ミドリガメが感染源と考えられる小児サルモネラ感染症事例−長崎市

(Vol.27 p 71-72:2006年3月号)

2005年11月に長崎市保健所へ届出があったミドリガメが感染源と考えられたサルモネラ腸炎の症例について報告する。

概要および臨床症状:患者は6歳男児、11月8日から嘔吐、下痢を認め、11月9日には発熱も出現し、近医を受診し内服薬を処方された。その後も症状が憎悪傾向にあったため、11月10日に市内の総合病院を受診し急性腸炎の疑いで即日入院となった。入院時、咽頭発赤以外に特に異常所見は認められず、検査データとしては白血球数5,000/μl、CRP 2.24mg/dlと軽度の炎症反応が認められた。また、生化学検査および電解質などにも異常は認められず、ロタ・アデノウイルスについての便中抗原検査も陰性であった。入院時全身状態は安定していたが、発熱、嘔吐、下痢の程度が強く輸液管理となり、細菌性腸炎の可能性を考えホスホマイシン内服およびフロモキセフナトリウム静注で治療が開始された。その後、徐々に症状改善傾向となり第8病日退院となった。入院時の便培養検査でサルモネラO4群が検出されたためサルモネラ腸炎と確定診断された。薬剤感受性は良好であった。

検査:2005年11月14日、入院中の急性腸炎の患児からサルモネラO4群が検出されたという報告を受け、長崎市保健環境試験所で患者便由来菌株のH型別検査を実施したが、1相でbに凝集したものの、2相の凝集がみられなかったため、国立感染症研究所に菌の同定を依頼、Salmonella Schleissheim(ズルシット陽性)と同定された。また、この患児がミドリガメを飼育していたとの聞き取り情報から、カメの体のふきとりおよび飼育水槽のフィルター残水について検査を実施、カメふきとりからサルモネラO4群とO8群を、水槽残水からサルモネラO4群を検出した。このO8群は、H抗原がl,v:1,2という抗原型であったため、Salmonella Litchfieldと判明したが、同時に検出したO4群については、国立感染症研究所で確認検査を実施、患者便由来の菌株から検出されたものと同じS . Schleissheimと同定された。また、上記のS . Schleissheim3株について制限酵素Xba I消化によるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンの解析を当所において行ったところ、3株がすべて同一のパターンを示したため、本事例がミドリガメに起因するサルモネラ腸炎であることが確定した(図1)。さらに、薬剤感受性試験も実施したが、3株とも同一の結果となった。

疫学調査:患児の姉である9歳女児も10月21日に発症、10月24日に近くの開業医にて、38.6℃の発熱、下痢、嘔吐、血便の症状から細菌性腸炎疑いと診断され、内服ホスホマイシンを処方され軽快している(後日、サルモネラO4群が検出されたという検査結果が担当医に報告されているが、届出もされておらず、菌株は確保できなかった)。

また、飼育されていたカメの種類は、ミシシッピーアカミミガメで、入手経路については、10月9日に長崎市のお祭りの露店で2匹を購入したことが分かったが、流通ルート等については不明である。

考察:厚生労働省は、ミドリガメやイグアナが感染源となった小児重症サルモネラ症の発生事例が2005年になって相次いで報告された(IASR 26: 343& 344-345, 2005)ことから、2005(平成17)年12月22日付けで「ミドリガメ等のハ虫類を原因とするサルモネラ症発生に係る注意喚起について」の通知を全国の自治体に出して、カメ等の爬虫類の飼育者や関係者に対し感染症に関する正しい知識の普及を図るとともに、動物等取り扱い業者の責務について関係者に周知徹底を図るよう要請した。今回のようなミドリガメとの因果関係が疑われるサルモネラ感染症事例については、全国の調査が進めば、さらに多くの知見が集積され、健康被害の実態が明らかになると思われる。今事例のサルモネラ腸炎の原因となったアカミミガメは、アメリカから南米までに生息し、年間数十万匹〜百万匹が日本国内に輸入されており、日本で最も普通に飼育されているカメ類である。在来のカメ類と生活環境が重複し、様々な動植物を摂食するため、定着地域では在来カメ類や水生生物、魚類、両生類等に大きな影響を及ぼしていると推定されており、南アフリカ、韓国では輸入が禁止され、ヨーロッパ諸国でも輸入禁止の動きがある。わが国では、2005年6月に特定外来生物による生態系等に係る被害に関する法律(外来生物法)が施行され、生態系、人の生命もしくは身体、または農林水産業に被害を及ぼすおそれのある生物が、特定外来生物として、その飼養や輸入等が規制対象とされたが、アカミミガメについても、生態系への影響および健康被害について指摘があることから、特定外来生物への指定の適否について検討する「要注意外来生物」に区分されている。現在、カメ等の爬虫類はペットとして販売され、一般家庭でも普通に飼われているが、その生態は犬猫といった動物とは大きく違い、飼養に関しても十分な知識と慎重な対応が必要である。サルモネラ感染症は小児や高齢者では重症化しやすいことが知られており、長崎市としては、一般家庭での衛生的な取り扱い方などについて市民への普及啓発および指導を図るとともに、ペットショップ等の動物取り扱い業者等においての現況把握および監視、指導等の取り組みを強化していきたい。

長崎市立市民病院小児科
舩越康智 渡辺 聡 森  創 木下史子 得雄一郎 冨増邦夫
長崎市立市民病院検査部 城野 智 西田由香 岩谷沙紀
長崎市保健部食品衛生課 安西 仁
長崎市保健環境試験所細菌血清検査係
海部春樹 飯田國洋 植木信介 江原裕子 島崎裕子

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