2006年4月〜5月におけるB型インフルエンザの地域流行−横浜市

(Vol.27 p 152-153:2006年6月号)

横浜市内において2006年4月中旬以降5月初旬にかけて、B型インフルエンザの地域流行がみられ、医療機関から搬入された3名の患者の咽頭ぬぐい液からB型インフルエンザウイルスを分離したので報告する。

インフルエンザ患者発生状況:2005/06シーズンの横浜市内定点医療機関からの患者報告数は、第5週に定点当たり34.2とピークを迎えた後減少し、第15週に0.13となった。しかし、第16週0.30、第17週は0.32とわずかな上昇が認められた(図1)。定点当たり1.0を超える発生がみられた区は第16週では西、旭、都筑、第17週では西、都筑、第18週では青葉であった。このうち西の8例と旭の3例、青葉の3例は医療機関においてインフルエンザ迅速診断キットでB型と判定された。また、第16週には港北区の中学校1年生クラスで集団かぜの発生があり、迅速診断キットでB型と診断された検体が当衛生研究所に搬入された。

ウイルスが分離された患者について:第16週の西、第19週の磯子の医療機関から搬入された3検体からB型インフルエンザが分離された。西の2症例は同一中学校の13歳3カ月と14歳10カ月の男子で、4月20日に迅速診断キットでB型と診断され、検体が採取された。磯子の1症例は12歳3カ月の女子で、5月8日に感染性胃腸炎と診断され、検体が採取された。臨床症状としては発熱がそれぞれ39.8℃、39℃、40℃で、感染性胃腸炎と診断された患者はその他に嘔吐・下痢症状があった。

分離ウイルスのHI試験結果:分離株について国立感染症研究所配布の2005/06シーズン用インフルエンザサーベイランスキットを用いたHI試験(0.7%のモルモット赤血球液を使用)を行った結果、A/New Caledonia/20/99(ホモ価 640)、A/New York/55/2004(ホモ価 1,280)、B/Shanghai(上海)/361/2002(ホモ価 1,280)に対しては<10であったが、B/Brisbane/32/2002(ホモ価 2,560)に対しては2,560〜5,120のHI価を示したことから、Victoria系統のB型ウイルスであることが明らかになった。

HA1領域の遺伝子解析結果:分離された2株[B/Yokohama(横浜)/1/2006、B/Yokohama(横浜)/2/2006]のHA1領域についてダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定し、分子系統樹解析を行った。B/Brisbane/32/2002のHA1遺伝子塩基配列との比較では1,041bp中13bpが異なっていたが(相同性98.8%)、2006/07シーズンワクチン株としてWHOが推奨しているB/Malaysia/2506/2004(WHO, WER, 81, No.9, 82-86, 2006およびIASR 27: 126, 2006)との間では4bpのみの違いで(相同性99.6%)、同じクラスターを形成していた(図2)。また、アミノ酸配列においてもB/Brisbane/32/2002とでは 347カ所中4カ所で置換が認められたのに対し、B/Malaysia/2506/2004に対しては1カ所のみの置換で、この株に極めて近縁であることが判明した。

今回分離されたB型ウイルスは昨シーズン流行した山形系統のウイルスとは異なるVictoria系統のウイルスで、横浜市では2002/03シーズン以降3シーズンぶりの分離であった。今シーズンの初めには隣接する川崎市(IASR 27: 12-13, 2006)や高知県(IASR 27: 103-104, 2006)からVictoria系統のB型ウイルス分離報告があったが、流行終息を控えた第17週には山口県でも同系統のウイルスの集団発生が報告されている(本号10ページ参照)。横浜市内の患者報告数は第18週で0.19、第19週で0.07と減少に転じているが、2001年の5月〜6月の非流行期にVictoria系統のウイルスによる患者発生が各地で報告された例もあることから(IASR 22: 167-169, 2001)、今後も注意が必要と思われる。

横浜市衛生研究所
川上千春 百木智子 七種美和子 野口有三 佐々木一也(検査研究課)
糀谷敬子 田代好子 岩田眞美(感染症・疫学情報課) 鳥羽和憲

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る