飼育牛が感染源と特定された小学校における腸管出血性大腸菌O121集団感染事例−千葉市

(Vol.25 p 302-303)

2004年6月、千葉市内の小学校において酪農啓発施設での飼育牛が感染源となった腸管出血性大腸菌(EHEC)O121による集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

6月18日、市内医療機関から千葉市保健所に同一小学校の児童2名が血便を呈しており、食中毒の疑いがある旨の連絡があった。初発患者Aは6月13日、患者Bは6月14日から下痢・腹痛等の症状があり、当該医療機関で6月19日にO血清型不明・VT2 産生のEHECが検出された。保健所の調査から、患者はいずれも千葉市内U小学校の6年生で、同学年の児童に下痢・腹痛等の症状を呈している者が多数いることが明らかとなった。当初、食中毒の疑いも視野に入れ、給食施設の保存食とふきとりの検査を行ったが、いずれの検体からも病原微生物は検出されなかった。また、U小学校の6年生は、6月9日〜11日に千葉県内のK市で林間学校を行っており、発症者は、林間学校に参加した110名(児童101名、教員9名)のうち、児童63名に限局していたことから、この期間の食事または行動が原因である可能性が考えられ、千葉県に調査の協力を依頼した。一方、同時期、K市の管轄保健所に幼稚園児のO血清型不明EHEC患者発生の届出があった。U小学校児童と幼稚園児が利用した共通場所は、千葉県内の酪農啓発施設であるR施設であることがわかり、さらに調査が進められた。千葉県は、6月29日R施設の現地を調査し、6月30日感染源調査のため当該施設の環境(柵、土壌)および飼育牛の糞便について検査を実施した。その結果、採取した6頭すべての牛糞と牛舎の土壌からO121が検出され、一部の牛糞と土壌からはO157も検出された。なお、当初、血清型が不明であったEHECは、秋田県衛生科学研究所によりO121であることが判明した。

当所での検査は、分離培地にクロモアガーO157培地、CT-SMAC培地、DHL培地を用い、直接培養とTSBブロスによる増菌培養を併用した。今回検出されたO121は、DHL培地で白色様集落を示し、乳糖遅分解性の性質をもち、乳糖分解と非分解の菌が混在しているように確認された。一方、当該菌には市販血清がなく、免疫血清によるスクリーニングが不可能であった。これらのことから、DHL培地上で白色を示す集落を中心に疑わしいコロニーの釣菌を試み、VT産生試験を行い、また、コロニースイープ・ポリミキシンB抽出法によるVT産生試験も併用し、EHECの分離を実施した。最終的には、発症者15名と非発症者2名からO121:H19(VT2)が、発症者2名からO157:H7(VT1+2)が検出され、そのうち1名はO121とO157の両菌種が検出された。なお、二次感染は認められなかった。U小学校の児童患者発生状況を図1に示す。

U小学校児童、K市の患者および飼育牛から検出された分離株について、Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるパターンの解析を行った。その結果、O121分離株は、患者由来2株で3バンド、土壌由来株で2バンドの違いを認めたが、他の株はすべて同一のパタ−ンを示し、O157分離株は、患者由来1株と土壌由来株で1バンドの違いを認めたが、他の3株は、同一のパターンを示した(図2)。KB法による12薬剤(ABPC、CTX、KM、GM、SM、TC、CP、NFLX、NA、FOM、TMP、ST合剤)の薬剤感受性試験でも、すべての株において感受性を示し、同一パターンを示した。

千葉県の調査により(1)児童は、R施設内で昼食をとり、体験学習としてバターやきなこ飴作り等を行った。(2)施設内では、観光用に白牛が飼育されており、簡単に牛や柵に触れることができる環境になっていた。(3)施設内には手洗い場が少なく、全児童が手洗いをするには不十分であった。(4)牛舎周辺には、牛糞が認められ清掃不十分であったことが判明した。こららの結果から千葉県は、本事例は、飼育牛が感染源となったEHEC O121による集団感染であることを特定し、以上のような要因が重なり、汚染された手指を介して感染した可能性が高いとした。

EHEC O121による集団感染例は稀ではあるが、近年、秋田県(本月報Vol.23, 254-255参照)や佐賀県(本月報Vol.23, 143-144参照)においても報告されている。今後、再びこのような事件が起こらないためには、牛と人が接触するような感染のリスクがきわめて高い環境の中では、感染が十分に起こりうることを念頭におき、環境内の消毒や手洗いを徹底し、注意喚起することが重要である。

本事例は、特殊な血清型によるEHEC感染症であったが、医療機関が早期に適切な判断をしたこと、そしてその情報を基に千葉市および千葉県の各関係機関が密接に連絡をとりあい、迅速に対応したことにより、早期に感染源特定に至ることができたと思われる。

千葉市環境保健研究所
秋葉容子 木村智子 高木美好 秋元 徹 三井良雄 小笠原義博 大道正義

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