2004年8月、福井県内の学校の寮において、有症者数69名のastA (腸管凝集付着性大腸菌耐熱性毒素遺伝子)保有大腸菌O169:HNMによる集団食中毒が発生したので、概要を報告する。
発生状況:8月23日、福井健康福祉センターに福井市内の医療機関から、学生12名が軽い下痢、腹痛および発熱にて受診したとの連絡が入り、調査が開始された。学生82名中62名および職員13名中7名のほとんどが20日8時頃〜22日23時頃に発症し、発症日は19日が1名、20日が14名、21日が46名および22日が8名であった。症状は水様性下痢(68名:10回以上の激しい下痢が14名)、腹痛(55名)、発熱(17名:最高で38.9℃)、吐気・嘔吐(14名)および頭痛(12名)などであった。患者の共通食は、当該調理室で調理した19日と20日の昼食であり、両日ともに喫食者数は95名(発症率は72.6%)であった。検食については食材および調理食品ともに保存されていなかった。23日に受診した12名の糞便検査の結果、25日に全員から大腸菌O169が検出され、食中毒の届出がなされた。
検査結果:当センターでは24日に搬入された調理員3名および症状が残っている学生3名と職員1名の糞便7検体に対し、病原大腸菌、カンピロバクター、ウェルシュ菌、サルモネラおよび腸炎ビブリオの他に、ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスおよびエンテロウイルス)検索も実施した。その結果、7検体すべてから大腸菌O169:HNMが検出され、ウイルスはすべて不検出であった。分離株についてastA、aggR、eaeA 、LT、ST、invEおよびVT遺伝子についてPCRを実施したところ、astA 遺伝子の保有が確認された。医療機関から分与された12名からの分離株についてもPCRを実施した結果、すべてastA 遺伝子が確認され、運動性は認められなかった。なお、調理室のふきとり7検体からは、検査対象菌は検出されなかった。また、立ち入り検査時における水道水の残留塩素濃度が0.2ppmであったことから、水道水の検査は実施されなかった。
これら分離株は制限酵素Bln IおよびXba I処理でのパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)でも同一のパターンを示し(図1)、プラスミド・プロファイルでも、供試した13株すべてが200kbp付近にプラスミドを保有していたことから、これらは同一株と考えられた。また、薬剤感受性試験をセンシ・ディスクを用いてTC、FOM 、ABPC、SM、CIP、KM、CTX、CP、SXT、GM、NAおよびSuの12剤について実施した。TCは耐性、FOMおよびABPCは中間の感受性を示したため、この3種類についてはMICを測定したところ、TCは 256μg/ml、FOMは64μg/mlおよびABPCは8μg/mlであった。
ちなみに、当センターで1997年から収集した県内の医療機関で分離された散発下痢症患者由来大腸菌約1,600株のうち、O169:HNMは3株あり、うち2株がastA 遺伝子を保有していた。astA 遺伝子は健常者からも検出されることから、その病原学的意義は不明であるが、病原微生物検出情報によれば、大阪市(1996年)、福井県(1997年)、広島市(2002年、本月報 Vol.23, 229-230参照)および大分県(2003年、本月報 Vol.25, 101-102参照)で、astA 遺伝子保有大腸菌が原因と思われる集団下痢症が発生していることから、今回の事例もastA 遺伝子が関与している可能性があると思われた。
福井県衛生環境研究センター 石畝 史 京田芳人 望月典郎 堀川武夫
福井健康福祉センター 石森治樹 大森聖円 片山敏夫 高塚英男