The Topic of This Month Vol.18 No.9(No.211)


つつが虫病 1991〜1995

つつが虫病はダニ媒介性のリケッチアによる感染症で、古来から新潟、山形、秋田県の日本海沿岸の河川敷で夏季に発生する風土病とされていた(古典型つつが虫病)。一方、第二次大戦後の1948年秋にわが国に駐留していた米軍兵士が富士裾野でつつが虫病に罹患し、その後同様な疾患が伊豆七島(七島熱)、千葉(二十日熱)、香川(うまやど熱)などでも存在していることが明らかにされた。古典型つつが虫病の主な媒介ダニはアカツツガムシ(Leptotrombidium akamushi)であるが、戦後明らかにされたつつが虫病(新型つつが虫病)はタテツツガムシ(L.scutellare)およびフトゲツツガムシ(L.pallidum)によって主に媒介される。タテツツガムシは晩秋から冬にかけて関東以西のつつが虫病を、フトゲツツガムシは春と秋から冬に主として東北、北陸地方のつつが虫病を媒介する。

伝染病予防法に基づくつつが虫病の届出制度は1950年に開始された。当時は大部分が古典型つつが虫病で患者数は年間100名程度であったが、その後急速に減少し1965〜75年の間は10名程度になった。しかし、1980年頃より新型つつが虫病患者が急増し、1984年には957となった。その後やや減少したものの、1990年には941まで増加した。1992年以降ふたたび減少傾向にあるが、現在でも年間数百名の患者が発生しており、死者も毎年数名報告されている(図1)。

厚生省統計による1991〜95年のつつが虫病患者は、北海道(1993年の1例は道外で感染)、滋賀、奈良、香川、沖縄を除く全国各地で報告されている。患者数は年次に従い減少しているが、患者発生地域は拡大傾向にある。また、死者は秋田、鹿児島など11都府県から16(男10、女6で、年齢は50〜59歳が男2、女2;60〜69歳が男3、女2;70〜79歳が男2、女1;80歳以上が男3、女1)報告されている(表1)。1991〜95年の5年間の都道府県別人口10万人当たりの平均つつが虫病罹患率は鹿児島、宮崎で最も高く、次いで秋田、新潟、大分となっている(図2)。また、月別にみたつつが虫病患者発生数はいずれの年も5月と11月にピークがある(図3)。5月のピークは主として東北、北陸、11月のピークは関東以西での発生を示しているが、1991〜94年までは11月の発生数が5月の発生数を大きく上回っているのに対して、1995年では5月の発生数が増加し、11月が減少している。

衛生微生物技術協議会検査情報委員会に設置されているつつが虫病小委員会(以下委員会)では全国地方衛生研究所(地研)の協力により1989年からつつが虫病様患者情報を収集している。1991〜95年までに地研から報告された2,512例について年齢・性別(1991年は集計せず)、感染推定場所および感染時の作業内容を中心にまとめた(本月報Vol.13、No.11、Vol.14、No.12 、Vol.15、No.12 、Vol.16、No.12、Vol.18、No.1参照)。つつが虫病患者報告数は男女ともほぼ同数であるが、年齢層別にみるとは男性では60〜69歳が最も多く、次いで50〜59歳であるが、女性では60〜69歳に次いで70〜79歳が多く、女性で高齢傾向にある。感染推定場所および作業内容についてみると、無記載が全体のおよそ1/4を占めているが、記載例ではいずれの年も感染場所は山地が多く、ついで農地である。また、作業内容では農作業が多く、次いで山作業となっている(表2)。

つつが虫病の確定診断は1983(昭和58)年の公衆衛生局保健情報課長通知「つつが虫病の多発について」ではつつが虫病リケッチア3株(Gilliam、Kato、Karp)を抗原とする補体結合反応(CF)による抗体測定としている。しかし、CFは抗補体作用があると低力価の抗体測定が出来ないこと、感染の急性期を示すIgM抗体の測定が不可能であることなどから、公衆衛生微生物検査における精度管理に関する研究班「リケッチア感染症の試薬の精度管理に関する委員会」(委員長:太田原美作雄)は蛍光抗体法(IF)または免疫ペルオキシダーゼ法(IP)を推奨している(本月報Vol.8、No.11、1987参照)。1991〜95年の地研からの報告では、つつが虫病の血清診断で確定された症例の82%がIF、16%がIPで、CFは1%であった。一方、臨床症状でつつが虫病を疑いながら、ペア血清が得られないために抗体の有意な上昇が確認できず、判定保留となった例も全検査例のおよそ20%あることも明らかにされた。委員会ではこのような保留例については急性期の血液(血餅)からのPCRによるリケッチア遺伝子の検出を奨励している(本月報Vol.18,No.1,1997参照)。


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