麻疹ウイルスはparamyxovirus科morbillivirus属に属し、直径100〜250nmのエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである。A〜Hのタイプに分類され、genotypeは23種類報告されており、ワクチン株はAである。
麻疹ウイルス株の遺伝子解析には主にRT-PCR法によるH遺伝子、N遺伝子の増幅および遺伝子相同解析、分子系統樹解析が用いられる。またダイレクト・シークエンス法でN遺伝子配列が決定できる。相同解析は配列が決定されたN遺伝子の493塩基(position;1214-1706)について行い、さらに遺伝子位置1302-1686(385塩基)を近隣結合法(Neighbor-joining)法により分子系統樹解析を実施する。
1998年のWHOのガイドラインではNのCOOH末端の150のアミノ酸をコードする450塩基のシークエンスが麻疹ウイルスの遺伝子型の決定に最小限度必要とされている。特定の地域で大流行が発生した場合はH遺伝子の1,854の全塩基のシークエンスが必要とされている。また新たな麻疹ウイルスの遺伝子型の出現が疑われる場合はウイルス分離株の保存、上記のN遺伝子とともに全H遺伝子のシークエンスが必要とされる。
日本で分離された麻疹ウイルスの遺伝子型は、2001年には日本全国ほとんどの地域での分離株はD5型であった。一方、2001年沖縄ではすべての株がD3型であった。D3型は2000年には東京、高知等でも分離されていた。また、2001年の解析では川崎と東京で遺伝子型H1が各1株分離された。H1型はWHOの報告では中国や韓国の流行株である(IASR 22: 278-279、2001)。そして2002〜2003年はH1型の分離数が増加した(図)。沖縄県衛生環境研究所によると、PCRが陽性となった沖縄県の32例について遺伝子型の検索を実施したところ、2003年はD5が2例、H1が4例、2004年はD3が3例、H1が5例、2006年はD5が18例であったという。系統樹解析の結果、2003年と2006年の遺伝子型D5は異なるクラスターを形成していた(IASR 27: 87-88, 2006 & 28: 145-147, 2007)。
2007年1〜8月に各地方衛生研究所で行われた麻疹ウイルス分離株の遺伝子型別解析をまとめると、28都道府県から387件の検出報告があり、内訳はD5型265件、A型9件(ワクチン接種後PCRで検出)、H1型1件(中国旅行後に発症した患者から)、未型別112件となっている(2007年9月6日現在報告数、http://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。
シークエンスのデータベース解析から分子疫学的特性、野生株の由来、ワクチン株との相違点などの解析が可能であり、今後とも各地で解析がすすむことが期待される。
なお、2007年8月にWHO の麻疹・風疹に関する実験室診断マニュアル第2版が発行されたので(Manual for the laboratory diagnosis of measles and rubella virus infection, 2nd edit.: WHO/IVB/07.01)、病原体検査マニュアルもこれに応じて改訂する予定である。特にシークエンスのデータベース解析、Vero/hSLAM細胞を中心とする麻しんウイルスの分離法、血清診断法の標準化などについて最新の知見を踏まえた内容が盛り込まれる予定である。
国立感染症研究所ウイルス第三部 沼崎 啓