発生動向総覧
〈第49週コメント〉 12月14日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 397例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢1例
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菌種:S. flexneri (B群)_感染地域:タイ
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腸管出血性大腸菌感染症23例(有症者15例、うちHUS なし) |
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感染地域:国内22例、メキシコ1例
国内の感染地域:福岡県4例、栃木県3例、千葉県2例、福井県2例*、宮城県1例、福島県1例、東京都1例、長野県1例、愛知県1例、滋賀県1例、兵庫県1例、岡山県1例、不明3例
* 保育園に関連した集団感染例を含む(O157 VT1)
年齢群:0歳(1例)、1歳(2例)、2歳(2例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5歳(1例)、8歳(1例)、10代(2例)、20代(6例)、30代(4例)、50代(1例)、70代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(7例)、O103 VT1(3例)、O111 VT1(3例)、O26 VT1(2例)、O28ac VT1・VT2( 1例)、O121 VT2( 1例)、O157 VT1(1例)、O157 VT2(1例)、その他・不明(4例)
累積報告数:3,781例(有症者2,567例、うちHUS 99例.死亡16例)
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4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:東京都)
つつが虫病24例
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感染地域:鹿児島県7例、宮崎県6例、千葉県2例、和歌山県2例、
長崎県2例、茨城県1例、滋賀県1例、広島県1例、熊本県1例、大分県1例
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デング熱2例(感染地域:インドネシア1例、フィリピン1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)
マラリア1例(四日熱_感染地域:モザンビーク)
レジオネラ症9例(肺炎型8例、ポンティアック型1例)
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感染地域:石川県2例、東京都1例、愛知県1例、三重県1例(温泉)、滋賀県1例、京都府1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:30代(1例)、50代(2例)、60代(3例)、70代(2例)、80代(1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢9例(腸管アメーバ症8例、腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:東京都2例、茨城県1例、長崎県1例、国内(都道府県不明)3例、インドネシア1例、国外(国不明)1例
感染経路:経口感染4例、性的接触1例(異性間)、不明4例
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ウイルス性肝炎1例(B型_感染経路:不明)
急性脳炎4例 |
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病原体不明4例_年齢群:3歳(1例)、8歳(1例)、10代(1例)、30代(1例)
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劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:40代(1例)、80代(1例)〕
後天性免疫不全症候群16例(AIDS 3例、無症候12例、その他1例) |
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感染地域:国内12例、ジンバブエ1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触13例(異性間4例、同性間9例)、不明3例
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ジアルジア症2例(感染地域:栃木県1例、台湾1例)
梅毒8例(早期顕症II期4例、晩期顕症2例、無症候2例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例
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遺伝子型:VanB 1例_菌検出検体:便
遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:胆汁
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風しん6例(検査診断例5例、臨床診断例1例)
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感染地域:福岡県3例、神奈川県1例、岐阜県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(1例)、15〜19歳(1例)、20〜24歳(2例)、30〜34歳(1例)、60代(1例)
累積報告数:362例(検査診断例281例、臨床診断例81例)
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麻しん3例〔麻しん(検査診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例2例)〕
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感染地域:神奈川県3例
年齢群:1歳(1例)、3歳(1例)、10〜14歳(1例)
累積報告数:429例〔麻しん(検査診断例202例、臨床診断例120例)、修飾麻しん(検査診断例107例)〕
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(補)2011年第48週までに診断されたものの報告遅れとして、日本紅斑熱1例(感染地域:徳島県)、レジオネラ症4例〔感染地域:福井県1例(温泉)、栃木県1例(温泉)、兵庫県1例(温泉)、広島県1例(温泉)〕、レプトスピラ症1例(感染地域:沖縄県_感染原因:川での作業)、急性脳炎3例〔エコーウイルス6型1例_1歳、病原体不明2例_7歳(1例)、20代(1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例〔50代(1例)、70代(2例.うち1例死亡)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では宮城県(10.33)、愛知県(5.33)、三重県(5.33)、岡山県(4.04)、山口県(2.91)、沖縄県(2.57)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は3,316例と第42週以降増加が続いている。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では新潟県(2.95)、北海道(1.43)、徳島県(1.00)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では富山県(5.62)、大分県(5.42)、福井県(4.50)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では島根県(14.9)、東京都(14.6)、山形県(14.3)、宮崎県(13.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では佐賀県(4.96)、福井県(4.55)、岩手県(4.43)、宮崎県(3.31)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(3.26)、滋賀県(3.19)、石川県(2.55)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では長野県(1.20)、徳島県(1.00)、福島県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では栃木県(0.21)、広島県(0.08)、三重県(0.07)、高知県(0.07)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では徳島県(0.39)、大分県(0.22)、岩手県(0.20)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では山形県(2.80)、新潟県(2.43)、徳島県(2.17)、宮崎県(2.17)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では栃木県(6.7)、沖縄県(4.6)、岐阜県(3.2)、愛知県(3.2)が多い。
〈11月コメント〉
◆性感染症について 2011年12月12日集計分 性感染症定点数:964
(産婦人科・産科・婦人科:466、泌尿器科:400、皮膚科85、性病科13)
●月別推移
2011年11月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.07(男0.94、女1.13)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.72(男0.26、女0.46)、尖圭コンジローマが0.41(男0.24、女0.18)、淋菌感染症が0.86(男0.68、女0.18)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)。
前月に比べると、男性では、性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で減少、尖圭コンジローマで微減、淋菌感染症で減少した。女性では、性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で増加、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で増加した(30〜33ページ「グラフ総覧」参照)。過去5年間の同時期と比較すると、男性では性器クラミジア感染症でやや少なく、女性では尖圭コンジローマでやや少なかった(図2)。
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図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(11月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群別(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では、性器クラミジア感染症は20〜24歳、30〜34歳の2つ年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は25〜29歳の年齢群、尖圭コンジローマは30〜39歳の2つの年齢群、淋菌感染症は25〜29歳の年齢群であった。女性では、性器クラミジア感染症は20〜24歳の年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症は25〜29歳の年齢群、尖圭コンジローマは20〜24歳の年齢群、淋菌感染症は20〜24歳の年齢群であった(図3:PDF参照)。男女ともに4疾患すべてで15〜19歳の年齢群の報告があり、女性では性器クラミジア感染症、淋菌感染症で10〜14歳の年齢群の報告があった。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患の報告は、男性では60代以上は僅かであり、女性では50代以上は僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、年齢群分布においての明らかな変化は見られておらず、この基準の周知徹底とともに、遵守されているかの検討なども今後必要と考える。
年齢群毎にみた定点当たり報告数の男女の比較では、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜39歳、55〜64歳、70歳以上の8つの年齢群、尖圭コンジローマでは15〜24歳の2つの年齢群という比較的低い年齢層を中心に女性が男性より多く、他の年齢群は同値あるいは男性が多かった。淋菌感染症ではすべての年齢群で同値あるいは男性が女性より多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較については各地域におけるそれらの比率等の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に(図4:PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症は男性では2003年以降減少傾向がみられた後、2009〜2010年はほぼ横ばいで推移したが、2011年は再び減少している。女性では2003年以降減少傾向がみられていたが、2011年は横ばいである。性器ヘルペスウイルス感染症は男性では2007年以降微減傾向がみられた後、2010年以降はほぼ横ばいで推移している。女性では2006年以降微減傾向がみられたが、2010年にやや増加した後、2011年は再び減少している。尖圭コンジローマは男女共に2006年以降微減傾向がみられたが、男性では2011年はほぼ横ばいで、女性では2010年以降はほぼ横ばいで推移している。淋菌感染症は男性では2003年以降減少傾向がみられ、2010年に増加傾向がみられたが、2011年は再び減少している。女性では2004年以降微減傾向がみられた後2007年以降は横ばいで推移していたが、2011年は微増している。前月との比較では、男性では性器クラミジア感染症で減少、ヘルペスウイルス感染症で減少、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で減少であった。女性では性器クラミジア感染症で減少、性器ヘルペスウイルス感染症で同値、尖圭コンジローマで減少、淋菌感染症で同値であった。
◆薬剤耐性菌について (12月12集計分)
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基幹定点数(11月):465.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.15(前月:4.31、前年同月:4.06)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。11月は前月より減少し、過去10年間の同月との比較では上位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.89(前月:0.76、前年同月:1.01)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。11月は前月と比べて増加し、過去10年間の同月との比較では下位に属した。
薬剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症
0.07(前月:0.11、前年同月:0.11)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。11月は前月と比べて減少し、過去10年間の同月との比較では下位に属した。
薬剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症
0.01(前月:0.02、前年同月:−)
報告数は4例であった。本年2月の報告開始から間もないため、傾向の分析や過去との比較はできない。
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●年齢階級別
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MRSA感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の66%を占めている(図1:PDF参照)
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の56%を占める一方、70歳以上が全体の21%を占めている(図2:PDF参照)。
MDRP感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の75%を占めている(図3:PDF参照)
MDRA感染症 60代で2例、70歳以上で2例報告されている(図4:PDF参照)
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.7:1
PRSP感染症…男:女=1.2:1
MDRP感染症…男:女=1.3:1
MDRA感染症…男性で2例、女性で2例が報告されている。
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は沖縄県(11.57)、奈良県(8.67)、愛知県(8.08)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は福井県(3.17)、新潟県(2.54)、東京都(2.20)が多い。
MDRP感染症
報告総数が32例にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
MDRA感染症
報告総数が4例のみであるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。典型的な発症例では1〜4日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。近年、抗インフルエンザウイルス薬が広く臨床現場で用いられるようになり、発症後早期から投与されることによって従来よりも有熱期間が短縮している例も少なくない。
インフルエンザの主な感染経路はくしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染であり、他に接触感染もあるといわれている(CDCホームページ:http://www.cdc.gov/flu/about/disease/spread.htm)。感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生の徹底が重要であると考えられるが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在する。従って、特にヒト−ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設においてインフルエンザの集団発生をコントロールすることは困難であると思われる。インフルエンザの予防の基本は感染前にワクチンの接種を受けることであり、感染後の発症率の低下と、発症後の重症化を抑えることが期待される。
2009年4月に発生した新型インフルエンザは、2011年4月以降はインフルエンザ(H1N1)2009と呼ばれるようになり、他のA/H3N2(A香港)亜型やB型のインフルエンザと同様にヒト−ヒト間で流行する季節性インフルエンザ対策の中に組み込まれることとなった(「新型インフルエンザ(A/H1N1)に係る季節性インフルエンザ対策への移行について」厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務局:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/jichitai1100401-01.pdf)。
感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。インフルエンザの定点当たり報告数は、2011年第42週以降増加が続いており、第49週の定点当たり報告数は1.11(報告数5,447)と全国的な流行開始の指標である1.00を今シーズン(2011/2012年)初めて上回った(図1)。都道府県別では宮城県(10.33)、愛知県(5.33)、三重県(5.33)、岡山県(4.04)、山口県(2.91)、沖縄県(2.57)、兵庫県(1.67)、広島県(1.56)、愛媛県(1.48)、岐阜県(1.47)の順となっている。39都道府県で前週よりも増加が認められており、宮城県、愛知県、三重県、岡山県、山口県では比較的大きな増加となっている(図2)。
2011年第36〜49週に国内では211検体のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1pdm09が2件(0.9%)、AH3亜型(A香港型)186件(88.2%)、B型23件(10.9%)とこれまでのところAH3亜型が大半を占めている状態が続いている(図3)。
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図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(2001〜2011年第49週) |
図2. インフルエンザの都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第47〜49週) |
図3. インフルエンザウイルス検出報告割合(2011年第36〜49週) |
インフルエンザの流行は全国各地で発生してきており、今後冬季休暇を経て1月には本格的な流行へと移行していく可能性が考慮される。インフルエンザワクチンの接種を必要としながらも、現時点ではまだ接種が実施されていない場合は速やかに接種することが望まれる。今後ともインフルエンザの発生動向には注意深い観察が必要である。
◆ 細菌性赤痢 (2011年12月14日現在)
2011年の細菌性赤痢は、診断第1〜49週の累積報告数が284例で、患者270例、無症状病原体保有者14例であった(無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、患者と接触した者に対する保健所の調査などによって発見される)。原因菌の菌種内訳は、S. sonnei が222例で最も多く、次いでS. flexneri 49例、S. boydii 10例、菌種不明3例で、感染地域別では、国外131例、国内151例、不明2例であった(図1)。
S. sonnei 感染例については、感染症週報第44週「注目すべき感染症」において、同一のS. sonnei によると推定されるクラスターの存在を報告したが(http://idsc.nih.go.jp/idwr/douko/2011d/44douko.html#chumoku1)、その後も引き続き同様の症例が報告されている。
クラスターを構成する報告例は、第49週現在までに8自治体(第44週から2自治体増)からの計35例(同15例増)であり、また1例目は第18週に遡ることが新たにわかった(図2)。つまり、ほぼ同一の菌株による感染が、広域に継続している状態である。これら35例は、男性34例、女性1例で、年齢中央値は35.0歳(範囲:16〜71歳、Q1-Q3*:29〜41歳)であった。推定される感染経路としては、経口感染13例、接触感染5例、感染経路不明17例であった。また、接触感染と報告された中には、他の性感染症を合併した症例が複数認められた。
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図1.細菌性赤痢S. sonnei 感染例の週別・感染地域別発生状況(2011年第1〜49週) |
図2.クラスターの週別発生状況(2011年第18〜49週) |
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細菌性赤痢は食中毒の重要な原因であり、国内感染例については、飲食店における集団感染事例や、輸入食材を原因とした広域集団感染事例なども複数報告されてきた。一方で、最も感染効率がよいとされる糞口感染による感染経路の確認も、感染予防の上では重要となる。細菌性赤痢と同様に糞口感染で伝播するアメーバ赤痢や、ジアルジア症においては、性感染症としても認識され1)〜 3)、予防や対策が行われている。また、S. sonnei 感染は一般的に下痢・腹痛などの症状が軽く、医療機関へ受診に至らない症例も少なくないと推察され、そのような症例が細菌性赤痢の感染の自覚のないまま、感染源となる可能性もある。細菌性赤痢の国内感染例においては、従来、食中毒を念頭に接触者調査、2次感染予防、菌の陰性確認等が行われているところであるが、その際、糞口感染による感染経路の可能性も考慮しつつ、適切な治療・生活指導とともに、感染拡大予防を行う必要がある。また、広域集団発生は、個々の自治体では散発例として報告される可能性があるため、疫学調査の際には菌の分子疫学的解析が必要であり、そのための菌株収集も積極的に考慮していただきたい。
* 第1四分位数(Q1)〜第3四分位数(Q3)
1)感染症の話、ジアルジア症、感染症週報2004年第49週
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_49/k04_49.html
2)アメーバ赤痢 2003〜2006、病原体検出情報Vol.28 No.4(No.326)
http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/326/inx326-j.html
3)東京都立墨東病院感染症科を受診した最近の赤痢アメーバ症について
http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/326/dj3261.html
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