The Topic of This Month Vol.21No.11(No.249)


溶血性レンサ球菌感染症 1996〜2000
(Vol.21 p 240-241)

1981年に開始された厚生省感染症サーベイランス事業では,小児科・内科定点からA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)によると疑われる咽頭炎(猩紅熱も含む)が「溶連菌感染症」の疾病名で報告されていた。1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」では,「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」と名称が変更され,引き続き小児科定点から報告される4類感染症となった。また,同法では新たに「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」が全医師に届け出義務のある4類感染症として位置付けられた(診断基準はhttp://idsc.nih.go.jp/kansen/ 参照)。

 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」の1定点医療機関当たり患者報告数は,1996年は30.7,1997年34.9,1998年34.1,1999年39.9,2000年は41週現在で42.1(患者数 117,134)である。一定点当たり患者報告数は毎年夏に減少する(図1)。また,患者の年齢分布も,1996〜1999年において大きな変化はみられない(図2,および本月報Vol.15、No.11参照)。

S. pyogenes を血清学的に分類する方法の一つとしてT型別がある。1982〜1999年に地研・保健所で実施されたT型別成績を図3に示した。各年で検出数が上位のT型はT12、T1およびT4で、この3つの型で各年の分離数の50%以上を占めている。また,これらは検出数全体に対しての割合の年次変動が少ない。このような傾向は、T11,T18,T22,T28,TB3264のような血清型でも同様に認められる。一方,年次変動が大きい血清型としては,T3,T6,T25型があり,T3型は1985〜1986年と1993〜1994年、T6型は1988〜1989年と1997年、T25 型は1999年をピークとする急激な変動が見られている。T型の年次変動における一つの特徴として,一定の割合を保つ型と,急激な変化を示す型に大別される。

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症

1980年代後半から,欧米をはじめアジアにおいても,S. pyogenes により引き起こされる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」(toxic shock-like syndrome: TSLS,いわゆる“人食いバクテリア”による劇症型感染症)が問題になっている。TSLS患者は,免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず,突然発病する例が多い。初期症状としては,咽頭炎,四肢の疼痛,発熱,血圧低下などで,発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で,いったん発病すると数十時間以内には軟部組織壊死,急性腎不全,成人型呼吸窮迫症候群(ARDS),播種性血管内凝固症候群(DIC),多臓器不全(MOF)を引き起こし,患者をショック症状から死に至らしめる。

わが国では,1992年に典型的なTSLS患者が報告されて以来,この感染症についてのサーベイランスが開始された(本月報Vol.18, No.2参照)。2000年8月までに衛生微生物技術協議会溶血レンサ球菌レファレンスシステムセンター(レファレンスセンター)が,TSLS患者から分離された64菌株についてT型別を調査した結果,T1型が31症例で,全体の47%を占めており,それに続いてT3,T12,T28が多かった(図4A)。上述したようにA群溶血性レンサ球菌咽頭炎を引き起こす主な血清型はT12,T1,T4型であるが(図4B),T4,T12型は必ずしもTSLSを引き起こす主なT型とはなっていない。同じような傾向が諸外国でも報告されている。一方,興味あることにT3型については,1993〜1994年をピークに急激に増加するに従いTSLSを示す症例も増加したが,その後咽頭炎由来菌株の分離数が減少するに伴いT3型によるTSLSがみられなくなってきていた。なお,レファレンスセンターによるTSLSの症例や菌株のT型別などの集計は,感染症情報センターのホームページの感染症各論(http://idsc.nih.go.jp/pathogen )の中にある「溶血レンサ球菌レファレンスセンター報告書(短縮版)」で見ることができる。

1999年4月の感染症法施行後届けられたTSLS患者は,1999年に22例,2000年に37例,計59例で(2000年10月16日現在),届け出時点で死亡が報告されたのは25例であった(図5)。患者の分布は全国26都道府県にわたっており、特に発生の地域差は認められない(図6)。患者は50〜60歳代に多く,平均年齢は55.7歳であった(図7)。

最近,同じような劇症型の症状を引き起こす細菌として注目されているのがVibrio vulnificus である(http://idsc.nih.go.jp/others/vvulni.html参照)。この細菌による劇症型感染症は,肝疾患等の基礎疾患を有する人が当該菌に汚染された魚介類を喫食したり(本号4ページ参照),当該菌が傷口から侵入した場合に発生しやすい。臨床的にはTSLSと類似する点が多いが,治療に際しては,TSLSにはペニシリン系薬剤やクリンダマイシンが使用されるのに対し、V. vulnificus感染症には第3世代セフェムやミノサイクリンが一般的に使用されるので,両者を適切に鑑別診断する必要がある。

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