The Topic of This Month Vol.19 No.11(No.225)
1987/88〜1997/98シーズンの「乳児嘔吐下痢症」の一定点当たり患者報告数の推移をみると(図1)、毎シーズン冬季に大きく増加しているが、春季にもかなりの患者発生がみられる。特に1997/98シーズンは1998年第6〜8週(2月下旬)に一時減少した後、第14週(4月上旬)をピークとする第2の流行が明瞭にみられた。
胃腸炎の病原ウイルスとして知られる、ロタウイルス、SRSV、アストロウイルス、アデノウイルス40/41型、について病原微生物検出情報に報告された1993年10月〜1998年9月の検出数を流行シーズン別に表1に示した。これらの胃腸炎ウイルスは培養が困難で、主に電子顕微鏡(EM)、EIA、RPHA、Latex凝集反応により検出されている。このうちA群ロタの検出数は各シーズン約400〜700が報告されている。C群ロタの検出報告は少ないが、小学校などにおける集団発生の報告がある(本号5ページ&Vol.18、No.12参照)。B群ロタ検出はこれまで全く報告がない。SRSVは主にEMによる検出で約200〜300余りが報告されている。アストロの検出数は最近は少ないが、1991年には小学校での集団発生が報告されている(本月報Vol.13、No.4参照)。アデノ40/41型は抗原検出キットが普及するに伴い最近徐々に検出数が増加しており、1997/98シーズンには77であった。
ロタ、SRSV、アデノ40/41型について1993年10月〜1998年9月の週別検出数の推移を図2に示す。検出例の年齢で0〜3歳、4〜14歳と15歳以上に分けて示した。1993/94シーズンまでは、「乳児嘔吐下痢症」の患者発生ピークとほぼ一致してロタの検出報告が増加していたが(本月報Vol.12、No.5、Vol.14、No.3、Vol.16、No.2特集参照)、1994/95シーズンには年末の患者の増加に比べロタの検出報告が少なかった。さらに1995/96シーズン前半(1995年第4四半期)には例年より早く患者の増加が見られたのにもかかわらずロタの検出報告は非常に少なく、SRSVが検出されたことから、SRSVがこの時の「乳児嘔吐下痢症」の主な病原ウイルスであったことが明らかとなった(本月報Vol.17、No.2特集参照)。その後1995/96シーズン後半(1996年上半期)には0〜3歳からのロタ検出が増加している。この傾向は1996/97、1997/98シーズンも同様で、冬季の小児の胃腸炎患者からはSRSV、春季にはロタが主に検出されている。特に1997/98シーズンに「乳児嘔吐下痢症」患者発生が明瞭な2つのピークを呈した(図1)原因は、第1のピークにSRSV、第2のピークにロタが関与していたことを示している。アデノ40/41型の検出は1997年後半からわずかに増加しているが明瞭な季節性はみられない(図2)。
1997/1998シーズン(1997年10月〜1998年9月)にロタ、SRSV、アデノ40/41型が検出された小児(0〜14歳)の年齢分布を見ると、図3のように、ロタとSRSVは1歳からの検出が最も多く、アデノ40/41型は0歳からの検出が最も多い。0〜3歳の占める割合はロタ87%、SRSV66%、アデノ40/41型85%で、SRSVは4歳以上、特に年長児から検出される割合がロタやアデノ40/41型に比べ大きい。
1997/1998シーズンにロタ、SRSV、アデノ40/41型が検出された小児についての臨床症状を比較すると(表2)、ロタ検出例では発熱が0〜3歳、4〜14歳とも多くみられた。胃腸炎症状を細かくみると、SRSV検出例では嘔気・嘔吐のみを呈したものが4〜14歳で14%あり、0〜3歳6.5%より多かった。
SRSVは生カキなどの食品を介して成人の胃腸炎集団発生を起こしていることが既に知られており(本月報Vol.19、No.1参照)、図2に示された15歳以上のSRSV検出例の多くはそのような集団発生事例からのものである。
便材料中のSRSVの検出は、従来は主に電子顕微鏡で行われ、近年はRT-PCR法が普及してきている。現在、より簡便な抗原検出法の研究・開発が進められている(本号3ページ参照)。
ロタについては既に1998年8月、米国食品医薬品局(FDA)が経口生ワクチン(RRV-TV:tetravalent rhesus-human reassortant rotavirus vaccine)の米国内での使用を、小児の下痢症を減らし対費用効果を発揮するとして認可している(CDC、EID、Vol.4、No.4、1998および本号9ページ外国情報参照)。日本でもロタウイルスワクチンの必要性について臨床疫学的検討が行われている。