The Topic of This Month Vol.18 No.10(No.212)


A型肝炎、1987〜1996

A型肝炎の病原であるA型肝炎ウイルス(HAV)はピコルナウイルス科ヘパトウイルス属に分類され、血清型は1種類であるが、遺伝子型はI〜VII型に分けられる。ヒトからはI、III型が主に検出される。HAV感染の特徴としては、小児では不顕性〜軽症ですむことが多いが、成人は重症化しやすいことが挙げられる。また、発症前にウイルスが排泄されるので、家族内感染が起こりやすい(本月報Vol.12、No.12参照)。HAVの分離培養は非常に困難であるため、A型肝炎の確定診断には通常、患者の急性期血清中のIgM抗体をELISAで検出する。

本疾患は1987年から厚生省感染症サーベイランス事業対象疾病となり、全国の約500の病院定点から毎月の患者発生状況が報告されている。A型肝炎は毎年冬から春に増加し、夏に減少する(図1)。1987年〜1996年の年間報告患者数は353〜1,881人(病院定点当たり0.69〜3.60人)で、1990年の報告が最も多かった。

各年の都道府県別のA型肝炎患者発生状況を図2に示した。1988年には福井県(定点当たり15.33人)、1990年には愛知県(21.92人)、群馬県 (15.60人)、1991年には鳥取県(15.70人)での報告が多かった。1995〜96年は全国的に患者発生が少なかった。

1990年をピークとする愛知県での患者多発時の調査では大部分は散発例であったが、親から子、子から親への家族内二次感染も多くみられた(本月報Vol.12、No.12、1991参照)。また、同時期の愛知、三重、静岡3県での分子疫学調査では、I型の亜型IA型に属するが、一部の塩基配列が異なる多種類の株が検出され、世界各地で検出された株との比較から、国外から持ち込まれた可能性が推定された(J. Gen. Virol. 73:1365-1377、1992)。愛知県ではその後もIA型が主に検出されている(本号3ページ参照)。

この他、病原微生物検出情報への報告では乳幼児保育施設関連の集団発生(本月報Vol.11、No.7、1990参照)、福祉施設での集団発生(本月報Vol.17、No.3、1996および本号3ページ参照)、寿司店やレストランで調理時に食品が汚染され、その食品を介すると推定された患者多発(本月報Vol.15、No.5、1994およびVol.16、No.10、1995参照)などの小規模集団発生例がある。なお、欧米では血液製剤によるA型肝炎の感染も報告されている(CDC、MMWR、45、No.2、29、1996)。

A型肝炎患者の年齢分布をみると(図3)、1987年にサーベイランスを開始した当初は5〜14歳および35〜44歳の割合が大きかったが、1990年代に入ってから45歳以上の患者の割合が増加傾向にある。

一般住民の1973、1984、1994年の年齢別HAV抗体保有状況が調べられている。感染症研究所血清銀行などに保存されている検体を用いてELISAで抗体測定した成績を比較すると(図4)、調査間隔年数に相当して抗体保有率曲線が高年齢側にシフトしており、わが国のHAV抗体保有率は年々低下している(Jpn. J. Med.Sci. Biol.、40:119-130、1987およびJpn. J. Med.Sci. Biol投稿中)。1994年の40歳未満の抗体保有率は1%以下であり、40歳以上では年齢に伴い上昇し、65歳以上は90%であった。「難治性の肝疾患研究班」(班長:小俣政男)はA型劇症肝炎が1992年頃から増加傾向にあることを指摘しており、今後、中高年の患者の増加傾向に伴う重症例の増加が予想される。

米国CDCは海外旅行者をはじめとして高リスク群に対するA型肝炎ワクチン接種を勧めている(CDC、MMWR、46、RR15、1996)。わが国では従来γ−グロブリンが唯一の予防法として用いられていたが、1994年に国産の不活化ワクチン(凍結乾燥品。アジュバント、防腐剤を含まず)が認可され、16歳以上に任意ワクチンとして接種することができるようになった。海外では現在でもアジア、中近東、アフリカ、南米などにHAVが常在しており、これらのHAV汚染地域への渡航者、特に1カ月以上滞在する成人に予防接種が勧められる。また、施設内などにおける感染拡大の予防にも有効である。


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