The Topic of This Month Vol.21No.4(No.242)


急性ウイルス性肝炎 1999.4〜12

急性ウイルス性肝炎は1987年に感染症サーベイランスの対象疾病に加えられ、 500余りの病院定点から月単位の報告が1999年3月まで行われていたが、1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下感染症新法)」において、全臨床医に届け出義務のある4類感染症として位置づけられた。医師は本症を診断後1週間以内に保健所に届け出なくてはならない。この疾病の届け出は新規の感染による急性肝炎の把握を目的としており、B型やC型肝炎の慢性肝疾患、無症候性ウイルス保有者(キャリアー)および、これらの急性増悪例は対象ではない。新法施行後1999年12月までの9カ月間に報告された急性ウイルス性肝炎患者は1,455例で、その内訳はA型肝炎713例(49%)、B型肝炎497例(34%)、C型肝炎138例(9%)、E型肝炎2例、その他70例(5%)、不明35例(2%)であった(図1)。

A型肝炎:A型肝炎はピコルナウイルス科のA型肝炎ウイルス(HAV)が病原体であり、主に患者の便中に排泄されたHAVが経口的に感染して起こるが、慢性化することは無い。小児は不顕性感染に終わることも多いが、成人は小児に比して発症しやすく、重症化することも稀ではない。感染症新法施行以前のサーベイランスでは、病院定点から年間353〜1,881例の報告があり、1990年をピークに、その後報告数は減少してきていた(本月報Vol.18、No.10参照)。

tpc242.html 1999年4〜12月に報告された713例は、男性64%(456例)、女性36%(257例)と男性が多く、年齢分布をみると男性は20〜30代、女性は30〜40代が多かった(図2-a)。推定感染地は、海外は6%(40例)のみで、国内88%(625例)、不明7%(48例)であった。海外での主な感染地はインド、中国などアジア諸国であった。国内感染例について人口10万人当たりの報告数を都道府県別にみると、徳島、山梨、東京の順に多く、徳島では1999年11〜12月にA型肝炎患者発生の集積がみられた。近畿地区も比較的報告数が多かった(図3)。感染経路として生カキなどの摂食が疑われた例もあるが、潜伏期間が長い(平均4週間)こと、環境や食材からのHAV分離が困難であることなどから感染源が特定された例は少ない。また、男性同性愛者間での感染例が15例あった。

日本では上下水道の整備とともに感染機会が減少し、A型肝炎の抗体を保有していない人が50歳以下で増加している(本月報Vol.18、No.10参照)。HAVは比較的長い潜伏期の間に便中に排泄され、かつ種々の環境条件(酸、界面活性剤、熱など)にも強いため、ウイルスが伝播しやすい集団(家族、施設、男性同性愛者など)に入ると感染が広がりやすい(本月報Vol.18、No.10およびVol.17、No.3参照)。また、調理人から飲食客へと数週間にわたって感染が続いたと思われる事例も報告されている(本月報Vol.15、No.5およびVol.16、No.10参照)。患者の便検体ばかりでなく血清中のHAV遺伝子をPCRで増幅することも可能である。さらに、その塩基配列の相同性の比較が感染源調査に有用な情報となる(本号3ページ参照)。

予防は、A型肝炎ワクチンを接種することにより可能である。米国では、流行地への渡航者だけでなく、男性同性愛者、静注薬物常用者や職業的暴露を受ける可能性のある人などに接種を推奨しているが、小児への定期接種を推奨し始めた州もある(本月報Vol.21、No.3参照)。WHOも最近A型肝炎ワクチンの指針を示した(本号7ページ参照)。

B型肝炎:B型肝炎ウイルス(HBV)はヘパドナウイルス科に属し、血液や性的接触を介して感染する。通常一過性の症状発現の後にウイルスが排除されて治癒する。HBe抗原陽性の母親から生まれた児が出生時に感染を受けると無症候性ウイルス保有者(キャリアー)になりやすい。キャリアーは成人になってから肝硬変や肝細胞癌に進展する危険性があるため、1985年から「B型肝炎母子感染防止事業」が開始された(1986年以降に出生した児が対象)。1995年まではHBe抗原陽性、現在はHBs抗原陽性の母親から生まれた児に抗HBs免疫グロブリンとB型肝炎ワクチンが投与され、母子感染によるキャリアーの発生は劇的に減少している(本号3ページ参照)。

1999年4〜12月に報告された497例は男性65%(325例)、女性35%(172例)と男性が多く、男女ともに20代の報告が最も多かった(図2-b)。感染経路として性的接触による感染と報告された例が全体の43%(213例)を占めた。成人の感染では正常の免疫機能があれば慢性化することはほとんど無いものの、患者の約1〜2%が劇症化するといわれている。今後、性感染症として再認識し、予防教育などに力を注ぐ必要がある。

C型肝炎:C型肝炎は1989年に抗体測定試薬が開発され、非A非B型肝炎の主な原因であることがわかった。その後C型肝炎ウイルスはフラビウイルス科に分類された。感染経路は不明な部分もあるが主に血液等を介した感染と考えられている。1999年4〜12月に報告された138例は、男性52%(72例)、女性48%(66例)であり、男女とも比較的高年齢者が多かった(図2-c)。感染症新法下での届け出基準では、初感染による急性ウイルス性肝炎の報告が求められているが、現状では慢性肝炎や無症候性キャリアーの急性増悪などの紛れ込みの可能性も否定できない。輸血による感染はB型同様、献血血液のスクリーニングにより激減したが、針刺し事故による感染が5例報告された。

その他の肝炎:D型肝炎はB型肝炎患者に同時感染や重感染を起こし、重症化しやすい。E型肝炎は主に水系感染による感染が多いといわれている。1999年4〜12月にはD型肝炎の報告は無かったが、E型肝炎は中国での感染例が2例報告された。その他のウイルスによる肝炎は70例報告され、このうちEBウイルスが41例、サイトメガロウイルスが14例であった。

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