エイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年〜1999年3月までは「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)」に基づいて実施されていた。1999年4月からは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づく感染症発生動向調査として行われてきたが、2003年11月の感染症法改正で全数把握の5類感染症となった(報告基準はhttp://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/kansensyo/kijun5a.html#7参照)。本特集のHIV感染者* (AIDS未発症者、以下HIV )数とAIDS患者* (以下AIDS )数はエイズ動向委員会による2003(平成15)年年報(2004年2月27日確定)に基づく。なお、同年報は厚生労働省疾病対策課より公表されている(http://www.acc.go.jp/mlhw/mlhw_frame.htm)(*印用語の説明は次ページ参照)。
1.1985〜2003年までのHIV /AIDS 報告数の推移:2003年に新たに報告されたHIV は640(男573、女67)、AIDS は336(男291、女45)で、ともに過去最高となった(図1)。国籍・性別では日本国籍男性がHIV 全体の82%(2001年76%、2002年78%)、AIDS 全体の75%(2001年67%、2002年75%)を占めている。
1985年〜2003年12月31日までの累積報告数(凝固因子製剤による感染例除く)はHIV 5,780、AIDS 2,892で、人口10万対ではHIV 4.554、AIDS 2.279となった。なお、本発生動向調査とは別の「血液凝固異常症全国調査」で血液凝固因子製剤によるHIV 1,432(生存中のAIDS 168および死亡者 544を含む)が報告されている(2002年5月31日現在)。
国籍・性別(図2):HIV では日本国籍男性の増加が顕著で、2003年には初めて500を超え、過去最高となった。日本国籍女性、外国国籍男性・女性はここ数年は横ばい状態にある。AIDS も日本国籍男性の増加傾向が明瞭で2003年は252と過去最高となった。
感染経路と年齢分布:2003年は日本国籍男性の同性間性的接触による感染がHIV (340)、AIDS (91)とも過去最高となった(図3)。日本国籍男性の同性間性的接触によるHIV の年齢のピークは25〜29歳であるが、35〜39歳の報告数の増加が目立っている(図4a)。日本国籍男性の異性間性的接触によるHIV の年齢のピークは、2003年は20代後半〜50代前半まで大きな差がみられなかった(図4b)。日本国籍女性は若年化の傾向が懸念されたが、2003年は年齢のピークが明瞭ではなかった(図4c)。1999〜2003年に報告された異性間性的接触による日本国籍のHIV の性別内訳を年齢別にみると、15〜19歳(69%)、20〜24歳(54%)では女性が男性を上回っており、他の年齢層とは大きく異なる(図5)。
静注薬物濫用や母子感染によるものはHIV 、AIDS いずれも1%以下であるが、静注薬物濫用は2003年に日本国籍例としては過去最高の6例(HIV 4、AIDS 2)が報告された。一方、母子感染例はAIDS 1例が報告された(HIV は0)。
わが国の母子感染に関する調査によると、HIV感染妊婦からの年間出生数は1998年以降20前後と以前より増加傾向にあるが、HIV感染児数は1995年の7をピークに減少傾向にあり、母子感染予防策が効を奏していると考えられる(本号4ページ参照)。
感染地および報告地:2003年における推定感染地域はHIV 、AIDS ともに国内感染が多かった(HIV 78%、 AIDS 64%)。報告地は関東・甲信越ブロックが依然多いが(HIV 62%、AIDS 65%)、HIV は報告数が多い順に東京、大阪、神奈川、愛知、千葉、兵庫、京都、茨城、静岡、栃木、群馬、埼玉で、これら12都府県が10を超えている。数は少ないものの、広島、沖縄などにおいて報告数が増加している。
2.病変死亡報告* の動向:1999年3月31日までに報告された病変死亡例は596で、内訳は日本国籍が485(男445、女40)、外国国籍が111(男77、女34)であった。1999年4月〜2003年12月31日までに任意の病変報告により厚生労働省疾病対策課に報告された死亡例は日本国籍例139(男130、女9)、外国国籍例31(男20、女11)、計170で、うち2003年中の報告は日本国籍例15(男15、女0)、外国国籍例4(男4、女0)、計19であった。
3.献血者のHIV抗体陽性率:献血者のHIV抗体陽性率は年々増加を続け、2003年は献血件数5,621,096中87(男79、女8)、献血10万件当たり1.548と、2002年をさらに上回り過去最高であった(図6)。検査目的の献血防止のため、献血者に対しHIV検査の結果は通知されないことを周知する必要がある。
4.保健所におけるHIV抗体検査と相談:2003年の保健所におけるHIV抗体検査・相談受付実施件数は、前年に比べ増加がみられ、検査件数は59,237件、相談件数は130,153件であった。東京都南新宿検査相談室では平日夜間に加えて土日の無料検査窓口開設により検査件数および陽性件数が増加している(本号3ページ参照)。各地でも土日・夜間あるいは予約不要の検査窓口を開設している(http://www.hivkensa.com/index.html参照)。
匿名検査の利便性を高めるため、厚生労働省は、「HIV検査体制の構築に関する研究班」(班長:神奈川県衛生研究所・今井光信)が作成した「保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン」(http://api-net.jfap.or.jp/siryou/siryou_Frame.htm参照)を各都道府県等に配布している。
まとめ:2003年のHIV /AIDS はともに過去最高となり、依然増加傾向にあることが明らかになった。欧米では増加に歯止めがかかってきているのに対し大きく異なる点である。ことに2003年は男性での同性間性的接触による感染の増加が目立っており、日本国籍者のみならず、外国国籍者も考慮した積極的な予防施策が必要である。また若年層における日本国籍異性間性的接触によるHIV では、女性の割合が大きいので、若年男女への注意喚起がさらに必要である。
これまでHIV /AIDS が多かった東京を中心とする関東地域に加え、地方大都市においても増加傾向がみられることから、各地域での対策の展開が望まれる。ことに若者に向けた啓発、相談・検査をより多くの機関でいつでも受けられるようにする工夫が早期発見、感染の拡大予防に結びついていくであろう。
近年の多剤併用療法の進歩によりHIV感染者の予後は改善されているが、HIV感染発見が遅れると、未治療のまま重篤化して予後に大きな影響を及ぼす。発症してから診断報告されるAIDS患者が依然として増加していることから、HIV感染早期発見のため、さらに検査を普及することが必要である。
AIDS患者報告:診断時点で既にAIDS指標疾患を発症しているHIV感染者の報告である。つまり、これらの感染者は、AIDSを発症するまでHIV感染に気付いていなかったと考えられる。
HIV感染者報告:HIVに感染後AIDS指標疾患を発症する前の期間(平均10年)内に、何らかの機会(血液検査、病院受診、献血等)に感染が判明した場合の報告(本月報Vol.23、No.5参照)。いったんHIV感染者として報告されると、AIDS指標疾患を発症してもAIDS患者としては報告されない(この場合には、「病変AIDS」として別途医師が任意に報告する)。従って、HIV/AIDS報告数は過去約10年間の感染状況と検査受診機会を反映し、リアルタイムの感染状況を示すものではない(HIVとAIDSの区分はIDWR 2001年36週号参照)。
病変死亡報告:いったんAIDS患者として報告されたあとに死亡した場合は、「病変死亡」として別途医師が任意に報告する。