The Topic of This Month Vol.23 No.7(No.269)

B型肝炎・C型肝炎 2002年5月現在

(Vol.23 p 163-164)

B型肝炎ウイルス(HBV)に感染している母親から生まれた児は、 出生時に感染を受けていた場合無症候性ウイルス保有者(キャリアー)になりやすく、 キャリアーは成人になってから肝硬変や肝細胞癌に進展する危険性がある。

わが国では血清肝炎対策として、 輸血用血液のHBVスクリーニングの導入、 使い捨て注射器の普及がなされたことにより、 血液を介する水平感染は大きく減少した。さらに1985年から開始された「B型肝炎母子感染防止事業」によって母子間垂直感染によるキャリアーの発生は劇的に減少した(本月報Vol.21、 No.4参照)。

一方、 1989年のC型肝炎ウイルス(HCV)抗体測定試薬の開発から始まったHCVの研究により、 HCV感染者が慢性肝炎になり、 その一部が肝硬変、 肝癌に進行することが明らかにされ、 C型肝炎対策が緊急の課題となっている。

1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査において、 B型肝炎・C型肝炎は、 全数把握の4類感染症の「急性ウイルス性肝炎」として全医師に届け出が義務付けられている。届け出の対象は最近の感染による急性肝炎であり、 過去に感染した慢性肝疾患、 キャリアーおよびこれらの急性増悪例は含まれない(報告基準は本号8ページ参照)。

輸血後肝炎対策:1960年代後半に売血から献血制度に切り替えられ、 1972年から輸血用血液のHBs抗原スクリーニングが導入された。1989年からは輸血用血液および血漿分画製剤原料血漿についてHBs抗原、 HBc抗体、 HCV抗体検査が実施されてきた(図1)。さらに1999年10月からは全献血血液検体中のHBV、 HCV、 HIV血清学的検査陰性検体に対する核酸増幅検査(NAT)導入により、 感染後検査陽性になるまでのウインドウ期が短縮され、 輸血によるHBV感染の報告はNAT導入前の5分の1に抑制され、 HCVとHIV感染の報告は無い(本月報3ページ参照)。

C型肝炎緊急対策:近年、 わが国の肝および肝内胆管の悪性新生物と肝硬変による死亡数は年々増加している(図2)。一方、 インターフェロンや抗ウイルス剤のリバビリンを用いるなどC型肝炎の治療法の著しい進歩がみられ(本月報5ページ参照)、 肝硬変や肝癌への進展を抑えることが可能となってきている。しかし、 自覚症状が無く感染に気づいていない者がかなりおり、 治療の機会を逃して肝硬変や肝癌へ移行する可能性があることが、 「肝炎対策に関する有識者会議報告書」(http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0409-1.html参照)で指摘された(平成13年3月)。厚生労働省はこれを受けて、 C型肝炎等緊急総合対策の一つとして、 平成14年度から老人保健法に基づく基本健康診査、 政府管掌健康保険等の生活習慣病予防健診、 保健所における性感染症またはHIV 抗体検査の機会に肝炎ウイルス検査をあわせて受けられるようにした(本月報6ページおよびhttp://www.vhfj.or.jp参照)。これまで肝炎ウイルス検査を受けたことがない人は積極的に受診することが望まれる。

感染症発生動向調査:1999年4月以降に報告された急性ウイルス性肝炎患者数を表1に示す。A型、 B型、 C型とも1999年に比べ2000〜2001年は報告が減少している。D型の報告は無く、 E型は1999年2例、 2000年4例のみである。

B型肝炎では毎年1〜2例の劇症肝炎例、 1〜3例の報告時点での死亡例がみられる(表1)。性別に年齢分布をみると(図3)、 1999年同様(本月報Vol.21、 No.4参照)、 2000〜2001年も男性が多く、 男女ともに20代の報告が最も多い。推定感染経路として「性的接触による感染」の割合が1999年42%、 2000年46%、 2001年55%と、 増加している。HIVとともに性感染症としての予防教育が引き続き必要である。B型肝炎はワクチンによる予防が可能であり、 キャリアーの性的パートナー、 腎透析患者、 医療従事者、 救急隊員などは、 任意接種として接種できる。

C型肝炎は1999〜2001年に理由は明らかでないが無症状の報告数が減少したため、 年齢分布に変化が見られた(図4)。届け出医師が推定した感染原因・感染経路は過半数が「不明」であるが、 「性的接触」、 「輸血」、 「静注薬物濫用」が挙げられ、 「その他」では「院内」、 「透析」、 「針刺し事故」、 「刺青」、 「鍼治療」、 「ピアス」などの記載があった。2000年には「透析」、 「院内」および「静注薬物濫用」で集団発生と疑われる届け出があった。

届け出時点には感染経路が不明であったが、 その後の調査で院内感染が明らかとなった事例もみられることから、 感染経路の調査が重要であり、 感染拡大を食い止めるためには早期の患者届け出と院内感染対策の徹底が望まれる。

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