はじめに:2006/07シーズンは、全国的にノロウイルス(NV)感染症の大きな流行があり、高齢者福祉施設などでの施設内集団感染事例や食中毒が非常に多く発生した。これらの事例のほとんどからGII/4型が検出され、流行の主流株と考えられている。また、GII/4型は過去毎シーズンにわたって検出されており、近年の流行遺伝子型でもあることも知られている。
今回、過去6年間に堺市内で検出されたNV GII/4型について、ポリメラーゼ領域の遺伝子解析を行い、2006/07シーズンのNV GII/4型と比較検討を加えた。
材料と方法:2001/02シーズン〜2006/07シーズンまでに堺市内で発生したGII/4 型NVによる集団感染事例28例、散発事例26例(2001/02:散発2例、2002/03:集団1例、2003/04:集団4例・散発2例、2004/05:集団5例・散発6例、2005/06:集団2例・散発4例、2006/07:集団16例・散発12例)から検出された54株を解析対象とした。NV遺伝子検出には、Yuriプライマーを用いたRT-PCR法を行い、ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定した。得られた塩基配列約300塩基を用いて系統樹解析を行い、ポリメラーゼ領域の遺伝子型について検討した。
結果:系統樹解析の結果、大きく2つのクラスター、クラスターA(GII/4 AY502023 Farmington Hills類似株)およびクラスターB(GII/12 AB039775 Saitama U1類似株)に分かれた(図1)。クラスターA、B間の相同性は約85%であった。2001/02シーズンはA、2003/04シーズンはB、2004/05シーズン以降はA、B両方のウイルスが検出されたが、2004/05、2005/06シーズンは、Bクラスターの株の方が優位であった(2004/05:11例中7例、2005/06:6例中4例)。2002/03シーズンの1株はA、Bとは別のクラスターであった。2006/07シーズンは、集団1例、散発3例がクラスターBに分類されたが、残りの24例はクラスターAであった。
考察:NVポリメラーゼ領域の遺伝子解析から、過去6年間に堺市内では、構造蛋白領域がGII/4型であるFarmington Hills株型と構造蛋白領域がGII/12型であるSaitama U1株型の少なくとも2系統のGII/4型NVの流行が認められた。2006/07シーズンに圧倒的に多くみられたクラスターA株は、他のシーズンにおいても、クラスターA内で独立したクラスターを形成していた。これらより、2006/07シーズンのNVの大きな流行は、以前のNV GII/4型とは異なったウイルスによる流行である可能性が考えられたが、独立したクラスター内で絶えず変異をしていたか否かについては、今回の成績からは不明である。Full lengthの遺伝子解析が必要と考える。
NV GII/4型については、以前にも変異株の検出が報告1, 2) されているが、2006/07シーズンに検出されたGII/4型NVは、これらの変異株とも異なっていた。感染効率、増殖性などに関わる因子に変異が起こっている可能性が考えられる。今後、ポリメラーゼ全領域や構造蛋白Pドメインの解析などさらなる解析を行っていく予定である。
参考文献
1)愛木智香子, 他,IASR 26(12): 325-327, 2005
2)岡田峰幸, 他,IASR 26(12): 327, 2005
堺市衛生研究所
三好龍也 内野清子 松尾光子 中村 武 吉田永祥 田中智之