The Topic of This Month Vol.29 No.6(No.340)

HIV/AIDS 2007年
(Vol. 29 p. 145-146: 2008年6月号)

エイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年〜1999年3月まではエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき、診断した医師の全数届出が義務付けられている(報告基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html)。本特集のHIV感染者(AIDS未発症者)数とAIDS患者数はエイズ動向委員会による2007(平成19)年年報(2008年5月20日確定)に基づく。なお、同年報は厚生労働省疾病対策課より公表される(http://api-net.jfap.or.jp/htmls/frameset-03-02.html)。

1.1985〜2007年までのHIV/AIDS報告数の推移:2007年に新たに報告されたHIV感染者は1,082(男1,007、女75)で、2006年(952)を上回り過去最高であった。AIDS患者は418(男377、女41)で、これも2006年(406)を上回り過去最高であった(図1)。国籍・性別では日本国籍男性がHIV感染者全体の86%(2005年85%、2006年83%)、AIDS患者全体の82%(2005年79%、2006年83%)を占めている。

1985年〜2007年12月31日までの累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)はHIV感染者9,426(男7,531、女1,895)、AIDS患者4,468(男3,916、女552)で、人口10万対でみた累積HIV感染者7.377、同AIDS患者3.497となった。なおこの他に「血液凝固異常症全国調査」において血液凝固因子製剤によるHIV感染者1,438(生存中のAIDS患者164および死亡者624を含む)が報告されている(2007年5月31日現在)。

2007年中に厚生労働省疾病対策課に病変報告として報告された死亡例は、全数を捕捉しない任意報告であるものの、日本国籍例22(男21、女1)、外国国籍例2、計24であった。

国籍・性別:HIV感染者では日本国籍男性が増加し続けており(図2)、2007年は931(2006年は787)とさらに増加した。一方、日本国籍女性(49→38)、外国国籍女性(40→37)、外国国籍男性(76→76)の増加はみられなかった(図2)。AIDS患者では日本国籍男性が343(2006年は335)、日本国籍女性が22(2006年は20)と増加した。

感染経路と年齢分布:2007年は日本国籍男性の同性間性的接触(両性間性的接触を含む)による感染がHIV感染者では690(2006年は571)と過去最高を更新し、AIDS患者では152(2006年は156)であった(図3)。日本国籍男性の同性間性的接触によるHIV感染者は30代の増加が著しく、20代がこれに次ぎ、40代も増加している(図4)。15〜49歳の日本国籍HIV感染者では男性の同性間性的接触による者の割合が70%を超えているが、50歳以上ではその割合は38%と異性間性的接触(36%)とほぼ同率となっている。一方、日本国籍女性の報告はHIV感染者・AIDS患者のいずれにおいても低い数で推移しており、異性間性的接触によるものがほとんどを占め、HIV感染者は25〜29歳が最も多かった。静注薬物濫用や母子感染によるものはHIV感染者、AIDS患者いずれも1%以下であり、諸外国に比べわが国は少ない。2007年には静注薬物濫用による感染例は6(HIV感染者3、AIDS患者3)で、母子感染例はなかった。

推定感染地域:2007年には国内での感染がHIV感染者の88%、AIDS患者の80%を占めた。外国国籍男性においても国外感染より国内感染の方が多くなっている。

報告地:診断した医師が届出をした都道府県別にみると、2007年のHIV感染者報告数は、多い方から東京、大阪、愛知、神奈川、千葉、埼玉、兵庫、福岡、沖縄、静岡、広島、京都、北海道、岐阜、群馬、栃木、茨城、三重で、これら18都道府県で報告数が10を超えている(2006年は16都道府県)。2007年のHIV感染者はこれまで報告が多かった東京を中心とする関東・甲信越、近畿、東海ブロックに加え、九州、中国・四国ブロックでも増加している。一方、AIDS患者では東京および東京を除く関東・甲信越ブロックでは2000年以降増加が抑制されてきているのに対し、北海道・東北、東海、近畿、中国・四国、九州ブロックでは増加している。

2.献血者のHIV抗体陽性率:2007年は献血件数4,939,550中102(男99、女3)の陽性者がみられ、献血10万件当たり2.065(男3.021、女0.180)と、2006年(1.744)を上回り過去最高であった(図5)。献血血液のHIV抗体陽性率÷人口当たりのHIV感染率の比を西欧諸国と比較すると、日本が非常に高いという傾向(IASR 21: 140-141, 2000)には変わりがない。

3.保健所におけるHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は2006年116,550件→2007年153,816件とさらに大きく増加した(図6)。同検査による陽性件数は 508(0.33%)で、このうち保健所での検査128,819件中 312件(0.24%)に対し、保健所以外で自治体が実施する検査24,997件中196件(0.78%)と、後者の陽性率のほうが高い。相談受付件数も2006年173,651件→2007年214,347件と増加した。12月の世界エイズデーに加えて2006年から開始された6月のHIV検査普及週間に行われた啓発と利便性に配慮した検査体制の強化が検査・相談件数増加に結びついており、これ以外の時期にも高い水準で推移している(IASR 28: 163-164, 2007)。

まとめ:HIV/AIDS報告数および献血者のHIV抗体陽性率は2007年も過去最高を更新した。特にHIV感染者の増加率が上昇しており、感染拡大に全く歯止めがかかっていない。2007年も男性での同性間性的接触によるHIV感染の増加が目立ち、年齢別では20〜30代が多数を占めたが、40代の増加も大きい(ただし、実際には30代で感染し、40代で受検した者が少なくないと推定される)。東京を中心とする関東以外の地方大都市でもHIV感染者、AIDS患者の増加が続いていることから、各自治体は地域の実情に応じ、教育関係者、医療関係者、企業、NGO等との連携のもと、積極的な予防施策を展開する必要がある。検査件数の増加に伴いHIV感染者の報告が増加していることから、男性の同性間性的接触による感染のリスクの高い者(本号3ページ)、さらにこれまで検査を受けていない20〜40代を中心とした幅広い年齢層に対し、より積極的な普及啓発等を推進し、HIV感染の早期発見による早期治療と感染拡大の抑制に努める必要がある(本号4ページ)。

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