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「沖縄県中部における米軍基地内からの牛ひき肉に関連した腸管出血性大腸菌O157:H2集団感染」
沖縄県中部福祉保健所健康推進課 課長
国吉 秀樹


1. はじめに 米軍施設内からの食品による腸管出血性大腸菌O157:H2食中毒であったので、特別な対応を必要とした事例であった。平常とは違う多岐にわたる関係機関との調整、厳密な因果関係の証明、特段の人権への配慮が重要となったが、保健所、沖縄県福祉保健部、沖縄県環境衛生研究所、国立感染症研究所および米国関係機関の連携が奏功した。 感染源とされたハンバーグ製品は極東地域の米軍基地とカリフォルニア、ワシントン、オレゴン、アイダホの各州に大量に流通しており、大規模な集団発生につながる可能性もあったが、少数の患者発生に押さえることができたと思われた。

2. 中部保健所管内の特徴

  1. 管内
    沖縄本島中部地域(当時4市5町5村:364,95km2、45万人)
  2. 特徴
    ・ 広い → 保健所圏域としては県内で最も大きい
    ・ 広大な米軍基地の存在
    普天間基地ヘリ墜落事故  の保健所
    ・ 県立中部病院を管内に持つ
    ウエストナイル熱?    の保健所
    ・ 麻しん集団発生も経験
    乳児期予防接種      の保健所
  3. その他、最近ではIDB総会会場になるなど、沖縄県の最前線という感じ

3. 経緯

 平成16年2月17日
 沖縄本島中部のA病院より保健所に8歳男児・O157感染症患者発生届出あり。保健所では直ちに疫学調査等を開始【どうやら米軍基地内からの冷凍ハンバーグを2月6日に家族5人で調理して喫食し、8日から15日にかけて3人が下痢、血便、腹痛等の症状をきたして医療機関受診したことがわかった】。
 平成16年2月18日
 冷凍ハンバーグの残りを沖縄県環境衛生研究所に提供→ 検査開始。

      2月20日
 冷凍ハンバーグからO157(VT1+2)を検出。
 家族の14歳女児からもO157検出 → 3類感染症届出。
 県福祉保健部健康増進課から海軍病院公衆衛生部に情報提供。
 冷凍ハンバーグ購入先判明。
      2月21日
 冷凍ハンバーグの残りを海軍公衆衛生部に提供→ 米本国の研究所で検査するとのこと   
      2月23日
 保健所の接触者検便の結果、家族の12歳男児からもO157検出
      2月24日
 環境衛生研究所から、感染者からの分離株とハンバーグから分離されたO−157・3株を感染研に送付し、パルフィールド電気泳動法(PFGE)による遺伝子相同性解析を依頼。  海軍公衆衛生部より、米国農務省(USDA)が製造会社(RM社)に立ち入り調査したとの情報提供  → 25日にリコール発表!
      2月25日
 県福祉保健部薬務衛生課記者発表
 在日米軍ニュースリリース
 外務省沖縄事務所が保健所、県立B病院を訪問調査。
      2月26日
 県基地対策室から米軍に対し、今回の食中毒事例発生について食品衛生の徹底について要請の調整 → 難航す。米軍は受け容れず!
 RM社は自主的におよそ90,000ポンドの製品の回収開始。
 県内地方紙、全国紙、星条旗新聞(基地内米軍紙)に記事が載る。
      2月27日
 感染研から遺伝子解析の結果、患者分離株とハンバーグの分離株は同一との回答得る。
 感染研は直ちに疫学的情報と遺伝子解析データを米国疾病予防センター(CDC)に送り、米国での発生状況を照会する。 → 発生無し。
 環境衛生研究所は県健康増進課、海軍病院を通して未開封の同一ロット冷凍ハンバーグを入手し、検査を開始する。
 患児が学校で報道等によるショックをうける。
      3月1日  未開封の同一ロット冷凍ハンバーグからもO157が検出され、その後PFGEで同一の分離株であることも分かった。 → 感染源は完璧に確定!

平成16年3月2日
  県福祉保健部と米軍の交渉(在日米軍が所管、日本国内の米軍基地全体の問題に!)。
     3月3日 
  県福祉保健部と外務省沖縄事務所との交渉(米軍に要請して欲しい!)。
     3月5日
  米軍には外務省から伝えてもらう旨の確認をする。
     3月8日
  県福祉保健部と基地対策室の調整 → 米総領事館へ要請することになった(12日OK)。
     3月15日
  米総領事館へ要請:福祉保健部次長、薬務衛生課、基地対策室担当  → 要請の内容を米軍に伝えるとのコメント。これで終了。

4. 成果

  1. 特殊な事例であったが、感染源を確定することができた
  2. 保健所、沖縄県担当課、関係する部局、沖縄県衛生環境研究所、海軍公衆衛生部、感染研などの連携がうまくいった
  3. 県民の立場で、様々な外圧?によく立ち向かった

5.課題

  1. 海軍公衆衛生部との連携は緊密であったが、個人情報の取り扱いは難しかった
  2. マスコミ公表のタイミングも慎重であるべきである
  3. 外交問題も絡んで調整すべき機関が多く、もっと早めにそのレベルの対応をする必要があった
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