発生動向総覧
〈第50週コメント〉 12月21日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 337例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢3例
|
|
菌種:S. flexneri(B群)1例_感染地域:インド
S. sonnei(D群)2例_感染地域:東京都1例、インド1例
|
腸管出血性大腸菌感染症42例(有症者28例、うちHUS なし) |
|
感染地域:国内42例
国内の感染地域:福井県23例*、埼玉県4例、千葉県3例、福岡県3例、東京都2例、神奈川県1例、岡山県1例、佐賀県1例、宮崎県1例、鹿児島県1例、沖縄県1例、不明1例
* 保育園に関連した集団感染例を含む(O157 VT1、O157 VT1・VT2)
年齢群:1歳(3例)、2歳(2例)、3歳(7例)、4歳(7例)、5歳(1例)、7歳(1例)、9歳(1例)、10代(3例)、20代(6例)、30代(1例)、40代(4例)、50代(3例)、70代(1例)、80代(1例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(23例)、O26 VT1(6例)、O157 VT1(5例)、O157 VT2(4例)、O157 VT不明(1例)、その他・不明(3例)
累積報告数:3,823例(有症者2,595例、うちHUS 99例.死亡16例)
|
|
4類感染症: |
チクングニア熱1例(感染地域:インド)
つつが虫病22例
|
|
感染地域:鹿児島県10例、千葉県3例、宮崎県3例、佐賀県2例、群馬県1例、岐阜県1例、静岡県1例、広島県1例
|
日本紅斑熱2例(感染地域:愛媛県1例、長崎県1例) ブルセラ症1例(感染地域:島根県) ライム病1例(感染地域:兵庫県)
レジオネラ症6例(肺炎型6例)
|
|
感染地域:青森県1例、福島県1例(温泉)、兵庫県1例、国内(都道府県不明)2例、国内・国外不明1例
年齢群:1歳(1例)、60代(1例)、70代(2例)、80代(1例)、90代(1例)
|
レプトスピラ症例(感染地域:宮崎県_感染源:側溝の掃除)
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢10例(腸管アメーバ症10例) |
|
感染地域:東京都2例、千葉県1例、三重県1例、大阪府1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例、タイ1例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触3例(異性間1例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、経口感染2例、不明5例
|
急性脳炎4例 |
|
インフルエンザウイルス1例_年齢群:2歳
水痘・帯状疱疹ウイルス1例_年齢群:80代
病原体不明2例_年齢群:2歳(2例)
|
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:60代.死亡)
後天性免疫不全症候群16例(AIDS 2例、無症候14例) |
|
感染地域:国内13例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触14例(異性間3例、同性間9例、異性/同性間2例)、不明2例
|
ジアルジア症2例〔感染地域:福岡県1例、国内(都道府県不明)1例〕
梅毒15例(早期顕症I期2例、早期顕症II期5例、晩期顕症1例、無症候7例)
風しん3例(検査診断例3例)
|
|
感染地域:北海道1例、東京都1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:20〜24歳(1例)、30〜34歳(2例)
累積報告数:366例(検査診断例284例、臨床診断例82例)
|
麻しん2例〔麻しん(検査診断例1例)、修飾麻しん(検査診断例1例)〕
|
|
感染地域:埼玉県2例
年齢群:30〜34歳(1例)、50代(1例)
累積報告数:428例〔麻しん(検査診断例201例、臨床診断例120例)、修飾麻しん(検査診断例107例)〕
|
(補)2011年第49週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例〔菌種:S. sonnei(D群)_感染地域:国内(都道府県不明)〕、急性脳炎2例〔病原体不明2例_年齢群:6歳(1例)、10代(1例)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例〔50代(1例.死亡)、60代(1例.死亡)、80代(2例.うち1例死亡)〕などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では宮城県(18.20)、愛知県(10.28)、三重県(9.71)、岡山県(5.17)、愛媛県(4.43)、山口県(4.22)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症の報告数は3,704例と第42週以降増加が続いている。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では新潟県(4.23)、北海道(1.83)、和歌山県(1.13)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では大分県(6.50)、富山県(5.52)、福井県(5.00)、北海道(4.91)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いている。都道府県別では東京都(20.1)、山形県(19.0)、神奈川県(18.1)、埼玉県(16.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では山形県(5.87)、福井県(5.05)、岩手県(4.28)、宮崎県(4.28)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では滋賀県(3.34)、石川県(3.31)、香川県(2.20)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福島県(1.19)、長野県(1.18)、島根県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では栃木県(0.25)、沖縄県(0.18)、広島県(0.15)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では徳島県(0.48)、高知県(0.43)、愛媛県(0.14)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(2.92)、徳島県(2.74)、新潟県(2.42)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では栃木県(5.0)、埼玉県(4.3)、沖縄県(4.3)、宮城県(3.7)が多い。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。典型的な発症例では1〜4日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。近年、抗インフルエンザウイルス薬が広く臨床現場で用いられるようになり、発症後早期から投与されることによって従来よりも有熱期間が短縮している例も少なくない。
インフルエンザの主な感染経路はくしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染であり、他に接触感染もあるといわれている(CDCホームページ:http://www.cdc.gov/flu/about/disease/spread.htm)。感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生の徹底が重要であると考えられるが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在する。従って、特にヒト−ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設においてインフルエンザの集団発生をコントロールすることは困難であると思われる。
2009年4月に発生した新型インフルエンザは、2011年4月以降はインフルエンザ(H1N1)2009と呼ばれるようになり、他のA/H3N2(A香港)亜型やB型のインフルエンザと同様にヒト−ヒト間で流行する季節性インフルエンザ対策の中に組み込まれることとなった(「新型インフルエンザ(A/H1N1)に係る季節性インフルエンザ対策への移行について」厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務局:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/jichitai1100401-01.pdf)
感染症発生動向調査では、全国約5,000カ所(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)のインフルエンザ定点からの報告に基づいてインフルエンザの発生動向を分析している。インフルエンザの定点当たり報告数は、2011年第42週以降増加が続いており、第50週の定点当たり報告数は1.98(報告数9,738)となった(図1)。都道府県別では宮城県(18.20)、愛知県(10.28)、三重県(9.71)、岡山県(5.17)、愛媛県(4.43)、山口県(4.22)、岐阜県(3.39)、滋賀県(2.94)の順であり、40都道府県で前週よりも報告数の増加が認められた(図2)。
2011年第36〜50週に国内では340検体のインフルエンザウイルスの検出が報告されており、AH1pdm09が2件(0.6%)、AH3亜型(A香港型)302件(88.8%)、B型36件(10.6%)と、AH3亜型が大半を占めている状態が続いている(図3)。
|
|
|
図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(2001〜2011年第50週) |
図2. インフルエンザの都道府県別定点当たり報告数の推移(2011年第48〜50週) |
図3. インフルエンザウイルス検出報告割合(2011年第36〜50週) |
これまでのところAH3亜型を中心としたインフルエンザの流行が全国各地で発生してきており、今後冬季休暇を経て1月には本格的な流行へと移行していく可能性が考慮される。今後ともインフルエンザの発生動向には注意深い観察が必要である。
|