年第43週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例〔菌種:S. flexneri(B群)_感染地域:インドネシア〕、E型肝炎1例(感染地域:北海道_感染源:不明)、日本紅斑熱2例(感染地域:和歌山県1例、岡山県1例)、レプトスピラ症6例(感染地域:高知県3例_感染源:泥水3例、感染地域:沖縄県2例_感染源:その他・不明2例、ラオス1例_感染源:川)、急性脳炎3例〔マイコプラズマ1例_10代、病原体不明2例_2歳(1例)、80代(1例.死亡)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔70代(1例)、80代(1例.死亡)〕、髄膜炎菌性髄膜炎1例(3歳、感染地域:三重県)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:肝膿瘍)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では沖縄県(1.64)、鳥取県(0.93)、愛知県(0.59)、宮城県(0.49)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は1,945例と3週連続で増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約73%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では新潟県(0.85)、北海道(0.74)、福岡県(0.39)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では大分県(2.75)、北海道(2.63)、石川県(2.21)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では山口県(9.5)、宮崎県(6.8)、愛媛県(6.4)、香川県(6.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(2.86)、青森県(2.36)、秋田県(2.36)、佐賀県(2.35)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(3.68)、鹿児島県(3.09)、宮城県(2.95)、福島県(2.75)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では高知県(0.97)、愛媛県(0.95)、徳島県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では栃木県(0.21)、沖縄県(0.18)、高知県(0.17)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第36週以降減少が続いている。都道府県別では徳島県(1.04)、山形県(0.50)、愛媛県(0.43)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(2.83)、新潟県(2.00)、宮崎県(1.89)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では埼玉県(2.89)、愛知県(2.77)、沖縄県(2.71)、岩手県(2.42)が多い。
注目すべき感染症
◆ 細菌性赤痢 (2011年11月9日現在)
赤痢菌(Shigella)は主にヒトの腸管に存在し、患者や無症状病原体保有者の糞便、それらに汚染された手指、食品、水、物などを介して、直接あるいは間接的に伝播する。赤痢菌の排泄は疾患(細菌性赤痢)の急性期に最大となる。赤痢菌は環境中では生存しにくいが、食材の中で生存でき、また10〜100個というわずかな菌量でも感染が成立するため、食中毒の重要な原因菌の一つである。一方で、糞口感染によって最も効率よく伝播し、保育園や知的障害者施設等の福祉施設などで接触感染として流行しやすく、さらに家庭内での二次感染率も高く40%に達する場合もある。また、性行為によっても伝播する可能性があり、海外では同性間性的接触による細菌性赤痢の集団発生について、既に1970年代頃から報告がある。症状の程度は菌種( S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei)にもある程度依存する〔S. dysenteriae やS. flexneri は膿粘血便やしぶり腹等の典型的な症状を起こすことが多く、S. sonnei の場合は軽微な下痢や無症状で経過することが多い(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2011/idwr2011-33.pdf)〕が、宿主の年齢や免疫状態、栄養状態によるところが大きい1、2)。
2011年の細菌性赤痢は、診断第1〜44週の累積報告数が264例で、患者250例、無症状病原体保有者14例であった(無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、患者と接触した者に対する保健所の調査などによって発見される)。原因菌の菌種内訳は、S. sonnei が207例で最も多く、次いでS. flexneri 45例、S. boydii 9例、菌種不明3例で、感染地域別では、国外120例、国内142例、不明2例であった。
これらのうち、S. sonnei 感染例について、2009〜2011年第44週の週別報告数をみると、2011年は過去2年と比較して最も多く推移している(図1)。2011年の発生状況についてはこれまでも掲載したように(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2011/idwr2011-34.pdf、http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2011/idwr2011-35.pdf、http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2011/idwr2011-38.pdf)、第34〜39週に複数の自治体から国内感染例が計71例報告され、これらのうち40例は疫学調査および菌株の分子疫学解析(MLVA法)により、国内の同系列外食チェーン店舗に関連した食中毒事例等であることがわかっている。しかし、この事例の終息後も、国内感染例が複数の自治体から報告されており(図2)、さらに、自治体から提供された範囲での菌株について国立感染症研究所細菌第一部でMLVA法による解析を行った結果、同一のS. sonnei によると推定されるクラスターの存在が確認された。
クラスターは、第44週現在までに6自治体からの計20例の報告例で構成されている(図3)。1例目は第24週に報告され、その後第34週以降の報告例が大半を占めているが、これは上述の食中毒事例の影響によって、より積極的に患者調査や菌株収集が行われたことによる可能性もある。20例は男性19例、女性1例で、年齢中央値は33.5歳(範囲16〜49歳)であった。感染経路としては、20例中11例で飲食物の経口感染が推定されており、他の9例は感染経路不明であった。
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図1. 細菌性赤痢(S.sonnei )週別発生状況(2009〜2011年第44週) |
図2. 細菌性赤痢S. sonnei 感染例の週別・感染地域別発生状況(2011年第1〜44週) |
図3. クラスターの週別発生状況(2011年第24〜44週) |
細菌性赤痢は食中毒の重要な原因であり、国内感染例については、飲食店における集団感染事例や、輸入食材を原因とした広域集団感染事例なども複数報告されてきた。一方で、最も感染効率がよいとされる糞口感染による感染経路の確認も、感染予防のうえでは重要となる。細菌性赤痢の症例が報告された場合には、可能性のある全ての感染経路について確認し、適切な治療・予防につなげることが重要である。また、広域集団発生は、個々の自治体では散発例として報告される可能性があるため、疫学調査の際には菌の分子疫学的解析が必要であり、そのための菌株収集も積極的に考慮していただきたい。
参考文献
1)Control of Communicable Diseases Manual 19 Ed(2008). Shigellosis. p556-60. Amer Public HealthAssn, Washington, D.C.
2)Harrison's Principles of Internal Medicine, 18th Ed(2011). Shigellosis. P1281-85. McGraw-Hill Professional, USA
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